【反乱鎮圧軍】
リゴーシュ攻略に成功したガルアーク将軍は国王一家をダークエクセナルに送った。
予定通り全てが順調だ。
しかし浮かれてばかりもいられない。
リゴーシュ国は降伏文書を送って降伏してきた国である。
そもそもダークエクセナルの次なる標的は西方最大と言われるライオネル大国だった。
しかし、リゴーシュ国王の『錯乱』によりリゴーシュはダークエクセナルに宣戦布告。
それにより対ライオネルから対リゴーシュに変更を余儀なくされたダークエクセナルは、その分の余計な手間と時間を取らされる事になる。
本当に無駄な時間だ。
取りあえずリゴーシュの貴族達により国王一家は更迭され、身柄はガルアーク将軍に渡された。
そして無血でリゴーシュはダークエクセナルに下った。
それは事前に行っていた打ち合わせの通りではあったが、ガルアークが驚いたのはダークエクセナル軍が都に入った際に民が拍手喝采で迎えた事だ。
民の不満が高い事は知っていたが、これ程までとは思わなかった。
もっとも、あの国王では民も貴族も不満しか溜まらないだろう事は想像に難くないが。
そして入城し、リゴーシュ貴族達との細かな調整を数日行っていた最中異変が起こった。
「ライオネルが?」
部下の言葉にガルアークは唸る。
異変と言ってもリゴーシュ国内の話ではない。
隣国のライオネル王国の異変である。
都で何かが起こったらしい・・という情報。
それが何かは分からない。
ただ、聞こえてくる情報では都で何かが起こり、一部の都民が近くの街や村に逃げた・・という話。
「何だ一体?」
ガルアーク将軍は顎に手をやり部下を見渡す。
「畏れながら・・」
参謀のブーバックが口を開く。
「ライオネルの都で何かが起こったのは明白です
ライオネルに侵入していたヘルハウンド部隊の魔物使い達も異変を察知してこちらに戻っております」
ブーバックの言葉にガルアークは口を尖らせる。
「そうか、ならば都に偵察隊を送れ」
「はい」
ガルアークのその指示の下、急遽偵察隊の選別が行われ選ばれた者達は出発の準備を急ぐ。
そうした最中、ダークイートからの使者がやって来た。
「なにぃ!!」
使者が携えてきた文を見てガルアークは唸る。
その書状にはダークビイールとダークソーニナに反乱が起こった事が記され、ターリィナ自らが1100の兵と300のヘルハウンド部隊を率いてダークビイールに行った事が書かれていたからだ。
「ば・・馬鹿な・・」
ガルアークは愕然とする。
総督自らが僅か1000ちょっとの兵で反乱鎮圧に向かったなどと・・・。
反乱鎮圧に兵を差し向けたのは良い。
しかし総督自らとなれば総督の身に危険が及ぶ可能性は非常に高い。
もしターリィナの身に何かあれば・・と考える。
本国の対応、取り分け魔王様が激怒されるのは火を見るより明らかだ。
そうなれば自身の立場は危うい。
「これはマズい・・・」
書状から目を離し、顔を上げたガルアークは部下に命ずる。
即座に3000の兵をダークビイールに向けて出発させよと。
本来ならもっと多くの兵をダークビイールに向かわせたい所だが、ライオネルと睨み合っている状況では如何ともしがたい。
何よりライオネルに異変ありならば尚更身動きが取れない。
「・・・不快だな」
ライオネルの謎の異変も各地の反乱もはガルアークを苛立たせる。
「・・・ん、そう言えば」
ガルアークはフト思い出した。
その呟きに参謀長ブーバックは目を将軍に向けた。
「何か?」
「いや、失念していた」
「失念?、何をですか?」
「いや、マイギーナがライオネルの都に行っていた事をだ」
「マイギーナ?、ああ・・あの赤髪の・・」
「うむ、都の異変・・関係ないとは思うが・・」
「まぁ、何にせよ偵察隊の潜入調査で明らかになりましょう
ひょっとするとマイギーナ殿も都を離れ、此方に向かっているかダークイートに戻っているかも知れませんし」
