#23 【近況報告】久々にふたりでおしゃべりするだけの枠【黒猫燦/夏波結】
「ゆいままだーいすき、あるてま2期生の黒猫燦だにゃんっ♡」
「え」
:何事
:誰だお前
:こんばんにゃ?
「今日は大好きなゆいままとおしゃべしまーす!!!!!」
「は」
:本人フリーズしてるが
:放送事故じゃん
うるせぇ! こっちも必死なんだよ!
そんな心の声をグッと堪えて、ニコニコ笑顔で好き好きアピールを続ける。
わたしがこんなハイテンションで配信を開始したのは全てアルマ先輩が原因だ。
というのもの、先日のボンバーマンで負けてしまった罰ゲームの内容が、【次のコラボ相手と本音で配信する】というものだった。
この究極に恥ずかしい罰ゲームを夏波結相手にどうしようかと一晩寝ずに考えに考えて──わたしは全力でデレることにした。
どうして本音配信がデレになったかなんて聞くな、聞かないでくれッ!
正直徹夜テンションで始めてしまった感は否めないが、今更後には引けないのでこのまま続けるしかない。
受け取れ、わたしの本音!
「えっと、えっと、燦ね、最近ゆいままとコラボ出来なくて寂しかった」
「へ」
「燦のこと一番理解してくれてていつも助けてくれるのはゆいままなのに、夏イベじゃ離れ離れで不安だったの!」
「う」
「だから今日はいっぱい、いーっぱい甘えたいと思いまーす!」
:黒猫さん大丈夫?
:つらいことあった?
:コラボやり過ぎて壊れちゃった!
「わたしだって! たまには人にあまえたい!」
「あー、えっと、うーん」
ヘッドホン越しに困惑の声が聞こえる。
なんだなんだどうした夏波結。
まだデレが足りないというのか、欲しがりめ!
「正直ゆいままのことを考えない日はないです。昨日も寝ずに考えてました」
「ちょ、ちょっと」
:こいつ徹夜だぞ!
:徹夜テンションで配信はダメですよ
:放送事故不可避
「にゃははは、ちょっと考えが纏まらなくて口からぽろぽろ言葉が洩れてるだけじゃないか!」
「無理せず寝た方がいいって……」
「やだ! ゆいままともっとお喋りする!」
だーいじょうぶだって。
身バレに繋がることは言わないように日頃から心掛けてるから、放送事故なんて絶対起こらないって。
「えっとー、今日は近況報告するんだっけ」
「そうだけど……」
「シャネルカ先輩は賑やかで楽しい人だった! 咲夜先輩はえっちで正直興奮した! きりん先輩は色々相談に乗ってくれて嬉しかった! アルマ先輩は裏で色々気に掛けてくれて優しかった! みんな大好き!」
:あんなにツンツンしてた黒猫さんがデレッデレやんけ
:心の底ではこんなこと思ってたんだね
:これ後で見直した時悶絶しない?大丈夫?
わたしは優しい先輩たちに囲まれて毎日が幸せだ。
けど問題は夏波結が担当する2日目のメンバーである。
『夏波 結』『終理 永歌』『戸羽 乙葉』『相葉 京介』『ヴェンデット・ハルキオン』
なんとメンバーの後ろ3人は男である。
つまり、
「私のゆいままはやらんぞ!!!」
「いい加減落ち着いて!?」
「うるさいうるさーい! 男なんて24時間女と繋がりたいと思ってるんだ! 優しい顔して近づいてきても裏では絶対声からえっちな妄想してるね! どうせ同じ企業だからワンチャンあるとか思ってるんだ! ゆいままはやらんぞ!!」
「ストップ、ストップ! それ以上はほんとダメな奴!」
:先輩と同期に全力で喧嘩売ってて草
:男なんて性欲魔人だから多少はね?
:予言する、黒猫はこの後謹慎する
特に相葉京介は要注意だ。
まず顔がラノベ顔。絶対無自覚に恋愛フラグを立てるに決まってる。
あと声が良い、主人公声だ。絶対ハーレムとか作る。
それに特別優れたところがない癖に妙に運が良い。絶対ラッキースケベに遭遇するね。
結論、夏コミで夏波結と相葉京介を合わせるわけにはいかない!
