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#62 距離感

「はぁ……」

「燦ちゃん?」


 特に用事がないのでお昼からアスカちゃんとディスコで通話していた。

 お互いになにか用事があったわけでもないし、特別これと言って話したい内容があるわけではないので無言の時間が結構あったりする、いわゆる作業通話だ。

 ヘッドホンの向こうからはアスカちゃんが次の配信サムネに使うであろうイラストを描くペンの音だけがしていて、わたしと言えば作業通話なのに何もせずにただ適当にネットサーフィンをしていた。


 で、そんな物静かな空間でため息を吐けば必然、相手に気づかれるわけで……。


「悩み事?」

「んぅ。悩み事ではない、かなぁ……」

「じゃあ体調が悪いのかな? 大丈夫? 急に寒くなったから風邪とか引いてない?」

「あ、あはは、大丈夫だよ。風邪はあんまり引かない体質だから」

「ならいいですけど……」


 アスカちゃんは心配性だなぁ。

 けど今のは思わせぶりにため息を吐いたわたしが悪いのだ。

 誰だって今まで無言だった通話相手がいきなりアンニュイなため息を吐くと気になるのは当然である。

 むしろため息一つでここまで心配してくれて本当に心優しいなぁ、とか思ったり。


「でもなにかあったら遠慮せず言ってね? 燦ちゃんのお話なら夜通しでも聞いちゃいますから!」

「えぇ!?」


 むしろ夜通し語れるけど!? 語っていいの!?

 いやまあ流石にしないけど。

 ……あれ、数ヶ月前は明け方までよくお喋りしてたような?


「えと、じゃあちょっとだけ聞いてくれる?」

「はい、なんでも」


 そう言って、ヘッドホンからはアスカちゃんの小さな吐息だけが聞こえるのみになった。

 ペンを走らせる音が聞こえなくなったということは、わたしの話に集中しているんだろうか?

 心なしか、画面の向こうのアスカちゃんが背筋を伸ばして正座しているような気がした。


「実はね、わたし……明日誕生日なんだ」


 ごくり、と音がした。


「……知ってるよ」

「え、知ってた?」

「だって配信で言ってたし非公式wikiにも誕生日とか色々乗ってるよ?」

「あ、たしかに」


 黒猫燦にはプライバシーってものがないんだろうか。


「燦ちゃんは明日用事があるんでしたよね?」

「ぁ──う、うん。それにほら、学校あるし」

「月曜日だもんね。クリスマスイブなのに平日ってなんだか嫌な気分になるね」

「そうそう。せっかくのクリスマスイブで誕生日なのにまだ学校って、ほんと気分が落ち込むよ」

「あ、それで元気がなかったんですか?」

「そーなんだよ。いやぁ、去年は日曜日だったから余計に、ね!」

「あはっ、わかります」


 お互いに冗談を交わし合いながらひとしきり笑い合って、アスカちゃんが出掛ける時間になったから作業通話は終了することになった。

 終わり際、


「燦ちゃん。深くは聞かないけど、私はいつでも燦ちゃんの味方だからね?」


 アスカちゃんはそれだけ言って通話から落ちた。

 ……やっぱり、適当に誤魔化したってバレてたみたいだ。

 それでもあえて踏み込まずにいてくれるアスカちゃんは、やっぱり心優しい子だと思う。

 わたしが同じ立場だったら思い切って踏み込むことも、あえて踏み込まないことも出来ずにただ逃げることしか出来ないと思うから。


「ねよ」


 色々とネガティブな気分になって脳みそが疲れた。

 まだおやつ時だけど、ちょっとだけ、ちょっとだけお昼寝をしよう……。




 結局、夢見が悪くて30分もせずに起きて頭痛に襲われることになった。

 この時期はねれないなぁ。

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