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「ね、翔太。一緒に瞳先生のところ、行ってくれるよね?」


「またか。でも、今回、はずれたじゃないか」


「はずれ? 何が?」


「瞳先生は、あの生首は生き霊だ、って言ってたんだぜ? でも結果は、ただの作り物だったじゃないか」


「何言ってるの? 大当たりだったじゃない!」


「へっ?」


「瞳先生は、『生き霊の類』って言ったのよ。さらに、こうも言っていたわ。『何者かのあなたに対する憧れ、嫉妬、妬み。そういった感情が具現化して、そういう形を取って出現した』ってね」


「良く覚えているなあ」


「うん。録音してたの、何度も聞いたからね」


「録音! ……なかなかやるなあ」


 こう見えて、優衣も油断できない。


「まあ、それはともかく、凄くない? 私に対するいろんな感情が入り交じった結果、これが作られて、あのツチノコの罠に入ったんじゃない。違う?」


 ……なるほど、そう言われれば的を射た占い結果ではある。


 俺たちの会話のやりとりを、雅人はただ、ぽかんと口を開けて眺めていた。


「あっ……雅人君、ごめんなさい。要は私たち、凄い人を知っているっていうことよ。この週末にでも、一緒に占ってもらいましょう!」


 優衣は相変わらず目を輝かせ、もう待ち遠しくて仕方がない、といった表情だ。本当に超常現象が好きなんだな。


「それで悩みが解決するなら、別に構わないけど。ただし、その前に行かなくちゃならないところがあるだろう?」


 その俺の言葉に、二人はきょとんとしていた。


 土曜日。

 俺と優衣、雅人の三人は、警察署に来ていた。

 もちろん、騒動となった「生首事件」の顛末の報告だ。


 例の二人の刑事、二階堂さんと清水さんも出勤しており、雅人はたっぷりと叱られていた。なぜか付き添いの俺たちまでも叱られたのは納得がいかないが。


 先週には言われなかったが、この手のイタズラは、あのバラバラ事件以降、結構多いらしい。


マネキンの頭を目立つところに捨てているとか、犯行予告文を全く無関係の店舗に送りつけるとか。

 雅人の場合、まだ高校生であること、十分反省していること、俺たちを驚かそうとしただけであったこと、自分で出頭してきたこと、等のため、反省文の提出と厳重注意で済んだ。


 女性刑事の清水さんは、とくにねちねちとイヤミを言ってきていた。美人なだけに、性格がきついのはちょっと残念だ。


 後から二階堂さんに、彼女もバラバラ事件担当で、思うように手がかりが得られていないからイライラしている、と聞かされて妙に納得した。そんな状況であの生首騒動があったんだから、そりゃ怒って当然だろうな。


 そしてようやく解放されたその足で、あらかじめ予約していた「半インチキ?」霊能力者、瞳先生の元へと向かった。


「生き霊の仕業ね」


 瞳先生は、雅人の顔を見ながらそう断言した。

 この人、どんな事柄も生き霊の仕業にしているんじゃないだろうか。


「ある人物のあなたに対する憧れ、嫉妬、妬み、そういった感情が、あなたに不可思議な現象として出現したのよ」


 それも、前に何か似たような台詞を聞いたんですけど。


「それってひょっとして、雅人君の事を好きな女の子がいるっていう事ですか?」


 優衣が興味深げに尋ねる。


「まあ、ずばり言えば、そうなるわね。その子の潜在意識のしわざで、いろんな特異な現象が起きているのよ」


「じゃあ、私たちが聞いた女の子の声って、もしかして、テレパシーのようなもの?」


 ほら、また優衣の目が輝きだした。


「そうね。その女の子は、何か特殊能力を持っているみたいだわ」


「凄い! エスパーなんですね!」


「あら、あなたの方が霊能力者としての潜在能力は高いのよ。まだ自分でそれに気付いていないだけ」

「そうなんですか! ねえ、翔太、私も霊能力者だって。どうしよう?」


 ……好きにしてください。


「まあ、厳密に言えばそんなたいそうな物じゃなくて、単なるイタズラ好きな女の子、って考えられるわ。同じ学校の子みたいよ」


「……でも、こそこそと隠れて相手の事をつけ回してイタズラしてるんだったら、それってストーカーですよね?」


 会話の流れにちょっとイラッとしていた俺は、すこしイヤミっぽく質問してみた。


「うーん、でも、それをストーカーと呼ぶならば、雅人君も優衣ちゃんのストーカーだったのよね?」


「まあ、そりゃそうですけど……あれ?」


 と、ここである疑問が浮かんだ。


「優衣、雅人がお前を追いかけてたこと、先生に言ったのか?」


「私? ううん、言ってないよ」


 雅人の顔を見るが、彼も顔を横に振っている。


「先生、どうしてその事、知っているんですか?」


「あら、私は占い師でもあるのよ。そのぐらいお見通しだわ」


 なにっーー! ……うむむっ、なかなか凄いじゃないか!