「ゆいままは私だけ見てればいいの」
「わかった、わかったからもう配信終了しよ? ね、明日またやればいいからさ」
「やーだー!」
:子どもじゃん
:むしろ赤ちゃん
:完全に親子だ…
「ゆいまま大丈夫? 裏で男に言い寄られてない? 甘い言葉には毒が混じってるから気を付けて!」
「アンタは自分の言葉に気を付けて……ッ!」
「じゃあ、愛してるゲームしよっか!」
「脈絡ッ!」
なんだか凄く楽しくなってきた。
いつも配信する時は少しハイになるけど、今はそれに加えて夏波結と久々にコラボしたからかな。テンションが上がって上がって仕方ない。
まるで寝てない時みたいな気分だ。
「ほらほらいくよー。愛してる♡」
「うっ」
:照れた
:瞬殺
:負けるに決まってるんだよなぁ
「え、照れてないよね? ほら、ゆいままの番。はーやーくー」
「ちょっと、ちょっと待って」
「待たない。ねえ、言ってよ」
「う、うぅ……」
「優しいところが大好き。初めての人になってくれて嬉しかった。いつも助けてくれてありがとう。大好き、愛してるよ」
「た、たすけて…しぬ……」
:ゆ、ゆいままー!
:タオル投げて!
:夏波結戦闘不能、勝者黒猫燦!
:これは伝説になるぞ…
「ところで近況報告しよ?」
なんで愛してるゲームなんてしてるんだ。
今日は近況報告回だぞ、発案者誰だよ。
あぁ、それにしてもぼーっとしてきた。
「う、うん。近況報告に戻ろう、うん」
「そういえば夏コミももうすぐだにゃぁ」
「うん」
「初のリアイベ緊張するにゃぁ」
「うん」
「燦のこと愛してる?」
「うん……え?」
「やったー、みんな聞いた聞いた? 相思相愛♡」
:もうやめて!とっくにゆいままのライフはゼロよ!
:徹夜と飲酒はその人の本性が顔を出すっていうけど、これが黒猫さんの本性か
:封印した方が良かった説
:明日からどんな顔で配信する気ですか?
:さっきから支離滅裂でこわいよぉ…
チャット欄がぶわーッと一息に更新されていくけど、正直文字を目で追うだけで頭がズキズキしてきた。
何も考えずにお喋りする方が楽しいから、チャットなんて見なくてもいっか。
「そ、そういえば! 事前に顔合わせして打ち合わせとか出来るの? 通話でいっぱいいっぱいなのに」
「なくなった」
「へ?」
「顔合わせなくなった」
正確には先輩たちの要望により事前顔合わせがなくなったのだ。
打ち合わせは全部ディスコードで済ませて、顔合わせは当日会場で。
正直、嫌な事はギリギリまで回避したいタイプなので先輩たちの要望はわたしにとって渡りに船だった。
事前顔合わせをすると思っただけで、胃がきゅっとして不安の毎日だったからとても助かった。
「ゆいままは?」
「私は今週末にやるよ」
「付いてく」
「え」
「悪い虫がつかないか監視する」
「いや、顔合わせ嫌って言ってたんじゃ──」
「ゆいままが寝取られる方がイヤ」
「んんっ~?」
同じ嫌なら、わたしはゆいままを選ぶね!
「あの、ホント大丈夫だから。お願いだから不用意な発言しないで、ホントお願い」
「男は出会い厨。優しくされるだけで気があるとか勘違いする愚かな生き物」
「男の人に偏見あり過ぎじゃない!?」
偏見じゃないですー、真実なんですー。
なんなら消しゴム貸してくれただけで男は惚れるぞ、わたしは惚れるね。
だって気がなかったら消しゴムなんて貸してくれないでしょ!?
しかし夏波結はどうしてもわたしの言葉を信じられないのか、うんうんと唸りながら妥協点を提示してきた。
「終わったらLINEで教えるから、そのあと家までいくから。ね、ご飯連れってってあげるからそれで満足して?」
「……連絡来た時が本当に打ち合わせ終わった時とは限らない。全て事が終わった後かも」
「大丈夫だから、何も心配しなくていいから!」
むぅう、仕方ないな。
本当は最初から最後まで監視したかったけど夏波結がそう言うのなら、渋々受け入れるしかない。
わたしは聞き分けのいい子なのである。
「私以外と仲良くしないで」
「はいはい」
「いっぱい甘やかして」
「はいはい」
「いっぱい甘えさせて」
「はいはい」
「いっぱい、いっぱい……」
「あれ、燦?」
「すぅすぅ……」
「ちょ、燦!? え、寝たの? 配信中なんですけど!? ちょっとこれどうやって終わるの、う、運営さーん!?」
「ゆいまますき…ぐぅ……」
◆
【Twitter】
【黒猫燦@あるてま2期生/@kuroneko_altm】
この度は私の不用意な発言、身勝手な放送で様々な人にご迷惑をお掛けして大変申し訳ありませんでした。反省してます。
つきましては1週間の配信自粛で自分を見つめ直してきます。
本当にすみませんでした。