4
side千夏
はっ、はっ、はっ……。
ん?あれ、ここは…?
いつの間にか、病院を飛び出していたらしい。
「ふぅ~、っはぁ~っ」
立ち止まり、息を整える。
そうしている内に、だんだんと先ほどのシーンを思い出していた。
「まさか、口が滑ってしまうとは…」
まいったなぁ。ごく一部の友人にしか打ち明けていなかった気持ちを、勢いで、しかも本人の前で打ち明けてしまうとは…。
でも、事故とはいえ忘れて欲しくなかった。憧れの先輩との…キス。
大河先輩を初めて知ったのは、入学式。
何かの手伝いで、式典に参加されていたようだった。
そのときは、女子なのに背が高い人だな~、という程度。
その後、部活動を決めるための仮入部期間で陸上部に行ったとき、デモンストレーションで百メートル走が行われた。
その時、なんと他の部員に混じって、大河先輩が走ったのだ。
結果は、接戦の末の一着。既に一目置かれていたとはいえ、、部員をを押さえて一着とは…衝撃的な事実に驚いていた自分がいた。
それから、色んな噂を聞いた。
テストでは、必ず学年上位にいるとか、スポーツ万能で時々助っ人をしてるとか、あまつさえコーチみたいなこともしてるとか…。
実は、先輩達と絡んだのはこの前の事故が初めてじゃない。
過去に廊下でぶつかったことがある。
あのときは、前が見えないくらいの資料を抱えて、準備室を出た瞬間にぶつかった。
実際には、もう一人の背の高い人にぶつかったのだが…。
ドンッ!
「きゃぁっ!」
「うわっとぉっ!」
バサバサッ!
あ、床に倒れる…。
……………。
あれ?衝撃がこない…。
「だ、大丈夫?」
状況を確認。
なんと、大河先輩が下に潜り込んで私を受け止めてる!?
「いっちゃん、間に合うた?」
「ん、なんとか」
「せやったら、こっちを何とかして~。ハルが重くて」
「重いとはしつれーなっ!」
ぶつかった本人は、もう一人いた生徒を押し倒していた。
「もう一度聞くけど、大丈夫?怪我はない?」
「は、はい…」
「良かった。それじゃあ起こして…っと。さて、あっちも救出するとしますか」
「早うして~。胸がつぶれる~」
「そこまで重いのか、あたしはっ!」
「誰にでもない、ハルにつぶされるのだけは堪忍や~」
「そこまで言うかっ!菜々に絶望するぞ」
「もう、漫才はいいから、ほら」
ハルと言われた背の高い人を引きはがす。
「いったい、なにが起きたんだぁ~?」
「春菜の前方不注視」
「原因はあたしかいっ!」
「…すいません。私が注意してなかったから」
原因の一つである私は、平謝りする。
「いいんよ。全てハルが悪いんやから」
「…友達やめるぞ?」
「それよりも、散らばった物を回収しよう」
「おぉ、とんでもないことになってるなぁ」
「スルーですか…しくしく」
先輩の一言で、資料を回収し始めるみんな。
「あわわ、私やりますぅ」
「いいよ、みんなでやった方が早いしね?」
そういっている間も手は止まらない。ものの一分で、ばらまいた全てを回収してしまった。
「ね、早かったでしょ?」
「あ、有り難う…ございます」
私は、しどろもどろに返事をしてしまった。
「春菜も悪いけど、貴女も気をつけてね?」
「まだ言うか」
ぶつかった本人にも謝らないと。
「すいませんでした」
「いいよいいよ。後でいちみを締め上げるから」
「…ほぉ~っ、後ろを振り向いた瞬間にぶつかったのに、そういう台詞を吐くんだぁ~」
先輩の背後から、どす黒いオーラが見えた…気がした。
「あ、あはは…そうだったかなぁ~?……ゴメンなさいスイマセン勘弁して下さい」
「そちらさんも気ぃつけてな。早ぅ戻ろ」
「そうね。それじゃ」
三人組の先輩方はそう言って去っていった。
程なくして、友人の一人が駆けつけてきた。
「千夏~!すんごいラッキーじゃないのっ!」
「ら、ラッキー?」
「だってあのお三方が、かの有名な『文武両道三人組』なんだよ?」
文武両道…三人組?
「そう。三年の先輩を差し置いて、人気上昇中の」
そうなんだ…。
「わたしら後輩では、なかなかお近づきになれない方達だよ。知らなかったの?」
「一番背の高い人だけは、知ってたんだけど…」
「…何々?ひょっとして、ホレちゃった?」
ば!バカなことを…ううん、そうかも。
もの凄くしっかりしていて、トラブルにも動じずに対処してたし、何より抱きしめられちゃったし…。
「ははは、顔真っ赤だよん?」
ええっ?!
そんなことがあって以来、私は先輩を密かに想い続けてきた。
それなのに…。
いきなりあんな告白をして、先輩引いちゃったかな?
しかも、逃げ帰ってきちゃったし…。
あぁ、これから先輩にあったとき、どういう顔をすればいいの~っ?
病院飛び出した後の千夏視点です
3人組との馴れ初め?な感じです
…なんか、ぶつかってばっかだなw