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UMA探索部

「じゃあ、名前を教えてもらっていいかしら?」


 優衣が、優しい先輩を「装って」声をかけた。


「はい……一年B組、柏木美玖ですぅ」


「ミクちゃん……可愛らしい名前ね。私はこの部活の部長で、二年生の小城優衣。で、あっちのちょっと怖いお兄さんが伊達翔太君、私と同じ二年生よ」


 ちょっと怖いは余計だ。ほら、怯えて少ししか俺の方を見てくれないじゃないか。


「で、あの子が柳田雅人君。あなたと同じ一年生よ。もう知っているかな?」


「あ、はいぃ……」


 顔を赤らめたまま、消え入りそうな声でそう返事をする。

 雅人を知っている? じゃあ、やっぱり彼女が……。


「雅人君は、彼女の事、知っている?」


「あっ……えっと、顔を見たことはあります……」


 なんだ、雅人の奴も赤くなってるじゃないか。やっぱり意識しているのか。

 けど、いくらなんでも部活の初日でいきなり予言が的中するものだろうか。

 とはいえ、俺も実際のところどうなのか知りたい。

 俺は優衣を手招きして呼び寄せ、こそこそと話しをする。


(あの子、瞳先生が言ってた子だと思うか?)


(うん、間違いないわ。翔太もあの声、聞き覚えがない?)


 そういえば……一度だけ俺の頭の中に響いた「信じてあげて」という声、やけに幼かったイメージがある。今の彼女のそれも、相当子供っぽい。


(本当なら、瞳先生の予言通りってことになるけど……なあ、それとなく確認してくれないか?)

(私が? ……うん、そうね。デリカシーのない翔太に任せるわけにはいかなし、もちろん雅人君に確認させるわけにもいかないものね。うん。私に任せて)


 優衣の表情が、少しばかり真剣なものに変わる。

 うん、いいぞ。ここは慎重に、それとなく彼女の正体、そして真意を探るんだ。

 優衣はゆっくりと美玖の側に近寄り、こう質問した。


「ミクちゃん……あなた、雅人君のストーカーさんね」


 おいおいおいおいっ!

 そんなストレートな聞き方をしても、認めるわけがないだろう!


