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ネット小説を書いてる僕は好きな幼馴染に垢バレしたので死にたい。

作者: 久野真一

「じゃあ、今日の部活はこれまで。皆、気をつけて帰るようにな」


 お堅いことに定評がある文芸部の部長が部活の終わりを告げると皆は一様に、


「はーい」

「また明日ー」

「部長も気をつけて帰ってくださいねー」


 などと挨拶をしながら次々と部室を出ていく。男女比半々、活動内容は月に一度の文芸誌発行くらいで、締切までは好き勝手しているフリーダムな部活だ。


「部長もいつも大変ですね。皆が最後まで帰るの確認して」


 部室に残ったのは高校一年の僕、荒木哲也(あらきてつや)と一年上の部長。

 それと、同い歳の癖に妙に小っちゃくて皆から可愛がられている、幼馴染の広子(ひろこ)ちゃんこと羽鳥広子(はどりひろこ)


「それが部長の仕事だ。二人とも、いつも片付け手伝ってくれるのは助かるよ」


 僕と広子ちゃんが残っていたのは部室の後片付けのため。

 皆、物を片付けないので部長が片付けをしていたのだけど僕と広子ちゃんが手伝いを申し出たのがきっかけだ。


「部長に比べたら、これくらい何ともないですよ」

「ふふ。(てつ)君は真面目だよねー。よしよし」


 生暖かい目で僕の頭を撫でてくる広子ちゃん。


「その撫で撫では馬鹿にしてる?」

「褒めてるつもりだけど?そういう真面目なところも好き(・・)だよ?」

「はいはい」


 こんな風に軽口を叩き合う仲だけど、広子ちゃんの何気ない「好き」によくドキっとしてしまう。友達として好き、の意味なんだろうけど、時々勘違いしてしまいそうになる。


「二人ともいつも仲がいいな。本当に付き合ってないのか?」

 

 部長も何かを感じたのか茶化してくる。


「付き合ってないですってば。確かに仲はいい方ですけどね」


 嘘は言っていない。

 でも、広子ちゃんが「じー」と見つめてくる。


「仲がいいレベル、止まりなんだ……」

「え、いやその」


 悲しそうな顔にどう言えば良かったのか困惑してしまう。


「冗談だよ、哲君はすぐ真面目に受け取るんだから」

「ビックリさせないでよ」

「哲君の反応が可愛いから、からかってみたくなったの」

「もう勘弁してよ……」


 こんな風に仲良く言い合うのが彼女との日常だ。

 部長に戸締まりを任せて僕らは退出して下校する。


「そうそう。前から気になってたんだけど」


 そういえば、もう12月だ。

 冬用の黒セーラーに桃色のセーターを着た、大好きな幼馴染は続けて言った。


「哲君、いい加減に「カコヨム」のアカウント教えてよー」


 「カコヨム」は国内二番手の小説投稿サイトで、一番手の「小説家になる」のライバルだ。盛り上がる企画が多いのと感想をもらいやすいので、僕はカコヨムで細々とネット小説を書いていた。


「言ったでしょ。見られるのが恥ずかしいんだって」

「文芸部でも短編の読み合いしてるよね?恥ずかしくないよー」


 彼女の言う通りなのだけど、文芸部での読み合い用短編はあえて「恥ずかしくない」ような作品にしているのだ。カコヨムに出しているのとは違う。


「あれは部活で見せるためだから別なの」

「そうなの?でも、哲君は上手だからランキング上位に居そうだよね」


 確かに僕は日間、週間でも10位以内にランクインするくらいは時々ある。

 

「いやいや。僕がランキング上位に入れることはそうそうないって」


 広子ちゃんもカコヨムの読み専アカウントを持っている。

 だからこそ、彼女には些細な情報も与えないようにしている。


「ほんとかなー」

「そこで嘘ついてどうなるんだよ」

「だって、臭うんだよね。哲君のじゃない?っていうアカウント見たことあるし」


 え。まさかそこまでとは。

 付き合いの長い広子ちゃんが言うのだから、当たってる可能性も高い。


「きっと勘違いだよ。そもそもなんで僕のアカウントだって思ったのさ」

「文体っていうか臭い?」

「もし勘違いだったら赤っ恥だね」

「こうなったら意地でも見つけてやるんだから」


 広子ちゃんが僕のアカウントを探ろうとしてきたのはこれまで何度か。

 しかし、今回はちょっとまずいかもしれないな。


「ま、その話題はおいといてさ。昨日見た動画なんだけどさ……」

「露骨に話逸らされたけど、まあいいか」


 彼女の疑いの視線が気になったのだけど、その日は何事もなく解散。

 

