#36 【カラオケ大会】全員集合!夏のカラオケ大会!(黒猫視点)【あるてま】①
ハーメルン推奨回です。
なろうだと歌詞が全部潰れているので意味不明です。
【カラオケ大会】全員集合!夏のカラオケ大会!(黒猫視点)【あるてま】
4,1896 人が視聴中・黒猫 燦 チャンネル登録者数 10.4万人
:キタ━(゜∀゜)━!
:この日を待っていたぜ!
:課題終わってないけど見に来た
:あるてま初の箱コラボだな
:まさかあの黒猫さんがここまで成長するとはなぁ
「────♪」
:開幕!?
:オープニングトーク無しで歌うのは予想外
:祭ちゃんの立ち絵!
:これ新衣装じゃね?
:アイドル!
:打ち上げ花火、夏の終わりにぴったりやね
:デュエット曲だが果たして
「──────♪」
:きりんさん!
:やっぱ祭ちゃんの相方はきりんさんなんだよなぁ!
:この前の感想動画でも司会担当してたよな
:はーかわいい最の高かよ
:てかきりんさんもアイドル衣装!?
:夏!終わらないで!
:まだ始まったとこなんだよなぁ
「───」
:色々妄想の広がる歌詞
:祭ちゃんがきりんさんに笑いかけるのか
:はーお耳が幸せ
「─────」
:まつきりてぇてぇ
:歌の合間に2人で笑い合う声が入ってるの最高にエモくね?
:これ絶対オフで隣り合わせだよ
:間奏で横向いたら目と目があってクスクス笑うまつきり
:はーてぇてぇがすぎんぞ!?
:なんで!あるてまは3Dじゃないんですか!!
「─────────♪」
:88888888888
:ブラボー!
:良い最終回だった
:これ開幕曲ってマジ?
:黒猫さんのハードルが上がりまくる
「みんなー! 今日は集まってくれてありがとー!」
「今日も司会は私たち」
「きりんさんと!」
「祭ちゃんです。ぶい」
はー、まつきりてぇてぇ……。
チャットが大盛り上がりする中、わたしは目の前の2人──祭先輩ときりん先輩がオープニングトークへ移るのをただのオタクとして眺めていた。
そう、目の前には祭先輩ときりん先輩がいた。
あるてまが誇る人気Vtuber2人組の司会が目の前で見られるという、世のオタクたちが羨む光景を前に。わたしはこれから出番であるという緊張感を少しでも忘れようと、出演者という立場を忘れてオタクに徹してた。
「祭ちゃんこっちむいてー!」
「コラ、邪魔しない!」
「あぅ」
興奮するわたしを注意するように、隣に座っていた結が小突いてきた。
わたしたちは現在、あるてまの運営企業【A of the G株式会社】で配信を行っていた。
十数人が一堂に会してもなお余裕のあるブースで、初めて見る先輩も含めてライバー全員で机を囲っているのだ。
……正直気まずい。
対面に位置するアルマ先輩は目が合うたびにニカッと笑いかけて手を振ってくれる。
その度にわたしは気恥ずかしくて、ロクなリアクションも取れずに目を逸らしてしまうのだ。
文句の一つも言わずに何度でも手を振ってくれるアルマ先輩はとてもいい人だと思う。
大体わたしの視線は机の上に固定されていて、白い会議机の仄かなシミや細かい傷すら見飽きてしまった。
はぁ……これが家でゴロゴロしながら見れる配信ならきっと神回だったろうに、なんで自分が参加者になってしまったのか。
誰か変わってくれないものだろうか。
「で、この大会はみんなで夏の終わりに盛り上がろーって感じの大会です! ちなみにリスナーさんの投票で一番に選ばれた人には、いつもの運営さんへのおねだり券が発行されるからがんばりましょー!」
「きりん。早く歌いたい」
「はいはい、さてさて、祭ちゃんはまだまだ歌い足りないようだし、そろそろ次の人呼んじゃおうかな?」
「かもん、黒猫さん」
「なんでぇ!?」
隣の結がぼそりと「台本に書いてあるじゃん」、と零していたけどそんなもの知ったこっちゃない。
乗り気じゃないわたしが台本なんて読むと思っているのだろうかッ!!
「ほら、こっちきなよー」
「あぅぅ、勘弁して……」
「黒猫さんとデュエット、楽しみ」
「んー、残念だけど今回はソロ曲だねー」
「そんな……困る」
「というか台本に書いてるんだけどね! この2人はなんで読んでないのかなー? かなー?」
ニコニコと笑っているきりんさんだけど、その目は笑っていない。
優しくて砕けた口調から忘れがちだけど、きりんさんはこう見えて真面目であるてまでも随一のスパルタだ。
本番前とか絶対に台本何回も読み直してるタイプ。
「じゃあ黒猫さんの立ち絵表示して、っと」
カチカチっと後ろに控えていたスタッフさんが祭先輩ときりん先輩の間に黒猫燦を表示させる。
あっ、まつきりの間に挟まれるのは解釈違いだからやめてください。
え、無理? はい……。
:は?黒猫さんも新衣装じゃん
:この前新衣装貰ったでしょ!
:てかこれってもしかするともしかする?
