表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少女になってちやほやされて人生イージーモードで生きたい!  作者: 紅葉煉瓦
#四期生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

168/177

#168 お説教の時間

「どうして呼び出されたか、理解していますか?」


 対面に座る九条さんが口を開いた。

 いつも生真面目な表情で考えていることが読み取りづらい九条さんだが、今日に限って言えば分かりやすく今からお説教をしますと顔に書かれていた。

 まあ要するに、


「昨日の案件中の発言、ですよね……」

「その通りです」


 九条さんの言葉に、隣に座っている旭くんの肩がビクッと跳ねた。

 やはりと言うかなんというか、わたしが危惧していた通り旭くんが案件中に発した「アンインストール」という言葉は、VTuberの炎上ネタを取り扱うまとめサイトなどで悪意ある取り上げ方をされてプチ炎上を起こしていた。悪意っていうか、どう見ても頭に血の昇ったこっちがカッとなってした発言だけどね。

 別にそういうまとめサイトで話題になるだけならアングラな界隈だから無視すればいい話なんだけど、案件ということもあってSNSや切り抜き動画でもリスナーの間で物議を醸していて、流石に運営としては見過ごすことが難しくなり、昨日の今日で呼び出しを受けた。というわけである。


「配信中のネタであることを考慮しても、案件で紹介するゲームをアンインストールしよう。という発言は軽率でしたね」

「仰る通りです……」

「幸い、向こうの担当者は気にしていないどころか何故か喜んでいたので大事には至っていませんが、今後は案件中の発言には充分気を付けてください」


 プチ炎上、といっても問題視されているのは「企業の人間が案件配信でアンインストールしよう」と発言した点であり、結局それで騒いでいるのも殆どは男性VTuberアンチであったり、生粋のVTuberアンチたちだ。彼らは叩けるネタがあればそれがなんであれ、すぐさま飛びついて好き勝手言ってくる。

 一方、海外ファンやプレイヤーの間では「よく言った!」とユーザーの代弁として受け入れられていたり、公式もゴミ箱へゲームアイコンを捨ててもう一度拾い直すという画像でネタに乗っかったりとやりたい放題である。開発元が海外だからそういうジョークに寛容なんだろうか。

 ……まあ、そもそもわたしが案件をやるキッカケが、先方から謹慎明けの黒猫燦を代理として指名してきたから、だからある意味こういう展開は折り込み済みなのかもしれない。

 とはいえ、いくらウケていようが問題発言は問題発言である。


「私が今こうして注意をしているのは炎上したことや過激な発言をしたことに対してではありません。あくまでも案件中に紹介するモノへ軽率な発言をしたことに対しですので、その辺りは勘違いなさらないでください」


 九条さんは注意をしている間も決して視線を外すことがない。

 言葉と視線で、まるで鋭い矢に射られているような錯覚さえ覚えてしまう。


「過激な発言や行動が売りの配信者も世の中にはいますが、そういった人が企業案件でも重宝されるのは結局のところ配信外や案件中は真面目である、という取引先としての信頼が絶対条件です。裏表関係なく傍若無人でも重宝される、なんてよほどそれを差し引いても数字に直結する実績でもないとあり得ません」


 たしかに、知名度だけはあっても性格に難があって案件をしない活動者なんてたくさんいる。逆に配信中は暴言とかで過激でも、意外と街中やイベントで会うとファンサが良かったりスタッフウケが良かったり、身内やファンからバラされる善人エピソードが絶えない人はなんだかんだ案件をしているイメージだ。


「そして、皆さんが安定して案件を受けることが出来るのは、A of the Gという企業ブランドを信頼の担保にしているからです。例えば、今回は笑い話として終わったアンインストール発言ですが、何も知らない別企業が後からそれを見てしまい、あるてまには案件中でもPR商品を貶すVTuberがいるから仕事を頼むのは止めておこう、と考える可能性もあります」


 九条さんの言葉を受けてごくり、と隣から唾を飲み込む音が聞こえた。

 VTuberが絶賛したら一瞬で完売する商品があれば、VTuberが酷評したせいでレビューが荒らされるといった事態もある。案件先目線で言えば、仕事先は慎重に選びたいのが本音だろう。


