#55 【お泊り】なぁリスナー、わたしの理性いつまで持つかな【黒猫燦/世良祭】①
【お泊り】なぁリスナー、わたしの理性いつまで持つかな【黒猫燦/世良祭】
41,192 人が視聴中・黒猫 燦 チャンネル登録者数 12.4万人
#黒猫さんの時間 #ふぇすてぃばるたいむ
:お泊りコラボってマジのマジですか?
:¥2,500 Twitterデート実況もっと詳しく!
:お互いに楽しくなって後半つぶやき減ってるのいいよね…
「こんばんにゃー黒猫燦にゃー」
凛音さんと夕飯含めて目一杯デートを楽しんで、ようやく帰ってきた。
目の前の凛音さんに夢中になって段々とSNSでつぶやく回数が減ったからか、今日はいつにも増して同接が多い。
:¥200 おかえりにゃー
:へぇ~デートかよ
:楽しかったか?
:祭ちゃんとデートできるぐらい成長してお父さん泣きそう
「いやー祭先輩とデート楽しかったよー。悪いね推しとデートしちゃって! まあこれがあるてまの特権ってやつだから! にゃっふー!!」
:¥200 誰かこいつ黙らせろ
:¥250 オタクぅ!調子のんなよぉ!!
:てか祭ちゃんは?
:お泊りコラボなのに祭ちゃんいねーじゃん
:は?タイトル詐欺?チャンネル抜けました
開始数分、祭先輩が喋らないことに疑問を持ち始めたリスナーが段々とざわつきはじめる。
中には祭ちゃん目当てでこの配信を見に来た人だっているのだから、それは当たり前の反応だろう。
だからこそ言いたい、わたしはお前たちのために最高のファンサービスを用意した、と!
「皆さん、ただいま祭先輩、なんとお風呂に入ってます」
:……は?
:おいおいおいおい
:この猫遂にやりやがった
:¥2,000 突撃期待していいのか?
:シャワーの音だけでも頼む
:大丈夫?後で先輩に怒られない?
:きりんさんでもしなかったことやっちゃいましたねぇ
予想通り凄い反響だ。
まあ、凛音さん──祭先輩には家に帰った時点で配信で事故を起こさないためにお互いに黒猫燦、世良祭として呼び合うと言ってあるので、仮に今すぐお風呂から出てきて呼びかけられても身バレの心配はない。
「ね、ねえ、よく考えたら今同じ家の中で推しがお風呂入ってるってやばくない? このあと自分も入るんだよ? え、やばくない? やば……」
:語彙力
:それはやばやばのやば
:大丈夫?乱入する?
:祭ちゃんは今お風呂…ゴクリ
:ちょっとどこから洗ったかだけで良いから聞いてきて
「お風呂ってことはつまりお風呂入ってるってことだもんね。やばいよほんと……。ちょ、ちょっとどこから洗ったか聞いてくる」
:マジで行きやがった!
:扉越しに「祭先輩、どこから洗いました?」って聞くんか…
:この後輩やべーでしょ
:祭ちゃんなら疑問持たずに答えそう
:¥2,000 今なら言える祭ちゃん好きです
「お、お待たせ。聞いてきたよ」
:おかえり
:声上ずってるじゃん
:はよはよ
:¥200 これでジュースでも買って落ち着け
「はぁ、ふぅ。……えと、祭先輩はまず髪から洗って、次に胸らしい」
:ッスーーー(成仏)
:なるほど、なるほど
:¥10,000 よくやった代
:¥400 これからも引き続き頼む
「あの、それでね、えっと、風呂場の扉越しに聞いたんだけどさ、そしたら祭先輩が扉開けて、その、なぁ!?」
:は!?!?!?!?!?
:ちょ、え、は?
:ままままま待てまだ全裸と決まったわけじゃない
:祭ちゃんなら服着て風呂入るから絶対そうだからそうと言ってくれ!
:¥200 おまえゆるさんからな
あれは焦った。
挙動不審で意味不明な質問をしたことに祭先輩がこちらを心配して扉を開けて、その、漫画的なご都合主義なんて一般家庭にあるわけもなくモロに全てを見てしまった。
わ、わたしは推しの裸を見てしまったぁ~~~!
「責任とってあるてま卒業するか……」
:オイ!?
:推しでskb出来ないオタクくんじゃん
「いや、だって、だってさぁ……」
あぁ~~このまま消えて無くなってしまいたい。
お風呂中に配信始めたけど見たかったわけじゃないんだよぉ~。
そうやって画面の前でリスナー相手に延々と唸っていると、部屋の扉がガチャリと開く音がした。
「黒猫さん……?」
:祭ちゃっ!?
