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うちはうち、よそはよそ。

作者: なか。

 半年前、幼馴染みが行方不明になった。


 幼稚園からの付き合いで、家が近所と言うこともあり、小中と同じ学校に通っていて高校もまた同じ所に受かってしまった腐れ縁の幼馴染み、星川凜八(ほしかわ りんや)

 学力運動能力は上の下。容姿は中の上。身長は180に少し届かない程度。今時くそ真面目に髪の色は生まれたまんまの黒。目付きは少々きついが、殆んどいつもヘラヘラ笑っているから気にならない。制服は規定通りにちゃんと着て、校則違反なんか1度もした事が無いような優等生だ。

 ……うん?いや、小学校の時に一度だけ学校をサボった事がある。あの時はどうして学校をサボったんだか……。さっぱり覚えてないな。きっとどうでもいいことに違いない。


 兎に角、そんなくそ真面目な優等生の幼馴染みは、高校の入学式の帰りに姿を消し、そのまま行方不明になった。

 この年齢だと一般的には先ず家出を疑われると思うが、凜八は全く疑われず。捜索届を出して直ぐに、誘拐を前提として大規模な捜索が行われた。家が近所でも有名な資産家なのもあり、身代金目当ての誘拐では、と言う事だ。だからって高校生男子を誘拐しようと思うか?だったら小学生狙うだろう、体格的にも体力的にも筋力的にも。私だったらデカイ身長の高校生より、軽くて持ち運びの簡単そうな小学生を狙うよ。……いやいや、あくまで仮の話。

 そんなこんなで捜索が開始され、見付からないままもう半年が過ぎた。警察は半ば諦めモードで、アイツの両親も息子はもう帰ってこないのだと、涙も枯れ果て空元気で毎日を過ごしている。アイツの弟が頑張って励ましてるのもあるだろう。学校の席なんて、一番不人気な教壇前を占領したまま動かす予定が無い。


 そうそう。リン、そろそろあんたの留年が決定すると思うんだ。同じ歳で学年が別れるのは悲しいが、来年からはキチンと私を先輩って呼ぶように。ちゃんと敬えよ。



《ちょっ、ワカちゃん冷たい!もっと親身になってよ!!》


「今でも随分親身だろーがよ。甘えんなよ」



 私の目の前にはノートパソコンが一台。画面はテレビ電話の状態で、通話相手は黒髪黒目でRPGの戦士みたいな格好をしている男

 まぁ、平たく言ってしまえば絶賛行方不明中のリンだ。

 ヘッドセットから聞こえる情けない声を、私は普段通りに切り捨てる。こんな奴が伝説の勇者とか、世の中の選択基準はよくわからん。マジわからん。わかりたくもない。


 半年前に行方不明になった幼馴染みは、異世界に召喚されて勇者になっていた。


 リンが姿を消し、何か手掛かりを知らないかと警察諸々に問い詰められる毎日を送っていた三ヶ月ほど前の某日。私にまで迷惑かけんじゃあねえよと、愚痴を呟いていた時に来たコールに、私は特に何も考えずに出た。



『今忙しいんで後にしてください』


《ワカちゃん?ワカちゃんだよね!?》


『違います。そんな名前じゃないです。人違いじゃないですか?』


《ごめんね間違って覚えて!しょーがないじゃん、小さい時からの癖なんだからさ!!

 友利和歌(ともり うた)ちゃんだろ!ちょ、切ろうとしないでお願いします話聞いて!!》


『……うわ、リンじゃん。何してんの』



 ふと違和感に気付き、しっかりとパソコン画面を見たら居た。行方不明中の筈の幼馴染が。


 どういう事かと大雑把に問い質せば、どうやら異世界トリップ的な事をしているらしい。舞台は剣も魔法も獣人もエルフも精霊も妖精も魔物も魔人も魔王もいらっしゃるファンタジー。ついでに言えば、リンが入学式前日に始めたばかりのRPGゲームにそっくりのようだ。そのままと言っても良い。

 そんな世界に、星川凜八は魔王を倒す勇者として召喚された。そして今に至る。

 流石の私も、理解に数分必要になった。けれど悩んだところで私に何か出来る筈も無く、理解は出来なくとも受け入れる事は出来る。そういうものなのだと。別に投げたわけじゃない。寛大な心で受け入れただけだ。


 それからと言うもの、私は時折異世界のリンとパソコンで連絡を取っている。向こうはレアアイテムの通信用水晶“紡ぎの水晶”なる物を介しているそうだ。とってもファンタジーだね。