 異変は翌朝起こった。


 待ち合わせて一緒に登校していると広子ちゃんが言い出したのだ。


「哲君のアカウント見つけたよ。やっぱりラブコメ系上位ランカーだったんだね」


 忍び笑いが聞こえてきそうな表情の、広子ちゃんだ。


「ちょっと待って。あれだけの情報から一体どうやって……」


 さすがに近況ノートにも友人から特定できるような情報は書いてないはず。


「ふーん。昨日は上位に入れることはほとんどないって言ってたよね」


 しまった。カマかけか。


「わかったよ。お察しの通り、ラブコメがメインでやってるよ」


 垢バレした上に青春ラブコメを書いているなんて知られたのだから恥ずかしいなんてもんじゃない。おまけに相手は好きな女の子だ。死にたい。


「別に笑わないよ。でも、哲君が繊細な恋愛もの描くの意外だったかな」

「ちょっと。一体どれだけ読み込んでるのさ」

「最近出た短編一つ読んだだけ」

「もう死にたい……」

「いい作品だったと思うよ。誇っていいんじゃないかな?」

「自分の作品を幼馴染に読まれるのが恥ずかしい僕の気持ちはわかってくれない?」

「そこまで恥ずかしがらなくてもいいのに」


 そんなことを言っても恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


「でも、哲君ってすっごい純情なんだなーってわかった気がする」


 ぐさりと刺さる。


「作品には作家の人生観とか恋愛観とか出るから」

「あとは、これは現実でも同じだけど、誠実だなって思うよ」

「これ以上は僕の色々が丸裸にされそうだから勘弁して」


 彼女は昔から頭がいい。特にこういう洞察力が優れている。


「でも、リアルの哲君はまだまだわからないことだらけ」

「いくら深い付き合いでも全部わかったら逆に怖いって」

「そっか。そりゃそうだよね……」


 何故か寂しそうな声で言う広子ちゃんが印象に残ったのだった。


 その夜のこと。お風呂に入って寝る前の僕は考え事をしていた。


(そういえば、広子ちゃんをモデルにした短編が一つあるんだった)


 致命的にまずい。

 ラブコメやってたのがバレたのはいい。

 僕が恥ずかしいだけの問題だ。

 ただ、あの短編(・・・・)は本当にまずい。

 彼女が読めばヒロインのモデルが広子ちゃんなのは丸わかり。

 タイトルは「文芸部の僕は幼馴染の彼女に恋をした」というシンプルなもの。

 読者さんからの反応はイマイチだったけど彼女が読めばどう思うか。


(広子ちゃんを好きなことはわかっちゃうだろうなあ)


 小学校の頃に鉱石をプレゼントした思い出はまんまだし。

 好きな子と一緒にいたいから文芸部を選んだなんてところまでそのままだ。

 モデルにしただけ、と言っても彼女はきっと信じない。


「消そう!」


 広子ちゃんは僕の短編を一つ読んだだけだと言う。

 「文芸部の~」を削除してしまえば、最悪の事態は避けられる。


 急いでブラウザを起動して、小説をサクっと消す。


「はあ。本当に心臓が止まるかと思った」


 広子ちゃんへの想いが詰まりまくったアレさえ読まれなければそれでいい。

 ほっとした僕は疲れもあって、すぐに睡魔に飲まれていったのだった。


◇◇◇◇広子視点◇◇◇◇


「おかしい……一作品だけ消えてる」


 学校から帰ってやることをやった私は早速、哲君の小説を読みに行っていた。

 一言でいうと哲君のことが好きな私はもっと哲君のことを知りたいのだ。

 付き合いが長くても、話しただけだとわからない心の奥底はある。

 そんな心の奥底が作家さんの作品という形を取って見えることが時々ある。


(どんだけ哲君のことが好きなんだろ。私って)


 小学校時代に地味だった私と一番仲が良かったのは哲君だった。

 活字が好きな者同士、漫画や小説を読みあったのを覚えている。


(回想はともかくとして)


 昨日あったはずの小説が突然消えた。

 タイトルは「文芸部の僕は幼馴染の彼女に恋をした」。

 哲君は全部で10作品くらいだし、見間違えはないはずなのだけど……。


(読まれたくないから消した?)


