四話目
「いよいよだね」
「うん」
「あたし何もしてない」
「だろうねー」
とうとうこの時期がやってきた。
定期試験である。
中学までは悪い点を取ってもそこまで影響ないし、そもそもさほど勉強しなくてもなんとかなっていた。
しかし、高校の試験は違う。
難しい上に、赤点という基準がある。
「数学は赤点取ったら夏休み補習ですからね」
なんて数学の教師が言って、教室はブーイングに包まれた。
もちろん数学以外も補習がある可能性はある。
なんにせよ夏休みを潰されるわけにはいかないから、真剣に勉強をしている。
でもまあ、これが終われば夏休みまでは何もない。
「じゃ、そういうことで綾香よろしく!」
「え?」
私が気の早い、夏休みの予定を頭の中で立てていると佳奈が言った。
よろしくって何を。
「だから、綾香の家で勉強会しようっていう話!」
「聞いてないんだけど……あと私の家はちょっと……」
「えー?」
「ふふふ、綾香の家に行っていいのも私だけだよ」
実は私の母親の意向で、家に人を呼ぶことはできない。
昔はそんなことはなかったんだけど、中学生のころ真衣を家に呼んだ時にいろいろあってダメになった。
「いいなあ。綾香の部屋ってどんな感じ?」
「えっ……えっと、綾香の匂いがして……」
だから、真衣は私の家に一度しか来たことがない。
まるで入り浸っているかのような雰囲気を出してたけど。
「図書館にするー?」
「遊べないじゃん!」
勉強会とは。
最終的に、真衣の家にお邪魔することになった。
「いらっしゃい」
「「「お邪魔します」」」
「今日は綾香ちゃん以外もいるんだね」
私はもう数え切れないほど遊びに来たことがあるけど、この二人は初めてだったか。
真衣の部屋に行き、丸いテーブルを囲んで座る。
「じゃあ何から勉強する?」
「待って! その前に席替えを提案します!」
「席替え?」
私の対面に座っている佳奈が言った。
と同時に、足元に気配を感じたからとっさに真衣の方へずれた。
すると、にょきっと足が生えてきた。
「外したか!」
「甘いよ!」
「あたしも綾香の隣がいい!」
「綾香の隣にいていいのは私だけだよ」
真衣が私の膝に寝転んできた。
今は隣というより上にいるなあ。
頭を優しく撫でると、目を閉じてしまった。
以前このまま寝られたことがある。
「あっ真衣ずるいぞ!」
「ふふふ……」
「佳奈、あまり大きな声を出すと迷惑だよ」
「……勉強はー?」
困ったような沙希の声で、私たちは再びテーブルについた。
「あ、じゃあテストのご褒美として綾香に触りたいな。握手とかでいいからさ」
「握手か……基準は?」
「あたしが赤点取らなかったら!」
「低すぎるでしょ、もっと……例えばクラス一位とか」
「いや握手だよ……あたしのこと嫌い?」
「そんなことないよ」
「じゃあ手を」
「それとこれとは別」
主に佳奈に教える勉強会は無事終わった。
まあ一回くらいでそんなに頭が良くなるとは思わないけど、みんなモチベーションは上がっただろう。
テスト後、それぞれの成績を聞いた。
なんと佳奈がクラス一位・・・なんてことはなかったが、みんな無事補修なしだった。
これで何の気兼ねもなく夏休みを満喫できそうだ。
ちなみに一位は沙希だ。