【魔王軍侵攻と12年ぶりの再会】
-アピス湖でのノートンと少女との出会いから12年-
エルフ界は突如魔王軍の侵攻を受け未曽有の危機に瀕していた。
ルービアンカの里はオークの攻撃を受けたがこれを退ける。
里に入る前にオークはエルフ達の弓矢の前に前衛の多くが倒れ、後衛は逃げ出した。
だがそれで終わりではなく、オーク軍団の敗北を受け魔王軍はスケルトンの軍団をルービアンカ攻撃に投入。
骨が剥き出しになった怪物どもは、錆びた剣や折れた剣・槍・斧を体格に応じてそれぞれ持ち鎧や盾を身につけ攻撃をかけてきた。
人型のなれの果てであり、見た者に恐怖を与えるその存在に里のエルフ達も恐怖した。
しかし怖れるだけでは里は守れない。
里のエルフ達は骸骨に対抗するべく剣を持って攻撃に撃って出た。
しかし剣の攻撃には長けていないエルフ達はスケルトンとの戦いに相当手こずり、1人また1人と倒れていく。
辺りが何も見えない闇夜の森。
里の近くに若い二人のエルフが剣を手に骸骨と戦っている。
「レックスの部隊は?」
「分からない、さっき散り散りになったままだ」
言いざまエルフの一人が剣を骸骨の眉間に叩きつける。
「こっちはやったが、まだいる
ノートン、そっちの一体は任せた」
「ああ・・・」
ノートンは骸骨を睨む。
あれから12年、ノートンは19歳になっていた。
かつての面影を残しながらも顔は大人っぽい顔つきになり、背も高く伸びある程度の筋肉も付いている。
だからと言ってスケルトンが怖くないかと言われれば怖い。
ノートンは骸骨に剣を向けじりじりとにじりよりながら隙を窺う。
骸骨もまた錆びた剣をノートンに向けゆっくり迫って来た。
エルフが剣を持って戦うのは珍しい。
本来は弓矢での狩りがエルフの専門である。
しかし骸骨には弓矢より剣の方が得策と考え、全部隊の男には剣を持って戦う指示が出された。
「得意ではないが・・仕方ない」
相対しているスケルトンが剣を振りかざしてくる。
ギィン!!!
剣と剣がぶつかり合った時、骸骨の剣はパキンと折れた
あれだけボロボロならば当然だ。
「ふんっ!!」
力任せに頭に剣を振り下ろす。
ぐしゃっ!!
鈍い音と共に頭蓋骨が脆く砕け散る。
やったという手応え。
しかし人型で良かった。
他の形状の異なる骸骨だと色々と厄介だったからだ。
「なぁ、ノートン・・・・」
別の骸骨と戦っていたもう一人のエルフが声をかけてくる。
「無事だったか」
ホットしたノートンをよそにもう1人のエルフが青い顔で続ける。
「取り囲まれた、絶対絶命だな・・・」
その声に周囲を見渡すと、林の奥から次々と骸骨が現れ二人を取り囲む。
「ああ・・・もう無理だなガルボ、年貢の納め時だ」
「だな」
言いながら剣を構える二人。
「栄光のエルフ族と女王の名にかけて最後まで戦い抜く!
それが我らエルフ族の誇り!!」
二人が声を揃えて誓いの言葉を口にし、恐らく自分達に取って最後になるだろう戦いに気力を奮い立たせた。
その時、ノートンの首にかけてあった水晶石が突然光り輝く。
「な・・・・なんだ?」
ノートンも横にいたガルボも突然の出来事に訳が分からず困惑した。
水晶石は更に輝きを増し、辺りを日中の様に明るくさせる。
この石はあの時・・・12年前に少女が竜界に帰る際に貰ったノートンの宝物であり、狩り等の危険に身を晒す際には必ず身に付けている御守りでもある。
12年前、エルフ界の都ルーエルシオンにて新女王メリーカの就任式が盛大に行われた。
エルフ界に縁ある国々の要人達も招待され、竜界の竜王一家も招待された。
それゆえにルーエルシオンの警備は厳重で物々しくもあり、退屈したまだ幼い王女は抜け出して他の地域に飛び回り遊んだりしていた。
王女の名はシルティア
アピス湖でノートンと会いゴブリンと対峙した少女である。
エルフ界滞在中、更に二度ほどルービアンカ村に遊びに来たシルティアとノートンは野を駆け回ったりして心ゆくまで遊んだ。
実はノートンはこの時はまだシルティアが王女である事を知らず、最終日前日になってシルティアから聞かされ驚いた。
水晶石のプレゼントもシルティアとのお揃いの品である。
チイィィィ・・・ンンン
水晶石の輝きと耳なりのように聞こえる微かに聞こえる音はピークに達する
その光は首に付けているノートンが目を開けていられない程に。
と、その時。
「見~つけた」
スケルトンとの戦いの場には明らかに場違いと思わせるほど静かで落ち着いた女性の声がノートンの耳元で囁くように聞こえた。
バサ!バサ!バサ!バサ!バサ!バサ!