 これはありえそう。

 でも……なんで一作品だけ。


(キャッシュ、見てみようかな)


 私は何をやってるんだろう。

 哲君のことが気になって、気になって。

 こんなにまで些細なことを知りたく思ってしまう。


 案の定、タイトルで検索するとキャッシュに残っていた。


 「文芸部の僕は幼馴染の彼女に恋をした」


 特に捻りもないタイトルのその作品は内容もわかりやすいものだった。


 高校の文芸部に所属する主人公は昔から幼馴染のヒロインが大好き。

 でも、主人公は自分に自信がない。

 だから、振られるよりは今の距離感を保とうとする。

 文芸部だって主人公が文芸を好きな以上にヒロインと一緒にいるため。

 そんな二人がある日を境に急速に接近する様子を描いた短編だ。

 

 ただ、よくあるラブコメだけど見逃せないところがあった。


 幼い頃に一緒にでかけた川辺で見つけた鉱石-翡翠(ひすい)-をヒロインにプレゼントするくだりだ。石ころではなくて、翡翠を実際に見つけてしまって、ヒロインにあげるというのは私が哲君と体験したことそのままなのだ。


 気になって机の引き出しを開けてみる。

 小さくて歪な翡翠が木箱に入れてしまわれていた。


(ちょっと懐かしいな)


 ということはこのヒロインのモデルは私で。


(私の早合点かもしれない)


 間違いなく私のことを思い出して書いたんだろう。

 でも、それだけだ。


(でも、進学先の件も被ってる)


 中三の頃、私と哲君が志望校について話し合ったことがある。


「私は家から最寄りでいい。楽だし、偏差値も低くないし」

「僕もかな。ちょっと遠くだと、朝起きるのだるいし」 

「哲君とは高校になっても付き合い続きそうだね」

「言えてる」


 そんな会話を交わしたっけ。


 でも、この小説だと少し違う。

 主人公はヒロインの志望校よりも少し離れている、もう少し偏差値が高めの高校が第一志望だったのだけど、一緒に居たい主人公はあえて嘘を言った、という話になっている。


「哲君、ときどき変に誤魔化すことあるもんね」


 内心嬉しくなってきている私がいる。

 もしも、この小説が哲君の私小説なら。

 女の子として好きでいてくれているってことだから。

 

(やっぱり間違いない)


 細部は違うけど、大筋では私とのやりとりをモデルにしたんだろう。

 でも……主人公の気持ちは、どこまでが哲君の気持ちと同じなんだろう。


 仲がいい異性だからモデルにしただけで、深い意味はないのかもしれない。

 それこそ都合のいい思い込みかもしれない。


(でも……)


 急にこの作品だけを消したのはなんでだろう。

 やっぱり私のことを好きだからじゃないか?


(駄目だ。私)


 両想いかもしれない。

 そんな可能性が見えてきて心が浮き立っている。

 でも、違っていたらと思うと怖い。


(うまく探る方法はないかな)


 だんだん眠くなる頭で私は一つの方法を思いついた。

 この方法なら……。


◇◇◇◇哲也視点◇◇◇◇


 翌日の昼のことだった。

 今日は部室で広子ちゃんと二人っきり。

 何故なら、彼女が部室でお昼でもどう?と誘ってきたのだ。


 弁当箱に詰められたおかずを頬張っていると、


「哲君のアカウントから小説、1つ消えてなかった?」


 彼女が発した言葉に背筋が凍るような思いだった。

 短編を削除したのがバレた?


(いや、フェイクかもしれない)


 確信を持ってるのならこんな言い方はしてこないはず。


「勘違いじゃない?元々僕のは全部で9作品だよ」


 なるべく何気ない素振りで言ったのだけど。

 彼女は何かを確信したような。


「全部で?9作品?私は数については言ってなかったはずだけど」


 しまった。


「いや、言葉の綾だって」

「ふーん、そっかそっか。そうまで読まれたくなかったんだね」

「だから、君の思ってるようなことは……」


 なんとか隠し通さないと。そう思ったのだけど。


「実は既に見つけてるんだよね。「文芸部の僕は幼馴染の彼女に恋をした」」


 タイトルまで一致している。ということはマジで見つかった?