参謀長の言葉にガルアークは頷く。
「そうだな・・・」
そう言いながらもガルアークは何か悪い予感がして仕方がなかった。
ダークビイールの反乱首謀者はシダンダードとネプロガンと言う。
どちらも冒険者稼業であり、シダンダードは先の山賊討伐戦において冒険者達を引き連れ戦ったリーダーだ。
僅か1000ちょいの軍ではあったが、ターリィナ自らが指揮を取っている事で兵の士気はいやが上にも高まった。
一方の反乱軍は士気も低く、意気込んでいたのは首謀者達だけという状況であり違いは段違いだ。
将軍の心配を余所にリゴーシュからの軍が到着する前にダークビイールの反乱をあっさりと鎮圧した。
そしてターリィナは反乱首謀者を捕らえる事に成功した。
とは言えシダンダードは捕まえる前に自害して果てた為その死体は近くに埋めたが、ネプロガンという魔法使いの老人は往生際が悪く、命乞いを始めた為にターリィナの怒りを買った。
ガオンやフォルティスはそんなネプロガンを拷問に掛け、引き出せる情報は全て引き出した上でヘルハウンドに生きたまま食わせるという残酷な刑を行った。
勿論、ターリィナの許可を得てである。
本来ならば拷問はターリィナの嫌う所だが、ダークソーニナの反乱との関連性を急速に知るには必要不可欠な事であったからだ。
そしてリゴーシュ攻略の結果も将軍からはまだ届いてはいない。
心配ないとは言え、やはり気になる所だ。
何よりもそれに伴うライオネルの動きも知りたい。
「面倒ですね」
そう溜め息をつきながら少々苛つくターリィナ。
首都ダークイートから離れている現状では何か起こった時に如何ともし難い。
それ故に素早い対応が求められ、迅速にダークイートに帰らねばならないからだ。
ちなみにネプロガンから得た情報は貴重なモノであった。
まず、即時抗戦派と抗戦慎重派が対立していた事だ。
抗戦慎重派とは「現状において戦っても勝ち目はないから反乱は時期尚早派」を掲げる派だ。
その一派のリーダーはアリーズンと言う男らしい。
一方、即時抗戦派はシダンダードとネプロガンであった。
結果は即時反乱派の壊滅を持って終わった。
シダンダードからすればまさか総督自らが前線に出てくるとは考えていなかったらしい。
そしてシダンダード達の誤算はターリィナの首を取れなかった事だ。
どういう事か?。
要は手薄になったダークイートの都に暗殺部隊を差し向け、ターリィナの首を取る作戦だったようだ。
「なるほど、ビイールとソーニナの反乱はダークイートを手薄にする為の罠であった・・と
ならばダークイートに急使を!」
その計画がネプロガンの口から出た時にターリィナはダークイートに向けて急使を送るよう命じる。
自分がいないとはいえ、イート城にて反乱軍の暗殺部隊と一戦があったであろう事の確認の為である。
それがどうなったのか?。
それが知りたい。
そしてダークソーニナの反乱。
これはやはり繋がっていた。
ただし、此方はアリーズンが止めに行ったとか何とかでネプロガンもその後は把握していないようだ。
「ダークソーニナにも急使を!」
ターリィナの命により、こちらも急使が飛ばされた。
ターリィナ自体は忘れていた事だが、アリーズンなる者はキマイラ到着時に邪魔をして多数の研究者を殺した人物の名前である。
それはウキャンが報告で言っていたのをフォルテスが覚えていた。
そしてフォルテスの言葉でターリィナもその名前を思い出した。
「なるほど、アリーズン・・アリーズンね」
「はい、ターリィナ様」
フォルテスの顔を見ながらターリィナは顎に手を置き、足を組む。
「何者ですか?」
「はい、ネプロガンの話ではハーフエルフのようです」
「ハーフエルフ?」
「はい」
「・・人間とエルフのハーフ・・でしょうか?」
「はい、そうのようです」
「・・・・・」
ターリィナは少し考え口を開く。
「ハーフエルフ・・ヒューマンエルフですね?
