完璧幼馴染に信頼され切っているんですが、俺はそんな大層な人間じゃないので。~完璧幼馴染に振り回される毎日ですが、その日常が俺にとっての幸せなんだ~
新作短編です。
二万字くらい行ったかな?と思ったら、その半分でした。思ったよりも書けていなかったなぁ。
朝。それはなんと無慈悲なものだろうか。
休日の日の朝は「あっ、今日は休みかぁ。二度寝しよぉ……」となるのに対して、学校や仕事がある日の朝は「…………行きたくねぇ」と絶望を叩きつけてくる。
残念ながら今日は後者だった。
今日は月曜日と言う事もあって、本来ならば布団に潜り込んでずる休みをしたいところなんだが、そうさせてはくれない存在がいた。
「りっくん! 朝だよっ、起きて!」
その声は同級生達が朝に聞く事が出来たのならば、まるで天使の囁きのようだといって感銘を受けるだろうが、俺にとっては裁判官に死刑を判決された時に近い絶望を叩きつけられる、地獄の音色だった。
しかも三秒以内に反応しないと弁当に俺が嫌いなブロッコリーを投入されてしまう。
ああ、不幸だ……。と己の不幸に嘆きながら、俺ーーーー近藤陸は「おはよう」と返事をした。
「うんっ。おはよう!」
そして嬉しそうに返事をする、エプロン姿の美少女は俺の幼馴染、西條海だ。まあ一言で言えば、滅茶苦茶可愛い。幼稚園よりも前からずっと一緒の仲で、ほぼ毎日顔を合わせている幼馴染の俺から見ても、本当に可愛いのだ。それでいて高圧的な態度をとったり、陰口を言う様な事もせず、誰にでも分け隔てなく接して、努力家で、両親が海外出張している俺の家にまで掃除洗濯料理などの家事を一通りやりに来てくれる、本当に優しい女の子だ。
こうして毎朝、俺の弁当と朝食を作りに来て、そして起こしてくれる。どこの通い妻だよ、と自分で自分にツッコんでしまった。しかしまあ、客観的に見るとその通りなんだよなぁ。
「もう朝ご飯出来てるから、冷めない内に降りてきてね」
「おう」
海は部屋の扉を閉めると階段を降りて行った。
さて、俺もさっさとベッドから出て、制服に着替えた。
さっきまでグダグダしていたのに、なぜこんなにテキパキ動いているんだ?って?
だって海の奴、俺が降りるまで自分も朝ご飯を食べずにずっと待ってるんだぜ?
信じられるか?
どうして俺を待っていたんだ、と聞いたら「だって、りっくんと一緒に食べたいんだもん」と可愛い事を言ってくれた。
そう言われたら、俺も早く起きないわけにはいかなくなる。
早寝はともかくとして、早起きはしっかりしているため、健康優良児になってしまった。
海には本当に感謝しかないな。
リビングに降りるとすでに海が席に座っていた。
四人掛けの食卓に向かい合う様に用意されたトーストと目玉焼き。
俺は海の対面側の席に座って、両手を合わせた。
「「いただきます」」
そして食べる。
うーん、相変わらずトーストの焼き加減が絶妙だな。
それにこの目玉焼きの半熟具合も俺の好みドンピシャだ。
「……旨い」
「ふふっ。良かった」
いつも、作ってくれたものに対して誉めようと思うのだが、口下手な俺では中々、思った様な誉め言葉が出ずに、こうしてカッコ悪い言葉になってしまう。
しかし、俺が口下手な事を知っている海は、必死に言葉を絞り出そうとして四苦八苦する幼馴染の姿を見て微笑ましそうに笑った。
これが俺達の毎朝の日常だ。
皿洗いは前に「私がやるよ?」と言われたのだが、さすがに頼りっきりだと自分がなにもできない人間のようで(実際家事は何も出来ない)虚しくなるので、皿洗いは俺の仕事にしてもらった。まあ、結局海も俺の隣で皿を拭く係をしてくれているので、あまり分担作業にした意味がないのだが。