突然木々が揺れる。
凄まじい突風が巻き起こり土も石も舞い上がる。
骸骨達も風で吹き飛ばされそうになっていた。
いや、中身のない骸骨どもは風で半分近くは吹き飛ばされている。
バァサ!バァサ!バァサ!バァサ!
この音と風は遥か頭上からきている。
何が起こっているのか理解は出来ていない二人だったが、引きつる顔で夜空を見上げた。
木々に邪魔されて見えにくい・・・
が、何か巨大な物体がノートン達のいる場所に降りてこようとしている。
音といい風の状態といい翼を持った鳥という感じを受けるが如何せん巨大すぎる。
だがノートンはこの異常事態に不思議な懐かしみを覚えた。
ずっと昔。
まだ幼い頃。
「そうだ、知っている・・前に似たような事が・・
そしてあの声・・・」
しかしノートンは首を振る。
「いや・・俺の知っている声じゃない
覚えている声・・覚えているあの子の声じゃない・・」
だが、ノートンの覚えている声は幼い女の子の頃の声である
あれから成長すれば当然声も多少なりとも変わる
「そうだ、確かに少し違う・・けれども多分同じ声だ
そう、俺はこの声の主を知っている!!・・でも・・まさか!?」
そう考えたノートンの考えに合わせるかのように水晶石の光は突然弱まる。
光の弱まりに今まで真昼のように明るかった周囲が、また闇に沈み込んだ。
ざりっ
砂を踏む音が近くに聞こえノートンとガルボは音がした方向を向く。
二人のエルフが見たのは・・
長身で透き通る程に美しい肌を持つ、美しいうら若き女性
手にはノートンが持っているのと同じ水晶石のペンダントを持っていて淡く光っている。
「久しぶりね、ノートン」
そして美女は微笑んだ。
エルフは森の民と呼ばれ。
自然や森林と共に生きる精霊界の住人である。
その精霊界の中の一つであるエルフの世界を魔王が精霊界攻略の最初の標的に定めたのは、エルフの女が美しいからだ。
男女共に長身で気品と知性を併せ持つとされるエルフ種。
魔族と呼ばれる魔界のデーモン種と容姿は同じく人型であり
子をなす機能はまったく同じである。
しかし、違いは勿論ある。
魔族の女は妖艶さと淫乱の性質を持つ、それに対してエルフの女は気品と純潔さが特徴とされる。
ハーレムを形成し魔族の女を侍らせていた魔王だったが、最近は少々飽きて食傷気味であった。
そんな魔王が目を付けたのが魔族の女とは性質の異なるエルフの女だ。
そしてそのエルフの女達を手に入れる為に魔王はエルフ界侵攻を開始した。
最初の軍はオークから構成される軍団を送り込む。
オークは豚のような顔と容姿を持つ巨漢の魔物である。
防具を着ける事ができ武器も振り回せる二足歩行のモンスター。
ある程度知能はあるし、命令にも従える使い勝手のよい使い捨ての兵だ。
ただ、戦闘能力はないのが玉に傷だが。
まぁ、初回はルービアンカの一部地域の街程度の規模の里の侵略のため、その地にいるエルフの女を半分ぐらい攫ってくればよい・・・程度の考えであったため、オーク程度でも十分に役目を果たせると踏んだ。
「残りはオークにくれてやるわ
奴らもタダ働きは嫌だろうからな
クククク・・・」
と魔王はほくそ笑む。
だがその作戦は失敗に終わる。
エルフが住むルービアンカ地方の里を攻撃する前に武装したエルフ軍によってオークは攻撃され、大半が矢によって倒れたからだ。
エルフの最も得意な戦闘スタイルは弓矢による射撃であり、森の地形を最大限に活かしたエルフの攻撃はオーク軍を壊滅させた。
僅かに生き残ったオークは命からがら逃げ出し魔界に帰ってきた。
当然魔王は激怒した。
今日にも噂に高い美しいエルフの女を見れると思って楽しみにしていたからだ。
「弓矢で応戦してくるなら今度はスケルトン軍団を出せ」
その一言でスケルトン軍団は現在エルフ界のルービアンカに侵攻中である。
「人間界のようにはいかんか」
苦笑する魔王に側にいた女が話し掛ける。
「うふふ、魔王様
楽しみは取っておいた方が良いこともありますわ」
1歳ぐらいの小さい女の子を抱きながら、ハーレム総管理者であるジーナは笑った。
「ねー、アリスちゃん」
ジーナの声にアリスと呼ばれた女の子はつられて笑う。
実は魔王軍侵攻はエルフ界だけではなく、先に人間界侵攻から始まっていた。
目的は同じく人間の女の確保。
人間界の東方に位置するアウランズ王国。
魔王軍の攻撃を受けた中の一つであるそのアウランズ王国は魔王軍の攻撃で既に落ち、王妃と王女は魔界に連れて来られていた。
アリスはその王妃と魔王との子供である。
人間界攻略は容易であった。
人間は愚かで能力も低い。
攻めれば容易く落とせる。
しかし精霊界は違う。
特にエルフ界は一筋縄ではいかない。
オーク軍団敗退でそれを感じた魔王は魔界の力を誇示すべく6つの軍団を動かす事にした。
その最初がスケルトン軍団である。
そう、エルフ侵攻は始まったばかりなのだ。