「……はい、そうですぅ……ごめんなさいぃ」


 えええええーーーっ! 認めちゃったよ、この子。

 この瞬間、瞳先生は、俺の中で神になった。


 内気そうな美玖は、この後、ひとしきり泣いた。

 けど、優衣も俺も、そして雅人も怒っていない、ということだし、それに部員として歓迎するっていう事を話して、ようやく彼女も少し笑顔を見せるようになった。


 その表情は、優衣とはまた違ったかわいらしさだった。

 雅人も、美玖の事を見つめる時間が長い。なんだ、まんざらでもなさそうじゃないか。

 少し場の雰囲気にも慣れたのか、彼女は少しずつ話し始めた。


 雅人の事は、入学式の日に一目見たときから好きになったという。

 しかし、クラスは別々。内気な性格もあり、話しかけることすらできず、遠くから彼の事を見つめるのが精一杯だったという。


 ところが、その雅人には、憧れの女性がいた。優衣だった。

 しかし、優衣にもまた、付き合っている男性(俺のことらしい)がいた。

 雅人は優衣のことを思う余り、次第に行動をエスカレートさせ、ついには彼女そっくりの造形を作るようになってしまった。


 それをツチノコの罠に入れてしまうところまで、彼女は見ていた。

 警察まで来る大騒ぎになってしまい、自分ではどうしていいか分からなくなってしまったという。

 そしてこれ以上、雅人に優衣のストーカーを続けてほしく無かった美玖は、例の本人にだけ聞こえる呟きを利用して、止めるように促したのだ。


 優衣にも警戒するよう告げたし、俺にも一度、優衣のことを信じるように語りかけた。


「ちょっと待って! そこ。それよ! あなた、テレパシーが使えるの?」


 優衣が美玖の告白に割り込んで、目を輝かせながら質問する。


「いえ、そういうんじゃなくて……これを使ったんですぅ」


 彼女は、小さなマイクと、掌にのるぐらいの左右一体式小型スピーカーを取り出した。


「私が作った、指向性スピーカーですぅ。これを使うと、特定の距離の特定の人にだけ、音声を飛ばすことができるんですぅ。これでピンポイントに話しかけました」


「……なーんだ、そんな仕掛けがあったんだ。超能力じゃないのね」


がっくりとした表情の優衣。しかし俺は、さらなる震撼を覚えた。


「君が作った、だって?」

「はい……市販の小型スピーカーを改良して作りましたぁ」

「これは……それが本当なら、テレパシーどころじゃないぞ!」


 異常に興奮する俺をみて、きょとんとする優衣と雅人。


「指向性スピーカーはいろんな企業や大学で研究されているけど、こんな小型のもの、まだ実用化されていないはずだ!」


 俺は美玖のことを驚嘆の眼差しで見つめた。


「はい……ただ、私もそれ、本当に偶然にできたんですぅ。二個目、三個目も挑戦しましたが、失敗でしたから……」


 どうやら、うまくいったのはこれだけらしい。

 試しに、視聴覚室内で距離をとって実験してみた。

 部屋の角に美玖が立ち、その反対側に優衣、俺、雅人の順に並ぶ。

 美玖が、何かこそっと呟く。


「聞こえたわ!」


 優衣が手を上げた。しかし、俺には何も聞こえない。雅人も同じだ。

 しかし数秒後、


「伊達先輩、聞こえますかぁ?」


 という声が届く。


「聞こえた!」


 思わず俺も手を上げる。

 さらに数秒後、


「えっ……ああ、ありがとう」


 今度は雅人だ。照れながらそう返事をする。ありがとう? 美玖は一体、何を言ったんだろうか。まあ、いいけど。


「へえ、凄いなあ。こういうの得意なのかい?」


 俺はすっかり感心して、彼女にそう尋ねた。


「はい、こういう機械とかぁ、パソコンとかぁ、凄く好きなんですぅ。小学生のころ、昔流行った犬のロボットを分解して、組み立て直したりして遊んでました」


 え、あれを? 小学生で?


「本当に凄いわね。この部活では、ぜひ音響とか機械の設定とか、担当してもらいたいわ」

「はい、ぜひお願いしますぅ!」


 すっかり意気投合した優衣と美玖。そういや、部活なんてものがあったんだ。忘れてた。


「そうそう、話しが脱線したけど、そのスピーカーを使って俺たちに語りかけて来たんだよな? でも最近は聞こえてなかったけど、それはどうして?」


「はい……雅人君が、小城先輩にすべて打ち明けたことで、もう暴走することは無くなると思って……」


「なるほど、なら、君は何も悪い事はしてないな。いや、むしろ、良いことをしていたんだ。俺達になんら謝る事なんてないさ」


「そう言ってもらえると嬉しいですぅ……でも、今度は私自身がどうしていいか分からなくなって……こんなに雅人君の事好きなのにぃ……」


 顔が真っ赤だ。


「それで我慢できなくなって、占い師の瞳先生に相談したんですぅ」

「えっ!」


 美玖以外の三人全員が声を上げた。


「それって、いつの話?」

「えっと……先週の土曜日、午前中ですぅ」

「俺たちが相談に行く前だ……」

「そうね。ミクちゃん、そこで何を話したの?」

「あの……私が知っていること、私がしたこと、わたしの気持ち……全部ですぅ」


 ようやく謎が解けた。どうりで先生、全てお見通しだった訳だ。


「なるほどね……瞳先生、私たちが相談したとき、すでに全部知ってたのね。なのにあえて、それを私たちに言わなかった。ミクちゃん本人に告白させたかったのね。さすがだわ」


 何がさすがなんだか。


「はい。それと、皆さんが予約取っていたの、私知っていたので……どうしても先に相談しておきたかったんですぅ。その事も話すと、先生、『大丈夫、私に任せて』って言ってくれました。そのおかげで、今、こうやって皆さんとお話できてるんですぅ」


