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ヒロインシリーズ

ヒロインは休業中

作者: 青柳 沙緒

※「ヒロインでごめんなさい」の蛇足編。副会長のヤンデレ成長期。


※前作で『出歯亀し隊』の活動内容を確認の上お読みください。

 「……という訳だったのですよ! みやちゃん!」


 「珍しく余裕持って学校来たと思えばそんな話したかったのか、まどか」


 「ひどい! 校門で会長からうまく逃亡したの、みやちゃんのためなのに!」


 「そんなら門で会長と見世物になってくれてた方がよっぽど面白い」


 「辛辣みやちゃん!!」


 うぐうぐと泣き真似する私を白けた目で見ているのは、私の親友の蓮池美也子。私の親友で初等部から上がってきた子でもある。本人曰く、子の付く名前は古臭く感じるらしくて、私は子を取ってみやと呼んでる。


 「と言うか、初等部上がりは皆知ってるんだよ。神宮寺先輩と風海(かざみ)先輩の攻防戦は」


 「そういえば、初等部で有名だったって伊東さんも言ってたなぁ」


 初等部からの人はお坊ちゃんお嬢様が大半だから、あまり接点がないので私が知らないだけなのかな。


 「噂をすれば、ほら。見てみなよまどか」


 窓の外を見ると、校門の前にシルバーに輝くイタリア車が止まった。降りてきたのは神宮寺桜華先輩。昨日のショックから、今日は車登校してきたみたい。

 ドアが開いて、綺麗なおみ足がそっと地面に揃えられ、そのまま立ち上がる桜華せんぱ……


 「ほぎょっっ!?」


 何か当たり前の様に爽やかに、視界に風海涼二先輩が乱入! ジャストタイミングで桜華先輩に手を差し伸べる! 無駄に視力の良い私には見える! キラキラスマイルを惜しみなく展開する副会長が!!


 「お迎えも復活かぁ。昔は同じ車に乗って一緒に登校してきてたのよ、先輩達。というか副会長のラブオーラが昔より強力なんだけど!」


 何故か眩しそうに目を細めるみやちゃん。気持ちは分かる。先輩をエスコートして校舎まで歩いてくるその様子が神々し過ぎる。身長差も完璧だし、完成されたカップルとはああいうことを指すのだ!


 「まどか、よだれ垂れてる」


 すまん、親友よ。


 「やっぱり、傷心の先輩を副会長が癒してゴールインするかな」


 傍から見たらイチャイチャするバカップルにしか見えない2人を見下ろし、私は聞いてみた。


 「さあどうだろ。昔からナチュラルにスルーだしね、先輩は。あれもきっと、『風海君が幼馴染のよしみで甘やかしてくれてる~』くらいにしか考えてなさそうなんだけど」


 あんまり話したことないけど、副会長って好きでもない女性に不必要な接触しない人だと思うんだ。私相手に、書類渡したり貰ったりする時ですら、指一本触れられたことはありません! 会長がうるさいせいもあるかもしんないけど!


 ブーッブーッ


 「噂をすれば会長だ」


 スマフォを見ると会長の文字。メールを見ると一言。


 『今日の放課後、生徒会室に来い』


 命令文なんだよね、この断る余地の無い感じ。こんな俺様メールで喜ぶの誰なんだろ? Mの女の子? 私は違うよ?


 「それで行くの? あんまり乗り気じゃなさそうだけど」


 みやがお茶飲みながら聞いてきた。顔に出てたようだ。


 「んー。折角生徒会室に行けるチャンスだし、会長をダシにして副会長の様子見てこよ!」


 「黒っ! この子可愛い顔して考えてる事腹黒っ!」


 ふっふっふーと笑いながら、私はスマフォでメールを作るのだった。





 授業はテキトーにるるる~ってして、放課後!


