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#21 【スナック来宮】あなたのお悩み解決します【来宮きりん/黒猫燦】

「はいこんにちわ。バーチャルユーチューバーの立花アスカです」


 こんにちわー! アスカちゃん今日も可愛いよー!!


「えっと、今日はお歌配信しちゃいます! 人前で歌うなんて初めてでドキドキしてますけど、頑張るから応援よろしくおねがいします!」


 あっあっアスカちゃんのお歌、応援する! 応援しちゃうよ!


「じゃあ1曲目、『Thrill, Risk, Heartless』いきます!」


 はぁ〜、やっぱりオフの日は個人Vtuber巡りに限るな……。

 最近は配信があるせいでなかなか時間が取れないし、空いた時間も企業系の配信ばかり見ていた。

 だから今日みたいな完全オフは1日中趣味の個人V巡りとして溜まったアーカイブや生配信を見て過ごそうと決めていたのだ。


「ふぅ……。ど、どうでした? 変じゃなかった? ちゃんと歌えてたかな?」


 さいっこうだよ! 天使の歌声みたいだった!!


 そう思いながらプライベートアカウントでチャットを出来ないのが口惜しい。

 別に黒猫アカウントは使わないし誰にバレるわけでもないからチャットは問題ないのだが、わたしがわたしの推しに認識されるのが怖いのだ。

 配信でチャット出来ない、web小説で感想書けない、そういう人種は一定数いると思う。わたしもそのうちの一人。

 わたし如きを認識されるのが怖いし恥ずかしい、そんな感情がたくさん湧いて文字を打っては消して満足してしまう。

 ネット活動は反応が無いと容易く消えていく業界だから本当はチャットの1つでも送るべきなのは理解している。


 けど、それが出来たらコミュ障なんかしてねぇ!

 相手のリアクションが怖いんじゃい! 恥ずかしいんじゃい! 一期一会のレスバとはワケが違うんじゃい!


「はぁ、はぁ。結構歌ったね。けどまだまだ歌い足りないし、もっともっといっちゃっていいかな!」


 いいともー! あああアスカちゃん可愛いよぉおおお!!


 個人Vtuberは企業Vtuberと違って何のバックアップも無いため、視聴者やチャンネル登録が伸び辛い。

 今見ている配信だって同接9人前後、登録者数はもう少しで100人といったところ。

 個人勢の中には自己紹介動画で大変さに気づいて消えていく子や伸び悩んで引退する子が沢山いる。

 それでもVtuberが楽しいと言って続けてくれる子がいるから、わたしはいつか訪れるかもしれない別れの感情を殺しながら個人Vtuber巡りをしてしまう。


「あー楽しかった! みなさんも最後まで聴いてくれてありがとうございます!」


 チャットを打っているのは視聴者の半分ぐらいだ。

 それでも画面の向こうの彼女は本当に楽しそうに、キラキラした笑顔で配信を続けている。

 最高だ、一生推せる。


 けど、こんなに良い子が個人で頑張っているのに、わたしみたいな陰キャが企業で本当にいいんだろうか……。


 ◆


【スナック来宮】あなたのお悩み解決します【来宮きりん/黒猫燦】

 30,180 人が視聴中・来宮 きりんチャンネル登録者数 12.2万人

 #きりフレ全員集合 #黒猫さんの時間


「いらっしゃい、スナック来宮へ」


:なんか始まった

:見る枠間違えた?


「ここは人生の迷い子が訪れる場所。今宵も悩みを抱えた一匹の子猫が迷い込んだみたいね」

「ぁ、こ、こんにちわ。黒猫です……」


:茶番回

:※スナック来宮の登場人物は18歳以下で、飲酒喫煙の事実はありません。

:↑助かる


「はーい、そんなわけで今日は黒猫さんとコラボしまーす。ぱちぱちー」

「よ、よろしくお願いします」


 今のあるてまはコラボ月間に突入している。

 夏コミという大規模イベントを控えた今、成功率を高めるために1期生と2期生は積極的に交流するようにと運営からお達しが来たのだ。

 それはコラボ嫌いのわたしも例外ではなく、今日はきりん先輩、2日後はアルマ先輩、その後フラップイヤーと、ローテーションみたいな日程が組まれていた。

 今頃他の同期たちはどうしてるんだろうなぁ……。


「でね、コラボなにしよっかなーって迷ったんだけど、せっかく後輩ちゃんと絡むんだから頼れる先輩としてお悩み相談でもしよっかなーって閃いちゃいました!」


:名案!

