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side一美
二日後。
今日は、通学路を歩いていた。全行程を。
「おっ!ターゲット発見」
そんな声が、後ろから聞こえてきた。
「春菜、おはよう」
「ハロハロ~」
いつもながらの軽快なノリの挨拶だ。
「おはようや、お二人さん」
あら、今日は菜々美の合流が早い。
「さすがに、昨日はガッコに来られなかったか」
「なんだかんだで、いろんな検査をされたからねぇ」
昨日の光景は…もう思い出したくない。
「で、検査の結果は?」
早速、春菜が例の話題を振ってきた。
「取りあえず、異常なし」
「取りあえず?何かおまけがあるんか?」
「向こう一週間、運動禁止、だってさ」
あらぁ~、と同じ台詞が二人から漏れた。
「おまけの部分は、母さんからの要望だけどね」
私は、自嘲気味に笑った。
「まぁ、頭だし。おば…美紗子さんが心配するのも仕方がないって」
今ここには母さんはいないから、言い直さなくってもいいってば(笑)。
「なら、週末のバスケの助っ人は…中止やね」
またの機会に…ってことで、今日謝りに行ってくる。
「事情が事情だし、分かってくれるよ」
「ほんなら、代わりに…」
代わりに?な、何か嫌な予感…。
「ちょう、ウチの部に見学に来ぃへんか?」
け、見学ぅ~?
「せや。見学…ちゅうより、コーチに来てくれへん?」
あのぉ~、見学とコーチじゃ、だいぶ違うんですけど?
「県大会も近いし、お願いや~」
お願いや~言われても…。
まさか、あの部長が絡んでるとか?
「いややわぁ、予定が空いたの今やん。これは、ウチからの依頼。部長には、ウチから話すさかい」
そうだった。たった今、スケジュールが空いたばっかなのに、部長が絡んでくるはずはない。意識しすぎかな?
「ま、いっか。部長のガード、頼むよ?」
「まかしとき」
「じゃあ、ついでにあたしんとこも…」
「却下。なによ、ついでって…」
春菜のバレー部は、元オリンピック強化選手な人が顧問でしょうに。私の出る幕はないの。
「あ、そうだ二人とも。後で休んだ分のノート見せて」
「まっかせなさいっ!理数系はあたしが…」
「文系は、ウチの担当やもんな」
…などと言っているが、実は二人とも頭がいい。
学年の十番以内を、三つ巴の争いをしているくらいだ。
大抵、私が三人の中でトップ、そのときの調子で春菜と菜々美の順位が入れ替わる。さすがに、ガリ勉屋さんには敵わないが、私を含めて文武両道を地でいく三人組として一目置かれているみたい。
色々なたわいもない話しをしながら三人で歩いていくと、一人の女の子が私達を走って追い越していった。そのときは別に気にも留めなかったが、その子は校門の約十メートル手前でピタリと止まった。それで気がついた。
「あの子…」
「ん、どったの?」
「ほら、あの子」
「……あぁ、この前の子やん」
そう、この間私に衝突した彼女だ。
藤宮千夏ちゃん…だっけな。
立ち止まって、深呼吸を繰り返している。
幾度か、立ち位置を変えている。しかも細かく。
「何をしてんの?彼女」
「しっ!黙って見とき」
そして、動作が止まったと思われた瞬間、彼女は走り出した!
一歩一歩、タイミングを計りながらしっかりとしたステップで校門へ近づいていく。
「へぇ、しっかりとしたステップじゃない」
思わず、感想を漏らしていた。躍動感があると言ってもいいくらいだ。
そうこうしてるうちに、校門へ差し掛かる彼女。
次の瞬間、ジャンプ!
…と言うより、トンッ、と軽く飛んだだけだった。
「まぁ…」
「砂場やないしな…」
本気で飛んだら、砂利で足を滑らせてお尻を打っちゃうしね。
これが、彼女が毎朝している『練習』かぁ。人気が少ないときはいいけど、この前な時間だと……まぁ、この前は遅刻寸前だったし、そこまで余裕がなかったか。
「なかなかいい助走だったよ」
私は自然に、彼女に声をかけていた。
「え……?」
突然声をかけられてビックリしたのか、驚いてこちらを振り向いた。そして、
「あっ!」
私とわかった途端、さらに驚かれた。
「幅跳びが得意なだけあるじゃん」
「無駄のない動きやったよ」
他の二人も個々に感想を述べた。
「あ…ああ…あああ……」
あれ、様子がおかしいぞ?顔もなぜか真っ赤になってるし…。
「ししし、失礼しまっす!」
そう言い残すと、脱兎のごとく私達の前から離脱していった。
「「「………」」」
ぽか~んと、取り残された私達。
いち早く復活したのは、春菜だった。
「なんだぁ?あの態度。先輩を何だと思っとるんじゃあああああっ!」
スパーンッ!
「あだっ!なにするさー」
「やかましいって」
おぉ、珍しく菜々美がツッコミを入れている…って、そのハリセンはどこから?
