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魔王と竜王  作者: ナウ
一章・アンデッド戦争
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【人間奴隷とエルフの死体】

「乾杯です、バルフェア様、マリージュ様」


チィンッ


ドルチェはグラスに注がれた赤い液体を飲む。

同じく液体を口にしたバルフェアは関心する。


「これは・・・実に濃厚な・・・」


「本当ですわね、とても美味しいです」


バルフェアの隣に座っている少女がうっとりとした表情で言う。


「お口に合ったようで何よりです」


ドルチェはこやかに笑む。


つい昨日ルービアンカに到着したドルチェ。

魔王軍第五の軍団長であり食屍鬼(グール)を束ねるリーダーでもある。


液体の正体は人間の血液であり、先ほど人間の女奴隷から採取したものだ。

同じ人間といっても血の味は実は様々である。

一概には言えないが、人間界で身分の違いによって血の味は変わり、身分の高い者程美味しい血液を持つ・・・と言われている。


この女奴隷はエウンジークという人間の国の貴族の娘だ。

いや、貴族の娘だった。

エウンジークは数年前、魔王軍が進攻し滅ぼしたからだ。

その際にエウンジークの女達は根こそぎ魔界に連れて行かれ、奴隷として売り飛ばされた。

当時の奴隷市場は活況を呈し、お祭り騒ぎだった。

魔界の中にも一応『奴隷階級』は存在する。

しかし奴隷階級とは言え制度が存在し、無茶な扱いは出来なかった。

だが、人間ならばそんな権利も発言力も存在しない。

そう言った意味で本当の『奴隷』である人間達は金持ちや上流階級層に飛ぶように売れた。



ドルチェの父は魔界で人間の飼育を始めたグールである。

人間界からちょこちょこ数人ほど人間を攫ってきては牧場で飼育するという経営。

その目的は食料確保の為だ。


食屍鬼(グール)は人の肉を食らい血を飲み物とする種であるが、昔と違って最近は人間達も武装して強くなり人間達を襲うグール側も命の危険が増した。

いつしかグール達は滅多に人間の肉を食べられなくなり、他の食料で細々と食い繋いでいくだけとなる。

やがてグール達は子を作らなくなり激減していった。

ドルチェが幼少の頃には既に絶滅危惧種扱いされていたモノだ。


元々グールは頭が賢くなく。

食べ物は狩る・・という単純思考しか持っていなかった。

そういう意味では食料が無ければ生産して増やせばいい・・・というドルチェの父ような思考を持つグールは突然変異体なのだろう。


ただ、そうした活動を始めたはいいが事は単純ではない。

あれこれ試行錯誤して苦悩していた父の姿を幼いドルチェは見てきていた。

だが細々とでも牧場経営は続けられドルチェも父と共に人間の飼育を手伝い、貧乏ながらも運営されていた牧場経営に最大の転機が訪れたのは数年前の事。


エウンジークの人間達が各地の奴隷市場で大量に売りに出された時に父は奴隷達を何人か買い付けた。

元々人間の新しい確保に苦心していたドルチェの父はこれが好機到来と考えたからだ。

牧場経営用として人間を買い付けた父。


所がドルチェは違う側面から奴隷買い付けを父に進言した。

言わば奴隷達の転売である。

最初は訝っていた父もドルチェの提案が金をもたらす事に即座に気づき、多額の借金をして大量に人間達を買い付けた。

女奴隷でも身分の高い、高そうな者達や美しい者たちを集中的に買い、高額で売り飛ばす。

それを繰り返した結果、一躍大金持ちの仲間入りになった。


父から始まった牧場経営は奴隷商への新たな事業展開を行い会社は大成功した。

ドルチェも今までみすぼらしい格好から一転成金趣味の格好に変わる。

金を持てば容姿が気になるのは当然の事だ。


そんなドルチェの今回の戦争参加は勿論エルフ確保が主目的である。

エルフを欲しがる魔族は結構いる。

かく言う魔王もその1人である。


エルフは一種のブランドであり憧れでもあるのだ。

そしてドルチェも最近はエルフの女を欲するようになってきた。

同族の喰屍女グーラーは貧相でみすぼらしい。

人間は所詮家畜であり食料に過ぎない。

だがエルフは違う。

ブランドであるエルフの女を手に入れる事によって、グールとエルフの混血ハーフが生まれグール族は新しく生まれ変わる。

知能は通常のグールよりも遥かに高く、容姿もまた通常のグールよりも優れたモノになるだろう。

今までと違った社会を築き、より洗練された種族に進化を遂げる・・と。

それが今のドルチェの野望である。






バルフェアやドルチェが血の乾杯をしている頃。


ロープに身を包んだ若い女は1人の部下と共にエルフの死体を眺めていた。


口元には二人ともデザインがそれぞれ異なる鉄製のマスクを着用している。


女の名前はリシープ

魔王軍第四の軍団長にして死体使いの軍団を統べる魔女だ。


「あは、エルフの男はいつまでも見ていても飽きないわ」