未だに人間界に留まっている者もいるのですね」
「はい、全てのヒューマンエルフがエルフ界に行った訳ではないと旅行記にも書いてありました」
フォルテスの語る旅行記とはノームが書き表したエルフ界旅行記の事である。
奇しくも魔界においても旅行記の本は出版されており、中流以上の層に人気を博していた。
ちなみにターリィナもまた愛読している。
エルフには興味があるからだ。
魔族に置いてもエルフ種は特別であり、一種の憧れの対象ともなっている。
そして20年前の戦争により、エルフは戦えば手強いという印象を持っていた。
「・・しかしヒューマンエルフが相手とは」
そのターリィナの言葉にフォルテスは答える。
「ご心配には及ばないと思われます」
「何故です?」
「は、ヒューマンエルフと言ってもエルフ界とは繋がっていないでしょう」
「ルーヒューマンシティやエルフ界は出てこないと?」
「は、そう思われます」
「なる程・・しかしだからと言ってエルフ種を侮ってはなりません、彼らは単独でも愚なる人間とは一線を画する存在です」
「はい、その点に関しましては確かに慎重に対処しなければなりません」
恭しく片膝を床に着き、淡々と喋るフォルテスにターリィナは物足りなさを感じた。
「フォルテス」
「は!!」
「近くへ」
ターリィナのやや高く発せられた声にフォルテスはやや表情を強ばらせ近づく。
手が届くまでの距離まで来た時、ターリィナはスゥッとした動作でその手を差し出す。
フォルテスはその手を取り、そしてその指先に軽く唇を当てた。
一方、ダークソーニナ地方における反乱鎮圧軍の攻撃は苛烈を極めた。。
ターリィナから「好きにしてよい」というお墨付きを貰った鎮圧軍は正規軍とオーガ軍に分かれ、街や村を攻撃した。
そして正規軍及びヘルハウンド部隊はリャテロの街に集まっていた反乱軍を一掃。
一掃後、それだけに留まらずリャテロの一般市民を若い女達以外全て虐殺した。
一方のオーガ軍が攻撃したミィネアの街は文字通り老若男女問わず虐殺し街は灰燼に帰した。
魔族の軍から構成されているリャテロと違ってオーガに取っては人間は食料としてしか認識しておらず、全て皆殺しである。
こうしてソーニナ王都の大虐殺に続き、ソーニナ国の大きな二つの街は壊滅した。
その中で一番喜んだのはザーバである。
ダークソーニナ地方の反乱軍掃討作戦に同行したザーバ。
その目的は骨だ。
数え切れない程の白骨死体が散らばる旧ソーニナの都。
骸骨使師としては是非ともスケルトンの一大軍団を作りたいという欲求がある。
王都に転がっている数多くの白骨を組み立て、スケルトン軍団を作ろうと考えたザーバはウキャンや骸骨戦士達を引き連れリャテロ攻撃に参加した。
その理由は骸骨戦士達の戦闘力を測る為だ。
それについては戦闘において反乱の指揮を執っていた冒険者連中を骸骨戦士があっさり片付ける戦果見せたため、その戦闘能力の高さにザーバは満足した
一方、一緒について来ていたウキャンの目的は反乱軍からアリーズンなる冒険者の情報を引き出す事だ。
そしてそれもあっさり達成された。
戦闘終了後、冒険者の捕虜からアリーズンの情報を少し訊き出せたのだ。
情報では今回の反乱には加わらず、むしろ決起を抑えようとしていたらしいハーフエルフの男とその仲間連中
しかし現在その所在地は分からず、それ以上の情報は得られなかった。
舌打ちしたウキャンだったがそれ以上はどうしようもない。
そんな折り、リャテロの街にダークイートから速達が寄せられた。
内容はダークビイートの反乱鎮圧成功及びガオン中隊100騎を率いてターリィナが鎮圧軍から先行し、ダークイートの都に戻る事。
そしてライオネル国の不穏な動きである。
「・・・ライオネルの不穏な動き?」
同行している鎮圧軍本体から知らされたザーバはウキャンに伝える為に現在寝泊まりしている家に向かった。
鎮圧軍自体はその目的を達成しているため、命令の通りこのままダークイートに帰るとの事。
しかし本来ダークソーニナの廃都に行く予定のザーバ達には関係のない話だ。
家に入ったザーバはウキャンがいる部屋に入る
入った部屋では二人の若い姉妹達が毛布を体に巻き部屋の隅でうずくまって泣いていた。
その光景には目もくれずに先程聞いた話をウキャンに伝える。
「ライオネルの動きは気になるが、予定通り廃都に行く
君はどうする?」
ザーバの言葉にウキャンは当然という顔で答えた。
「行くに決まってるじゃん」
「そうか」
「ああ、んじゃ準備するか」
そう言うとウキャンは上着を羽織った。