「こういったことが積み重なると企業としてのブランド力が低下して信頼の担保がなくなり、いずれは案件を受けることが出来ない……、という未来もあるでしょう。ですから、案件中の自分の発言がどういった影響を及ぼすか、これだけはしっかりと覚えておいてください」


 わたしと旭くんは揃って頷いた。

 ……でもよく考えたら問題発言をしたのは旭くんなんだから、わたしは別に注意を受けなくてもよかったのでは?

 いや、その場に居合わせた連帯責任というか、後輩のサポートも先輩としての役目というか。そもそも九条さんは案件で軽率な発言をするなと企業人として当たり前の心構えを語っているのであって、別にわたしたちのどっちがどうとか、そういう風には考えていないんだろう。


「それと、今回は取引先と何か問題があって厳重注意をしたわけではなく、あくまでもまとめサイトが発端となった炎上なので特に謹慎などはありません。企業所属の配信者として、あくまでも形式上の注意です。今後は気を付けてくださいね」


 そこでようやく九条さんは表情を和らげた。

 生真面目な表情で考えていることが読み取りづらいと思っていたけど、こうしてスイッチが切り替わる瞬間を目の前にすると、意外と表情からその時の雰囲気は伝わるものなんだね。


「兎も角、黒猫さんは案件お疲れ様でした。急な代理で大変だったとは思いますがありがとうございます」

「いやぁー、色々やらかしてるのにお仕事貰えるだけありがたいんで大丈夫ですよぉ。だ、だから今回の件は水に流してくれるとぉ~、へ、へへへ」

「それとこれとは別問題ですので。感謝はしても問題は問題。黒猫さんに非はありませんが、私も運営側の人間なので締めるところはしっかりと締めさせていただきました」

「はい……。明日は我が身と思って気を付けます……」


 くそぉ、やっぱダメかぁ。

 まあ、九条さんって切り替えが早いというか、そういうところさっぱりしてるから後からほじくり返してネチネチ言ってきたりはしないだろう。……わたしが同じことを繰り返さない限りは。


 というか、こうして色々真摯に注意して活動の面倒を見てくれるだけ九条さんって優しいんだよね。

 だってマネージャーって仕事のサポートをしてくれる人であって、別に自分の母親でなければ生活の面倒を見てくれるパートナーでもない。

 極端な話、自分(マネージャー)の業務に支障が出なければ配信者に口出しは一切しないというスタンスの人だっている。……中には配信者が滞納した電気代を代わりに支払いに行ったり、保険料を滞納しすぎて役所まで一緒に行ったり、活動を超えて私生活の面倒まで見てくれるマネージャーもいるらしいけど、まあどっちにしろ極端な例だね。


「あの」


 と、そこで今回のプチ騒動の中心人物である旭くんが口を開いた。

 本来なら原因である旭くんのマネージャーが注意をするはずだが、彼のマネージャーは四期生三人をまとめて担当しているせいで色々と都合が付かなかったらしい。ほら、わたしたちへの注意って今朝急に生えてきた業務だから。

 あとマネージャー二人が揃ってお説教って物々しいから、一番マネージャー歴の長い九条さん一人に任せようというわたしたちへの配慮もある気がする。


「今回の軽率な発言、本当にすみませんでした」


 旭くんは立ち上がり、頭を深く下げて謝罪をした。

 普段はふざけている印象のある旭くんだが、やはり九条さんのお説教は身に沁みたようだ。まあ、デビューしてまだ数ヶ月だから企業所属の自覚とか言われても分からないだろうし、こういう失敗も経験だよね。ちなみにわたしは自覚していても未だに失敗の連続である。


「それで、あの」


 頭を上げた旭くんは視線を彷徨わせながら何かを言い淀む。

 そして、意を決したように、


「俺、VTuberやめようと思います」


 そう言った。……VTuber、なんですぐ引退しようとするの?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
引退はマジだったか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