 通じた先が私だったのは予想外だったらしいが。



《ねぇちょっとワカちゃん、どうにか俺の出席日数誤魔化せないかな。高校で何もしてないのに留年とか悲し過ぎるんだけど》


「何を言うかと思えば……。なにもしてないからこその留年なんだよ凜八君」



 鼻で笑って会話を終わらせれば、リンは唸りながらもそれ以上騒がなくなった。代わりに「鬼」「凶悪顔」「冷血漢」「人でなし」などと小声で言っているが知った事じゃない。聞いて欲しければはっきりしゃっきり大きな声で言いたまえ。それに私は男じゃない。

 画面の向こうで旅の仲間に慰められているリンを放っておいて、私は机の脇に置いてある本を捲った。

 広辞苑ほど分厚くて、しかし中はカラーイラストをふんだんに使い、文章は分かりやすく重要な所は数色に分けて書かれている。リンの居る世界によく似た、ゲームの攻略本だ。厚みの分だけしっかりと内容が詰め込まれており、それに助けられている。主にリンが。

 世界観が似ているように、起こる出来事も似ている。

 この攻略本がなければ詰んでいた、とは初めて異世界間通話した際のリンの台詞だ。



《あ、そうだ。ワカちゃん、例の洞窟のボス竜の話なんだけど》


「ああ、航空竜の件か。どうなった?」



 先程までぐずぐずしていた癖に、切り替えの早い男だ。ケロッとした様子で、今回の用事を話し出す。



《どうもこうも、散々な目に遭ったよ。俺達のレベルに合わないくらい強いし、まぁギリギリでどうにか勝ったけどこっちも瀕死だし、帰り道は洞窟が崩れるのが早いか俺達が出るのが早いかのレース状態だし……》


「は?何で戦ってんの?」


《え。だって、この前の通信の時に、シガヒ村の北にある何とかって洞窟の奥の竜がどうのこうのって言ったじゃん》


「シガヒ村の北にあるフセン洞窟の奥の航空竜に協力を仰げ、て言ったんだがね。どうだろうかリン君や」


《…………あ"あ"ぁ"ぁぁぁぁぁ!!》



 己の失態に気付き、私に構わず叫ぶリン。あまりの五月蝿さに音量をゼロにし、画面の向こうが落ち着くのを待った。

 その間、今回リンが攻略の仕方を間違えた部分を読み直す。



「航空竜さえ手に入れば、移動手段が徒歩&馬車から快適快速空の旅になったものを……。選択肢だって、戦う・逃げる・話し合うの三択から選べる仕様なのに、どうしてそこで最悪のを選ぶかね?

 何はともあれ、これでまた魔王討伐が遠退いたな、やっぱり留年だわ。おめでとう」



 ニッコリと笑い掛けてあげれば、画面の向こうのリンが涙を流しながら何かを喚いていた。あ、音量ゼロのままだ、めんごめんご。

 片手を振りつつ音量を元に戻す。



《―――ぃよひどいよひどいよワカちゃん!他人事だと思って!!

 俺だって間違えたくて間違えた訳じゃないのに!全ては情報規制してるこの世界の女神様が悪いのに!!》


「ちなみに、間違って倒した場合の為に、洞窟の奥の宝物庫には孵化間近の航空竜の卵があったみたいだな」


《また情報規制ぃぃぃぃぃ!!

 どこの奥の宝物庫に何があるって言うのさぁぁぁぁ!!!???》


「その卵から孵化した子竜にシガヒ村の村長が隠し持ってる秘薬、成長薬を振り掛けますと、あんた等パーティーを乗せれるくらいに直ぐに成長するんだって。完全に、都合のいい乗り物扱いだな。生き物の尊厳総無視」


《もうほぼ何も聞こえないし!雑音?!砂嵐?!耳が痛い!!》


「私はお前の叫び声で耳が痛い」



 また音量をゼロにする。画面には、すがりつつ泣き喚くリンがどアップで映っていた。

 昔はこんな風に喚いたりしない、その他大勢に埋没するような物静かな奴だったのに。異世界トリップは思った以上に精神にくるようだ。他にも勇者の肩書きとか世界の救済とか、重すぎてストレスが半端ないんだろう。可哀想に。終わって戻ってきても留年だしな。神隠しの少年とか呼ばれそう。かわいそう。爆笑。

 のどごしスッキリな甘いジュースを飲んで一息入れていると、画面に凜八ではない人物が映る。

 長い金髪をツインテールにし、輝きそうなほど青い目は気の強そうな猫目。膝丈の装飾が華美ではない赤いドレスを纏った少女だ。中学生くらいだろう。こちらを睨みつけて何か叫んでいる。音量がゼロな事を知らないんだろうか。知らないんだろうな。向こうの世界に電子機器とかないだろうし。音量って単語すらあるか知らんし。

 仕方が無いので音量を上げる。半分くらい。既に結構などなり声である。



《いつも横でお二人の会話を聞かせて頂きましたが、もう我慢なりません!

