こうして働きはじめました。
「20歳の誕生日おめでとう!綺夏」
そう今日は私の記念すべき20歳の誕生日。祝ってくれると言った友達との約束を断り、大事な話があるといった親の待つ我が家へと帰宅。そのまま誕生日会となった。大好きなイチゴのケーキとともに幸せ絶頂の私。しかし、今日から私の世界は、常識はとてつもない変化が起きる。
「綺夏。ちょっと話があるんだ。一緒にきてくれないか」
真面目な顔のパパに連れられやってきたのは、例の剣が飾ってあるパパの部屋。手近な椅子にお互い腰かけるとパパが話始めた。
「綺夏。これからいう話は全て事実だ。しかし他言無用の話なんだ。誰にも言わないと約束できるかい?」
真面目な顔のパパに茶化していい雰囲気ではないと察し、うんとうなずいた。
「ありがとう。実は・・・パパは・・・勇者なんだ」
「・・・・・・・・・・・はぃ?」
盛大に間抜けな顔をした自覚はある。ありえない言葉がでてきたからだ。おおよそ日常で聞くことのない言葉。ゲームの世界での単語。思わず「頭大丈夫?」と思ったのは内緒だ。
「いいか、綺夏。これは嘘ではないんだ。正確には元・勇者なんだけどね。ほら、その証拠にこの部屋には剣が飾ってあるだろう。あれは若いころパパが相棒のごとく使っていた剣でね。離れがたく王様に頼んでこっちにもってきたんだよ」
「・・・パパ。頭大丈夫?」
今度は声に出してしまった。思うだけなんてやっぱ無理だった。王様とか、日本人になじみのない言葉が出てきてしまってもう混乱の境地である。
「頭は大丈夫さ。それに綺夏がどんなリアクションをとろうと事実しか話してはいないんだが」
「パパ、あのね。そもそも日本に王様はいないの。それに剣くれる王様ってなによ。ってかどこの誰よ。バカにするのもいい加減に!」
怒ろうと思った瞬間に突然部屋に入って来たのはママである。そしておもむろに綺夏の手をとった。
「パパ。まずは異世界の存在を認識してもらわなければ絶対に理解されないわよ。ってことで、百聞は一見に如かずよ。行きましょう」
強引なママに引っ張られながら家の横のプレハブに連れていかれる。
「さぁ、この中に入りなさい。世界で唯一の異世界への入り口よ」
内心「んな、バカな。何言っての」という気分だが、逆らえないほどの笑顔がそばにある。いを決して扉に手をかける。開けて、奥にあるもうひとつの扉を開けてみるとそこにはどう見ても日本人じゃない人が買い物しているスーパーがあったのだ。
というのが、あたしがこのスーパーで働き始めたきっかけです。と満面の笑みで話す綺夏。聞いてた益若さんは「ん?」という表情だ。
「だから、父親が元・勇者でこの国の王様と仲良くて、この国を救ったお礼に、国を行き来する権利と土地をもらい儲かるだろうとスーパーを建てたらしいんですよ。んで、仲が良く、信頼の置ける知り合いの佐久井さんを店長にして自分はオーナー家業というわけです。んで、お前もバイトくらいしろよということでこの店へ」
「えっ、てことはオーナーの娘ってこと?」
「まぁ実質そうなんですけど、ただのバイトですし、そんな気にしないでください。給料の分はみんなと同じで働きますよー」
ニコニコと可愛い笑顔を浮かべる元・勇者の娘でこのスーパーのオーナーの娘である星宮綺夏。
そんな彼女のくだらないバイト日記の物語である。
因みに、勇者だったころ彼女の父は、王宮の金融政策にも力を貸したらしく、共通通貨は日本と同じ、円になっているというなんとも働きやすい世界である。