重くても運びましょう。
この店に来るお客さんの見た目は普通である。異世界というだけあって、服装、髪の色、目の色、身長、体型そこら辺は日本人と比べると異なってはいる。でも、外国のスーパーに行ったと思えば、そこまで違和感を感じるものではない見た目の方たちばかりである。
だが、決定的に違うのは彼らの思考経路である。それがここが異世界だ、と常に感じる部分である。
勿論であるが、異世界にスーパーはない。暮らしている人たちの食料をゲットの方法は行商の人たちから買う、自分たちで自給自足、市場で買うがほとんどである。異世界の市場の様子は外国の市場と似ていると思う。フルーツ大量、野菜大量の店が沢山並んで、量り売り、売っている人と仲良ければ、おまけしてもらえるし、値引きも交渉次第。だが、旬のものしか並ばず、常に同じ物があるとは限らない。買い物も出たとこ勝負感が強い。
そこに『でんっ!』と大きい近代的な建物が出来た。王家公認店舗という看板を掲げ、聞いたことのない名前の店。住民は興味半分、疑心半分で、この建物を見ていた。そして、入ってびっくりした。ありえない光景がそこには広がっていたからである。
「いらっしゃいませ。マーケットカードお持ちでしょうか? ありがとうございます」
「あの・・」
「はい?」
今日もまぁまぁ元気に綺夏は働いていた。何十人というお客様を通した所にそのお客様は来た。
「あの、000のビールを箱で欲しいのよ。でも重たいから、だれか外の荷台に付けてもらえないかしら」
・・・・・・はい!?頭の中に疑問が駆け巡る。綺夏は働いてまぁまぁ長いが、商品をすべて把握しているわけではない。しかもレジにカゴを持ってきた後に箱で欲しいといわれても、レジから離れることは出来ないし商品を持ってきてもらえない限りその商品を打つことはできない。そんな当たり前の常識がここでは通じないのが常である。困惑する。だが、ここはプロである。腕の見せ所である。
「今から別の人を呼びますので、その商品の所に案内してもらってもよろしいでしょうか?」
まずは000のビールの把握が最優先である。どんなビールなのかあたしは想像すらできていないのである。荷台に付ける方はなんとかなると踏んでいる。
「いいわよ~。重くてね~、運べないのよ~」
(自分で運べないものなら、買うな!)と心の中で思うがそこはスルー。異世界では箱売りというのは珍しいのである。そもそも缶ビール自体ない。スーパーオープン当初は缶の開け方を外で何度も説明したという話を人伝いに聞いたものだ。そんな感じなので、遠くから頑張って来て頑張って大量買いするために荷台を連れてくる非力な人も沢山いるのだ。そのフォローも私たちの仕事のうちである。あくまで店内の中だけの話ではあるが。よって、商品がどれかわかったならば運ぶくらい仕方ないからしましょう。
商品をサービスカウンターの人が持ってきてくれて、レジで通し、お会計を済ませる。その後第二のお仕事。荷台まで運ぶ人を呼ぶである。
「及川さん!!]
カゴの片づけをするおじさんを呼ぶ。事情を説明し、外まで運んでもらうよう、お願いする。これで常識外のお客様の対応終了である。
(はぁ~。大変で疲れた)
こんなことが意外にも毎日である。