 いくら賢者と呼ばれ、勇者リーヤのご友人だとしても、貴女は言葉が過ぎます!教えて頂ける事もあやふやな事ばかりで、ハッキリと教えて頂けるのはすべてが終わった後!!しかも、そのせいで失敗したリーヤ様を追い詰めるばかりっ!!今だってリーヤ様は救いが遅れる事を嘆いていらっしゃるのに、冷たい言葉しかかけて差し上げない!!

 貴女には慈悲や人を思いやる心は無いのですか!》



 言い切った、と鼻息荒く満足げな金髪少女に思った事は、なるほど可愛い美少女だな、程度だ。

 あとは、慈しみとか思い遣りとか、与える対象は個人の自由じゃあないのかね、とか。言葉が過ぎるって言うけど、そっちにとって勇者がどの程度の地位に居るか知らないし。勇者(笑)ならこっちにも腐るほどいますけど。主に電子世界的に。そもそも賢者とか勝手に呼んでんじゃねーよ。イタイわ。

 諸々と思いつつも、言うのが面倒で考えるだけに終わる。言うだけなら良いけれど、言った後もまだ問答が続くかと思うとやる気が失せる。だったら自己消化して終わらせるわ。



「申し訳ないね。こういった性格なもので」


《いやいや、俺に優しいワカちゃんとか想像出来ないし。別にワカちゃんばっかり悪いわけじゃないし》


《リーヤ様っ!リーヤ様がそのように甘やかすからモゴモゴ》



 さっき泣いたカラスがヘラヘラ笑う。金髪美少女は、映像外から伸びてきた腕に口を塞がれて、もがもが言いつつ退場した。その行動が手馴れていたので、きっと普段から彼女は熱くなって勝手に走ってしまうに違いない。美少女なのに猪。武装国家の姫っぽい。もしくは平和な中立国で唯一武の大切さを説いてる筋肉馬鹿姫。

 前者なら大切にされていそうだけど、後者だと疎まれていそう。旅に同行してる理由も変わりそうだな。前者なら獅子は我が子を状態。後者なら厄介払い。ちょっと可哀想になってきた。今まで全く気にしてなかったけど。興味も無かった。



「リン、彼女ってどんな国の子だ」


《ミーファ?ミーファの国は武の国って呼ばれてるよ。強者が正義って感じ》


「通りで」



 はーん、と一人頷く。前者だったか。良かったな。



《老若男女関係なく、貴賎も問わず、武を極めるのが我が国です!貴女にとやかく言われる筋合いは御座いませんわー!!》



 奥の方から金髪美少女の声が響く。距離を離されたので、口を開ける状態らしい。



「大変元気なお子さんで」


《ははは……。悪気は無いんだよ?ちょっと視界が狭くて真っ直ぐにしか進めないだけで》



 まんま猪じゃあないかね。

 金髪少女についてはそこまでにして、彼らの大事な今後を話す。移動手段の一つが潰れたのだから、別の方法を探すしかない。そもそも、魔王のいる城には、徒歩や馬車では到底辿り着けないしな。だから航空機ならぬ航空竜を手に入れろと言ったのに。過ぎたものは仕方ない。

 パラパラとページを捲り、該当する項目を探す。航空竜の次のページで直ぐ見つけてしまった。



「そこから一番近い国、工業都市ベランガに行った方が良い。もちろん徒歩で。ちゃんと道中に魔物を狩ってレベル上げないと死ぬから。特に神官系職業とか。これ大事。

 到着したら中に入らないで、城壁沿いに右に進んで行き当たった森に行け。今は廃れた科学魔法を追及する物好き集団が奥の方にいるから、そいつらに転送装置の作成?復旧?を依頼しろ。間違っても、アンデット系と間違えましたーなんて言って殺すなよ。見た目陰気だけどしっかり生きてるからな。振りじゃねぇぞ。間違えんなよ」


《え?なに?ほとんど規制入っちゃってるんだけど!?

 ベランガって国?で、いいんだ、ありがとうドーラ。そこに行けば良いんだね。分かった。もちろん魔物は倒すよ、色んな人達が魔物被害に遭って大変なんだから。レベル上げは基本だよね!