 ずんずんと生徒会役員室(正式名称だよ)に入っていくと、


 「こんにちはーっ伊東さん!」


 「まどかちゃん、きたきたー」


 ぶすっとしている会長と、黒い笑顔の伊東さん。お察しの通り、朝のメールで呼び出しときました。

 会長は、珍しくファイルの束を積んで仕事をしている。私は腕を取られて、会長の横にある椅子に座らされた。まあ、伊東さんが向かいだしいっか。


 「珍しく仕事してるね、かいちょー?」


 「お前も来たなら仕事するんだな、伊東」


 「やーだよ、面倒だし、玲苑(れおん)がやった方が早いし! ところで、昨日の件謝ったの? 神宮寺のおじさん怖いじゃん」


 「ああ、百合の花送っといた。あいつ好きだろ」


 お花贈るの好きなんだよね、会長。あたしもいつの間にか誕生日知られてて、あれよあれよと薔薇の花貰った。本当にあの断れないように押し付けてくるスキル何なんだろ。


 「ふーん、なるほどね」


 そう言って、携帯片手にそんじゃねーと生徒会室から伊東さんは出て行ってしまった。ウラギリモノー!!

 恨めしげにドアを凝視していたら、コロコロコローと椅子のコマが動いて会長に引き寄せられた。


 「お前まで帰ったら許さないからな。じっとしてろ」


 ひゃー。お色気タイムダメ絶対! ムダムダしい色気を放出してる。ネクタイ緩めて首の筋肉アピールですか!? 要らないです健全にここ学校だからーー!


 「帰りませんよー。だから早く仕事終わらせてくださいね? 玲苑先輩?」


 こっちをねっとりニヤニヤ見つめていた会長が、ひゅっと顔を背けて仕事し始めた。前からお名前で呼ぶと、私を放置して仕事するのよねー会長って。こっちからベタベタすると、逃げちゃうの何でだろ。楽しいからいいけど。


 放置されたんで、裏切り者(伊東さん)にメールで抗議。


 『先帰るなんて酷い! 副会長捕獲して帰ってきてください!』


 『ごめんねーまどかちゃん。朝の時点で涼二に買収されてたんだ。今日は涼二来ないよ』


 『副会長目当てで来たのに! 何でですか!?』


 『今日は涼二、買い物なんだって。それで玲苑が桜華ちゃんに謝罪のために何したかスパイしてこいって頼まれちゃってさ』


 『買い物とスパイになんの関係が?』


 『それは、桜華ちゃんに直接聞いてご覧( ̄▽ ̄)』


 最後の顔文字に言い知れぬ悪意を感じるけれども、そのまま画面を切り替えて桜華先輩にメール。この前美味しいケーキショップがどうのって話を聞いていたので、比較的あっさり桜華先輩とお茶する約束ができた。こういう懐の深い所、すごいなって素直に思う。普通、元恋敵のお誘い受けないよ。


 でも、そんな先輩が大好き!!!


 恍惚としていたら、仕事終わった会長に強制下校デートに拉致された! 油断した!!!






  それで後日、土曜日。


 今日、私はみやちゃんと共に桜華先輩お気に入りのケーキの美味しいカフェでティータイム。


 「美味しいでしょう? ケーキだけでなくて紅茶もここは良いのよ。お嫌いでないなら試してみて」


 そう言って、私とみやちゃんに紅茶メニューを見せる先輩。無表情がデフォのみやちゃんもにっこりしている。先輩の優しさって癒される。


 「フレーバーティーもあるのかぁ……まどかはどうする?」


 「あら、みやさんはフレーバーティーがお好み? わたくし香水付けてきてしまったわ。ごめんなさいね」


 「桜華先輩、珍しいですね、香水なんて」


 「軽いものはいつも付けてましてよ? ただ今日は百合の香水なの」


 百合……これはキーワードですね。でも、百合の花束じゃなかったっけ? それとなく出処を聞いてみると、


 「これですか? 昨日頂きましたの……涼二に」


 「風海先輩ですか!?」


 みやちゃんも驚いている。分かる。封印されしインテリ眼鏡(ネタが古い)がそんな洒落た贈り物するんだ……


 というか、百合の花に対抗した百合の香水!?