 何かカラクリがあるのかもしれないが、雅人がストーカーだった事を知っているとは。


 そういえば今回の件、雅人が優衣を追いかけていたことまで、警察にすべて話している。まさか、裏で警察と通じているのか?


 はっ! ならばひょっとしてこの先生、占いと称して個人情報を集め、それを警察に高額で売っているとか……。


「失礼ね、そんなことしないわよ!」


 ええええええっ! どうして、俺の心の中が読めるんだ!


「読めるも何も、さっきからぶつぶつと声に出してたじゃない」


 ああ、そういやそうだった。俺、テンパると思っている言葉をつぶやいてしまう癖があるんだった。


「先生、それで、その女の子に、どうやったら会えるんでしょうか?」


 優衣が構わず質問をする。


「そうね……彼女も、雅人君と恋人同士になりたいって考えていると思うの。でも、相当な恥ずかしがり屋さんね。こちらから追っても逃げるばっかりだわ。向こうから自然と声をかけてくるのを待つしかないわね」


 それって、つまり何もせず待てっていうことでは。

 うっ、瞳先生の厳しい視線が飛んできた。今度は呟いていないけど、心を読まれたか? ここは一つ、なにか適当なアイデアでも出してごまかさねば。


「なあ、優衣。雅人を入れて三人で新しく部活作るって言ったよな? だったら、そこで部員を募集してみればいいんじゃないか? ひょっとしたらその子も入部してくるかもしれないだろう」


 こんな怪しい部、本当に恥ずかしがり屋の女の子なら、まず来ることはないだろうけど。


 ……あれ、反対意見が出ない。


「ふうん、なかなか良いアイデアだわ。それならその女の子も、見学ぐらいには行く可能性があるわね。……ううん、必ず行くわ」


 瞳先生が自信満々に断言する。よかった、俺に対する敵意が薄れたようだ。


「うん、翔太にしては上出来だわ。これで雅人君には彼女ができる、そしてその子も憧れの雅人君と恋人になれる。そして私たちにとって、念願の新しい部員、しかも超能力少女が仲間になる。凄いわ、完璧じゃない!」


 大はしゃぎの優衣とは対照的に、雅人はなんとも複雑な表情だ。


 優衣、おまえは男心が分かっていない。

 雅人はまだ、おまえの事が好きなんだぜ。

 おまえは、「私の事は諦めて、その女の子と恋人同士になってね」と、間接的にだけど言っているようなもんなんだ。


 それにまだ、雅人に憧れている女の子がいるなんていうのも単なる憶測(占い)に過ぎないし、仮にそんな子がいたとしても、雅人がその子のことを気にいるかどうか分からない。


 雅人は顔の作りがやや童顔ながら、なかなかの美形だ。優衣に憧れている事からも、かなり面食いの様に思う。


 けど、そうそう優衣レベルの女の子がいるはずもないし、そんなにうまくいくはずがないだろう。雅人、自分のことを優衣が何とも思っていないと知って、内心かなりがっかりしているだろうな。


 まあ、俺としても雅人に彼女が出来ればそれはそれで文句がない。優衣を取られる心配が無くなるんだから。ただ、本人が納得するかなあ。


「ね、雅人君も、その女の子に会ってみたいよね?」


 ああ、さらに追い打ちをかけるような優衣の言葉だ。


「本当にそんな子がいるなら、会ってみたいです」


 ……なんだ、雅人も結構その気だったのか。


 その日以降、どういうわけか不思議現象は起きなくなった。

 あのテレパシー? による声も、雅人の金縛りも。

 精神的な何かだったのだろうか。


 そして翌週の火曜日には、新しい部活が承認された。

 正式名称は「冒険映像部」


 優衣としては、本当は「UMA探索部」として提出したらしいのだが、「UMA」を未確認生物の意味であると説明した時点で却下されたということだ。まあ、俺はそんな恥ずかしい部の名前に所属したくなかったので、ちょっと子供っぽいけど、今のでいいや。


 ところが、優衣は部員募集のポスターを、既に「UMA探索部」で作り始めていたので、その名称を大きく、そして下の方に小さく「正式名 冒険映像部」とだけ書いた物を張り出すことになった。


 正直、やめて欲しかった。

 しかし、このポスターのイラストが実にすばらしい!