「一体どこから……」

「検索エンジンのキャッシュ」

「さすがにそこは思いもよらなかったよ」


 盲点だった。

 最初から全部わかって反応をうかがってきたのか。

 広子ちゃんらしい攻め方だ。


「だったら最初から言ってよ。誘導尋問はやめて欲しいんだけど」

「ごめんごめん。でも、あれを読んで色々考えちゃったんだ」


 瞠目する広子ちゃん。

 まずいな。アレを読んだということは僕の気持ちにだって……。


「どういうこと?想像の通り、広子ちゃんをモデルにさせてもらったけど」


 これ以上墓穴を掘る前に先手を打って情報は程度出しておこう。


「かなーり参考にされちゃったみたいだけど」

「ごめん。最初期の作品だし、現実ベースの方がやりやすかったから」


 一応嘘じゃない。


「主人公がヒロインのことを好きっていうのはフィクション……なのかな?」


 いよいよ核心を突きに来た。

 ドクン、ドクンと心臓が高鳴る。


(どう答えればいい?)


 恋愛感情だけは証拠を見つけることができない。

 「フィクションだよ」で押し通せる。

 でも、広子ちゃんはなんでここまで聞いてくるんだろう。


(広子ちゃんも僕のことが好き?)


 それならわかる気もする。

 でも、ただ単にはっきりさせたいだけかも。


(どうする?どうする?)


 あれこれ考えて言葉が出ないでいると。


「ごめんね。こんな真似をする嫌な女の子で」


 突然、広子ちゃんの目からじわりと溢れる大粒の涙。


「ちょっと待って。どうして君が泣くの?」


 わけがわからない。

 今、僕は決断を迫られてるのだと思っていた。

 その主導権を握っている彼女が泣き出すなんて。


「だって。気になってる男の子の気持ちを確かめたいからって、こんな風に問い詰めるなんて。本当は素直に聞けばいいのに、こんな風な聞き方しかできないって私、やな女の子だなって思うし。もし、ラブコメの主人公がこんなことされたら百年の恋も冷めちゃうよ」


 グスグスと泣きながら、気持ちのままに言葉を紡ぐ広子ちゃん。


「待って待って。広子ちゃんも僕のことが好きだけど確信が持てないから、揺さぶってきたってこと?」


 だったら嬉しいのだけど。でも、好きな子に泣かれるのは心が痛い。


「そう、だよ?一緒の高校に行けたのも、同じ文芸部に居られたのも嬉しかった。でも、哲君は誰にでも優しいから特別扱いしてくれてたのかわからないし。だから、時々しんどかったんだ。私が臆病なだけなんだから、正面から気持ちを伝えればよかったのに、こんな方法しか取れなくて……ごめんね」


 自己嫌悪ってやつなんだろう。

 昔から時折、彼女は自分を責めてこうして泣いてしまうことがあった。

 なんとか泣き止んでもらう方法はないだろうか。


「両想いってわかったわけだよね。なら、それでいいじゃない。別にちょっと素直じゃない(・・・・・・)くらいで嫌いにならないって」


 というわけで、言葉で宥めてみたのだけど。


「やっぱり素直じゃないって思ってたんだ」


(ああ、もう。面倒くさい)


 広子ははときどきこういうところがある。


(でも、面倒くさいところだって知ってて好きになったんだよね)


 なら……。


「ほら。もう泣かないで。広子ちゃんのことは好きだからさ」


 彼女の側に近寄って正面からぎゅうっと抱きしめる。

 恥ずかしいことこの上ないな!


「ぐすっ……ほんとに?」

「ほんとだって。好きでもなければ抱きしめてないよ」

「でも、昔は手を繋いだこともあったし……」

「ああ言えばこう言う。どうしたら泣き止んでくれるの?」

「キス」


 ええ?