 「先日涼二がいらして、会長様にお詫びに頂いた百合を香油に加工して貰う事になって。その間の代用品だと言ってくれたのよ」


 少しにこやかに、桜華先輩は頬に手を当てて言った。


 「へえ。風海先輩って贈り物するんですね。意外です」


 ナイスアシスト! みやちゃん!


 「副会長として仕事をしている時は冷たく感じますわね。けれど、よく香水とか贈り物を貰いますの。涼二にいつ彼女ができても良いように女性の好みをレクチャーしておりますわ」


 いやー先輩。それ、先輩への求愛プレゼントだから。練習とか曲解しないで。


 「そういえば、わたくしが誰かから花を貰いますと、必ず涼二が香油に加工してくれますの。そちらの事業を始めたのかしら。いつもお花の代わりに、同じ花の香りの香水や入浴料貰いますわ。今度ブランド名を聞いておきましょう」


 そう言って、先輩は店員さんを呼び止めて紅茶を注文した。


 「これってさあ、風海先輩が花の贈り物を没収してるだけじゃないのだろうか」


 「100%それだわ、まどか」


 花って好きな人に贈るイメージよね。ひそひそ。


 「そういえば、涼二がついでにと、ボディソープとかヘアケア用品の試供品を大量に置いて行きましたわ。すごく良い花の香りのブレンドでしたの。みやさん、香り物が好きなら今度お譲りしますわ。」



 マーキングキタコレーーーーーーー


 「まどかさんも良かったらどう? 世界に1つしかないブレンドですと自慢していましたから、随分と自信作みたいよ?」


 ひーーーーーーー!! そんなニコニコ言わないで! 先輩! それ! 世界に1つしかない(貴女のためだけの)ブレンドって意味!!!!! そんなの貰ったが最後、学園で生きていけない! 副会長を敵に回す!!


 みやちゃんも真っ青! これ! どうやってお断りする!? 


 「わ……私は一応許嫁がいるので……」


 あーー!! みやちゃん逃げた! 許嫁出してくるなんて酷い!


 「あーうー……」


 先輩の前で会長の話をする程デリカシーは欠如してない。 無難な断り文句よ降ってこい!




 「桜華。何してるんですか」



 副会長様(きゅうせいしゅ)キターーーーーーーーー!!!



 っゲホッ 


 脳内絶叫しすぎて、リアルでむせた。

 ジャケットスタイルなのに、少しワイルド系のコートを着ているんですね。ノー眼鏡だから似合ってます。


 あっ! 一緒にいるのは裏切り者改め伊東さんじゃないか。 女の子顔負けのふわもこスタイルなんですね、あざとい!


 「涼二じゃないの。奇遇ね」


 「今日も可愛いお召し物ですね、桜華。家を尋ねたのに留守だったので散歩に来たのですが、偶然会えてよかった」


 にこやかに笑ってますけど、本当に偶然か怖いんですけど副会長……


 「やあ、こんにちは。まどかちゃんと美也子ちゃん」


 伊東さん、あえて『奇遇だね』って言いませんでしたね。悟りたくなかった。


 「いつもこうなんですか?」


 こそこそとみやちゃんが伊東さんに聞いた。


 「今週からだね。例の件で桜華ちゃんが会長から離れてすぐ、色々外堀埋め始めたよ」


 私とみやちゃん(外堀1と外堀2)は顔を見合わせて、頷きあった。逃げよう。



 「良い香りですね。付けてくれて嬉しいですよ」


 香水の話を始めた副会長。顔が蕩けてます。


 「ありがとう、涼二。たまには強めの香水も良いわね」


 「強すぎましたか。確かに差し上げたサンプルとなら喧嘩してしまいますね。明日からサンプル使ってみてください。香水は捨てて構いませんよ」


 「勿体無いわ」


 「似合わない香水を付ける事はありません。誰かにあげてしまいなさい」


 暗に百合の香りを止めさせようとしてますね? 会長の香りですもんね(棒読み)


