#58 3期生って人外はいるけどアニマル系はいないなって話
「これは大問題なのですよ……!」
今日の配信も終わって、さあ後は適当にエゴサして寝ようかなって時にシャネルカ・ラビリット先輩に呼び出された。
もう少ししたら日付も変わるし面倒くさいなぁ、と思いながら、しかし無視したらしたで後でもっと面倒くさい事になる確信があったので大人しくDiscordへ赴く。気分は出荷される子牛でBGMにはドナドナだ。
で、通話に参加した第一声がこれだ。
参加メンバーはわたしの他に神夜姫咲夜先輩。
この3人ということは夏コミ前に結成されたユニット、フラップイヤー関連だろうか?
「シャネルカはとても危機感を覚えているのです。ヤバヤバなのです!」
「あの、ヤバヤバって何がヤバヤバなんですか……?」
「ふぁ……。お姉さん今日はお酒飲んじゃったから、普通に喋るわね」
配信外の通話でも常にキャラを崩さない咲夜先輩が素で喋るのは超レアだ。
とはいえ、咲夜先輩は今日は丸一日おやすみってあるてまサーバーにも書き込んでいたし、完全にオフモードなんだろう。
凸待ちも作業通話も参加しないって事前に言ってたし、本当ならこのまま寝る予定だったんだと思う。
なのにシャネルカ先輩のワガママに付き合ってオフの中、通話に来てくれるなんて、面倒見が良い人だ。
「……皆さんは3期生について、どう思いますか?」
「騒がしい」
「いい子たちね〜」
「ッ、………」
「先輩?」
さっきまで騒がしかったシャネルカ先輩が急に静かになった。
どうしたんだろう?
まさか陰口を叩くために呼び出されたんだろうか……。
「あ、ごめんなさいです。急にママが来たからマイクのコード抜いちゃいました……」
「あぁ、ルカちゃんは実家住みだものね。こんな時間だし静かにしなきゃ怒られるわ。そう言えば、くーちゃんも実家よね? 大丈夫?」
「あ、うちは大体お仕事で家にいないので……」
「寂しかったらいつでもうちに来ていいからね?」
「か、かんがえときます」
「で、本題なのです!」
何かと話題が脇道に逸れやすい、個性豊かな面々が集まるあるてまはいつもこんな調子だ。
まだこの場にいるのがシャネルカ先輩と咲夜先輩だからマシだが、もっと人が集まった通話の時は逸れる逸れる。
大事な会議でも脱線するから参加するマネージャーさんも大変そうだった。
え、わたし? 端の方で静かにしてるから掻き乱すも何もないんだなぁ……。
「3期生についてですよおふたりとも!」
「はいはい、ちゃんと聞いてるわよ〜」
同時にゴクッゴクッと何かを飲む音が聞こえた。恐らく机にカンッ、とアルミ製の何かが置かれる音も響いた。
これ絶対飲んでるなぁ……。
「我々はフラップイヤーとして公式なユニットを結成してるわけですよ」
「まあ、シャネルカ先輩が勝手に結成して運営に伝えて出来た訳ですけど……」
「だというのにフラップイヤーとして配信するより、3期生とコラボすることが最近多いと思わないですか!」
「それは新人ちゃんを早く馴染ませるために仕方ないでしょ〜?」
「折角のユニット、もっとコラボしたいのですよ〜〜〜」
まあ、言わんとする事は分かる。
最近は1期生2期生3期生の3人コラボや、同期プラス3期生みたいな配信が多くなっている。
とはいえ、特段それに不満はないし、わたしたちだって夏コミ前は似たような強化月間があったし今更だと思うんだけど……。
「遊びたいのです! この3人で! ほら、ケモミミ同盟!」
「まあ、私もふたりと配信するのは好きだからいいけど、具体的に何をするのかしら?」
「ふふん、考えてないのですよ」
「えぇ……」
そこでドヤられてもなぁ。
「そのために今日は集まってもらったのです! 三人寄れば文殊の知恵、おふたりの知恵をお借りしたいのですよ!」
「そう、ねぇ……。3期生の子とか他のメンバーは参加させたくないの?」
「3人が揃うなら何でもいいのです!」
「またお絵かきの森でいいんじゃないですか?」
あれから色々描いてわたしの画力も上達したし、そろそろ披露してもいい頃だろう。
「んー、それでもいいけれど。どうせなら、もっと大きくやりましょう?」
「大きく?」
「なのです?」
画面の向こうで咲夜さんがふふん、と自慢気に笑う声が聞こえた。
な、なんかあんまりわたしには嬉しくない流れな予感。
「12月25日、あるてまで企画してるクリスマスイベントの司会をやりましょう!」
「おぉ、ナイスアイデア!」
「うぇ!? いやいやいや、そんな勝手にわたしたちで司会とか決めれませんって」
クリスマスの日に朝から日付が変わるまで、1日ぶっ通しでトークしたりゲームしたりする企画が今、あるてまでは持ち上がっている。
順当に行けばいつも通りまつきりコンビで司会をすることになっているけど、それを今更変えるなんてできないでしょ。
「まあまあ落ち着いて。実は運営からフラップイヤーで夜の部の司会をしないかって言われてたのよ。流石に祭ちゃんときりんちゃんのふたりで朝から深夜までは負担になるからって」
「シャネルカ聞いてないのですよ!?」
「だってルカちゃんに真っ先に知らせたら相談もなく了承するでしょ?」
「イエス! そんな楽しい話当たり前なのです!」
「だから、よ」
と、そこで咲夜先輩は一呼吸置いて、
「くーちゃんは大丈夫? 長時間の、それもイベントの司会なんてやったことないでしょう? お姉さんそれが心配で心配で、なかなか言い出せなくて」
「ぅ、たしかに…」
自分の配信でコラボ相手を引っ張ることは最近少しずつだが出来るようになってきた。
でもそれが長時間、しかも大規模なイベントとなると未経験だから不安が強い。というか絶対失敗する自信がある。
そんな不安を読み取るように咲夜先輩は「断ってもいいのよ?」と優しく語りかけてくる。
シャネルカ先輩も珍しく静かに静観している。……喋ると空気が壊れると空気を読んでいるのだろうか。
「……あの、わたし、やります」
考えた時間は1分にも満たなかった。
「本当にいいの?」
「不安しか、ないですよ。でも、いつまでも逃げたり甘えたままじゃダメですから。それに、ふたりが居てくれるなら、大丈夫です」
多分、辛い以上に楽しいことが待ってると思うから。
最近、フラップイヤーで何かをするってこともなくて物足りないと思っていたのはわたしだって、同じなんだから。
「じゃあシャネルカと咲夜さんが、黒猫さんをたっくさんサポートするのですよ!」
「そうねぇ、お姉さん頑張るわぁ」
「人生で最高のクリスマスにしてやるのです!」