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魔王と竜王  作者: ナウ
一章・アンデッド戦争
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【温泉とシルティア】

ルーネメシスはあちこちの地中から温泉が湧き出している

それ故に温泉の里と呼ばれ、露天風呂や大衆浴場に利用され各地からエルフが多く訪れる場所だ。


そもそもエルフは非常に綺麗好きで、毎日欠かさずお風呂に入る。

そういった民族性だから、お風呂の種類も多い。


浴槽にお湯を張った普通のお風呂は当たり前で、薬草をお湯に溶かした香る薬湯や熱気で汗を出すお風呂、泡が噴射して体にボコボコ当たるお風呂、体がビリビリするお風呂など各種発達した。

浴槽のタイプも様々で大人数が入れる程の大きさのモノもあれば、一人で浸かるタイプもあったり、立ったまま入れる程の深さのお風呂もある。


シルティアは子供の頃は水のお風呂が一番だと思っていたが、香りを楽しめる薬のお風呂を知った時それが一番のお気に入りになった。


12年前、エルフの女王の就任式に竜族が呼ばれた時シルティアの母がエルフのお風呂の多様さに驚きそれを大層気に入った。

帰国してからそれまで水とお湯を張っただけのお風呂しかなかった竜界にも快適な多種のお風呂を取り入れた事により竜族もまた大のお風呂好きになったという経緯がある。


ただ、エルフ族と竜族の違いはある。

エルフ族は個室の風呂に入るのを好むのに対して竜族は大浴場で皆と一緒に入る事を好む。

エルフ族は男女混浴は一部を除いて基本的に禁止されているのに対して、竜族は基本的に男女混浴である。

竜族は好きではない異性の裸を見ても欲情など一切しないため分ける必要がないが、エルフは違う。



ポチャンッ


指先から零れる一滴の玉が水面に触れ波紋を広げる。


ルーネメシスにある混浴が可能な露天風呂は2つ。

『愉快な湯』と『恋人たちの癒やし』

ネーミングはアレだが至って普通にある露天風呂である。

『愉快な湯』は大昔にエルフの若者達が温泉に入りながら酒を飲み歌い愉快に騒いだという由来から来ているらしい。

『恋人たちの癒やし』は大昔にエルフの男女が温泉に入りながら性行為をしていた場所として伝わっている。


現在は入りに来るエルフは殆どいない。

たまに温泉好きが各地にある温泉制覇のために来るぐらいだそうだが管理は行き届いている。


シルティアは『恋人たちの癒やし』に浸かりながら波紋を作って遊んでみる。

ノートンと来たいのだが、やはり恥ずかしいらしく一緒に来る事はない。

もっとも、あからさまな由来の場所に来たがるエルフはそうそういないだろうが・・・。



「宜しいですか?」


声を掛けられたシルティアは「どうぞ~」と返す


気配はしていたので驚く事はないが、入りにくるモノ好きさんは他にもいたようで・・・。


見ると身体を洗い終わったエルフの女性がそろりと湯に足を浸け半身まで浸かり此方に近寄ってくる。


「こんにちは」


その女性はシルティアに挨拶をし肩まで湯に浸かる。


「こんにちは」


シルティアも挨拶をする。



・・・・・・


暫く無言でお湯を楽しむ二人。


やがて女性がシルティアに話しかけた。


「失礼ですけれど、エルフの方ではないですよね?」


「そうですよ~、竜族です」


シルティアがあっけらかんと言う。


「り・・・竜!?、竜の方なんですか?」


「そうですよ~」


驚いた面持ちの女性にシルティアが答える。



・・・・・


暫く沈黙していた2人だが女性が再び口を開いた。


「ご旅行か何かですか?」


「温泉目的と好きな人を守るために来ました」


「なるほど、温泉は気持ちいいですよね~

・・・好きな人がこの里にいらっしゃるのですか?」


「はい」


「魔王軍が攻めてきている物騒なご時世ですからね、恋人さんですか?」


「ん~、今の所は友達以上恋人未満ですね~」


「あはは、そうなんですか」


「はい」


「でも心配でしょ?