 それで、えぇと、森に!森に行って、装置を復活させる!アンデットが出る、のかな?うん、気を付けるよ。いつもありがとうワカちゃん》



 ちげぇよバカっ!と怒鳴り付ける前に、ブツリと通話が切断される。私が切ったわけでも、リンが勝手に切り上げたわけでもない。全ては女神様のご意向により、だ。ドSか。引くわ。ドン引くわ。

 これで、リンに一生消えない心の傷と言うトラウマがついたらどうしよう。あちらの女神さんがそこまで鬼畜じゃなく、リンもそこまで馬鹿じゃなく、お仲間さん達も阿呆揃いでない事を祈ろうか。もちろん、向こうの女神さんじゃない神仏に。



 ノートパソコンを閉じ、一息吐く。ズルリ、とだらしなく中途半端に椅子に座り溜め息を吐いた。頭が痛い。眉間に出来ていた皺を伸ばそうと揉んだが、年季があり過ぎてどうしようもなかった。しかたない。

 何か飲みたいな、とぼんやり考えれば、側に控えていたシックだがいい身なりの男が、飲み物の入ったグラスを乗せた盆を私に差し出す。礼を言って受け取れば、恭しく傅かれた。

 ……なかなか慣れないなぁ。

 苦笑しながらグラスを煽れば、さっき飲んだ物と同じ味がした。いつもは同じ飲み物を続けて出したりしないのに。気に入ったのがバレたか。別にいいけど。


 勘違いはしないで欲しい。我が家は金持ちではない。

 傅いてくれるような人間を雇う余裕など一切無く、それどころは父親が毎日のように会社に傅いている。悲しくも悔しくもない、それが一般的だ。一般的な中流家庭。父は会社員、母親は専業主婦、私は市立の高校生。

 家持ちなだけ良いだろう。綺麗好きな母親のお陰で、築十数年が新築のように見えるそれなりな家だ。


 では、今の私はどこに居るのか。

 城だ。

 無駄に大きな白亜の城。

 少しばかり薄暗く感じるのはしかたがない。そういう仕様なのだ。いくら綺麗に掃除しても、こればっかりはどうしようもなかった。一日で諦めた。

 そんな城の王座に座るのが、私だ。つまり私は王様だ。半年くらい前から。どう言うこっちゃ。



「トーリ様、よろしいでしょうか」


「ん?はいはい、何だろうね」



 重厚な扉が観音開きで開かれ、そこから入ってきたのは真っ黒な全身鎧の男だ。王座に続く階段前、数歩手前で止まり姿勢を正す。左手は腰に佩いた剣の柄の上、右手は拳を作り左胸の心臓辺りにおいた。まぁ、そこに本当に心臓があるか知らんけど。

 所詮は形式的なものである。

 何故なら彼等は、内臓の位置に個体差があったりする。頭に心臓がある人も居るそうだ。スゴいね。だからと言って頭に手を置いて敬礼されても「どうしたの、頭痛なの?」と思っちゃうじゃん。でも形式的なものなら大丈夫だ。



「はっ、国境騎士より報告が入りました。件の一行が我が国に侵入した模様です。近隣の国民にはすでに避難勧告・誘導を行っておりましたので、国民の被害はゼロ。追って報告が出来るよう、影の者達が付かず離れず追跡しています。何かあれば報告するように、と指示しております。

 朗報と致しましては、国境付近で討伐依頼の出ていた魔物があらかた片付けられたようです」


「迅速な行動は大事だよね。怪我人が出ないのは良い事だ。見失わないよう、影を登用したのも良い判断だと思う。ここまで来たら、常時状況を知りたいし。

 でも討伐対象がゼロになるのは痛いな、懐的に。色んな所で収入源が減っちゃうわけだし」



 はぁ、と溜め息を吐けば、真っ黒鎧の騎士さんはあたふたと姿勢を崩す。面白可愛い。中身の見た目が分からないからこそ。

 パチン、と両手を打ち笑顔を浮かべる。営業スマイルは日本人の特技です。

 真っ黒鎧が慌てて姿勢を正すのを眺めて、私もキチンと椅子に座り直した。座り心地がよすぎる。羽毛か、いや、低反発か。とにかく質が良い。



「まぁいいや。魔物から採れる魔石は一行ががめつく拾って持ち歩いてるだろうし、ここに来た時にでも返してもらおう。それを売ったり買ったりすればどうにかなるだろうさ。

 ここまで来れなかったら、ま、影さん達に拾ってもらって私達に売ってもらおう。落とし物は拾った人の物だからなぁ

 ここに来るまで数週間はかかるだろうし、気長に考えよう。主に大臣が」



 だいぶいい加減な事だが、案外、私がいい加減な方がこの国はよく回る。天辺がいい加減なお陰で、下が頑張らねばとよく動くからだろうか。仕方がないのだ、財政なんぞ知らん。そっちで頑張ってほしい、こんな人間を選んだのはあんた等なのだ。


