【ガルボとクレイモア】
ガルボが持ってきた両手剣。
この剣は温泉の里ルーネメシスの宝として里の美術館に飾られていたものだ。
飾られる事になった話・・・それはこうである。
ルーネメシスの温泉の評判はエルフ界だけでなくドワーフ界にも及んでいた。
当時は温泉旅行にネメシスまで来るドワーフも多かったのだ。
ある日1人のドワーフが温泉旅行を楽しんだが宿代が足りず自分が作ったという護身用に持っていた両手剣を宿代変わりに置いていった。
さぁ、エルフは困った。
綺麗な剣ではあるが、それを置いていかれてもどうにも出来ないからだ。
そもそもエルフは両手剣など使わないし、それに重くて使いこなせない、何より使いこなす気もないから持っていても何の役に立たないのだ。
売ろうにもこの剣の価値が分からないので取りあえず鑑定士に観てもらう。
すると、あらビックリ。
ドンバクの刻印が入っていて、ドンバクが作った一品であるという事が判明。
何と!!、あのドワーフはドンバクその人であったという事か!!・・・・と、驚くエルフ。
・・・所でドンバクって誰?。
・・・という流れから一応価値はかなりあるそうなので里の美術館に寄贈された。
その話には続きがあって現女王メリーカも噂を聞いて剣を見に訪れた事がある。
ドワーフ製の武器防具をこなよく愛するメリーカは食い入るように刀身を見、触り、侍従に手伝ってもらって剣を持ち上げてみたりしたという。
そして言われた言葉が
「素晴らしい、流石剣匠ドンバク殿の剣だ」
である。
女王様がお触りになり、かつ絶賛された両手剣という箔がつき、それが評判になり美術館にクレイモアを見にくるエルフが増えた。
展示されている説明文にはその事がデカデカと書いてあり、そしてついでにドンバク製である事も小さな文字でひっそりと書かれている。
その両手剣は里の宝にいつの間にか格上げされ、そして今に至る。
パシュッ! パシュッ! ピシュッ!!
まるで紙を切っているが如くに大ガラスの群れを鮮やかに斬っていくガルボを見てアルンが口を開ける。
「凄い切れ味だ・・・」
両手剣は重く、エルフの腕力では扱うのが難しいと言われている。
しかしガルボはまるで小刀を扱うかの如く軽々と扱っている・・・。
「この方は一体!?」
その時、ドゴォォォォォォン・・・という大きな音が轟いた。
「破城槌か!!、門が破られるのも時間の問題だな」
下を見たガルボは敵が門を攻撃しているのを見て叫ぶ。
「アルン、ここは任せた!!」
「え?、ガルボさんは?」
「門で奴らを迎え撃つ!!、そもそも俺はここの配置員じゃないしな」
そう言うとガルボは下に降りる階段に走っていく。
「え? え?・・・ああ、そう言えば昨日来たばかりとか言ってたな・・」
ガルボが抜けて戸惑うアルンだったが他の弓兵と共にこの配置場所で大ガラスと戦う事にする。
ガチャン!! ガチャン!!
「・・・・?」
何の音かと思って見れば壁のあちこちに梯子が掛けられ下の魔王軍兵士が梯子を登ってこちらに来ようとしている。
「う・・・嘘だろ・・・」
大ガラスとの戦闘で対応する事ができない。
何人かは下から上ってくる兵に矢を射かけたり梯子を外したりしているが、とても追いつかない。
カラスはまだまだ戦意旺盛で襲ってくるし、アルンの剣はカラスの血が付き最初の時に比べて切れ味が鈍ってきている。
「くそ!!」
アルンは大ガラスの翼をヤケクソになりながら剣で叩き斬った。
中央門に向かって走りながらガルボは不思議な感覚に囚われていた。
何で俺は両手剣を手足のように使いこなせているんだ?
・・・いや何で俺は両手剣を武器に選んだんだ?
「・・えーと、最初にルーネメシスでこの剣を見て・・」
いやいや、何でビアンカから逃げてきて怪我していた時に美術館に展示されてあるこれを見に行ったんだ?
「あれ?、何でだっけか?」
記憶を辿るが曖昧である。
ただ何となく・・・だ。
何となく導かれた・・・何となくこの剣を手に取り・・・
最初は持つだけで精一杯だった筈。
そうだ、結構重かった。
こんなモノを振り回す者はエルフには絶対いないよな~・・・とか考えていた筈。
エルフ製のショートソードは各世界にあるショートソードの中でも特に軽く出来ている。
長剣を持つにしても、魔法付与されて重量が軽くされている剣を扱うのが普通であり、されていない通常の重量の剣は使わない。
ただ、筋肉を鍛えれば別に使えない訳でない。
問題は大剣はスマートさに欠けるというエルフの価値観である。
細身や小剣はまだしも大剣は振り回すという印象が強く、それがエルフには受け付けない原因だ。
ただ現女王メリーカはエルフ離れしていて、より軽量で洗練されたデザインを追求したエルフ製の剣よりも、剛直で実戦的で重量系のドワーフ製の剣を好んだ。
実はメリーカは大剣や大槌や戦斧を振り回し叩きつけ敵を粉砕する戦闘スタイルに魅力を感じ、それを想像する事にある種の快感を感じている。
まぁ、それはメリーカしか知らない事だが。
「はぁはぁ・・はぁ・・」
中央門にたどり着いたガルボは息を切らせながらも、まだ門は破られていない事に安堵する。
外から門を壊そうとする魔王軍。
内から門を抑え破られるのを防ごうとするエルフ達。
深呼吸し額の汗を拭う。
いつの間にか大粒の汗が出るほど体を動かしていたようだ。
「上も無事だといいが・・・」
破られそうな門を見ながらガルボは呼吸を整えた。
ドゴォォォォォォン!!!