 うーん、なかなか深い。こうやって俺たちは、瞳先生の掌の上で遊ばれていたのか。

 いや、結果的には丸くおさまる方向に来ている。やっぱりあの先生、霊能力はともかく、そういった策略、戦略に関しては一流なのかもしれない。


 俺の中で「神」では無くなったが、「天才」ではあると認めよう。たとえそれが詐欺師の才能だったとしても……。


「それと、私、皆さんのお役に立てるかどうか分からなくてぇ……とりあえず、私が撮ったビデオ映像、持ってきたんですけど……」

「えっ……そんなのがあるの? 凄いわね、私たち、まだ一本も撮影できていないのに。ぜひ、見せて!」

「あ、はい……でも、すごく恥ずかしいですぅ……」


 そう言いながらも、一枚のDVDを取り出した。

 早速、それを優衣がプレイヤーに挿入する。

 部屋を暗くして、投写型のプロジェクターにて、大画面で映像が映し出される。


 すると、まず画面にカラフルなラインが現れ、高速にうごめいて多重の影を生んでいる。

 綺麗ではあるが、パソコンのスクリーンセーバーとかに使われる、ごく一般的なものだ。

 しかし数秒の内に、それらが一つにまとまり、折れ曲がって、なにやら記号を作り始めた。


 そしてそのラインが組み合わさり、オブジェクト化され、ピンク色で完成されたその日本語タイトルは……。


『わたしのまーくん(はあと)』


 美玖以外の全員、ドン引き。

 しかし映像はそんな事お構いなしに、先に進んでいく。


 次に映し出されたのは、体育の授業なのか、サッカーボールを蹴りながら校庭を走り続ける雅人の映像。

 うん、なかなかドリブルがうまく、速いな。


 美玖のカメラワークも巧みで、彼をアップで捉え、常にカメラの中心の収めている。

 そしてそのまま二人かわして、シュートを放つ。


 「バシュッー シュー シュー……」


 なんだ、このエコーのかかった効果音は。

 スローモーションで相手ゴールに襲いかかるサッカーボール。


 おお! 空中にあるそれが、なにやら赤いオーラに包まれた!

 土埃を激しく巻き上げながら、相手ゴール目指して飛んでいく。

 うおぉ! 球がいくつにも分裂した! すげぇ!

 さすがにこれにはキーパー、ピクリとも反応できず、そのままゴールネットを揺らした。


 仲間から手荒い祝福を受ける雅人。絶妙のタイミングで、爽やかなBGMが流れる。


 その後は音楽に合わせて、雅人の短編動画が流れ続ける。弾けるような笑顔、躍動感溢れるスポーツシーン。まるでアイドルのプロモーションビデオだ。

 どうやって撮影したのか、サービスカットで授業中の居眠りまで入っている。クラス、別々のはずなのに。


 最初の方は凄いと思ったが……五分も立たないうちに、さすがに飽きてきた。


「ミクちゃん、このDVD、あとどのぐらいあるの?」


 優衣も、もうこれ以上雅人のスペシャル映像を見せられるのは苦痛に感じたようだ。


「えっと、上巻は二時間ぐらいですからぁ、あと一時間五十五分……」

「二時間? しかも上巻ってことは、下巻もあるの?」

「えっと……中巻もあるのでぇ……」


 だめだ、この子のストーカー度、重傷だ。


「な、なるほどね。もう、十分あなたの映像技術の凄さは分かったわ」


 優衣はそういうと、その再生を止めた。

 助かった、と思ったが、雅人はそれどころでなく、再生中は生きた心地がしなかっただろう。

 だいたい、一年生って言うことは、まだ入学してから二ヶ月も経っていないはずだよな? にもかかわらず、これだけのクオリティのものを六時間近く作成したというのだろうか。


「それにしても、凄い技術ね。あのサッカーボールが巻き上げる砂埃とか、分裂する様子とか、全部CGなの?」


「はいぃ、いろんな映画から似たようなのをチョイスして取り込んで、それをちょっと編集したら、あんな感じで映し出せるんですぅ」


「へえ。じゃあ、あの効果音も?」


「はいっ、効果音はもっと手軽に、ネット上にたくさん無料のがあるですぅ」


 なるほど、彼女は確かに「特殊能力」の持ち主だ。これは超能力で「スプーン曲げができる」なんかよりも、ずっと実用的だ。


「すばらしいわ! こういう人材を求めていたの! 雅人君の造形やイラストと合わせて、是非我がUMA探索部で力を発揮して欲しいわ!」


 優衣はすっかり上機嫌だ。

 しかし、雅人はどうなのだろうか。

 俺は雅人の側に行き、そっと聞いてみた。


「雅人、あの子のこと、どう思う?」


「正直ちょっと、怖いですけど……かわいいとは思います」


 照れながら、そう答える彼の表情は明るかった。

 ふむ、本人が気にいっているのならいいかな。ただ、二人とも内気そうだから、うまくいくかどうかは微妙だなあ。


 俺たちの様子をこっそり見ている優衣に向かって、指で小さく「マル」を作る。


 にっこりと微笑む優衣。すぐ側の美玖にこそこそっと耳打ちすると、彼女も嬉しそうに一瞬だけこちらを向いて、そして恥ずかしそうに視線を床に落とす。


 いいなあ、初々しくて。


 「まあ、これで全ての問題は解決したわね。もうこれで不可思議な現象に怯えることもなくなった。それどころか、部員も四人、それも優秀なメンバーばかり集まった。明日からは本格的に活動開始よ!」


 こうして、UMA探索部(正式名称、冒険映像部)は、いろいろあったものの好調なスタートを切った。


 この時点では、あのおぞましい大事件に巻き込まれる事など……いや、既に巻き込まれていた事など、気付くはずもなかった。


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