天然な金井さん
一つ年上の金井さん。少しぽっちゃりの女の子である。仕事は出来る人。頼りになるし、文句はあたしからはない。主にサービスカウンター業務をしてもらっている。そんな彼女は天然である。
今日の仕事中、彼女の補佐としてサービスカウンターに入った。サービスカウンターの主な仕事は、商品の返品、割引忘れのご返金、電話対応、クレーム処理、宅配サービスの受付、商品の注文の橋渡し、従業員呼び出しなど、多岐にわたる。レジ係の休憩回しも仕事のうちでサービスカウンターの人がしっかりしていなければ、店が回らないといっても過言ではない。
そんな場所だが、金井さんは出来る人なので、心配はいらず、安心して任せておける。あたしは彼女に言われたことを忠実に守っておけばいいだけである。
いつもなら混雑がピークとなる夕方の時刻。本日の天気はあいにくの雨。よって、お客さんの入りも悪い。そういう所は、異世界だろうが、日本だろうが変わらない。サービスカウンターに入り雑用を片づけていたときだった。
「サービスさん!」
レジ後方から呼ぶ声が聞こえる。
この呼び声は、レジからそうそう出ることの出来ないレジ係が何かあったときに出す言葉であり、その主な内容が、商品に不備があった場合の交換か、金額の表示されるバーコードシールがついてない場合の商品提供であったり、売り場の金額との金額齟齬の確認、果てはレジ台の操作方法の説明などがある。
今回も何か問題がと思って駆けつける。
「すいません。この卵、割れてるのでお取替えお願いします」
何とか簡単な出来事だったようで、心の中は一安心のあたし。すぐにお客様と向き合う。
「すぐに新しいのお持ちしますので、少々お待ちくださいませ」
笑顔でお客様に挨拶をし、売り場まで気持ち駆けながら行く。
新しい商品をお客様にお渡しし、その場での問題の処理を終了させる。
幸い優しい普通の方だった為、何事もなく終了。
あたしは定位置であるサービスカウンターに戻る。割れた卵をもって、である。
小さい袋に割れた卵を入れ、後で廃棄置き場にもっていく為、一時台の上に置く。
これで廃棄関連の処理は全部終了である。
だが今日は不思議なことが起こる。
割れた卵のパックが3つも出たのである。いつもなら1つ、2つの所、短時間の間に3つも。中々の珍光景である。まぁ、それは「珍しいなー」レベルの話である。うちの天然金井さんはこの後、出番である。
気がついたら、卵のパックが3つに増えていた。そして、サービスカウンターの床が濡れていたのである。あたしと金井さんは「どうした!?」「どうした!?」の言い合いである。だが言い合っていても仕方がない。ペーパーナプキンを持って床を拭きだすあたし。うん、えらいな、あたし。など、少しの自己満足を終え、拭き終わったのだが、まだ床が汚れていた。まぁ当然である。濡れをぬぐっただけである。次は濡れぶきが一般的である。だが、しかし、水道までは若干の距離をゆうする。困った時の助け舟。金井さんである。
「アルコールでシュッシュして拭いちゃえば」
サービスカウンターには除菌アルコールが霧吹き上のボトルに入っておいてあるのである。それのことを彼女は言っているのである。
「なるほど~!さすがー!」
あたしは常に金井さんに感心するのである。
そして彼女の言葉通りアルコールを出し、床に吹きかけた。・・・だが出なかった。置き方が悪かったのか、出すときの角度が悪かったのか、出が悪かったのである。まぁ、よくあることである。そんなとき真っ先に確認するポイント、それは噴射口が出ないようになっていないかである。この手の霧吹きボトルは噴射口が出る出ない調整できるものである。
あたしは見た、噴射口を。一連の動作を見ていた金井さんも口出ししてくる。金井さんは意外にも、結構細かいのである。物はあった場所にしまってね。的ことをいう子である。まぁそれは仕事限定という感じではあるが。そんな金井さんが口を出してきた。
「それ、使い終わったらちゃんと『NO』にしといてね」
「・・・・・?『NO』じゃなくね?これ『ON』と『OFF』だよ」
やはり金井さんは天然である。
そして異世界マーケットの今日は平和であった。