「関西人の常備品やよ」
吉○芸人以外は持っていないと思います(その認識もどうかと…)。
「しかし、何で逃げ出したんやろ?」
「いちみを見た途端、だったよな」
「ウチら、アウトオブ眼中やったなぁ」
十中八九、あのせいだ。
勢い余って告白しちゃったのが一昨日。
いくら忘れてくれと言っても、告った相手が目の前に現れたら、そりゃあ恥ずかしくて逃げ出しちゃうよなぁ。
「「じー……」」
なぜか、二人の視線が私に突き刺さっている。
「いっちゃん、一昨日…」
「あたしらが帰った後…」
「「何かあった?」」
一時限が始まる少し前の2―D教室。
私は、燃え尽きて自分の机に突っ伏していた。
キーンコーンカーンコーン…
ガララッ!
「きりーつ、礼、着席ー」
ガタガタガタ…
「では、授業を…おい、大河。どうした、なに白くなってんだ?」
「…もう…何も…出ません…勘弁して…」
「な、なんだぁ?」
ドッ!
クラスが笑いに包まれていた。
ツカツカツカ…
パコン!
「あいたぁっ!」
「何があったか知らんが、しゃんとしろ」
教科書で軽くはたかれたらしい。
「暴力反対~」
「なら、普通に前を向いててくれ」
「…は~い」
あ~あ、怒られちゃったよ。
「クックックッ…」
ん?前を見ると、春菜が笑いを抑えていた。
ムカムカ~っ!
あまりにもムカついたので、先生が黒板に板書しているタイミングを見計らって、
(天誅っ!)
スパーンッ!
春菜の後頭部をノートではたいてやった。
「いったーっ!」
突然の大声に、教室中が注目する。
「何かな?等々力」
「い、いえ~。何でも~」
ゲラゲラと、みんなが笑っていた。
(何すんのよっ!)
(元はと言えば、あんたのせいよっ!)
(へーへー、悪うござんしたね)
(まったく…)
小声で悪態をつきあう私と春菜。
朝の出来事の後、私は悪友(もう、親友じゃないよ)二人に一昨日の事の顛末を、自分のクラスに着くまで根こそぎ尋問された。
さらに、告白されたことをクラスでバラされてしまい、大騒ぎとなった。
『まさか、あの子に告られるとはねぇ…』
『何々~、告白ぅ~っ?』
『誰か告られたの?』
『そこのスポーツ万能娘』
『え~~~~~っ!?』
『え~って何よ!勢いで口が滑っただけよ…たぶん』
『何人目よ?』
『はぁ?』
『告られるの、何人目?』
『ちょ、待って。確かに手紙とかは貰うけど、女の子から告白なんて初めてよ?』
『へぇ~~~~っ、意外ねぇ…』
『あんたら、私をどんなだと思ってるのよ…』
『ちなみに、相手は?』
『陸上部の下級生や』
『ちょっ、そこまでバラすのっ?』
『勢いとはいえ…』
『告るなんて、勇気あるわね~』
『うん、ウチもビックリや』
『一番驚いてるの、本人なんですけど…』
『しっかし、三人組の中から、一美を選ぶとは…』
『人を見る目はあるよね~』
『ちょっと待て。すると何かい?あたしはダメな女かいっ!?』
『ハルは、外見はいいとしても…』
『性格がねぇ~?』
『あんたら~っ!絶望した!このクラスに絶望したっ!』
『もう、ほっといて…』
以上、回想終わり。
そんなこともあって、授業にも身が入らない。
いつしか、私は窓の外を見ていた。
どこかのクラスが、グラウンドで体育の授業をやっていた。
ソフトボールをやっているようだった。
しばらく、その光景を眺めていた。
なかなか白熱したゲームみたいだね。
…ん?
あ、あの子…。
バッターボックスに立った子を見て、ハッとなった。
彼女のクラスだったのか。
構えは…まあまあ形にはなってるね。
状況は…ランナー一、二塁。
カウントは…立ったばかりだからおそらく0―0。
一球目。
ストライクのコール。微動だにしなかった。
慎重に見たのかな?
二球目。
ぶんっ、という音が聞こえそうなスイング。だが、ボールは飛んでいっていない。
当然、ストライク。
三球目。
フルスイング!…したはいいけど、あらら、尻餅着いちゃったよ。
ボールは…キャッチャーミットの中。
スイングアウト、三振。
「あらぁ~、残念」
小さな声でつぶやいた。
「私も残念だよ」
「それは奇遇だ……ね……?」
気がついたときは、時すでに遅し。私の横には、先生が立っていた。
「授業そっちのけで、ソフト観戦か?」
「あはは………、すみません」
「…放課後、職員室へ出頭せよ。復唱!」
「大河一美、放課後職員室へ出頭します!」
「うむ、では授業を再開する」
やっちゃったぁ…。
あ、春菜がまた笑いを堪えてる。
今回は自業自得だけど、彼女に笑われると無性に腹が立つのよねぇ。ストレス解消に、またはたいてやろうかしら。
日付が進みまして…
一美が教室で大変なことにw
火付け役は、もちろん春菜^^
途中、気になる台詞があると思いますが
華麗にスルーしてください(ぇ




