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誰? どこに? どうして?

 これは不動産仲介の会社に勤めるMさんから聞いた話です。


 彼女は顧客の紹介で、家を売りたいというTさん家族と会うことになりました。横浜市南区のB駅から徒歩十五分ほどに広がる住宅街に、その家はありました。


 Mさんは新卒で入社してから一〇年間、この仕事をしていて売買の仲介も数多くこなしていました。その彼女からみて、Tさん宅は手入れがされていない印象があり、外壁や庭の様子から、ずぼらな人達なのかと予想できたそうです。


「外壁もずっと塗り直してないんですよ。それに、庭には雑草が生い茂ったプランターが放置されてて、地面を掘ったらしい場所だけが草がなくて、それ以外は雑草だらけ……正直、家を外から見た第一印象は、あまりいいイメージがしない家族だなぁと思っていたんですけど……」


 Tさんは七十歳。奥さんも同じ年齢です。娘さんは別居と聞いておりましたが、初めての商談である初訪問日には、時間を作って実家に来てくれていたので、Mさんは家族そろって待ってくれていたんだと思うと、家に入るまえの非礼を後悔したそうです。


 実際に売買はスムーズに進みます。


 このMさんが、売買情報をレインズにのせて、数日後には買主が見つかったとのことでした。


 Mさんは、現況渡しで、残置物処理など買主側でしてほしいという条件で、また金額もそれをふまえてのものだったので、買主も承知したうえで買いたいという内容です。


 問題は、彼女の手が離れた後に起きました。


 その不動産の売買は契約後、三カ月後に決済がおこなわれて無事に完了したのですが、それから半年ほど経過した六月中旬、会社にMさん宛に連絡があり、彼女が変わると相手は警察だと名乗り、会いたいといいます。


「わたし、その時は本当に動転しちゃって……ともかくどういう用件かと思って聞いたんです」


 彼女は犯罪とは無縁に生きてきて、不動産仲介の仕事はたしかに勤務時間が長くてブラックだけど悪いことはしてないと混乱しながら受け答えしていると、Tさんのことで伺いたいと言われたそうです。


 Tさん?


 Mさんは覚えています。


 何事だろうかと思いつつ、仕事終わりの夜でも構わないとのことで、MさんはI駅で二十時過ぎにその警察の人と会ったそうです。相手は二人で、男女だったとのことで、ドラマとは違って手帳もちらりと見せるだけではなく、しっかりとみせてもらったそうでした。


「Tさんと知り合ったきっかけは?」

「あの、Tさんがどうしたんですか?」

「……」


 警察の二人は、ニュースの記事をスマフォで見せてくれたそうです。それは、四十代の女性が殺害されたというニュースです。


 次に、写真を見せられました。


「この人と会いましたか?」


 Mさんは、四十代と思われる女性の写真を見せられて、誰だろう? と思いながら、この人がどうしてTさんと関係あるのかと疑問を抱きつつ、質問に質問を返します。


「この人は誰ですか? 会ったことありません」

「この人は、Tさん夫婦の娘さんです」

「……えええええ!?」


 そうです。


 MさんがTさんの家の売買に関して、Tさん家族と会っていた時に同席していたという娘さんは別人だったのです。


 不動産売買は基本的に、土地と建物の所有者が売りたいといい、買いたい側が買いたいと名乗り出て、双方が合意すれば成立します。


 Tさんの場合、土地と建物は七十歳のお父さん名義でしたので、契約書や重要事項、その他書類に署名と捺印をしたり、身分証を示すのはこのお父さんなので、娘さんの身元確認までMさんはしていなかったわけです。当然、買主もしていませんし、所有権移転登記を担当した司法書士もしていません。


 必要ないからです。


 警察の人は言います。


「この娘さん殺されて、ご家族を探したところ、ご両親が行方不明なんですよ」

「は? え? どういうことですか?」

「この娘さんのご主人からご両親に連絡を取ろうとしても電話にでない。家は売られている。住民票は横浜市からN市に移っていますが、そこにはすでに住んでいない。すぐに引っ越しているんですよ。だから、こちらも辿っているんです。このTさんを紹介してくれた人、教えてください」


 Mさんは、紹介者に断りを入れてからと伝え、警察の人達の前で連絡をしたのですが、その携帯電話は、使われていないという自動ガイダンスが流れたのです。


「その後のことはわからないですね。紹介者は過去に私が売買で担当した人だったので、翌日に会社で保管している資料を集めておきました。警察の人が個人情報開示の手続きをしてから取りにきましたよ」


 Tさんの家族に、なにがあったんでしょうか。


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