:かしこい!

:きりんちゃんもしっかり先輩しとる


「えっへへー、後輩の悩みもばっちり解決して見せるから期待しなよー」


 なんかそんな感じでわたしは3万の大衆の前で悩みをぶちまけなくてはいけないらしい。

 しかも1つじゃなくてたーくさん、マジか。


「じゃあ早速オープニングトークでもしよっか!」

「え、ま、まだやるんですか……?」

「だってコラボだよ? 黒猫さんもしっかり盛り上げないと」


 ひ、ひぇっ。

 きりん先輩は大体何でも肯定してくれるからひたすら優しい人に見えるが、その実1期生のまとめ役としてしっかり者で真面目な一面がある。

 今回もコミュ障なわたしを気遣ってお悩み相談を開いてくれたのだろうが、それはそれとして企業Vtuberとして最低限仕事はしっかりしろ、という言外の圧を感じた。

 

 正論だからぐうの音も出ない……。


「え、えっとオープニングトークってなにするんですか」

「なんでも大丈夫だよー。今日の些細な話でもいいし、私に関する話題でもおっけー! どんなに短くてもいいからリスナーさんを楽しませることが大事!」


:天気デッキはやめろ

:セクハラもやめろ

:天気と性癖を封じられたら何が残るんや!


「は、はぁ!? きりん先輩と視聴者さんに私の配信勘違いされるだろやめろよ!」


:今更では?

:羞恥の事実

:恥じてないぞコイツは


「んんっ。ぇ、えっと、そういえば昨日久々にオフだったんですけど、きりん先輩はお休みの日は何しますか」

「お休みの日はねー、最近は食べ歩きとかしてるよ! ネットで話題になったお店とか並んで食べるの!」


:マジ?明日から毎日有名店巡るわ

:俺も

:デブ活が捗るな

:今更さ


「あとはねーやっぱり他のライバーさんの配信見たりも多いね」

「え!? きりん先輩も見るんですか!?」

「もちろん、毎日色んな人見て勉強してるよー」

「あ、あのあの私実は個人Vtuberが大好きでそれであのきりん先輩も良かったら個人勢とかも興味あったら是非見て欲しくてそれで良かったら私のオススメのライバーとかも紹介しますしえっとその」

「よーし一旦落ちつこっか」


:オタクじゃん

:どもるコミュ障で早口のコミュ障とか重症じゃん

:鏡見てるみたいだな

:個人Vtuberになって黒猫さんに認知してもらいます


 あ゛っ、つい興奮して我を忘れてしまった。

 Vtuberを始めてから気づいたのだが、わたしは興奮すると変な事を口走る悪い癖があるみたいだ。

 感情がいっぱいいっぱいなせいで無意識に飛び出てくる言葉なのだが、大抵後から考えるととんでもないことを言っていて後悔することが多い。

 これでこの先やっていけるのかな…。


「じゃあチャットも盛り上がったみたいだし早速お悩み相談していきましょー!」


:黒猫さんの悩みが今赤裸々に!

:元から赤裸々配信してるけどな

:下着の色まで知ってます

:どうせ際どい黒


「うるさい今日はピンクじゃい! あ、違う」

「黒猫さんのお悩みはそのお口かなー?」

「ち、違うんです。私はハメられただけで!?」


 なんで憧れの先輩とコラボするたびにわたしは下着の色を告白しているんだろうか?


「あの、コラボのたびに下着の色を言っちゃうんですけどどうしたらいいでしょうか」

「言わなかったらいいと思うんだけど」

「普段から下着の色を言わないように心掛ける生活なんて無理です……」

「そうじゃないけど!?」


:穿かなかったら色を言わずに済む

:黒猫メモ:コラボの時はノーパン

:助かる

:一件目解決ッ!


「う、うーん。もっとこう、Vtuberしてて大変な事とか先輩に聞いてみたいこと遠慮なく言っていいんだよ?」


 なんか知らんけどきりん先輩が困っている。

 これはちゃんと悩みをぶつけないと失礼に値する場面!


「じゃ、じゃあ。えっと、私ってこのままVtuber続けてていいんでしょうか……」


:ガチすぎる悩みッ

:高低差考えろ!

