第1章 Part1「旅人と少年」
処女作です。まだまだ不慣れなもので、ストーリー、構成共に不十分であり見苦しいところもあります。
できれば一度読んでいただき、叶うならご感想を残していただければ幸いです。
では、旅人の気ままな旅をどうぞ
雨上がりのとある町
頬をかすめる風は、ほのかに水の香りを含んでいる。
じっくりと水分を吸った地面は柔らかく、
吸収しきれなかった水が小さな池を作って日の光を反射させる鏡になっていた。
その水溜りの上を飛び跳ねるように、小さな飛沫を立てて歩く旅人が一人。
とても機嫌がいいのか、どこかで聞いた事のあるようなフレーズの鼻歌を歌っていた。
すれ違う人々はその歌に振り向き、その歌声に感嘆するが、
すぐに何事もなかったよかのように、また各々の仕事へと戻っていった。
そんな中、一人の旅人は空を見上げる
「今日も いい天気だな」
走っている。
視界に入っては流れる見慣れた商店街、
整備の行き届いた石畳を強く蹴り上げるたびに、足の裏から強い衝撃を感じる。
胸元に抱える本は厚く、見た目に反して軽い。
何度も息が途切れ、躓きそうになるたびに心臓が止まりそうになる。
あぁちゃんと運動すれば良かった。とぼんやり考えながらも、動く足は止めなかった。
ちらり、少しだけ後ろを振り向く。
そこには、足を止められない原因がいた(・・)
「おい待てぇぇ!!!」
「大人しくしろぉぉ!!!」
ざっと数えて、5,6人ぐらいだろうか。
相も変わらず、飽きもせず、ガタイのいい男達が追いかけていた。
じりじりと近付くその距離に焦り、僕は視線を前に向けた。
(こ、怖い!!やっぱり怖い!!)
息が続かないせいで声にならない悲鳴を心の中で叫ぶ。
止まりそうになる足を何とか突き動かし、視界に入った十字路の右を曲がった。
そのすぐ先には大きな黒い影
「ーっ!」
勢いが止まらず前に倒れそうになるのを辛うじて耐え、目の前の障壁を見上げた。
追ってきた男たちよりも一回り大きく、隆々とした筋肉がよく目立つ。
口元は無精髭に覆われ、目付きは鋭い。その顔はつい先程知ったばかりだ。
比喩するなら熊のようだ、と思う。
その熊…もとい、大男は、視線を僕の後ろへ移す。
つられて後ろを振り返り、唇を咬んだ。
そこには、息を切らす男共の姿。
挟み撃ちにされてしまったようだ。
「おい、坊主」
僕をとおせんぼした張本人が、低く、重みのある声で呼び掛けた。
「悪い事は言わん。その本を渡してもらおうか」
後ろで待機する男共より幾分か落ち着いた声は、それだけで強い圧力を感じた。
疲れが癒えたのか、男共は息を整え、じりじりと近付いてくる。
答えによっては、傷一つなくこの危機を乗り越えられるだろう。
ただし、その時は手の中の本が犠牲になる。
逆に本を守るのであれば、その後、五体満足でいられるかさえ疑問だ。
そこまで考えが行き着いて、どう足掻いても選択肢は二つしかない事に絶望した。
(痛いのは…嫌だな…)
鋭い眼光と剥き出しの敵意に押され、焦燥感から心臓が早鐘を打つ。
(そもそもそんなに鍛えてるわけじゃないし、
あの筋肉の固まりに殴られたら、僕なんか一瞬で潰れるだろうな)
口に溜まっていた生唾を飲み込み、喉仏がごくりと音を鳴らす。
(分かってる。今、僕が言うべき台詞は)
迫り来る恐怖心を抑えつけて、僕は叫んだ。
「嫌っっですっっ!!!!!」
思い切って叫んだ声は、予想していたよりも遥かに大きく、
自分の喉から出たのかどうかすら、疑わしいほどで。
少なくとも、商店街全体には響いたらしい
(使っちゃった(、、、、、、)…かな?)