ルービアンカではエルフの男性が大勢亡くなられたようですし、戦争は終わっていないからこのルーネメシスにも魔王軍が攻めてくるかも知れませんし」


「ん~・・・私が守るから大丈夫ですよ~」


「ああ、竜族の方ですものね

魔王軍を恐れないのですね」


「ですね~、もしこのルーネメシスを戦火に巻き込むようならただでは済ませないと思っています」


セルティアはにこやかな顔で冗談混じりの言葉を言った。

しかしシルティアのその言葉に女性の顔が一瞬強張る。


「なるほど、心強いですね~

では私はそろそろ上がりますね」


女性は立ち上がり湯から出ようと後ろを向く。

その後ろ姿を見ながらシルティアは言った。


「そう上にお伝え下さいませ、魔界の方」


「・・・・承りました」


女性は振り返り一礼する。

と同時に濃い湯煙が一気に立ち上り女性の体を包み・・・

その煙が目と鼻の先にいる筈の女性の姿を完全に見えなくさせる。

暫くして濃かった煙が薄くなりうっすらと遠くが見え始めた時にはもう女性の姿はなかった。


シルティアに幻術は聞かない。

いくらエルフの女性に姿を変えても竜に与えられた特殊な視覚と嗅覚は相手がエルフではない事を見抜く。



「ん~」


シルティアは手足を伸ばし気持ちよくぽかぽかを更に楽しむ。


しかし


うつら・・・うつら・・・


「・・だめだ、このままだと寝てしまいそうだ・・

うーん・・・」


眠たいながら考える。


寝るなら一度でいいからノートンに膝枕されて寝たいなぁ・・・

ノートンの膝の感触

好きなノートンの体の匂い

片方の手で髪を撫でられながら

片方の手で脇腹の辺りに手を添えてもらう・・・

ものすごく安心して寝られそうな・・・

いや・・・多分興奮して寝られなさそうな・・・

そしてお休みのキスをして・・・・

そして・・・そして・・・


「なんてね!!、なんてね!!」


バシャバシャと湯面を叩きながら、きゃ~!!と叫ぶ。


「・・・・いけない、いけない

どうも最近変だ、もの凄く妄想が入ってしまう」


・・・・・


「さ、か~えろ」


ひとしきりニヤケたシルティアはザバンとお湯から上がり置いていたバスタオルで身体を拭く。


服は・・・盗られずにあった。

うんと頷く。

やはり昔の、あの思い出はシルティアの中で特別な出来事なのだ。

そしてあの時あの場所で奇跡的に出会ったノートンはシルティアの中で誰にも変える事が出来ない特別な存在なのだ。




体中の震えが収まってきた。

へたり込んでいた女は落ち着いてきたため深呼吸を三回ほどし、まだ力が入らない足をガクガクさせながらも何とか立ち上がる


そして流していた涙をハンカチで拭う。


ファサッ・・・

ショールを肩から掛けマリージュは温泉の方向を振り返った。


竜の女性の匂い・・・

あの甘い匂いを嗅いだマリージュは脳を突き刺されたような感覚を受けた

あんな・・・

あんな凶暴な荒れ狂う匂いを嗅いだのは生まれて初めてであり、あんな匂いがこの世に存在する事を想像もしていなかった。

僅かな時間同じ空間にいただけで壊されそうになるあの香り。


「あれは・・・あれは駄目・・・」


喋っている時は平静を何とか保てていた・・・

いえ、保てているフリをしていただけ・・・

まだ手は少し震えている・・・

もう一度深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる


「大丈夫・・・大丈夫よ・・・」


怖くない・・・そう、恐れはない

いや、ある・・・あれに身を委ねれば・・・

自分の全てがあの竜の女性に支配されてしまう・・・


目を閉じマリージュは考えないようにした。

あの香りを思い出しただけでまた体が震えてきそうだ。


再び深呼吸をし弱った体を引きずるように弱々しく浮く。

辺りは既に黄昏時・・・。


「お兄様・・・助けて・・・」


涙がまた出て頬を伝う。


「お兄様・・・わ・・・私は・・・」


マリージュは目を閉じ、そして静かに飛び去った。





黄昏時は終わり闇が辺りを完全に包む頃・・・

アリントンの家ではガルボが来ていた。


ルーエルシオンを出発したエルフ軍は約1万5000人。

ルーアクシウムに向けて行軍中。

そして何とエルフの女王メリーカ自らが率いている・・・という情報をノートン達に聞かせるためである。


「じ・・・女王様自ら?」


驚くノートンにガルボは答える。


「そう、女性達の代表として女王様自らが出陣なさった

途中途中で里の守りに割り当てられている防衛隊の一部が女王様を守れ!!っていう感じで加わって軍は2万程まで膨れ上がっているって噂だ」


「に・・・2万か・・・」


ノートンは驚きの顔を父のアリントンに向ける。


「女王様も男だけに戦わせる責を感じておられるのだろうな・・・」


アリントンはノートンの顔を見て呟いた。


「それでガルボ、もう立つのか?」


ノートンの言葉にガルボは胸を張って答える。


「ああ、ルーアクシウムには家族も避難しているからな

女王様も来られるなら尚更行かないと」


「俺も行ければいいんだが・・・」


「お前はここに残って親父さんを助けてやらないと

魔王軍がこっちにも攻めてくる可能性は高いからな」


「だな・・・」


ノートンの落胆の様子にガルボが励ます。


何せ女王様を直に見るチャンスはそうそうないし、女王様の下で戦う機会など多分もうないだろう。

何より女王様の危機に馳せ参じないのは駄目ではないかという焦燥感がある。


そんなノートンの気持ちはガルボも痛いほど分かるのだ。


「親父さんもそうだが、シルティアちゃんも守ってあげないとな」


シルティアの名前を出されて渋々頷く。


「分かった・・死ねなよ、ガルボ!」


手を差し出すノートンにガルボは手をがっしりと握る。


「俺は大丈夫だ、俺にはドラゴンの加護が付いている

またドラゴンが助けに来てくれるかも知れないしな」


「・・・・だな」


2人が握手を交わしている時に玄関のドアが開きシルティアが温泉から帰ってきた。


あれ?、何の話?・・・・という表情で3人を見渡し小首をかしげ微笑む。

その動作が可笑しくて笑い出す男三人。


決戦は間近に迫っていた。

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