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一話目

「あ、高山さん。ちょっといいかな?」


「なに?」


「あ、えっと…………もう少しこっち来てくれるかな」


「あー…………ここでお願い」


「わ、わかったよ」


 教壇に置いてもらった書類を取って、席に戻る。

四月頭にじゃんけんで負けに負け、室長なんて役職になってしまった。

はやく任期が終わってほしい。

今みたいに、人に呼ばれることが多くて困る。


 私はあまり人に近づきたくない。

いや、あまりどころか極力近づきたくない。

いわゆる、パーソナルスペースが広いんだろう。

別に、昔トラウマがあるとかではないし、重度の潔癖症とかでもない。

中学二年生くらいに発症した、よくある病気の後遺症かな。

数少ない友達も、先生も、家族すら距離をとりたい。

でも一人。


「綾香ああああああああああ」


 例外がいる。


 声の勢いそのままに、例外が背中に飛びついてきた。

私の横から顔を出してくる。


「なにそのプリント」


「修学旅行の連絡事項だって」


「あ、今日室長会かあ」


「あーうん、やだなあ」


 例外、絹田真衣は私が病気の真っ只中のときに同じクラスになった。

当然、そのころの私は今以上に強く拒絶した。

けどまあ、いろいろあって今のような関係になってしまった。

この数年間、やむをえない場合を除いて私に触れたのは真衣だけだと思う。

いや、今は真衣より室長会だ。

放課後の憂鬱に沈んでいると、私の天パに顔をうずめられる。


「あー落ち着くー」


「真衣も飽きないね」


「これだよこれ、うへへへへ」


「ちょっとくらい我慢してみたら」


 頭を引き剥がす。


「ぐ……頭が……」


「早いな」


 うずくまったと思ったら、またすぐひっついてきた。

今はまだいいけど、夏になったら暑いやら汗やらで大変になる。

真衣はたまらないとか言ってたけど、こっちはたまったもんじゃない。


「嗅げば嗅ぐほど好きになる…………やめられなぁい」


 ふがふが言いつつ深呼吸をしている。


「ほらもう授業だよ」


「おっと」


 真衣は自分の席に戻っていく。

といっても、私のすぐ後ろ。

座るやいなや手を伸ばして、私の髪の毛をくるくる遊んでいる。

先生がきて、授業が始まってもまだいじっている。

まあ髪の毛ならいいけど、首筋をなぞるのはまだ慣れないからやめてほしっ!?


「ひゃっ」


「どうした高山ー?」


「なんでもないです」


 やめてほしい。



「綾香、お昼食べよう!今日は学食だっけ?」


「うん、今日から限定のが始まるから」


 真衣と食堂に向かう。

一日の数が限られていて、今週だけしか食べられないらしい。

食券の券売機にはすでに結構並んでいた。

これが全員限定じゃないと思うけど…………。

とりあえず末尾に並ぶ。

どうかな、食べられるかな。


 私のパーソナルスペースはとても広い。

けど、限定とか新発売とかは大好き。

だから行列とかには並ばざるを得ないんだけど、前にいる人はなんとか我慢できる。

でも、後ろや横はどうしても無理。

忍者とかならともかく、人の気配がするのは耐えられない。

そこで。


「悪いねいつも」


「いいよいいよ!私も綾香に密着できるしね!」


 真衣に、いつも後ろに並んでもらっている。

別に抱きついてとまでは言ってないけど。

まあ安心感はあるけどね。


 抱きつかれてると歩きにくいけど、行列だから進むのは遅い。

ようやく私の番が来た。

ボタンにはまだランプは点いていない。


「お、まだ買えるね」


「うん」


 お金を入れ、ボタンを押した。

券がでてくる。


「私も同じのにしようかなー」


 と真衣が手を伸ばした瞬間、ボタンが赤く点灯した。


『売り切れ』


「「……………………」」


「…………私うどんにする」


「…………半分あげるよ」



 あっという間に放課後。


「綾香、行こ!」


「あー」


 真衣に引っ張られるようにして、室長会が行われる教室に向かう。

室長になったとき、せめてと思って真衣を副室長に指名した。

おかけで他の人と一緒にならなくて良かったけど、室長自体は面倒。


 レジュメを受け取って、自分のクラスの席に座る。

真衣も、私の席に座る。

ん?


「真衣の席あるでしょ」


「いや、私は綾香と座りたいから!ほんとは綾香に座りたいんだけど机が邪魔だし」


「でも九割五分空気椅子になってるけど、それ大丈夫なの?」


「大丈夫大丈夫」


 足ガックガクだけど。

結局、いつも通り椅子をくっつけて座った。

さっきとほとんど変わらないし、最初から普通に座ればいいのに。


 室長会といっても、実際はほとんど連絡事項を聞くだけなので、絵しりとりをして遊ぶことにした。

最初は真衣が私の太ももを触ってたけど、くすぐったくてしょうがないから提案した。

ところが私も真衣も絵が上手くないから、紙があっという間に混沌としてくる。

どちらにしろ結局、笑いをこらえるのに必死だった。


 会も終わって、下駄箱に行く。

部活に入ってない人はすでに帰って、入っている人は活動を始めている。


「帰りが遅くなるのがなあ」


「私は二人で帰れて嬉しいけどね!」


 真衣が腕を組んでくる。

まあ人混みが無いのはいいことだ。


 夕暮れの中、誰もいない道を真衣と歩く。

どれだけくっつかれても、歩きにくさは無い。

あるのは、真衣の体温と匂いだけ。


「もうすぐ修学旅行だねえ」


「なるべく人がいないところにしよう…………京都と奈良だっけ」


「同じ班になろうね!」


「班決めは自由にするつもりだよ」


 行事などの班決めや種目決めなどの詳細は、室長がほぼ決めてもいいことになっている。

もし反対意見が多数なら考え直さなきゃいけないけど、まあこれは大丈夫だろう。

真衣と人気の少ないところでのんびりお茶でも飲みたい。


「あ、班は基本5人で組まなきゃいけないはずだけど大丈夫?」


「…………たぶん」


 別にコミュ障とかじゃないし。

少ないけど普通に話せる友達もいる。

なんとかなる。

といいなあ。


「じゃ、また明日!」


「じゃあね」


 京都と奈良…………の前の班決めを考えながら真衣とわかれた。

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