#91 【雑談】なんかあるらしいです【黒猫燦/あるてま】
「うげぇ……」
郵送されてきた封筒の差出人を確認して、わたしは心の底からげんなりとしたうめき声を漏らしてしまった。
出来ればこれが届いたという事実を抹消して、今すぐ推しのアーカイブや切り抜きを見漁る作業に没頭したいのだが、しかしそういう訳にもいかない。
なんたってこの封筒には次の案件に必要な資料が収められているからだ。
いつもならグダグダ言いながらも真面目に案件をやり遂げているわたしだが、今回はなんと言っても内容が内容だけにあまり気乗りがしなかった。
言ってしまえば不得意ジャンルってやつだ。
まあ、いくらわたしが机の前で駄々をこねたところでなんの解決にもならないし、何より運営が用意してくれたお仕事なのだからおとなしく引き受けるしか手はないんだけど……。
はぁ、と何度目かのため息の後、いい加減覚悟を決めてわたしは机の上に鎮座しているそれを手に取り、中身を確認した。
今すぐビリビリに破きたいという衝動を堪えながら、封入されていたA4用紙に目を通す。
そこには、
【チームで勝ち取れ!VTuber学力王決定戦!】
とポップなロゴが踊っていた。
◆
「てことで来週末にそういう企画があるらしいです……」
このどうしようもない気持ちをどうにかするために配信をすることにした。
取り敢えずVリスナーって全肯定が多いから、すり減ったメンタルを回復するには丁度いい。
:へー
:オメェ馬鹿だからなァ!
:おバカ王決定戦と間違って呼ばれてない?大丈夫?
:同じチームの人可哀想
:頭悪いと勉強したくないもんな…わかるってばよ
「お前らひどすぎない?? そこはよしよしって慰めろよ!!!」
ちょっと期待してたわたしが馬鹿みたいだよ!
:まあ前回の勉強配信で散々だったからな
:自分が勉強できないって自覚するとか一歩前進じゃん!
:学びを得たな
:よしよし頭悪いの?
:取り敢えずどうする?カンニング?弁当に下剤仕込む?呪術でも学んどく?
:呪術学ぶなら勉強したほうが早いと思うな
:取り敢えず全員殴れば勝ちだべ
「ウチのリスナーが物騒すぎな件。いや、バカバカ言うけどお前らのほうがバカだろ」
物理最強!とか言ってるチャットに戦々恐々とする。
いや、でも出場者を全員なぎ倒せば必然的に優勝できるのは真理だよな……。
:とりあえずなんでそんなに気落ちしてるの?
:今から勉強してくれ
:もう諦めよう。珍回答で爪痕残そうぜ
「いや、だって、周りが正解してるのに間違えたら恥ずかしいじゃん……」
:間違える前提で草
:自己評価低っ
:客観的に見れてるという点ではやはり前回からの成長…
:なあ、取り敢えず勉強しよう
さすがのわたしも前回中学生レベルの問題に手こずったことで、自分がどういう状況に置かれているかというのは重々承知した。
先生がちょっと残念な子を見る目でテストの用紙を返してくる理由がようやく理解できた。
でも、わたしだって宿題はちゃんと終わらせているし、以前は暇があればちゃんと予習と復習もキッチリやっていたのだ。そりゃ確かに最近は配信とかそういうのが忙しくて予習と復習まで手は回らないけど、それでも最低限の点数は取って試験をパスしている。
だからさ、何が悪いかって言うと覚えた先から忘却していくこのポンコツな頭脳が良くないってことよ。わたしは悪くないね!
「というかねー、あるてまの箱でやる企画なら別にそこまで気にしてないんだけどね、今回は企業とか個人とか関係なく名のあるVTuberが参加するらしいから嫌なんだよね……」
:あー色々出るらしいね
:まだ参加者全員発表されてないから楽しみ
:女の子しかいないからいいじゃん
いや、女しかいないって、それが懸念してるとこなんだよなぁ。
参加するVTuberは女性限定だから和気あいあいと楽しげに進行するとリスナーは想像するけど、女社会ってのは陰湿だとよく聞く。
だからただでさえ陰湿な女社会に競合が激しいVTuber界隈が合わさると、超性格の悪い女性VTuberが当日は大量にひしめき合い、わたしが問題に間違えるたびにきっと隣の参加者はクスクス笑ったり、注目を浴びたらチッって舌打ちしたりするに決まってるんだ!
あぁ、もっとマトモな企画に呼ばれたかった……。
:とりあえず勉強しね?
