第1部 1.神族の世界学
まずここで神族について読者の皆さんはしっかり知っているだろうか。殆どの方がはっきりとは知らないだろう。神族には大きく2通りあり神族以外の種族が上位種への進化の結果として到達する場合と神族が子をもうけたときに子が生まれながらに神族である時もある。ただし後者の時にはあくまで神族である場合が多いだけであり,そうでない場合もあることを忘れてはならない。一部では神族の両親が神族として生まれなかった子供を捨てるという悲劇も起きているのもまた事実である。神族が他の種族と比べ特別視される理由は,神族の生物としての能力の高さや5柱の創造神の子孫である五大神族はこの世界群の生物で唯一マグナ・プリモディアルを祖先としていないこと,央界にのみ存在していたことにある。
この草創期の神族は殆どが五大神族であったため,尚更他種族に対する差別意識が強くそれが学問的思想にも反映されている。ただし,この頃には神族も異世界への渡航技術はなく世界学は未だに思考実験の段階であったし,世界群の誕生過程の全容や構造については5柱の創造神すらも認知していなかった。
◯草創期神族の世界学
草創期の神族の世界学の特徴は「神族至上主義」と「多世界構造説」の2つである。この2つは,この後も神族の世界学に長らく残る思想である。またこの草創期の段階で多世界の存在を想定していたのは神族のみであり,これは創造神の存在が大きいだろう。
◯草創期神族の主な世界学者
〈フォメラス 8942507〜9800650〉
グラーシャ神族の有力者の子とされる。生まれつき盲目として生まれるがその文才が認められ,グラーシャ神族の長ツェルスの子アティナに学び世界の誕生についてツェルスに問う機会を得たとされる。学問的な世界学とは違うが,その作品には後の世界学につながる思想が見て取れる。ただし神族至上主義的ではない世界観であり草創期の神族としては非常に珍しい。主な著作としてツェルスから伝聞した世界の誕生を叙事詩としてまとめた『創造記』,世界の広がりを夢想した『異界』などがある。
〈ヘロドロス 9573475〜10575437〉
グラーシャ神族の歴史学者。父親の殺人の罪の連座で若くして集落を追放されたが,50万年間の追放の間にローム神族,アーツ神族の集落に滞在しそこで得た知見をもとに世界誕生からのグラーシャ,ローム,アーツの3つの神族の歴史を列伝体綴った世界最古の歴史書である主著『歴史』を書き上げ3つの神族の長へと献上し,それと同時に3つの神族それぞれに教育機関の設置を提案した。この提案は受け入れられ現在にもその系譜を遺す3大学校【グラーシャ大学校】【ユパイテル学園】【アーツ学院】が設立された。
〈ピュータゴラース 10235409〜11740089〉
グラーシャ神族の哲学者,魔術学者,世界学者。グラーシャ神族の集落サマスの出身。グラーシャ大学校にて学び当時として最高峰の学問を学ぶ。卒業後は哲学を好んで研究しその過程で当時主流の魔術体系であった精霊魔術とは全く異なる魔術《数秘術》を発見しその魔術書『数理の魔術』を発表した。このような魔術については別冊『魔術大全』にまとめる。ピュータゴラースは哲学の中で数学的な世界観に基づく世界学を研究した。このピュータゴラースの創始した数学的な理解と神秘主義的な思想が特徴の世界学は【ロゴスミステリア派】と呼ばれ現在でも【ロゴスの灯】などの研究会がある。
〈ポリュビオス 10219075〜11408976〉
ローム神族の歴史学者,世界学者。グラーシャ神族の母親とローム神族の父親の間に生まれた。ローム神族の集落で暮らしユパイテル学園で学ぶ。創造神の誕生以来の歴史を研究・記録し『神族史』を遺す。また神族の他の種族に対する優位性を説き「広き世界は神族の庭,遍く種族は神族の隷」という一文で知られる『種族論』を発表した。神族至上主義的な思想は多くの神族に好まれた。
〈プラント 11206548〜12975409〉
グラーシャ神族の思想家,世界学者。グラーシャ神族の名家イディア家に生まれグラーシャ大学校で哲学を学ぶ。その後同学で教授として迎えられ長く教鞭を執る。著名な教え子にはアリストリテネス,アレスタファレス,テルギリウスなどがいる。自らは哲学者としては【プラント派】を大成し『存在と認識』などを書き上げた。また,世界学者としては草創期神族の世界学の本格的な始まりともいえる神族の優位性と多世界構造について触れた『世界学』を書き上げた。
〈アリストリテネス 12306795〜14000890〉
グラーシャ神族の思想家,世界学者,魔術学者。プラントの弟子として哲学・世界学の研究に尽力した。プラントの世界学をさらに発展させ多世界構造をより詳細に分析した『異世界誌』を書き,その中で異世界への渡航が可能であるとした【アリストリテネス渡航予想】は多くの者の期待をふくらませ神族に留まらずその後の世界学の発展に貢献した。
◯草創期の神族の世界学重要事項
【ロゴスミステリア派】
ピュータゴラースの創始した世界学の学説の一派。世界の全ては単純な数式で表現可能と考えその単純な数式を神秘として崇拝する。この学派に所属する者の殆どが数秘術を主な魔術として使うが,数秘術を使うものが必ずしもこの学派とは限らないことには注意しなければならない。現在でも残る学派である。
【アリストリテネス渡航予想】
アリストリテネスが『異世界誌』で示した世界間の境界【界壁】を通過することが可能であることの予想。央界に存在する創造神の持つ生体エネルギーが放出するエネルギーより小さいことから,そのエネルギーが央界外に発散しているという仮定を建てそこから飛躍させこの予想に至った。観測できるエネルギーが部分的である,エネルギーと物質の違いに触れていないなど時代故の拙さはあるが,多くの者に夢を与え世界学の発展に大きく寄与したと言ってよいだろう。理論としてはタカギ=ヒデキが証明し,その後メルトアが実際に渡航に成功した。