それから家の戸締まりを完璧に終わらせて、家を出た。俺と海が通う、私立ワルーズ高等学校は家から徒歩20分の距離にある。偏差値は高いわけでもなく、また名前の通りカトリックの学校というわけでもない。
部活動に力をいれているわけでもなく、俺はただ近所だからという理由で選んだ学校だ。するとなぜか、学力的に全国上位の海と、バスケで確実にプロになれると噂されている空(もう一人の幼馴染)も一緒にこの学校に入学した。
二人がワルーズを選んだ理由は「「陸が行くから!」」だ、そうだ。そんな理由で大事な学校を選ぶなよと思ったが、二人ともそういう幼馴染みだから仕方がない。
さて、学校に近付くにつれて、俺達と同じ学校の生徒が増えてきた。男女問わず、そのほぼ全員が俺達に視線を向けた。いや……、海に視線を向けた。
「ねえ、あれって……」
「海先輩だわ」
「やっぱり凄く可愛いですよね」
「くぅ~、俺も海先輩みたいな彼女が欲しいぜ!」
「馬鹿。お前みたいな奴が海先輩と付き合えるわけないだろ」
相変わらず海は大人気だった。
先程も言ったが、海は美少女だ。
この学校、いやこの街、いや日本で一番と言っても過言じゃない。
そんな海は学校でも爆発的な人気を得ていて、見ての通り特に後輩からは尊敬の眼差しでみられている。逆に先輩や同学年の生徒からは告白される事が多い。と言っても、そのほとんどがワンチャン狙い、だけどな。人の悪意や邪な考えに敏感な海が頷くはずもなく、これまで九十九告白、九十九振りの大記録に到達していた。
果たして、百人目に振られる男は誰になるのか、見ものである。
しかし最近では海が告白される回数も減ってきた。
それには理由があってーーーーー
「おお~~いっ、陸! 海!」
「あっ、ソラくん!」
遠くから犬だったら尻尾を高速で振ってそうなくらい笑顔で走ってきたのは、俺のもう一人の幼馴染、天空寺空だ。
空がやって来るとどこかの女子グループが「キャー!」と黄色い声を上げた。
空はこの学校でも海と同じくらい知名度がある、イケメンである。バスケ部に所属していて、三年生を差し置いて二年生の空がゲームキャプテンとしてチームを引っ張り、高校生ながらにして60得点を叩き出した、令和の怪物。バスケ界では「和製ジョーダン、和製レブロンの誕生か!?」と多いに盛り上がったが、空はバスケの実力だけじゃなく、その甘いフェイスでも人気を一身に集めていた。日本人離れした183㎝の高身長に、祖父のロシア人の血を受け継いだ北欧風の顔面。男の俺からみてもイケメンだ。最近では新発売になったバッシュのモデルとして雑誌に乗っていたし、ウィンターカップのポスターにも選ばれ、日本中が注目している名選手だ。Bリーグ11チームがすでに空の獲得に動き出していて、さらにNBAでも空を調査する噂があるとかなんとか……。まあ、その噂が真実がどうかは定かではない。空はあまりそういう事を話したがらないし、空が話したくないのなら俺も海も聞かなかった。
「陸、おはよう!」
「ああ、おはよう」
爽やかにニカッと笑って挨拶してくるものだから、男の俺でもクラっとしてしまう。…………特に、周りの女子の黄色い悲鳴にやられて。
「ソラくん、調子はどう?」
「んー。まあまあ、かな? 次の試合には間に合いそうだよ」
空は少し前に足首を捻挫していた。だが、それももうほとんど完治していて、あとは試合の感覚を取り戻すだけとなっていた。ウィンターカップの予選まであと二週間。今は朝、一緒に登校するのをやめて、こうして朝練をしながら一生懸命にバスケに取り組んでいた。まあ、空は元々、天才肌だから二週間もあれば感覚を取り戻すのも早いだろう。