 ツチノコの絵も入っているのだが、これがリアルな割にグロくなく、むしろかっこいい。鎌首をもたげ、獲物を狙う鋭い目、そして開けた口から覗く鋭い牙。ツチノコって、こんなに強そうなんだな。


 他にも、水竜(これはネッシー? ほとんどゲームのボスキャラ)やオオカミ(これは絶滅した日本オオカミ。今もまだ生きているという説がある)がしびれるほどかっこよく書かれており、それに挑む男女の冒険者も、映画「イン○ィ・ジョー○ズ」の一シーンかのように勇壮に描かれている。


 もちろん、これは雅人の作画。彼は造形だけでなく、こういうイラストや絵画分野でも飛び抜けた才能を持っている。正直、売り物になりそうなぐらいできが良い。


 ただ、残念な事に「UMA探索部」の文字が入るだけでうさんくさくなるのだ。


 しかし優衣はご満悦。これで部員十人は入ってくるはず、と意気込んでいる。

 俺は誰も来ないと思っているが、募集を開始した以上、とりあえず待つしかない。


 部室としてあてがわれたのは、使われる頻度の少ない「視聴覚室」。


 ここには各種映像再生機器がそろっているので、映像をメインに扱うであろう我々にとってはベストな場所だ。なかなか快適。

 四、五十人は座れるだけの座席に、今はたった三人。ちょっと寂しさすら感じる。


「えーっと、じゃあ、早速部活動を始めます! まず、部長の私が、皆さんに挨拶を!」


 みなさんて、お前の他に俺と雅人しかいないだろう。


「わが冒険映像部は、『綾樫市を舞台とした冒険映像を撮影することにより、綾樫市の歴史や文化を調査・研究し、文化祭などで全校生徒に広く知ってもらう』ことを目的としています。『冒険』としたのは、その方が一般生徒の興味をひきやすい、と考えたからです。もちろん、綾樫市に不思議な昔話や伝説が多いことも関連しています」


 そうそう、そうやって部活の意義を強調して、なんとか認められたんだったな。


「でも、正直なところ、何かしら大発見してその映像を公開し、世間をあっと言わせたいとも考えています!」


 うん、それが本音だな。


「あと、もう一つ……あれ?」


 優衣が得意げに行っていた演説を、一旦中断した。


「誰か、扉の向こうに居るみたい。入部希望者かな?」


 この部屋と廊下を隔てるドアの窓は掏りガラスになっていて、ぼんやりと黒い影が映っていた。

 優衣は嬉しそうに駆け寄って、その扉をガラガラと開けた。


「あっ……」


 驚いたのか、ビクッと肩を持ち上げた女子生徒。


 小柄な優衣よりもさらに小柄で、中学生にしか見えないほど幼い顔つき。

 細身だが、たまご型の可愛らしい輪郭に、少し細めながら綺麗な目、そして小さな鼻、口がちょこんと乗っかっている。


 髪の毛は短めで、肩まで届くか、届かないかぐらい。もちろん染めたりもしておらず、さらさらのストレートだ。

 ちょっと怯えたような、焦ったような顔つきで、きょどっている。


「あら、可愛らしい一年生ね。入部希望? 見学だけでもいいから、どうぞ、入って」


 制服の襟元を見れば、学年が分かる。優衣が強引に下級生を視聴覚室に招き入れた。

 おどおどしながら、それでも優衣の後に続く女子生徒。促されるままに椅子に座った。


 全員、彼女に注目する。


 これは……この子のイメージは、瞳先生が言っていた「相当な恥ずかしがり屋の」女の子そのものではないだろうか?


 優衣が、「ほら、見なさいよ」というような得意げな顔で、俺にウインクを飛ばしてくる。

 でも、まさか、そんなにうまい事いくものなのか。


 雅人も気付いたらしく、ちょっとどぎまぎしている。

 そんな彼の顔を一瞬見て、顔を赤くして下を向く少女。


 こ……これはまさか、本当に?


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