「キス、してくれたら泣き止むかも」

「ちょっと待って。本気?」

「本気のだけど」


 目がマジだ。

 さすがにこの展開は想定外だ。

 そりゃ好きな子とキスくらいしたいよ。

 でも、泣き止ませるためにとか。


(ええい、ままよ)


 初めてのキスはもっとロマンチックにしたかった。

 僕は目を瞑って、ただ唇と唇を触れ合わせたのだった。


「ど、どうかな?」

「ちょっと、嬉しい」

「ちょっと?」

「嘘。すっごく嬉しい。今、すっごく幸せ」

「だからさっきから言ってるでしょ」

「現金な女の子でごめんね」

「僕もずっと片想いを続けてた面倒な男だから、お互い様だよ」


 ようやく機嫌が治ったのだろうか。

 少し涙が残る笑顔で。


「大好きだよ、哲君。こんな面倒くさい女だけど、よろしくね」


 彼女からの初めての告白。僕はといえば。


(よくこんなつまらない喧嘩もしたっけ)


 そんなことを思い出しながら、


「僕もずっと大好きだったよ。広子ちゃん。面倒くさい同士、よろしくね」


 同じく初めての告白を返したのだった。


「一言多い。いつもそうなんだから」


 涙の跡が残った笑顔の彼女は幸せそうに言ったのだった。


◇◇◇◇


「赤裸々に書かれるとちょっと照れちゃうね」


 同じく季節は冬で場所は僕の家。

 やっぱり同じ大学に進学した僕たちは絶賛同棲中だ。


「許可は取ったからいいでしょ」


 炬燵で身を寄せ合いながらノートPCの画面を見せる。

 そこには「カコヨム」につい先日投稿した作品の一つがあった。

 タイトルは

 「ネット小説を書いてる僕は好きな幼馴染に垢バレしたので死にたい。」

 だ。

 読者さんからの評判もまずまずといったところ。


「ちょっと脚色入ってない?私、こんなにぐずぐず泣いたっけ?」

「入ってないって。泣き止ませるにはどうしようか本当に悩んだんだよ」


 大学三年生の僕たちにとっては五年前の出来事。

 付き合い始めたきっかけがあれだから生涯忘れられないだろう。


「それと。名前の方、そのまま過ぎない?羽取弘子(はとりひろこ)羽鳥広子(はどりひろこ)になっただけでしょ」


 幼馴染で今は恋人な彼女の本名は羽取弘子。


「主人公の名前も新木哲哉(あらぎてつや)荒木哲也(あらきてつや)にしただけだしね」

「でも、私も若かったねー。哲君の気持ち確かめるためにあれこれ悩んでたとか」

「そこは僕も同じなんだけどね」


 顔を見合わせて笑い合う僕たち。


「連載化希望って読者さんが何人かいるよね。どう?連載化してみない?」

「弘子ちゃんとのお付き合いであったアレコレも入れるけど、いいの?」

「あんまり変なエピソードはやめてね」

「そりゃもちろん」

「じゃあ。連載のゴールは私達が婚約するまでってことで」


 嬉しそうな弘子ちゃんの左手の薬指にはキラリと光る指輪。

 つい先月送ったばかりの代物だ。


「連載化するならタイトルを変えた方がいいかもね」

「そのままでいいんじゃない?」

「「幼馴染と付き合い始めたけど、彼女は意外と面倒くさい」とかにしたい」

「遠回しに私の性格が面倒くさいって言ってる?」

「割とストレートに」

「なら「僕も面倒くさい」をつけてくれるなら許す」

「それくらいなら」


 僕と彼女が婚約するまでの物語はまだまだ続きそうだ。


 タイトルは

 「幼馴染と付き合い始めたけど、彼女は意外と面倒くさい。僕も面倒くさい」

 だろうか。


(エピソードには困らなそうだ)


 だって、今は婚約者な弘子ちゃんとは本当に色々あったから。


(彼女がお嫁さんになっても色々あるんだろうな)

 

 そんなことを思った僕だった。 

というわけで、いつもとちょっとだけ違う(?)テイストで頑張ってみました。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり現代恋愛とか、カクヨムの方がいいのかなあ… 物語の中でメタ化した内容、ということでしょうか。いやでも、実際身内(近い人)にアカウントバレは怖いですよねえ。 現実にはあんまりあって欲…
[良い点] 垢バレという、題材としては最近よく見かけるシチュエーションで、ほとんど予想通りのスジなのに…… 最後の“新タイトル”がめちゃくちゃいい。 特に双方がめんどくさいと言ってるところがサイコー!…
[一言] お互い文芸部所属なだけマシかな?笑
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