「あっ、そうだ。はい、お弁当」
「おっ! いつもサンキューな!」
空に弁当を手渡しする海。
たったそれだけなのに、周囲にいた生徒達は「おお」と歓声を上げた。
「すげえ、手作り弁当だ」
「羨ましいぜ」
「やっぱり付き合ってるのかな?」
「プロ確定のイケメンと、優しい才女の美少女」
「お似合いだもんな、あの二人」
「毎朝、この風景をみれるなんて、幸せだよな」
周囲にいた生徒達が口々にそう言う中で、ある一人がボソッと呟いた「……アイツがいなきゃな」の声が俺の耳に届いた。その呟き、悪意は少しずつ伝播して行き「そうだよ」「てか、アイツ誰?」「何であんな冴えない奴が先輩達と一緒にいるんだよ」「幼馴染らしいよ」「ああ、金魚のふんってやつか」と好き勝手言ってくれた。
聞こえてるぞー。まあ、冴えないってのは認めるけど。
しかしこの人達は俺に聞こえてないと思って喋ってるのかな。
俺に聞こえるって事は空と海にも聞こえているって事だ。
ほら、二人とも表面上は笑っているが、その笑顔が怖い。
空も海も人の悪口を言う人間が嫌いだから、君達がどんなに二人のファンでも、もう相手にしてもらないな。ご愁傷さま。
「りっくん、教室行こ!」
「俺は部活の友達に話があるから、また後でな!」
「おー」
俺達は三人とも2年2組、同じクラスだ。ちなみに席順は《「窓」海 俺 空 》って感じの並びだ。この席になった時も「お前邪魔だよ……」と毒を吐かれた事がある。そんな事を言われても俺は神様じゃないんだから、くじを操作する事なんて出来ないんだが。
学校一のイケメンと美少女に挟まれながら授業を受けた俺は羨望の眼差しに貫かれながら、三時間目の体育を迎えた。
「今日の体育はクラス対抗バスケ大会だ!」
「「「おおおおお!」」」
運動大好きな男子達から喜びの声が上がり、逆に運動が苦手な男子は嫌な表情が露になっていていた。俺は別に運動が苦手なわけじゃないので、へーって感じで眺めていた。
それから少しして我らが2組の代表メンバーが選出された。
まずなんと言っても、バスケ部のエース、我らが天空寺空。さらに空と同じくバスケ部の身長194㎝の大型センター千堂君に加えて、運動できる系男子の長谷川と大友、数合わせで運動できない系男子として山本を加えた、最強の布陣だ。
対して、1組はえげつない。空と千堂君と同じく、二年生でレギュラーの座を掴んでいる、スモールフォワードの大盛君が率いる、全員がバスケ部のチームだ。全くもってえげつないが、最強のフォワードである空が2組にいる時点で攻めはこちらに分がある。ディフェンスに関しても千堂君がいれば、リバウンドはこちらのものだし、ほぼ勝利は確実と言っても間違いないだろう。
「今日こそはお前に勝ってやるぞ、空!」
「望むところだ、敦!」
敦とは、大盛君の下の名前だ。二人は部活でポジションを争うライバル同士で、大盛君は空のパワーフォアードの座を隙あらば狙っていると聞く。大盛君も他校ならばエース間違いなしの実力の持ち主で、今ではワルーズの二大エースとして全国に名を轟かせていた。
試合が開始された。試合の先後を決めるジャンプボールは千堂君がいる2組の方に分があった様で、先攻は2組が得た。
ボールが空に渡った瞬間、風が吹いた。
まるで鳥の如き速度で疾走する空はディフェンスを切り抜け、瞬く間にレイアップで2点を獲得した。
瞬間、会場は黄色い歓声で包まれた。
隣のコートで試合中だった女子達が試合を中断して、こちらの試合に魅入っていたのだ。
緑のネット越しに海と目が合った。
(なんでりっくんは出てないの?)
