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side一美


「お疲れ、一美」

「あ、母さん。病室で待っていたの?」

 自宅近くの総合病院。診察受付をしたら即、MRI検査室に誘導されて入念に検査された後に、先生の指示であてがわれた病室に移動したら、母さんが待っていた。

 大河美紗子(みさこ)。私の母親。ここの総合病院で外科の看護師長をしている。

「ううん、たった今来たところよ。休憩もらってね」

 師長だからって、サボってないでしょうね。

「莫迦なこと言わないの。色々手配したりなんだりで、バタバタしてたのよ?」

 そのおかげで、一晩の検査入院ってことになってるんですけど…?

「やっぱ、頭に関しては軽視できないって、脳外科の先生も言ってたわ」

 専門医が言うから、そうなのかな。

「あ、携帯貸して。友達にメール入れたいから」

「はいはい」

 病院内では、電磁波などの関係で普通の携帯電話が使えない。ので、母さんなど病院で働いてる人は、電波出力が小さい専用の携帯を使用している。それを借りないことには、連絡手段は廊下の公衆電話しかない。

「これで…よし、と」

 病院一泊の旨と、病室番号を春菜に送った。うちの母のメルアドを知ってるのは、私の友人関係では春菜だけなので、彼女に情報を送れば後はうまくやってくれる。

「しかし、一美が事故に遭うなんて…」

「相手の前方不注視による衝突事故、ってとこかしら」

「そこで、叔父さんの真似をしないの」

「はは…似てた?」

「口調はね」

 親戚の叔父は、交通課に勤務する警察官。事故現場で陣頭指揮を執る、え~と、何だっけ…役職を聞いたんだけど、忘れちゃった。たまに遊びに行って、ニュースなんかで事故の話題が出ると、先ほどの口調で原因とか色々なことを説明してくれる、強面だけど優しい人なのだ。ちなみに、うちの父親はごく普通のサラリーマン。特徴は…特にないか(笑)

「打ったのは、額だけ?倒れたときに後頭部を打たなかった?」

「とっさに春菜が、身体を滑り込ませようとしたらしいけど、間に合わなくて後頭部も打ったみたい。春菜は『お尻打った~』ってわめいていたらしいけど」

「そう…でもさすがは春ちゃん。バレーやってるからこその反応かしらね」

 たまたま隣にいた、ってのもあると思うけどね。でも、よくあそこから身体が動いたよな~。

「頭痛以外にどっか悪いところない?」

「悪いとこも何も、頭突きの瞬間に気を失って…」

 何か…他の感覚が…何か柔ら…かく…て……あっ!

「何か悪いところあるの?」

 ま…まさか…まさか…!

 私、ぶつかった拍子に…キ…キ…キスしちゃった?

「どうしたの?赤くなっちゃって」

 し、しかも、唇とくちび…

「~~~~~~~~~っ!」

 恥ずかしさのあまり、布団を頭から被る。

「何をしてるの。…やっぱり、何か影響が…」

「そうじゃないっ!そうじゃない…けど…」

 ナースコールをしようとしてるのを、全力で止めさせる。

「思い出したくないことを、思い出しただけよ」

「ふ~ん」

 そりゃ、そうですよ。事故とはいえ、キスですよ、キス。しかも女の子と…母さんでも、こんな事言えないよ。

「キスがそんなに恥ずかしい?」

 はうあっ!な、なぜわかったの?

「独り言、大きいわよ?」

 もしかして、全部聞こえてた?

「えぇ、バッチリ」

 あわわ…穴があったら入りたいとは、こういう事なのね…。

「相手はどんな子なの?」

 は?

「キスの相手。お母さん、興味あるわぁ」

 あ、あのね…。そもそも一瞬だから、顔なんか覚えていないよ。

「何で女の子だと分かったの?」

 うちのガッコ、女子校でしょうが…。

「女子校だって、男性の教師はいるでしょう?」

 ぶつかる前に、悲鳴を聞いたもの。それに反応して振り向いたら…

「正面衝突事故…と」

 そゆこと。厳密には、顔だけ『正面』だけど。

「まぁ、大事なくて良かったわ。」

 そこへ…

「おっ邪魔しま~す!」

「ハル~、声大きすぎや」

 親友二名様ご到着。

「春ちゃん、菜々ちゃん、来てくれたの」

「おばさん、お久しぶりです」

 ピシッ!

 く、空気が…ま、拙いよ、春菜ぁ…。母さん、顔は笑ってるけど怒りのオーラが漂ってる~。

「ハル、おばさんちゃうやろ?」

 すかさず、菜々美がフォローに入る。

「…はっ!み、みみみ、美紗子さん!おおお久しぶりでありますっ!」

「ご無沙汰してます」

「二人とも、久しぶりね。お見舞いありがとう」

「い、いえ、当然のことをしたまででありますっ!」

 自分のミスとはいえ、春菜ったら口調が変わっちゃってるよ。敬礼までしちゃって…。

 母さんは、『おばさん』と呼ばれるのを極端に嫌う。確かに、見た目は子持ちの母とは思えない位若く見える。街で一緒にいると、姉妹と間違えられる事が多い。

「速かったね、来るの」

 メール送ってから、そんなに時間経っていないよね。

「メールもろたときには、もう病院の前やったんよ」

「いちみが病院…と言ったら、ここしかないでしょう」

 それもそうか。母さんがいるせいか、怪我なんかで結構お世話になってるしね。

「外科関連では有名な病院だしね」

「某漫画みたいに、優秀な先生がいっぱいいるんだから」

 なにげに宣伝しないでください。

「それはそうと…」

 ん?