:き、来てしまわれたわ!
:とりあえず骨は拾ってあげるよ
:¥200 香典
「ぴぃ!? ま、祭先輩、あの、えと、あぅぁ……」
「配信、してるの?」
「は、はい」
「むぅ」
「お、怒ってる……!」
祭先輩は頬をぷくりと膨らませ、いかにも怒ってますという態度を見せてきた。
やっぱりお風呂中に配信はダメだったか!?
「黒猫さんと一緒に配信始めたかったのに」
「へ……?」
「前のいじわる?」
「前って」
前回、祭先輩とオフコラボした時は確かわたしがトイレに行ったタイミングで配信がスタートしたはずだ。
あの時は慌てたけど別に過去のことを今更気にしてないし、もしかして祭先輩は怒ってるわけじゃなくて拗ねている……?
「あの、お風呂中に配信はじめたこと怒ってません?」
「一緒にやりたかった」
「そうじゃなくてー、そのー、つまりお風呂って服脱いでるわけですし、色々と、ね?」
「? なにか問題でも?」
「おいリスナー知恵貸せ」
:¥2,000 これから毎日お風呂配信しようぜ
:これが世良祭なんだよなぁ
:¥2,000 とりあえずありがとうって言っておこう
「うー、さっきのその、お風呂場の事故に関しては」
「事故?」
「なんでもないです大丈夫です忘れてください」
どうやら祭先輩は入浴中に配信したことも、ふざけた質問をしたことも、そして裸を見たことも全く気にしていないらしい。
ただ一点、自分がいないところで配信をしたのが気に入らない、と。
祭先輩大丈夫? 倫理観とか欠如してない??
「えー、では改めまして。こんばんにゃー黒猫燦にゃー。そして」
「世良祭、いえーい」
:いえーい
:¥200 待ってた
:これが本当のスタートだぜ!
:なお既に20分経っている模様
:¥300 今日の夜は長いぜ
「あ」
「どうしました?」
「黒猫さん、お風呂は?」
「……どうしましょう」
:行って来い
:ゆっくりしていってね
:¥12,000 ○REC】
「んぇー、入らなきゃダメ?」
:きちゃない
:ばっちい
:¥300 野良猫みたいなにおいする
「お前ら散々だな!?!?」
「適当に雑談してる。ゆっくり入っていいよ」
「うっ、じゃあお言葉に甘えまして……」
祭先輩の言葉を後押しに、お風呂へ向かう。
服を全部脱いで浴室を開けて、むわっとした空気が一気に身体を包む。
──あぁ、ここでさっきまで祭先輩が……。
いやだめだだめだこの思考は普通に気持ち悪い。
心頭滅却の心でシャワーノズルを捻って全身を一度洗い流す。ついでに煩悩もすーっと流れていった。
「ふぅ……」
最近は涼しくなってきたとはいえ、それでも室内にいればじんわりと汗が出るし、今日は色々と緊張でかなり汗を流してしまった。
わたしの大きな胸は簡単に蒸れてしまうから、シャワーで汗を流すこの瞬間は1日で一番至高の時間と言っても良い。
ゆっくりしていい、と言われたけどそれでも気持ち急いでしまうのが小心者の性だよなぁ、とか考えながら身体をボディーシャンプーで洗い流して、
「黒猫さん、黒猫さん」
「わひゃぁ!?!?!?」
唐突に話しかけられてシャワーヘッドを床に落としてしまった。
お湯を撒き散らしながらのたうち回るそれに目を白黒させてアワアワ狼狽していると、次はガチャッ、と扉が開く音がした。
ちょ、まっ、
「大丈夫!?」
「あわわわ祭先輩閉めて閉めて、シャワーがわぁああ!」
コントロールを失っているシャワーヘッドが扉を開けた祭先輩に向かって大量のお湯を噴射する。
当然、唐突な出来事に祭先輩は対応できるはずもなく、結果として着替えたての寝間着をビシャーっと濡らすことになった。
「………」
「あぅ……」
「ごめん」
「いや、こちらこそ、その、ごめんなさい」
お互い、気まずい雰囲気だ。
わたしは浴室で全裸の状態で立ち竦んで、祭先輩は扉に手をかけた状態で呆然とわたしを見つめている。
誰が悪いわけでもないと思う。
祭先輩がやったことは、さっきわたしがやったことと同じなんだから。責める権利はない。
ただひとつ言うならば、
「その、祭先輩、あんまり胸見ないで……」
「黒猫さんはおっぱいから洗う派」
わたしの胸より濡れた自分の寝間着を気にしてください。