 「そういえばそのサンプルを彼女達にー」




 桜華先輩地雷踏んだーーーーーーーーーー


 いまいまいまいま、サンプル使って欲しいって言いましたよね副会長! 軽々しくあげるなんて言わないで! 副会長から煙があがってますよーーー戦じゃーーーーー狼煙をあげろおおおおおおおおおおお





 「みみみみみみやちゃんのお迎えが来たみたいなんで帰りますね!!!」


 持つべきものは金持ちの友達!!! 送迎付き万歳!


 「急用ですか? 紅茶は僕が頂きますね。ケーキは僕のおごりにしておきますから急いでください」


 にっこり笑って上機嫌な副会長! お邪魔虫は退散します! 





 名残惜しげな先輩に別れを告げて、大通りまで全力ダッシュしました。自己新記録だと思う。


 「怖い……怖かった」


 冷静沈着のみやちゃんがそこまで言うなんて、げに恐ろしき存在……


 「走りながら後ろ確認したけど、涼二が桜華ちゃんに餌付けしてた! おもしろーーい」


 「何、で、伊東さんも、いるんですか!?」


 ぜーはーしながら聞く。一緒に走ってきたのか。


 「俺だって命は惜しいもーん」


 誰だって馬に蹴られたくはないですね、はい。副会長のあーんしてあげてるシーンは見たかった気もするけど。


 「というか、僕モードの副会長も萌えですね!」


 「桜華ちゃんを前にすると、外面ボロボロになるんだよねー。桜華ちゃんのために作ってる外面なのにね」


 「やっぱり可愛いですね。もっとよく見ておけば――」



 「あんたらバカなの!? あんな怖いもん見て暢気過ぎる! 絶対関わり合いになりたくない」


 みやちゃんにどつかれました。あんだけ走ってよく元気ね。え? 私も人のこと言えないくらい元気だって? いやぁ(照)


 「褒めてないから」


 おっふ。心の声漏れてた。

 でもさ、この位のことでめげてたら出歯亀し隊の名が泣くと思うのですよ!


 「ヤンデレ舐めてる……」


 私と伊東さんが盛り上がってる横で、遠い目をしながらみやちゃんはそう呟いた。








 後日、様々な偶然を乗り越えて、桜華先輩の家にお茶会の仕切り直しをしに行った私とみやちゃんと伊東さん。


 そこに、当たり前のように現れた副会長から渡されたのは


 「黄色い薔薇……」















 「『嫉妬』ね」


 みやちゃんがぼそりと呟いた。


 「嫌だねこの押し花の栞。リンドウまで挟んである」


 さすがの伊東さんも引き笑い。


 小さな薔薇のブーケを貰って喜ぶ桜華先輩。そしてそんな彼女を穏やかな顔で見つめる、彼女と同じ香りを纏った男を横目で見つつ、3人でそっと溜め息をついた。


 ……安全に出歯亀したいんで、早く付き合ってくんないかなー

お粗末さまでした。ちなみにリンドウの花言葉は「悲しんでいるあなたが好き」です。桜華と会うな邪魔したら分かってるよな?というメッセージ栞。


書き終わって思ったことは、会長の出番の少なさと、会長の苗字出し忘れたことです。いつの間にか不憫キャラ化した会長ごめんなさい\(^o^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] ぶっちゃけカイチョーはどうでもいいんで! まどかさんも扱い雑だし! 副会長と桜華先輩さっさとくっついちゃえYO! 前作に引き続き楽しませていただきました。 次回作もお待ちしてます
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