:本番まで実質2週間だから詰め込めば間に合う
:忘れてるかもしれないけど黒猫燦って高校生なんよ…
:勉強せずに頭良くなる方法とか検索してそうだよな
「うっ」
リスナーがひどいことばっか言う! わたしは正論がだいっきらいなんだよ!
「毎回言ってるけどさ、もっとさ、甘やかしても良くない? ほら、女の子がなぐさめろーって言ってるのに殴りに来てさぁ! だからオタクはモテないんだよ!」
:は?
:傷つきました。あるてま誹謗中傷対策チームに連絡します
:メンヘラがよぉ!世の中そんなに甘くねぇんだよ!
:お前のリスナーに民度を求めるな
:いいから勉強しよう
くすんくすん、メンヘラって言われちゃった。病んだからチョコ食べよ……。
:なんか食ってて草
:配信中に急に食うなって
「チョコうま」
:唐突なおやつタイムで困惑するわ…
:マジで一言もなくて草草の草
:ガサゴソガサゴソ
:こんな時間に食べたら太るよ
「太ったことないから大丈夫でーす。なぜなら美少女は太らないから!」
:絶許
:ぺったんこだもんね
:もう少し胸辺りに脂肪つけたほうがいい
:貧相な娘よ…
「だっから! ぺったんこじゃないって!」
くそぅ、二十歳ぐらいになったら絶対に黒猫燦大人バージョンとか実装してもらって胸を大きくしてもらうんだ……!
「で、なんの話ししてたっけ?」
:来週の学力王の話
:勉強しようって話
:黒猫燦メンヘラ話
「あー、学力王の話ね。うん、まあ、今更足掻いても遅いよね。よし、諦めよう!」
そんなことより新作ゲームの実況とかしたいんだけど!
:最後まで足掻けよ!
:諦めんな!!
:これが曲がりなりにも人気VTuberが言っていい言葉なんだろうか…
:見てるキッズは反面教師にしような
「いやだってさ、無理なものを最後まで頑張って無理ならそれはもう時間の無駄だって。それなら早めに切り替えて時間を有効活用するのは大事だと思わない?」
:それっぽいこと言ってる…
:勉強するのが無理とか時間の無駄って言ってるように聞こえるんだが
:受験生はこの配信を聞かないように
:まあ勉強できなくても一芸に秀でれば良いとはいいけど…
:それ甘やかしたり逃げの言葉に使うのは違うのでは???
うっ、チャットが勉強しろの一色に染まってきたんだけど。
こうなるなら配信で不安とか言うんじゃなかったな。
「まあ、まあ、まあ、そのうちね。そのうち勉強配信します。はい、そのうち」
:そのうち(未定)
:これ前日に泣きついてくるか数年後にやるパターンじゃん…
:でも大会からは逃げられないからな
「あ、そういえば一応事前テストみたいなのあったんだよね。カンニングさえ無ければ配信とかでやってもいいって書いてたけど」
封筒には五教科+道徳のテストが同封されていた。
軽く目を通した感じだと小中学校レベルの問題が5,6問並んでいる様子だった。
さすがに前回のお勉強配信でボロボロだったわたしでも、全問不正解するとは思えないけど一抹の不安がないと言えば嘘になる。
これが他所のVTuberならテスト問題なんて格好の配信ネタ、喜々として動画を取ったりするんだろうけど生憎とわたしにはそこまでの度胸がない。
そもそもあるてまは手元を映したりしない配信活動をしているから、テスト問題を画面に映そうとしたらいちいち写真を撮って加工してOBSに取り込まなければならないのだ。
ぶっちゃけ手間が掛かりすぎて面倒だからやりたくないってのが本音!
こういうとき、手とか部屋を晒したり出来る個人VTuberって強みだよなぁって思う。
まあ、バーチャルなんだからリアルを晒すのってそれどうなのって気持ちもあるっちゃあるんだけど……。
:事前テストって何に使うの?
「えっとね、なんか最初のコーナーで珍回答を晒し上げて笑いものにするらしい」
:言い方ぁ!
:今回の企画運営は晒し上げて笑いものにするところなんですね!怖いです!
:※彼女の言葉は度々脚色されています
「今週末までに提出しろって言ってるけど、動画ネタにしてもらって話題性作りしたいんじゃないかな」
:※彼女は参加者です
:※公式の見解ではありません
:ちょっとまって!!!???この話やめないか?
:そろそろ配信終わっとかね?
:お勉強の時間必要だからね、早めに終わろうね
「は? ちょ、勝手に終わる雰囲気出すなよ!? ばいにゃー……、ってオイ!?」




