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紫黒色の宝石

作者: 大平 泰平

 

 紫黒色の宝石に惹かれたのは憧れからだろうか。

 その宝石は、強く気高く美しかった。

 宝石と共に土地も手に入れようと森を開拓したのは、誰のためだろうか。

 増え続ける仲間と過ごすためには必要なことだった。

 だから、今こうなってしまったのは、僕らのせいではない。

 僕らには大義があったのだから。




 朝日を浴びて光の粒が一斉に空へと旅立っていきました。

 その粒を草木がサワサワと見送っていきます。


 いってらっしゃい。

 いってらっしゃい。

 気をつけて。

 気をつけてね。


 全ての光の粒が旅立ち終えると、ミツバチがチョウチョが花たちに挨拶しにきました。


 こんにちは。

 こんにちは。

 今日も素敵な日ね。

 いつも蜜をありがとう。


 太陽が東と西のちょうど真ん中にある頃、小鳥たちがさえずりながら、みずみずしい木の実を頬張っていきます。赤く熟した実たちは小鳥たちのくちばしの中で弾けていきます。


 キュールル。

 キュールル。

 クワワ。

 クワワ。


 穏やかな日常を鳥たちは歌い、羽ばたいていきました。

 その後太陽が姿を消し、月が顔を出します。黄色く型どられた満月は、朝日とはまた違った光の粒を地上へと降らしていきます。


 おかえりなさい。

 おかえりなさい。

 さぁ、おやすみなさい。

 ゆっくり休みましょう。


 出迎えてくれたのは妖精たちです。パタパタと虹色の羽をパタつかせながら、彼女たちの身体にしては大きすぎる石をだき抱えていました。光の粒たちは、その石の中へとまるで吸い込まれるかのように入っていきました。光の粒でいっぱいになった石は、夜空と同じ紫黒色になりました。月の光でキラキラと輝いて宝石のようです。妖精たちは、その石を大切そうに抱えてどこかへ飛んでいきました。




 光の粒で紫黒色に変わるその石は、森の奥深くにある洞窟に大量にあることを僕らは知っていた。

 妖精たちが紫黒色に染まって宝石となったその石を加工して保存していることも。

 あの宝石が欲しい。

 そう思った瞬間、僕らはふと当たり前のことに気づいた。

 森は誰のものでもない。

 なら、僕らのものだと主張すればよいのでは?

 狭くなった僕らの土地を広げ、利益を得るために。僕らは大義を掲げ、主張した。




 朝日を浴びて旅立つ光の粒を見送る草木はいなくなってしまいました。

 花たちは力なく萎びれ、ミツバチもチョウチョも蜜を貰えなくなりました。

 木々が失われたことにより鳥たちがこの森に足を運び、歌うことはもうありません。

 地面には乱雑に並べられた例の石でいっぱいでしたが、月が降らしてくれる光の粒たちはあまりの石の多さにまだらに吸収され、以前のような美しい紫黒色の宝石にはなりません。そのため、石は何日も何日も地面に放置され続けました。紫黒色になるまで石は月の光の粒を浴びなくてはならないのです。

 石を取り上げられ、居場所を奪われた妖精たちはいつの間にか姿を消していました。

 美しかった森は開拓され、草木や花は1つもなくみる影もありません。変わらずあり続けるのは、月が降らしてくれる光の粒のみです。そして、それを受け止める石。歯車が狂い始めたのはいつからだったのでしょう。狂った歯車に気づいた時には、もう手遅れでした。




 紫黒色の宝石を僕らは大量に作り、安く売りさばいた。案の定、利益はすごく、僕らの生活は潤っていった。だが、代償はでかかった。最初はちょっとした体調不良だった。少しの熱。せき。吐き気。大したことはなかった。そう思っていたら、宝石を買い取った僕ら以外の者たちも同じ症状が出始めた。何かがおかしい。そう気付いたら、症状が悪化し、僕らの仲間が死んでいった。1人ではない。何人も、何十人も、数え切れないぐらいに。買い取ってた者たちがお金はいらないから宝石を回収してくれと言った。だが、もう遅い。宝石は僕らの知らない場所まで散らばっていき、回収できないぐらい混乱していたのだから。

 彼らは僕らを責めた。でも僕らは悪くない。何も教えてくれなかった妖精が悪いのだ。勝手に消えた妖精が悪い。もうどうしようもないのだが。




 優しい風が吹きました。ユリが水仙がスズランがフワリと揺れました。甘い香りが心を癒してくれます。日の光を体いっぱいに浴びて、花たちは気持ちよさそうです。

 水辺には白鳥が優雅に泳ぎ、水がキラキラしています。水の回りに咲き誇るミズセリが、なんとも可愛らしくうっとりします。

 パタパタと虹色に輝く羽をパタつかせながら、妖精たちは花々に水をあげ、お世話をしていました。

 チューリップ。アカネクサ。トリカブト。

 どの花も立派に咲いています。ピンクのかわいらしい花を咲かせた木がサワサワと喜んでいるかのように揺れています。キョウチクトウです。妖精たちはせっせとお世話をしながら、ヤコブの蜜を貰いにきたミツバチに挨拶をしました。


 こんにちは。

 こんにちは。

 今日も素敵な1日ね。

 やっぱり美しいわ。


 ミツバチも同調するかのように8の字を描きながら飛んで見せました。


 今日も蜜をありがとう。

 素敵な場所にまた引っ越せて幸せだわ。


 光の粒が空へ向かって旅立ちます。

 今日も平和な1日です。

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