(いや、面倒臭いし、的任が他にいるだろ……)
実際にそう会話したわけじゃない。
ただ、何となく海の目線からそんな事を言っているんだろうな、と思い、目を逸らしたのだ。
確かに試合の前に空にチームに誘われてはいた。
ただ面倒臭いし、あまりこういう場所でバスケはしたくなかった。
そして俺の代わりとして選ばれたのが、運動できない系男子山本だ。
さて、試合は進み、巨漢の千堂君が相手チームのシュートをブロックし、ボールが空に渡り、またまたワンマンでディフェンスしていた相手選手を抜き去り、レイアップを決めた。
【1組】0ー4【2組】
まだ数度の攻守しかしていないにも関わらず、普通にやっては1組に勝機が無いのは、素人が見ても明らかだった。
「……仕方ない。やるぞ」
「「「「おう」」」」
大盛が何かを呟くと、他のメンバーが神妙な顔で頷いた。
俺は視界の隅に写ったその光景を見逃さなかった。
何を考えている?
流石にバスケ部のレギュラーをしている人間だ。
反則をするとは思えない。
だが、なぜ、あんなに神妙な顔をする?
「なるほどな」
その疑問の答えは次の攻防で明らかとなった。
「っ、これは……!」
空はしてやられた、と悔しげな表情を浮かべる。
空がポイントガードのポジションでコート全体を見渡し、絶句した。
誰一人として、ワンマークで2組の選手をディフェンスしていなかった。
自陣に散らばり、各々でその場所を守っているかのように立ち回っている。
ゾーンディフェンス。
ワンマークディフェンスよりもさらに高度なディフェンス戦術だ。
空は苦い表情を浮かべながら何とか敵陣の内部まで切り込んだが、周囲から掛けられるプレッシャーで、シュートを外してしまった。
さらに、だ。
リバウンドを奪った1組のチームは一斉に走り出した。
そのままパスワークで必死に追走した2組のみんなを翻弄し、瞬く間に2点シュートを決めた。
ゾーンディフェンス、そして、ラン&ガンか。
「厳しいな」
「えっ、そうなの?」
「うおっ……」
びっくりした。
いつの間にか、海が俺の隣にまで移動していた。
完全にネット越えちゃってるんだけど、いいのかな?
と思って女子体育の教員である、大山先生を見たが、大山先生も完全に試合に魅入っていた。
ああ、だめだ。そういえば大山先生は大のバスケファンだった。
「それでどうして厳しいの?」
「……まあ、普通にやるよりは厳しいさ。まず2組にはまともなシュートが打てる人間が空と千堂だけだ。長谷川達がどんなに運動ができても、バスケ部並みの精度でシュートは打てないだろ。それに加えて、バスケ部以外が走りなれてないってのもある」
「走り……? それって関係あるの?」
「ああ。どの競技にも、それに見合った走り方っていうのがあるんだよ。しかも、うちには運動できない系男子の山本がいる。これからもっとチームメイトの差が出てくるぞ」
俺が海に分かりやすく説明すると、周囲からも息を呑む声が聞こえてきた。
うわ、俺、バスケ部でもないくせに格好つけて解説する痛い奴って思われたかな?