恐る恐る、顔を上げて男達の様子を伺う。
男共は呆然と、阿呆みたいに口を開けていた。そんなに意外だったの。
暫くして、ハッと我に返ったようで
「お、驚かせやがって…!」
「ただの強がりかよ…」
大したない事で自分達が驚いた事が恥ずかしかったのか、
そう思わせるような行動をした自分が腹立たしいのか、男共の顔には朱が入っていた。
かなり興奮した面持ちで、そこに冷静さなどは一切ない。
じり、じり、と興奮気味の男たちは近付いて来る。
自然と円を描くように距離を縮めていく。
僕は離れようと、一歩ずつ後ずさる。
何歩か後退したその時、
ドン と背中に何かが当たる
それを壁であると認識すると同時に、逃げ場がなくなってしまったのを悟った。
僕と男の間は、腕を伸ばせば届くか届かないかの距離
目の前の、一人の男が一歩前に出た。
その目は獲物を捉えた捕食動物のようで、反射的に身を固くなる。
男は野獣のような怒声を発しながら、右手を構え、真っ直ぐ突き出した
それを避ける力など当然なく、本をぎゅっと抱きしめた。
来るべき衝撃と痛みに耐えようと、同時に顔を背け、瞼も強く閉じる
「…ほい」
誰かの、間の抜けた声が聞こえた
聞こえた、という事はかなり近いということで、
今男に囲まれている自分に近い位置にいるのだから、それはかなり危険なのではないか?
そこまで考えて、僕は気付いた。
いつまでたっても、来るべき衝撃と痛みが来ない事に
恐る恐る、瞼を開く
急に目に飛び込んだ強い光度にしかめる。
次第に落ち着いた視界には、なんというか、信じられない光景が映っていた。
まず目に入ったのは、誰かの背中。
ローブのように長い水色は、空に溶け込みそうな色合いで、
頭部は白い外套で覆われていて、髪の毛も見えなければ表情は伺えない。
そして何より信じがたいのが、男の降り下ろされた右手を片手で受け止めていた(・・・・・・・・・・)ことだ。
目の前の人物の腕は、どう見たって男の二回りも細い。
質量的にも圧倒的に男の方にあると思われた腕力は、しかし確かに止められているのである。
彼(もしくは彼女)から奥を見れば、右腕の主の目は驚愕に開かれている。
今までの流れを知らない人間が見たらただの間抜けた酔っぱらいに見えたかもしれない。
だがよく見ればその腕は僅かに震えており、浮かんだ血管からも男は一切の手加減もなかったことを現していた。
目の前の青い人物は、まさに呆れたように息をつく。
「暴力、かぁ…誉められたもんじゃねぇな」
そこから吐き出された声は、男とも女とも言いがたい、しかし中性的とも言えない声だった
「…っ!?」
ただ呟いた。それだけなのに、本能は大きな何かを感じたらしく、ぞっと鳥肌が立った。
先程男に殴りかかれた時のような恐怖とはまた違った、感覚だった。
それを聞いた男は、早くも驚愕から立ち直ったのか、青い人物から自分の拳を振りほどく。
青い人物は元から拘束する気はなかったようで、さして衝撃はなかったようだ。
「てめぇ…ナメやがって…!」
プライドが高いのか器が小さいのか、恐らく後者であろう男の目は充血している。
その怒りそのままに今度は青い人物目掛けて拳を突き出した。
ハッとなり、咄嗟に危険を知らせようと口が開く。
「危な…っ」
その言葉は途中で途切れたのは、顔のすぐ隣を「何か」が通過したからだ。
目視すら出来なかった「何か」を確かめるべく、恐る恐る後ろを振り向いた。
そこには
目を真っ白に剥き、上下逆、まさに無様な姿で壁に叩きつけられている男の姿があった。
男と面した壁にはヒビが入り、その速度と威力を表している。
この時は全く理解が追いつかなかったのだけど、現場にいた戦士の人曰く、
『男の突き出した拳を、左を僅かに後ろへ下げる事で回避、
そのまま回転しつつ右手を男の二の腕の下に、左手を腕の上に持ち、
身体の重心を前に持っていくように投げた(・・・)』
らしい。
戦士の人も最初は信じられなかったようで、何度も首を捻っていた。
振り返ると、自分よりも二回りも大きい男を投げた張本人がいた。
初めて見るその顔は、やはり白い外套が邪魔をして全体は分からなかった。
僅かに見える髪の毛は山吹色(黄と橙を足して2で割った感じ)で、
そこから除く瞳は、よく澄んだ、それも奥の知れない深みを持った蒼だった。
蒼い瞳を細め、目の前の張本人は呟く。
「…図体がでかい割には、脆いな」
少し挑戦的な、呟きだった。
次の展開は考えてありますが、ストックにはしていません
なので更新速度はかなり遅いです。ご了承を