マスクを外し、微笑する。


これらの死体はルービアンカで戦死した男達である。

既に冷凍魔術で体は冷凍保存され専用の容器にて全身密閉されている。

勿論男達全員が容器に密閉されているわけではなく。

リシープが気に入るだろうと判断した男を先に来ていた部下達が選別し死体を綺麗にして冷凍保存した。

建物の外には多くの死体が並べられ防腐処理は施されているが死臭が漂うため、マスクは防毒マスクとしての役目を果たしている。


今、リシープがうっとりとした顔で見ている男は男前だ。

と言ってもエルフの男は大体端正な顔立ちをしていて不細工と呼べる者は殆どいない。

その中でも特に男前だという事だ。


「外の遺体は何体ぐらいあるの?」


「はい、凡そ500体程です

今だに全てを回収しておりませんし、全てを把握していません」


自分と同い年ぐらいの若い女が答える。


「そう、把握しているのは全て男?」


「・・・はい、男の方ばかり・・・です」


「・・・女は早々と避難した・・・という事ね

捕まりたくないから男達を見殺しにした・・か

最低ね」


「・・・・・」


部下の女は何も言わずただリシープの言葉を黙って聞いていた。


「見殺しにしたその男達に殺されなさい、非情の女達

で、オークの方はどう?」


「はい、土中に埋められていて腐敗が進んでいます」


「オークですら埋めて埋葬したのね

多分男達が穴を掘って埋めたんでしょう

エルフの男達は優しいわね」


「確認しましたが・・・・使えるのは300体程かと」


「分かった、取りあえず今だに探せていないエルフを探して

オークは使える分だけでいいよ」


「はい、畏まりました」



その部下の言葉を聞いて、リシープはパンッと手を叩く。


「はい、アトニーノ

今日の仕事は終わりよ、こっからは仕事抜きの話ね」


リシープが肩の力を抜いて深呼吸する。

アトニーノと呼ばれた女の部下も肩の力を抜いた。


「ねぇねぇ、ワグーのオッサンっていたじゃない?

あのオッサン絶対気持ち悪いよね~」


リシープの言葉にアトニーノが答える。


「気持ち悪いです

あいつスケルトン軍団最強とか言って威張ってたけど、エルフの女の下着大量に所有しているらしいですよ」


「まじ!?

やっぱりね~、うわ気持ち悪!!」


「ハゲでデブで顔面崩れてる爺ってオークより酷いですよ」


「だよね~

後さぁ、バルフェアにいつもくっついてるのいるじゃん」


「確かマリージュとかいう名前です」


「そそ、アイツ女の格好してるけど男だよね?」


「バルフェア伯爵が義弟と呼んでいたのを聞いた事があります・・・から多分男だと思います」


「女装趣味か~、変態だ~!!」


「本人ではなく伯爵の趣味の可能性もありますね」


「うへぇ~、だとしたらあの伯爵も最悪ね」


「気持ち悪いといえばドルチェですね

エルフの女が欲しいとか平気で言ってきますし、私にも色目使ってくるんですよ

女なら誰でもいいんじゃね~の、て感じです」


「うわ!!

女欲しい~って普通思ってても言わないじゃん

馬鹿じゃないの?、アイツ」


「明らかに馬鹿ですね

そんな言葉使って迫ったら女がやらせてくれると思ってるんですよ、きっと」


「人間を飼育してる奴でしょ?確か

やりたければ家畜とやっとけって感じ」


「本当にそう思います

こっち見るな!!・・・て感じです」


アトニーノの言葉を楽しみながらリシープは「あれ?」とした顔になる。


「そう言えばもう軍団長って、もう1人いなかった?」


「いますね、死体人形使師フレッシュゴーレムマスターゴドウィンです」


「会ってないんだけど」


「遅れているようです

話ではフレッシュゴーレムの移動に時間が掛かっているように言われているようですが・・・」


「ですが?」


「時間にルーズで、今回も単にだらけていて出発が遅れたのではとの専らの噂ですね」


「ロクな奴いないわね、魔王軍団長

まぁ、私が言うのも何だけど・・」


「・・・・・」


アトニーノは何も言わず空を見上げた。


周囲の死体も手伝って非常に空気が重い。

その圧迫感にアトニーノは息苦しくなる。

それはリシープも感じている事だ。


戦争の始まり。

その一点が心の重みに拍車を掛けている。


前哨戦は魔王軍の勝利に終わった。

しかしエルフ側もこのままで終わる筈はなく、中央聖都の軍が動き反撃してくるだろう。

本格的な戦いは直に始まる。

始まれば恐らく今回の比ではない犠牲が出るだろう。

それはエルフ側だけではなく、此方側でも当然の如くに。

今回は里攻略だった為、比較的楽に里を落とせた。

それでもかなり時間を食ったと言える。

一般のエルフ相手にすら手こずったのに、軍相手に戦えば魔王軍の戦死者はどれ程の数になろうか?。

それを考えれば気が重くなる。

その重い空気にアトニーノは溜め息をついた。

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