#162 貸し1
お昼にマネージャーから緊急の連絡が来た。
どうやら今夜案件配信を控えていた相葉京介が高熱で倒れてしまったので、その代役を探しているらしい。
いちおうこれでも直近の案件で盛大なやらかしをしているのにわたしで大丈夫かと尋ねたら、スケジュールが空いているライバー自体はわたし以外にも数人いるのだが、ジャンルがゲームということもあってある程度日頃からプレイしている人じゃないと厳しいということで、先方から直々に指名される形で代打候補になったらしい。
まあ、相葉京介には以前PCの案件配信でお世話になった過去があるので、先方も納得しているなら引き受けるのもやぶさかではない。
そんなわけで了承の返事をマネージャーに返し、普通に授業を受けて自宅に帰宅したらなんと相葉京介からチャットが来ていた。
そこには今回の謝罪とお礼が堅苦しい文章で綴られていた。こいつ、病人なのになにしてんだ……。
呆れながら「貸し1」と、以前の借りを棚に上げながら返信をすると、今度は通話が掛かってきた。おいおい、本当にこいつ大丈夫か。
病人は寝てろってことで無視をしても良かったのだが、通話に出ないと一生掛かり続ける予感がしたわたしは仕方なく通話に出ることにした。
「はぁ……、もしもし?」
「ゲホッ、ゴホッ。すまん黒猫……。案件なのに当日に代わりを頼むなんて……ゴホゴホっ」
「あーあーもうわかったから大丈夫だから! ほら、しんどいなら寝てなって。じゃ、おやすみ~」
案の定、息も絶え絶えといった様子の相葉京介を見兼ねて、わたしは一方的に通話を切断した。あのままだと熱に浮かされながら一生謝罪してたでしょ、あの人。
責任感が強いのは立派だと思うけど、風邪のときくらいは安静にしていればいいのに。
まあ、そういう自分を犠牲にしてまで相手のために無理をしてしまうのが彼の良いところであり、悪いところでもあるんだろう。だったら最初から風邪を引くなという話である。
今の彼に出来ることはしっかり寝て早く治して、リスナーや運営さんに元気な姿を見せることなんだからさ。
そんなこんなで案件配信をすることになったわたしだが、今回の案件はもともと相葉京介と旭くんの二人でやる予定のものだったらしい。
だから事前に用意していた資料や簡単な台本を少し改変して、主な説明は旭くんが担当。代打のわたしはリアクションと相槌だけしていればとりあえずは大丈夫だとマネージャーから言われた。
だったら旭くん一人でもいいじゃん……とは思うものの、どうやら今回の配信は最近流行りのFPSゲームに搭載された新モード、DUOをプレイするためにどうしてもライバーが二人必要とのこと。
わたし自身ゲームはある程度遊ぶとはいえ、その殆どがコマンド制のRPGやシミュレーションゲーム、そして流行りのソシャゲだから、正直FPSゲームは苦手なんだよなぁ……。
どれくらい苦手かというと、PCの案件配信で性能アピールのためにFPSをやってみたら全然勝てなくて、ブチギレながら案件にも関わらず暇そうにしていた相葉京介と我王を配信に呼び出してキャリーしてもらったくらい苦手だ。ちなみに相葉京介への借りとはこのことだ。
というか、相葉京介ってプロレベルにゲームが上手いのにFPSド下手くそのわたしが代わりに案件して良いんだろうか。
【悲報】黒猫燦、ゲーム案件であまりの下手くそプレイに炎上! とかまとめられない?
まあ、でも他に出来る人がいなくてわたしにしか出来ないというのなら、せめて精一杯頑張ろうと思う。その上で下手なのは許してほしいね。




