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鳥居のある家

 それは葛飾区の土地を買わないかという話でした。


 メインバンクの関連企業である不動産会社Mから、仕入れ担当経由で私に話がありました。相続が発生したが近い相続人がおらず、遠方の甥にあたる方がその土地を相続することになったというものです。


 弁護士による調査で、その甥の他に相続人はおりませんでした。


 ただ、甥はその土地を相続するにあたり、売却することを決めています。仙台にお住まいだったので、担当と私が会いまして、買付証明書を仲介に入る不動産会社Mに出しました。


 売買対象地は一〇〇坪ないほどの土地で、葛飾区のA駅から徒歩五分という好立地です。私は購入後、マンションを建設して利回りで儲けつつ、転売で資金回収と利益をと企みます。


 売主は土地のことを全く知らず、何がどうなっていたのかも不明ということで、今でいう契約不適合責任は免責とし、建物の解体なども買主である我々でおこなうことにしたのです。


 この家、昔はこの辺りでは有名な地主の家だったと聞きました。


 周囲には、同じ苗字の家が複数あります。よくある元農家から地主になっているパターンでした。


 木造二階建ての家、広い庭。


 解体の見積もりをとると四〇〇万円でした。


 私は発注指示を出し、速やかに解体し更地にするように担当に伝えます。


 この頃、不動産会社Mの担当がやってきて、買ってくれてありがとうございます。次もどうですか? こんな土地がありますよというお礼と提案でした。


 ここで、世間話のつもりで、あの家が遠くに住む甥が相続するしかなくなったのはどうして? 子供がいなかったのか? と軽い気持ちで聞きました。


 担当の話では、前の代の時、相続対策で家周りの土地を売却し、今の敷地となった。もう四〇年以上前のことだと話しました。彼はその後に起きた、その家の不幸を教えてくれます。


「売却した時、当時のご主人、この前死んだEさんが家を建て替えたんですよ。ただ、それから不幸が続いて、なんかあるんじゃないかとお祓いや有名なその道の人を頼ったそうなんですが、まったく駄目だったと」

「何があったんです? 呪い? 私、そういうの興味あるんで知りたいです」

「いえね。本当かどうか、わからないです。僕もEさんとこの本家さんから聞いただけなので……新しい家になって、家族仲がとても悪くなっていったそうなんです。Eさんは奥さんと喧嘩ばかりで、殴っていたかもしれないというレベルで……奥さんは実家に逃げたそうですが、そこで亡くなっていたことが今回の相続人調査でわかってます。このEさんの息子さんは、五年前に事故で亡くなっていまして、その奥さんは七年前にワケありでいなくなっていたそうですが、これも今回の相続人調査で……ね。死んでいたことがわかったんですよ。子供……Eさんからみてお孫さんは二人いたそうですが、家を建てかえた後に生まれたそうなんですけど、一人目、二人目もそれぞれ一〇歳の時に病気で死んでいます。それでEさんは一人であそこに住んでいたと」

「……不幸続きですねぇ……その家に問題があったんですかね?」

「さぁ、わからないですね。ただ、あの家に通っていた時は、どこかなんだか気味悪いなぁという感覚はありましたね」


 それから仕事の話になっていき、その家のことはそれで終わりでした。


 ところが、五日後です。


 担当が慌てて報告をしてきました。


「解体していたら、地中埋設物が……」

「ぇえええ!? 嫌だな!? なに? 昔の基礎とか? 建て替えした時に片付けてなかったんだなぁ」

「いえ……その、基礎もあったんですけどちょっとこれ」


 担当は、解体業者から届いたメールの添付ファイルを私に見せます。


 どこかで見たことがある形をしているなと思いました。


「なに? これ」

「鳥居です」

「鳥居?」

「鳥居、埋まってたんです」

「……近くの神社に電話して来てもらって。解体もストップ」

「解体は止めています。神社に連絡します」


 それからバタバタでした。


 この鳥居、大きなものではありません。小さなお稲荷さんの祠にある鳥居のサイズと説明すればわかってもらえるでしょうか?


 神職の方に、鳥居撤去のお祓いをしてもらいました。


 ただ、解体工事はトラブル続きで、重機が故障してスケジュールが遅れたり、作業員が怪我をしたりと大変だったのです。


 さて、この鳥居はどうして埋まっていたのか。


 理由はわかりません。


 ただ、Eさんの本家のご主人にお話を伺った際、Eさんの家は稲荷があった。地主の家には稲荷を奉ったり、何かを奉ったりしていることは珍しくない。だが、Eさんは自宅周りの土地を売った時、その祠を壊した。ちゃんと神社に祓ってもらっていたのか、今となってはわからないね、ということでした。


 あの鳥居は、昔のEさんの自宅敷地にあった祠の鳥居だったのです。


 その後、無事に解体がおわりました。


当初は自社でマンションを建築する予定でしたが、私は転売することにしました。


 嫌な予感がするからです。


 その土地はその後、戸建て業者と売買し、更地引き渡しをおこないました。その決済の時に、念の為にまたお祓いをしています。


現在は新築の戸建てが三棟並んでいます。そして、すでに売却済みで、購入者家族が暮らしています。


 彼らになにもないことをお祈り申し上げます。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ……成田空港でしたっけ?あの、鳥居が立ってる空港。 アレも壊そうとすると重機が故障しまくったとか。 案外、神様は身近な存在かもしれないですね。 [一言] おはこんにちばんは。 何や…
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