「えっへへー、気づいちゃったかなー? そうです、なんと運営さんは今回のカラオケ大会のために所属ライバー全員分の新衣装、用意しちゃいました!」
「アイドル衣装。かわいい」
「これでいつでもアイドルデビューできるね!」
「やだぁ……」
「黒猫さんはみんなのアイドル」
そう、なんとこの日のためだけにアイドル衣装なんて凝ったものを運営は用意してきたのだ。
ちなみにきりん先輩は全員分、と言ったが男性陣は通常衣装のままだ。
アイドルでフリフリは女性組だけ。
これ絶対ツアーとか実施して表紙とかに使う奴だろ……!
「黒猫さん連続で新衣装だよねー、いいなーきりんさんも新しいお洋服がほしい!」
「えと、どんなやつですか」
「きりんのきぐるみ!」
「そ、そう、ですか……」
リアクションに困る返しはしないでいただきたい!
ちなみに衣装については偶然時期が重なってしまっただけだ。
元々夏の終わりにアイドル衣装を実装は決定していて、そこにわたしの記念衣装が重なってしまったという感じ。
どっちも割と初期段階で用意してくれたからこうなったってことだね。
「さてさてではでは、黒猫さんは何を歌ってくれるのかな!?」
「えと、【片翼のイカロス】です」
「私も歌いたい」
「祭ちゃんはじっとしてようねー」
選曲は事前に視聴者から募集したものだ。
とんでもない数の曲が送られてきたのだが、取り敢えず目に付いた知ってるやつを選んでみた。
:いい選曲だ
:黒猫さん歌えるの?
:どうしてあるてまはこうも黒猫に試練を与えるのか
:その方が輝くからやろ
:OPまつきりデュエットの後、実質トップバッターじゃん
う、おなかいたくなってきたな……。
スタッフさんが目線で流していいか、と聞いてくるけどイヤイヤちょっと待ってほしい。そもそも知らない人と目線合わせたくないんだけど。
「大丈夫。黒猫さんも上手になってる」
……思えば、祭先輩にはお世話になりっぱなしだな。
実を言うと、今日この日の為に裏で何度もお歌の練習をしてきた。
秘密の特訓と称して祭先輩に付き合ってもらったことも1度や2度ではない。
今こそ師匠に特訓の成果を見せるときか……ッ!
:はじまっちゃ
:がんばえー
:応援してるぞ
「───────♪」
:歌えた!
:えらい、100点
:声が出ただけで褒められるVtuber
:大分上手くなってきたね
:まあちょっとカラオケ上手いリア充ぐらいかな
:なお本人は陰猫
「───誰が陰猫か!? あ」
:wwww
:歌に集中しなさい!
:本当に期待を裏切らない子だな
あぁぁあああやらかした!
間奏だったら兎も角、普通にツッコミ入れちゃったよ!
そこからはもう酷いものだった。
一度ミスすると連鎖するとはよく言ったもので、歌詞を間違えるわ音程がボロボロだわ、後半になるにつれて泣きそうになった。
というか若干泣いてたと思う。
結の方を見ると凄いハラハラした表情で見てたし。
:く、くろねこさーん!
:煽った俺らが悪かった…
:いや歌ってる時はチャット見るなし
:そうこうしてるうちに曲の最後に
:最後だけでもばっちり決めてくれ…ッ!
「────」
あぁあああああああああああああああ!!!!!
「何故か涙が溢れてた! マジで! にゃ!」
:お前は今泣いていい
:まあ最後は安定してたよ、うん
:まつきりデュエットの後にこれはつらい
:本人がファンだから余計にな
:今日はもう出番終了で…
あんなに練習したのに、一度のミスで全部が崩壊するなんて誰が予想できただろうか。
本当に鍛えるべきは歌唱力とかじゃなくて、煽りに動じないメンタルだったとでも言いたいのか!
「よく頑張った。えらい」
「ぐすんぐすん」
ぎゅーっと抱きしめて撫でてくれる祭先輩のなんと優しいことか。
はぁ、好き……。
「ミスしても最後まで歌いきったのはすごい。私が幼い頃は真っ白になって、最後まで歌えなかった」
「祭ちゃんの子供時代!? 気になる気になるー」
:わおも気になります
:わたしも
:絶対天使
ひとしきり祭成分を補給した後、ゆっくりと離れる。
緊張と不安でドキドキと響いていた心音は落ち着きを取り戻していた。
「落ち着いた?」
「は、はい……。えと、ありがとうございます」
「気にしない。黒猫さんを助けるのが私の役目」
:てぇてぇ
:画面の向こう側の妄想が広がりますわー
:まつねこてぇてぇ
:祭ちゃんが先輩してて俺も鼻が高いよ
「さて、じゃあ黒猫さんにはいったん休憩して貰って。次はアルマちゃんに敵討ちをしてもらおっか!」
すごすごと自分の席へ戻り、入れ替わりでアルマ先輩が立ち上がった。
そしてアルマ先輩はすれ違いざま、ポンポンと肩を優しく叩いてくれた。
「あたし様に任せときな。ばっちり決めてやるよ」
……あまりに格好良い背中と言葉に、「個人戦だから敵討ちどころか追い打ちじゃん」とは口が裂けても言えなかった。