:アクセルとブレーキ壊れてんじゃん…


「昨日Vの配信見てて思ったんです……あの子たちはキラキラしてるのに私は毎日どんより配信。本当に企業にいるべきは私なんかじゃなくてあの子たちなんじゃないかって……」


 わたしなんて毎日叫んだりドジするか吐いてるだけだ。

 色々なやらかしでここに立っているだけで、本当に相応しいのはアスカちゃんみたいな子なんじゃないかって自己嫌悪してしまう。


「うんうん、わかるよ。その気持ちすごーくわかる」


 もしかしたら怒られるかもという思いがあった悩みは、しかしきりん先輩は同意を示してくれた。

 しかも口だけのものじゃなくて深く頷く感じの、実感が籠ったものだ。


「私もデビューしたての頃は何度も考えたよ。無難なデビューで失敗しちゃったし全然上手に喋れないし。何度引退しようと思ったか」


 確かにきりん先輩はデビュー初期と今では大分印象が違う。

 ファンの間では成長した、ぐらいで流されるものだけどこの立場になってそれが慣れや成長程度で流していいものではないと理解した。

 わたしがあと数か月配信を続けてもきりん先輩のようになれる自信は欠片もない。

 きっと裏で相当の努力をしていたのだろうことは想像に難くない。


「けどね、いつも来てくれてたリスナーさんの名前は今でも全員覚えてるし、貰った応援も覚えてるよ。それ見てたら自分の人気がないぐらいで諦めれるかーって思えて、ここまで頑張れたんだ。黒猫さんにはそういうの、ないかな?」

「わた、しは──」


 いつもマシュマロをくれる人はもう文面で同じ人だと分かるようになってきた。

 いつもスパチャをくれる人の名前は覚えた。

 その人たちはこんなわたしでも肯定的に受け入れて応援してくれている。

 それを思い出すだけで……、


「がんばろうって、思えます」

「じゃあこれからも続けられるよ! ほら、チャットも見てみて」


:やめないで;;

:生きがいを奪うな

:個人勢も頑張ってる、黒猫も頑張ってる、みんな頑張ってる

:個人勢です。黒猫さんを見ていると頑張れるのでやめないでください

:燦ちゃんがやめるとゆいままもやめるから引退するな


「な、なんだよ。いっつも茶化す癖に真面目かよ……」

「それだけみんな黒猫さんが大好きなんだよ。もちろん私もねー」

「は、はずかしい……」


 こんな展開望んでないし!

 普通に悩みを聞いてもらって、解決しないけど胸の内をすっきりさせて終わりとかそういう風に考えてたのになんで感動系になってんだよ!

 まだ2回目の相談だぞ、下着から急展開すぎんだろ!


「もっと掘り下げる? 次の相談にいっちゃう?」

「つ、つぎの相談で……」


:ヘタレた!

:逃げるな(迫真)


「ああもううっさいだまれ!」


:照れる黒猫さんも可愛いよ

:もっと弄りたい;;


「えっと、えっと。そ、そういえばこの前ある女の子に変なこと言って気まずくなりました。助けてください」

「結ちゃんだよね」


 名前言ってないのに何で知ってるんだ!?

 チャットも当然のように名前も内容も飛び交ってるし、何故!?


「そうだねー、いっそ付き合っちゃいなよ」

「は、はぁ!?」

「間違えた、開き直っちゃいなよ」


:そして付き合っちゃいなよ

:開き直って大好きアピールして付き合えば気まずくならない、天才やね

:応援します


「ほら、リスナーさんの言葉は大事だよー。いつだって励みになるよー」

「う、うぅ、騙されんぞ……」

「でも好きなんでしょ?」

「べ、別に嫌いじゃないだけだし……」

「好きか嫌いなら?」

「ぅ、ぅぅう、す、すき……」


:聞きました!?

:聞きましてよ!

:言質取った


「べ、別に! きりん先輩も祭先輩もフラップイヤーの皆も好きですけど!? 全員大好きですけど何か!?」

「おぉう、大胆な告白だよ」


 わたしはわたしに優しくしてくれる人にすぐ懐くぞ。

 何ならコロッと惚れる自信があるね、悪いか!

 こちとら愛に飢えてるんじゃい!


:黒猫ハーレム計画か

:むしろ逆ハーでは…?

:争え…争え…

:際どい下着は伏線だったのですね

:オフpkライバー黒猫燦


「ああああもう! 次の相談いくから! 今日は徹底的に相談と質問攻めするから覚悟しろお前ら!」

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[良い点] 感想書くの怖い、あると思います 油断すると余計なこと言ってしまう質だと特に… 年を取るほどに臆病になるんだ、小さいときの無鉄砲さが羨ましくすら思えるよ… [気になる点] これ二人ともリア…
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