荒ぶる、お姉さん
魔物に殺される直前、僕は救われた。
「獣機」と呼んだ光輝くキカイと、キレイで辛口なお姉さんに。
荒ぶるお姉さんが、ほぼ全ての魔物を片付けるのに
そう時間はかからなかった。
「ガシュ!ドシャ!」「ブオォォォン!」
2つの大きな光が、うなりをあげて蹴散らす。
「ヒュウウン…カンッ!ズバッザシュ!」
1つの小さな光は、お姉さんを守りながら魔物を切り裂く。
圧倒的な強さ。
実は魔物って弱いんじゃないか?
自分でも勝てるんじゃないかと錯覚する。
錯覚した。「でやああああッ!」
僕は弱った魔物に近くにあった角材を振り上げる。
「バキッ!」
僕の渾身の一撃ッ!
「…折れたッ!?」
やはり魔物の方が強かった。
「グワアアッ!」「うわああ!?」
「ヒュン…バシュンッ!」 襲ってきた魔物に光の筋が入る。
「グガアッ!?」 目の前で死滅する魔物。
お姉さんに怒鳴られる。
「君、邪魔!怯えたり戦ったり!ドッチなの!?」
「怯えます…。」
我ながら情けない答えを返す僕。
「ブオオーーン!ドガガガッ!」キカイのアームがぶん回される。
魔物のリーダー以外、全て一掃された。
「…そんなバカな。」つぶやく魔物。
「だらしない子分たちね。」強気なお姉さん。
「黙れぇ!ゼィロ軍、十二使の一人「イノシィ」様がお前を殺すぅぅ!」
イノシィと名乗った魔物は興奮状態。
「ヌオオオオオオオッ!」
お姉さんに向かって激しく突進する。
「ヒュイイイン…。」
「幾つもの未来と、命を奪ったお前に手向けの花束を。」
お姉さんの右手が更に輝き出す。
「粉・砕。」
「ギュルルルッ!ガシュ!バシュ!ザシュン!」
けたたましい音をあげ、光がイノシィを切り刻む。
「ギヤアアアアアアアアアアアアッ!!」
イノシィは花びらが舞う様に、木っ端みじんになった。
たったお姉さん一人で、あの魔物たちを倒してしまったのだ。
お姉さんの右手の輝きが消え、
それと同時に獣機と呼ばれたキカイも消える。
「ふぅ」と一息つき、表情が和んだ様にみえた。
その姿はやはりキレイで見とれてしまった。
お姉さんがコッチの視線に気付く。
「何か?」
「あ!?あ、あ~…ありがとうございました。」
慌ててお礼を言う僕。
「村、残念だったわね。」
「はい…これからどうしたら…。」
「決まってるでしょ、生きるのよ。」
「どうやって?」
「あのね…。」
お姉さんが真剣なまなざしで言う。
「「どうしたら?」とか「どうやって?」とか質問はいいけど、
自分で考えて決めなさい。
君は生きなきゃいけない。
生き残ったのは、たまたまの運。
でもこの村の人の事を覚えていてあげられるのは君でしょ。」
はっとした。そうだと思った。
お姉さんは続ける。
「まだ君は小さい。だから大きくなれるでしょ?
生きて強くなりなさい。」
辛口だと思ったお姉さんの言葉は、優しかった。
「じゃ。」
「え!?どこ行くのッ!」
「アタシにはやる事いっぱいあるの。」歩み出すお姉さん。
僕は聞く。
「お姉さんッ!名前は!」
「…アルビナ。」
お姉さんは軽くはにかみ答え、背を向けた。
この人が命の恩人、そして希望をくれたんだ。
アルビナが遠くなっていく。
「待ってよ!」必死で追いかけた。
離れたくないと思った。
何故か、とても、とても強く思って走っていた…。
これが僕とアルビナとの出会いだったんだ。