バキバキバキ、ピシッ!!
「破られるぞ!!、全員引け!!」
半壊した門を尚も押さえていたエルフ達に中央の門の守備隊長トレードが声を上げる。
門を押さえていた守備隊員達は門から離れ、弓を構えている弓兵隊の後ろに回り剣の柄に手をかけた。
ドガァァァァァァァ!!!
破城槌の攻撃でとうとう中央の門は破壊され門は開く。
「構え!!」
トレードは弓兵に叫び、弓兵は弦を引いた。
「最初に何が入って来る?、骸骨か?ただの兵か?」
弓兵の後ろで見ていたガルボもクレイモアの柄に手をかけ身構える。
「・・・?」
ドッと押し寄せて来るだろうと思っていたエルフ達の予想とは違って何も入ってこない。
「・・・いや違う、何か変だ」
ポッカリと開いた門の向こう側の景色。
本来なら見える風景が見えない。
門の向こうは薄い闇に覆われている。
それは薄い闇から濃い闇に変わりやがて真っ暗の闇に染まる。
「な・・・何だ!?」
エルフ達は門の向こう側を凝視する。
ピカッ!!
闇から出た光がエルフ達を照らす。
だがその光はエルフ達が知っている眩しい光ではなく闇の光であり、その光がエルフ達を照らした。
ズ・・ズズズ・・・
闇の光に照らされながらエルフ達が見たものは、門の闇の中から此方に入ってくるローブを深々と被った宙を浮く幽霊だ。
その幽霊はエルフ達を見渡し、くぐもった声を発する。
「お初にお目にかかる、我は幽鬼ダグバルド
魔王軍司令官、不死王ナーガイア様の右腕である」
ダグバルドの言葉にトレードが答える。
「私はルーアクシオン守備隊長のトレードだ、早速だが御引き取り願おうか」
「フフフ・・・トレード殿、女たちは城かな?」
「答える必要はない、お前たちはこの場で死ぬのだから」
「ククク・・・まぁ、貴公たちを片付けた後で探すとするかな」
「やってみよ、放て!!」
トレードの言葉に弓兵は一斉にダグバルドに向かって矢を放った。
バスバスバスバス!!
矢はダグバルドの身体に突き刺さる・・・が
ボロボロボロ・・・
ダグバルドに刺さった矢は崩れ去り地面に落ちる。
「む・・・放て!!」
もう一度トレードは言い二射目が放たれダグバルドの身体に刺さる・・・が、また矢は崩れ落ち地面に落ちた。
「フフフ・・・どうした?、守備隊長よ
そんな程度の攻撃では私は倒せんぞ?」
「矢が効かない?・・・まさか剣も効かないのか?」
トレードは苦い顔をして剣を抜き放つ。
「ハハハ・・・剣など抜いてどうする?、そんなオモチャでは私に傷一つ付けられぬわ
さて、ではお前たちに攻撃とはどういうモノなのかを教えてやらねばな」
そう言うとダグバルドは掌をエルフ達に向かって広げ呪文を詠唱する。
ズズ・・ズズズ・・・ズズズズズズズ・・・
ダグバルドの周囲に青い光が走り白い光の束が現れる。
その光の束は小さく分離し一個一個の小さな玉になっていく。
「あれはまさか・・・」
ハッとなりトレードは叫ぶ。
「鬼火だ!!、いかん・・避けろーーー!!」
「死ね、エルフども」
ダグバルドの手から放たれた光の玉は一つ一つが苦悩を浮かべ絶叫しているかのような人の表情を浮かべ、前衛にいる弓兵達に襲いかかる。
ボゥ・・・ボオォォォォォ!!!
ウィルオーウィスプにぶつかられた弓兵の着ている衣服が燃え上がる。
「うわわわーー!!!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁーー!!!」
「あつ!! 熱!! わがあぁぁぁーー!!」
着火した弓兵は衣服から髪に燃え移り火だるまになる。
それは周りにいたエルフ達にも燃え移り、火に包まれたエルフ達は転げ回った。
「け・・・消せ!! 消せーーー!!」
火だるまになっているエルフ達の火を消そうと必死に火をはたくエルフ達。
そしてダグバルドの次の攻撃に備え弓を構える者と剣を抜き身構える者達。
「ククク・・・脆いな、エルフの諸君
私一人でも諸君らを全滅させる事は出来るだろうが、私は面倒臭がりなのでね」
ダグバルドは手を高々と上げる。
ズズズズ・・ズズズズ・・・
それを合図に闇の中から全身ローブに包まれた兵が次々と出てくる。
「我等が兵である悪霊がお前達の相手をする」
手をエルフ達に向けてレイス部隊に命じた。
「かかれ」
その言葉を合図にレイス部隊は一斉にエルフ達に襲いかかった。