モヤモヤ
女になってから1週間が経つ。
年少から出て何もしないまま過ごす訳にもいかないだろうと、母親の知り合いの定食屋の店で働く事になった。
それと同時にちゃんと女の子らしく振る舞えるようにと、母親による徹底的な指導が始まったのだが、少しでも男の時の態度になると……お、思い出したくねぇ……。母親は本当に恐ろしいと身に染みて思った。
そして現在は、定食屋の仕事中。
「サバ定食3番さん! あと、6番席急いでお下げ」
「はい!」
昼になると休憩時間のサラリーマンで埋め尽くされ、なかり忙しくテキパキ動かないと仕事が追い付かない。
そんな時間帯にミスしたりすると、余計にオッチャンやオバチャンに仕事を与える事になる……って、ヤバっ! コップがおち……。
――パリーン――
「し、失礼しましたー!」
こんな時にコップを落とすなんて……。
割れたコップの後処理をしてっと背中や腰……正確には尻にスゲー視線を感じる。
店じゃ無かったら見ているヤツら全員半殺しにして血祭りにしてやるトコだけど、店の中じゃ流石にマズイ。
「オッチャン、ごめん! コップ……」
「ああ、いいよ遥香ちゃん」
厨房でオッチャンから……ん? 何故、俺が隼人なのに遥香って呼ばれてるかだって? そりゃ、母親曰くーー
「性転換病になった人は、医者から証明書を貰えば簡単に名前の変更と性別の変更ができるのよ。ホラ、遥香も病院に行ったでしょ?」
と言うことだ。
せめて男や女でも使える名前にして欲しいっと言ったけど、母親には逆らえず女の子の名前に変えられた。
「よし! そろそろ客も空いてきたから遥香ちゃん休憩しておいで」
「うんじゃ……ではなくて、お先に休憩に入りまーす」
アブネェ! 男の時のクセでつい出ちゃうんだよなぁ。母親が居なくてホント良かった。
休憩の時はオッチャンに頼んだら作ってくれるが、空いている時間に作って貰うのも悪いし弁当屋に行く。
「なに弁にすっか……しようかなぁ。昨日は唐揚げだったし、一昨日は海苔弁だったし……うわ!」
食いもんの事を考えながら歩いてると、石に躓きコケそうになるがーー
「大丈夫?」
上から声がして見上げてみると、作業服を着たマジメそうな男の顔が……って、な、な、何で腕の中に! キモいわ!
「さ……ありがとう」
「気をつけて」
今時、マジメそうなヤツが転びそうになる人を助けるなんて少女マンガくらいしかねーのに、偉いヤツだよアイツ。
さーて、今日の弁当何にしようかな……お! しょうが焼き! コレにすっか。
「「オッチャン! ん?」」
しょうが焼きは残り1つしかない。
例え知らねーヤツでもしょうが焼きだけは譲れねェよ! 早く言ったモン勝ちだ!
「「しょうが焼き……ア?」」
「テメェ! 俺の方が早かっただろーが! 他の……瀬田」
「……今日も可愛いな市川!」
「可愛いとか言ってんじゃね! つーか、しょうが……」
「オッチャン。やっぱトンカツで」
な、何だ瀬田さっきまで、しょうが焼きって言ってたクセに急にトンカツにしやがって。まさか、俺にカリ作って何かさせる気じゃねーだろうな! それだったら、しょうが焼き譲ってやる!
「なぁ瀬田。やっぱ……」
「いらねぇーよ。お前が食えよ……どーしてもってなら、一緒に食うか?」
「ブッ飛ばすぞ、テメェ!」
「ハハハ! ジョーダンだよ、ジョーダン」
瀬田マジでブッ殺してェ! つーか、瀬田のマジメな表情から笑った表情になる瞬間が……って、なに考えってんだ。大丈夫か?
「それじゃ、俺は店で食うから」
「そーかよ、またな」
つーか、何で瀬田と会う確率が高いんだ? もしかしてストーカーとかじゃねぇーよな? でも、別れる前の瀬田の表情ちょっと寂し……はぁー、俺はホント頭がオカシイんじゃね?
「なぁ! 瀬田ぁ」
「ア?」
……って、何してんだよ! 俺、店で食うって言ったばっかじゃん! あー! 何かモヤモヤする! でも……
「……一緒に食うか?」
「フッ……ムリして誘ってんじゃねぇーよ」
「はぁ? 別にムリとかしてねぇーよ! ブッ殺すぞ!」
「テメェじゃ、一生ムリだな」
瀬田と話してっと楽し……じゃなくて、さっきのモヤモヤが無くなってる。何だったんだろーな?
まぁ、考えても分からねぇーし、いつか分かる時が来るだろ!
毎回短いですね、すみません。