 半年前。

 ちょうど、凜八が行方不明になってから一週間ほど経った頃だった。私は生まれた。召喚されたでも良い。出てきたのは卵からだったが。


 その年その月その日その時間。先代の王は病に倒れ死の淵にあった。この国の王は死ぬ寸前、行わなければいけない儀式がある。

 次代の王の召喚だ。

 結果はその時々。この世界のこの国に既に暮らしている者が喚ばれる事もあれば、別の国の者、はたまた極稀にだが、別の世界から呼び寄せるなんて事もある。

 私はその極稀な例に当てはまったようで、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃーんだ。クシャミしたら帰って良いっすか。


 それから私は王である。


 こんな小娘で本当に良いのかよって思うけど、次代の王の召喚の儀式は絶対らしい。それに、知識は無くとも力は必ず付随されている。世界の強者の軽く百倍近く、他の追随を許さないくらいには世界最強らしい。ヤバい、オレツエエってヤツだ。正しい表記は知らん。

 重い中二病にかかっていなくて良かったと思った。軽くはかかってる自信がある。

 と言うわけで、私は王である。何度でも言う。大事なことなので。



「かしこまりました、全ては魔王様の御意向のままに」



 まぁ、王は王でも魔王様なんだけど。

 私、異世界のとはいえ人間なんだけど良いのかね?良いんだって。魔力値が歴代魔王で最強だから。強者こそすべて!て感じか。どこぞの猪娘と同じかよ。


 統治は全部部下任せ。でも彼等は嘘は言わない。横領もしない。国民を虐げもしない。善政を敷けてると思う。

 何故ならすべて私にばれるから。魔力が多すぎると、嘘発見器がわりにもなるし千里眼的なことも出来る。制御は難しいが。

 もしも嘘をついたり、横領したり、虐げたりすれば彼らの首は飛ぶ。比喩ではなく、本当に。

 いやぁ。着任当初、甘く見てた新米さんが馬鹿やった時は驚いた。不愉快になって睨んだだけなのになっ!パンッて!前置きなくパンッていった!!驚き過ぎて豆鉄砲喰らった鳩みたいになったね。その後吐いた。胃液だけ。

 魔力のコントロールって難しいんだわ。困ったな。

 まぁなんだかんだ言っても、今が良ければそれで良いのだ。彼は必要な犠牲だったと割り切ろう。

 政治は部下がしっかりしてるし、私はこの場にいるだけで国の状態が安定するらしいし。

 なんだっけ。確かこの王座から私の魔力を吸収して国中に循環させ、土壌やら水質やらを安定させている、だったか。体の良いエコなエネルギー扱いだ。魔王の存在意義はエネルギー供給です!

 良いけどな、その代わりにここに居る間はいい暮らし出来てるし。食事も美味しい。


 あとは、たまによくわからん理由で殴り込んでくる、人族達の勇者様(笑)のお掃除も。

 この前は「魔族の陰謀で殺された我が許嫁の仇!」とか言ってた。影さんによくよく調べさせたら、ただのお家騒動だった。濡れ衣ですな、わかります。

 他には流行り病の原因やら、干ばつやら、不作やら、魔物の大量発生やら。何でもかんでも魔族のせいにしているらしい。魔物と魔族は別物です。

 これで魔族がいなかったらどうしてるのかね?他の種族にターゲットを変えるだけかね?

 はーぁ、人間メンドクセ。

 その点、リンの方は分かりやすくていいな。

 確かに魔王が各地に姿を現して、直接災いをもたらしたようだし。攻略本のあらすじにそう書いてあった。


 肘掛けに肘をつき、頬杖をついて姿勢を崩す。

 未だに敬礼していた真っ黒鎧を思い出し、持ち場に戻って良いよと手を振った。瞬間、消える鎧さん。別に消失したのではなく、瞬間移動だ。たぶんまた魔力が勝手に働いたんだろう。使い勝手悪いなホント。



「……魔王と勇者、どっちが大変だろうね。なぁ、リーヤ様」



 返事が返ってこないのは分かってる。それに、答えだって分かってる。


 超ハイスペック時空間転移の魔法で、好きな時に好きな場所や時間で元の世界と行き来できる、私の方が万倍マシだろうさ。


 チート凄いよね。リンはチートの位が低いのだ、それでも十分スゴイ事だけれど。

 同じ異世界召喚トリッパーでも、留年はお前だけだ!残念だったな!!




***

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 迎えにいってやれよ せめて、攻略本届けてやれよ …てのはNGでしょうか?wwwww
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