「い、行け!」「頑張れ!」
あ、大丈夫そうだな。
みんなバスケに夢中になっていた。
さて、試合時間は合計で10分。すでに4分を越え、中間休憩に差し掛かって来た頃合いに事件は起きた。
得点は【1組】17ー8【2組】と大きく差が付いていた。
ラン&ガン、つまり得点の取り合い、殴り合いになると、こういう試合展開が早くなる。
つまるところ、ラン&ガンは走力対走力の戦いだ。
バスケ部で常にドリブルを突き、コート上を縦横無尽に走り回る空は体力的に問題なさそうだが、千堂は身長が高い上にあまり走るのが早くないようだ。相手チームの速度についていけずに、いつもディフェンスに参加できずにいる。長谷川達も必死に走ってはいるが、やはり現役バスケ部を相手にしかも人数が足りていない状態でのディフェンスは難しいようだ。一番心配なのは肩で息をしてすでに顎を上げている山本君だ。運動できない系男子であるにも関わらず、必死にボールを追って右へ左へ、コートの端から端まで走り続けている。その体力の消耗は凄まじいものだろう。
これじゃあ、だめだ。何とかしないと、この試合は負ける。
「っ、ずるいぞ!」
2組の男子の一人が、1組の取った作戦に対して批判の声を上げた。
違うずるじゃない。むしろ正しい。
ハッキリ言って、向こうチームには単品で空を止められる選手はいない。それどころかダブルチームでも止められるかわからないほどだ。ならば、ゾーンディフェンスでチーム全体を見出し、ラン&ガンで空と千堂以外の選手の体力を減らし、足を削って動きを鈍らせる。
人数が減ってディフェンスが出来なければ、1組が放つシュートは止められない。そうなれば攻めにも支障が出てくる。足が動かなければ、実質的に空だけで点をとらなければいけなくなり、空の体力の消耗が激しくなるのも必死だ。
1組が取れる、最高の作戦だ。
もうすでに山本の足は上がっていない。
この勝負、もうーーーーー。
「あっ」
山本の間の抜けた声、なのに、体育館によく響いた。
次の瞬間に聞こえたのは凄まじい衝突音と体育館の床を揺らすほどの衝撃だった。
見れば山本と千堂が倒れていた。
いや、正確には倒れたというより、衝突して山本が吹き飛ばされ、千堂が腹を押さえて尻餅を突いているだけなのだが、それでも苦しそうにしているのは間違いなかった。
思わぬアクシデントに体育館は一気にシンと静になり、先生達が慌てて二人に駆け寄った。
幸いなことに二人とも、骨に以上は無さそうだった。しかし山本は疲労困憊でバスケどころじゃなく、千堂もバスケ部の大会が控えているため、大事をとって保健室に運ばれる事となった。
千堂の強い希望で試合は続行するようだが、さて、どうしようか。二人分の枠が空いてしまった。
空が呼び掛けるが誰も手を挙げようとしない。
まあ当然か。試合は完全に敗色ムード。
すでにクラスでも走れる方の長谷川が肩を息をしていて、千堂まで抜けてしまった。
負け戦に挑みたい、というバカはどこにもいないみたいだ。
「じゃあ、私がやるよ」
しかし、なんと言うことか、海が立候補して手を挙げたのだ。
「む、しかし、君は女子で……」
「ふうん。女の私に負けるのが怖いんだ」
海にしては珍しく、といいより、初めてと言ってもいいほどに好戦的に挑発した。
「っ、いいだろう! やってやるさ!」
相手チームの、名前は忘れたが、眼鏡をかけた男が声を荒らげて言った。
随分とすぐに感情的なってしまうみたいだな。
さて、これで一人。
残り一人は……。
「というわけで、一緒にやろうね! りっくん!」
「…………え?」
え、何で、俺?
よくわかってないまま、海に手を引っ張られて、チームメイト達の近くに集まった。
「おお! やってくれるのか、陸! こりゃあ百人力だ! 勝ったな!」
「うんうん! りっくんがいれば、絶対に勝てるよ!」
二人して俺を絶賛する。
二人はいつもこうだ。
俺の事を無条件に信頼して来る。
いつだったか、俺は空と海に「……お前ら、何で俺をそんなに信頼できるんだよ」と聞いた事があった。
「「俺(私)の自慢の幼馴染だからな(ね)!」」
そして、二人はそう即答した。
その時の事を思い出して、思わずにやけてしまった。
長谷川達に怪訝そうな顔をしたが、それでも少しだけ、この試合が楽しみになって来た気持ちを押さえられなかった。
試合はすぐに再開した。
ボールは2組から。
空からボールを受け取り、さあ、反撃だ!
