1、出会い
序章 旧い記憶
轟音が鳴り響いた時、私は寝る所だった。
慌てて部屋の外に出たのと、甲板が真っ二つに割れたのは同時だった。
声も出せず、崩れた足場から吹き上げた風に飛ばされる。
強風にメチャクチャにされ、粉々になっていく空船を最後に、私は意識を失った。
—————
目を覚ました時、私はどこかの島に流れ着いていた。
「ここは…?」
空岸を見渡しても、浮島一つ見えない。
知らない所に、流れ着いてしまったのだと思った。
空岸沿いに歩いてみることにした。
そうすれば、島の大体の大きさ、形を知ることができるから。
あまりに大きい島だったら、途中で戻って来ればいい。
目印を立てて、歩き始める。
しかし、足が疲れを感じぬうちに、目印の所に戻ってきてしまった。
この島は、とても小さい。
この狭さでは、街一つないかもしれない。歩いていた間にも、島の周りには何も見えなかった。
私が流れ着いたのは、ポツンと浮かんだ小さい島。
この時初めて、私は遭難したのだと、実感した。
「…よし」
思い切って島の内側に行こうと思った。
怖いけど、しょうがない。
もしかしたら、食べ物とかあるかもしれない。
儚い希望を胸に、私は島の木々の中へと、入っていった。
「はあ…はあ……」
足が棒のようになって、泣いてしまいたくなるほど歩いた後。
私は、不思議なものを見つけたのだ。
「何、これ…」
それは、見たこともない機械だった。
いろんな管やらパネルやらが、機械の中心から伸びている。その中心には、緑色に微かに光る大きな水晶。
その中に、自分と同じくらいの男の子が、眠っていた。
「……」
好奇心から、腕を伸ばす。
私はこの時まだ、七か八。溢れ出る好奇心なんて、止められない。
触れた途端、水晶は光を増しだした。
慌てて手を引っ込めても、輝きは止まらない。
何か、大変なことをしてしまったと思ったとき、水晶が割れ、中の男の子が投げ出された。
「わっ…!」
慌てて体を、崩れ落ちてくる男の子に伸ばす。
思ったより重い衝撃が走って、立てずに倒れる。
「いてて…」
起き上がって、男の子を覗き込む。
死んだように眠っている。その寝顔は、整い過ぎてて少し怖い。
と、静かに眠っていた両目が、ゆっくりと開けられた。
「えっと…だいじょうぶ?」
ここは何処なのか。
あの機械はなんなのか。
君は誰で、どうして眠っていたのか。
色々と知りたかったけど、とりあえず飲み込んで声をかける。
「…ここは……君は?」
澄んだような声が男の子の口から漏れる。
「えっと、ここが何処かは私も知らないんだけど…」
この島がなんなのか、この子が知っていると思っていたけど、それは無いと小さく落胆。
「…私は、メルリ。君の名前は?」
とりあえず、まずは自己紹介だ。
お互いのことを知れれば、先のことも考えられる。
冷静になれば、何かわかるかもしれない。
「僕は…エルギオ」
聞いたことのない名前だった。フェキシフト地方側の名前なのかもしれない。
色々聞きたかったけど、エルギオは混乱しているようだった。
なので、それはとりあえず後にして。
「えっと…よろしくね?」
なるべく優しく、手を差し伸べる。
なんだか変で、ムズムズする。
初対面だからか、ちょっとぎこちない。
でも彼は、恐る恐るだけど私の伸ばした手を、握ってくれた。
「よく分かんないけど…とりあえず、よろしく。」
握った手は、びっくりするほど冷たかったけど、その中に、小さな暖かさも感じられた。
———
二人で島を探索した結果、島の真ん中に深い湖と大きな木を見つけた。
湖の水は綺麗だし、木にもよくある実がなっている。
数日ほどなら、ここでも暮らせそうだった。
「おいしい?」
「…うん。初めて食べる」
木から実を採って、二人で並んでかじる。
私も彼も、それ以降何も言わずに実を食べ続けた。
彼は意外と冷静に見えて、それが私を少し安心させた。
「ええと、君はどうしてこんなところにいたの?」
実を食べ終え、湖の水を飲んだ後、私は彼に聞いてみた。
落ち着いた今なら、何か分かるかも。
でも、彼から返ってきたのは、私も予想外のことだった。
「…分からない」
「え…覚えてないの?」
「…うん。目覚める前のことは、何も」
記憶喪失。
覚えているのは、名前だけ。
「ほ、他は?何か、分かることとか…」
「ない」
キッパリと断言されて、実感する。
流れ着いた島であった少年が、記憶喪失だったなんて、御伽噺みたいだ。
「これから、どうしよう…」
意味もなく呟く。
事故に巻き込まれたなら、いつしか助けが来るだろう。
でも、それまで木の実が保つかも分からなかった。
私は、エルギオの隣に座って、後のことをいろいろ考えていた。
「……メルリさんは、強いね」
「え?」
不意にエルギオがそう言ったので、びっくりして彼の方を向く。
彼は、少し震えていた。
「遭難してひとりぼっちなのに、僕みたいなよく分かんないのに構ってくれてる」
絞り出すような声だった。
「ぼくは、怖くて何もできないのに」
私はハッとした。
彼は私と同じ歳くらいだ。
何もかも分からないのが、怖くないわけなかった。
「そう…だよね、普通怖いよね」
「メルリさん、も?」
「普通に呼び捨てでいいよ、私もエルギオって呼ぶから」
彼は、今まで平然としていたように見えた。だから私は、勝手に彼は強いと思い込んでいた。
そんなわけ、ないのに。
馬鹿な自分を責めながら言う。
「じゃあ…メルリ。君も、怖いの?」
「……うん、すっごく」
オドオドだけど、そう聞かれるだけで、何でか少し、心が軽くなる。
「そりゃあ、いつ助けが来るかわかんないのもあるけど」
「あるけど?」
体を丸める。
少し迷ってから、口を開く。
「それ以上に…思い、出せなくて」
「……え?」
戸惑う彼に、精一杯のつくり笑顔。
「…私も、記憶喪失みたい」
明るく言ったはずなのに、声はどうしようもなく震えていた。