「あっ」
「「「何やってんだーーーー!」」」
と、いう場面でドリブルしたボールを思いっきり爪先に当てて、ボールが相手にわたってしまった。
これからと言うときに攻撃の機会を潰した俺に対して、2組から怒号が飛び交った。
しかしそうしている間にも現役のバスケ部である1組の生徒は凄まじい速度で2組のゴール下に迫っていた。軽やかな動きで空中で姿勢を変え、ボールをゴールの上に置いてくるかのようにレイアップを放った。
「よっ、と」
「は?」
しかし、そのシュートは決まらなかった。
俺が後ろからシュートを叩き落としたからだ。
俺が叩いたボールは近くにいた海が回収し、コート中央部まですぐにボールを運ぶ。
海はインドア派なだけで、運動だってバリバリできるタイプだ。
三人でバスケで遊ぶ時は、ドリブルとパスが得意だって言ってたな。
だから今もポイントガードのポジションを任せている。
「ん」
「ナイスパス」
そして、すっぽりと手の内に収まる様なパスが俺に渡った。
俺の目の前にいたのは、ちょうど大盛君だった。
しかし俺が相手だからと油断していたのだろう。
一歩、足を引いていた。それじゃあ俺には届かない。
それはシュートを打つと思わせない程に滑らかな動きで放たれた、そのシュートは綺麗な放物線を描き、ゴールの中央へ放られた。
得点板が「【1組】17ー11【2組】」と変更された。
俺の3ポイントシュートが決まったのだ。
次の瞬間、体育館は大きく盛り上がった。
まったくのノーマークだった、空と海の金魚の糞だと思っていた男が、あんなにも美しい3ポイントシュートを放ったのだ。
誰しもが驚愕し、興奮し、声を上げた。
しかし相手チームの動揺はすぐに消えた。
流石は現役バスケ部だ。
3ポイントを決められた事実を切り替えて、すぐにラン&ガンで相手コートに迫る。
しかしその時には俺達、幼馴染組はすでにディフェンスの位置に付いていた。少し遅れてだが長谷川達も到着する。
さて、こちらのディフェンス戦術は1対1のとてもオーソドックスなものだ。
しかし、俺がマークするのは、空と両翼を成す、バスケ部の二大エース、大盛君。
流石に空じゃなくて俺にマークに付かれた事を不満に思ったのか、大盛君のプレーが雑になった。
話は少し逸れるが俺は合気道を習っていた。
合気道は柔道と同じく、相手を投げる武術だ。
投げるにしたって、ただ腕力だけじゃあ投げられない。
相手の重心を見て、バランスを崩して投げるのだ。
俺はその技術をバスケに応用した。
相手がどこに重心を置いているのか、その重心の位置で、次になにをするつもりなのか。
考え、見て、俺は空をも止める鉄壁のディフェンダーへと昇華したのだ。
「大盛が止められたぁああああ!?」
1組の生徒の絶叫が響いた。
だが、その時にはもう遅い。
俺がカットしたルーズボールを拾い、空が駆け出していた。
「っ、させねえよ!」
しかし、空には付いていっている選手がいた。
さっきの眼鏡君だ。まったく、頭脳派かと思えば、すごい脚力じゃないか。
「悪いな佐藤。本命はそっちだ」
「なっ!」
しかし、もうこちらは空だけのチームじゃなくなった。
すでにゴールから真横のスリーポイントラインにたどり着いていた俺は、0度の角度からスリーポイントを放ち、決めた。
またも上がる大歓声。
それからの俺達の勢いは止まらなかった。
俺を突破しようとする大盛を難なく止め、カウンターで俺がスリーを決めた。
これで17ー17の同点だ。
しかし相手チームがパスワークで俺達の守備を乱し、一瞬の隙が出来てフリーになった眼鏡君がスリーポイントを決めた。
ここで相手チームが20ー17の大台に乗った。
それから一進一退の攻防が進み、残り時間わずかになった頃。
27ー26の得点差で俺がスリーを決め、27ー29で逆転をして見せた。
「何で、何でそんなにスリーが決まるんだよ!!」
すでにゾーンではなく、ボックスワンになって俺を守備していた大盛が叫んだ。
俺のシュートが決まる理由、か……。
理由は別に大した事じゃない。
ただ、小学生の頃。
空と海とバスケをし出した頃、海に言われた一言がきっかけだった。
「すりーぽいんとって、かっこいー!」
俺はそれから必死にスリーを打った。
と言っても小学生じゃスリーポイントラインからのシュートは届かなかったから、まずは近くからだったけどな。それから暇さえあればスリーを打ち、撃ち、射ちまくった。
そして出来たのが、実戦型超高性能シューターってわけだ。まあ、シュートと空との1on1で鍛えられたディフェンス以外は何も出来ないんだけどな。
「っ、俺を、舐めるなぁ!」
「海!」
「行け、陸!」
「りっくん!」
二人の激励の言葉が届く中、俺は確信していた。
「ーーーーーー入った」
次の瞬間、長い放物線を描いていた俺の超ロングシュートはネットを揺らし、得点板に3点を記録した。
試合が終わり、大盛は試合後のストレッチをしていた空に話しかけていた。
その視線の先では話をする陸と海がいた。
「なあ、空」
「どうした、大盛」
「あいつのシュート確率はどうなってるんだ? いつもああなのか?」
「ははっ。聞いて驚くなよ?」
「ああ」
「俺と1on1をしながら、ここ2年間で100%だ」
「ッ!!」
「……バスケ部に誘おう、なんて思うなよ」
「っ、何でだよ! あいつがいれば、全国制覇だって夢じゃない! いや、必ずできる!」
「陸にとって、最優先は海だ。海と一緒の時間が減るから、絶対にやらないよ」
「……勿体ねえ」
「ははっ。だよな。アイツがその気になれば、世界チャンピオンくらいすぐになれるのにさ。それをしないんだ。……まったく、面白い幼馴染だよ」
笑顔で陸と海に駆け寄った空を見て、「いいなぁ、幼馴染」と大盛は呟いた。
少しして放課後。
今日もバスケ部があるので、空とは別帰宅だ。
何やら大盛が燃えていて、今年は全国制覇だ!と言っているらしい。
何が大盛に火を付けたんだろうな。わからん。
まあ、そんなわけで今日は海と二人で帰宅だ。
またも他の生徒から目線を集めているが、いつもの事だ。
慣れたしーーーー。
その時だ。俺の右手を柔らかい感触が包み込んだ。
俺はこの感触を知っていた。
びっくりした表情で隣の海を見ると、してやったりと言う表情をしているが、耳を真っ赤にしているのが隠せていない。
「お、おい」
「いいじゃん」
「でもさ……」
「……駄目?」
「っ、はあ、分かったよ」
駄目だ、やっぱり駄目だ。
俺は海に弱過ぎるよ。はあ。
「やった。りっくん、大好き!」
「はいはい。俺もだよ」
俺も手を握り返し、違った意味で視線を集めた。
これは明日からまた大変になるな、と思いつつ、これから続くであろうこの日常を愛おしく思う。
こうして、俺の完璧幼馴染に振り回される日々が続く。
しかし俺はこの日常が大好きだ。
完璧幼馴染が大好きだ。
空。海。俺の幼馴染でいてくれて、ありがとう。
「あれっ? りっくん、何か言った?」
「何でも無いよ」
完。
皆さん、恥を偲んで合います。
どうかブックマークと高評価を下さい。
可能なら感想も欲しいです!
何卒よろしくお願いします!
総合評価次第では連載する可能性もあります。