「あの子は入れなくていいの?」

 ドアの方に目をやると、知らない女の子が隠れて立っていた。

「あぁ、忘れてた。いちみ、事故の原因を連れてきたよ」

 事故の原因?

「ようするに、ぶつかった相手や」

 …それが、あの子?

「そ。いちみが学校を出た後、昇降口にいたんで」

「都合を聞いて、放課後を待って連行させてもろたんよ」

 そう…学校で感じた視線の正体は、この子だったのか。

 しかし、連行って…穏便に済ませたんでしょうねぇ。彼女に同情するわ。

「ほら、モジモジせんと、入ってきぃ」

 菜々美に言われて、おずおずと病室内に入ってくる。

 …ん?下級生?

「そうね。一美とタイの色が違うわね」

 私達の学校の制服は、普通のブレザー。どこぞのデザイナーがデザインした…と言うものではないのだが、色使いが洒落ていて意外と人気がある。

 そして、リボンタイとバッジで学年が分かるようになっている。ちなみに、現時点では私達二年が緑、この子は紺色だから一年。ちなみに、三年はピンクが強い赤となっている。

「さ、謝るんやろ?」

「あたし達には、もう済んでるしね」

 先輩三人+αに囲まれていては、さすがにオドオドしてしまうか…。

「あ…あの…」

 お、覚悟決まったかな?

「わ…わた…、わたし…」

うんうん、頑張れ、女の子!

「あ…あの…そのぉ…」

 ブチン!

「ええ~いっ!じれったいんじゃああああっ!」

「あ、あかん!ハルがキレてもうた~」

 うるさいなぁ、もう…キレるの早過ぎ。

 ドキャッ!

 はたいて黙らせるつもりが、無意識に拳を握っていたみたい。綺麗に春菜の横顔にヒットしてしまった。

「ぐ…グーで来ましたか…」

 ドサッ。リノリウムに崩れ落ちる春菜。

 …まぁ、良しとしますか(いいのか?)。

「おぉ、ナイスツッコミ。でも、グーはやりすぎちゃうか?」

 暴走した彼女にはこれくらいでいいのよ、と心の中で弁明する。

 春菜は、頭の中に『我慢』という言葉が存在してないんじゃないか?というくらい、短気である。こういう時のツッコミ担当は、いつも私に回ってくる。

「ったく、あの子が怯えちゃうじゃない」

「せや。折角勇気を出してここにおんねんやから、野暮はあかんよ?」

「う、うい」

「……」

 あらら、私達のやりとりを見ていて固まっちゃったよ。しょうがないなぁ、助け船を出しますか。

「あの、お名前は?」

「…藤宮(ふじみや)千夏(ちなつ)…と言います。今朝は本当にすいませんでした。ごめんなさい」

 ペコリと音がするぐらいに、頭を下げた。う~ん、気持ちいいくらいな謝り方、いいですねぇ。

「苦しゅううない、面をあげ~い」

 …は?どこのお殿様ですか、菜々美。ていうかそれ、私が言うべき台詞じゃないの?

「ツッコんでくれへんの?」

 ど~やってツッコめと…。

「は、はい…」

 あなたも素直ですね~。まぁ、いいか(いいのかよ)。

「そもそも、何で私にぶつかってきたの?身長差、あるよね」

 そう、一番の謎はそこ。私は前述の通り、背が高い。新学期の身体検査では、確か174センチ。彼女は…どう見積もっても157センチぐらい。普通なら、額同士がぶつかることはないはず。

「えっと…実は私、陸上部に所属しているんです」

「「…は?」」

 いきなり関係のない話が始まり、親友二人は目をテンにして聞き返した。それと事故と何の因果関係が?

「それで、得意種目が走り幅跳びなんです」

 ますます謎めいてきましたよ?

「よけい分からへん…」

「あ、あたしも…」

「取りあえず、順序立てて説明してくれてるのよね?」

 え?よく分かりますね、母さん。伊達に看護師をやっていないということですか。

「あ、はい。それで毎朝、朝練代わりに校門で踏み切りの練習…みたいなことをしてるんです、門のレールを踏み切り線に見立てて」

 確かにウチの学校は、校門内側は砂利を敷いてあるから、そんなことも出来るか…。でも本気で飛んだら、着地で転ぶでしょうに。

「タイミングの確認だけですから、本気では飛んでません、いつもは」

 …いつもは?

「今日は、たまたま寝坊しまして…気が動転していて、急いで走ってきたら、つい本番の調子で踏み切ってしまい…」

 気がついたら、着地点に私達がいた…と。

「声をかけたけど、間に合わなくて…本当にごめんなさい」

「おかげで、あたしのお尻が犠牲に…」

「ハルのお尻はどーでもええねん」

 激しく同意。

「なぁんでぇ~っ?あたしは、二人分を受け止めようとしたのよ!重なって倒れていくいちみと彼女を」

「ちょう、間に合わなかったけどな」

 それは、感謝してます。でも、この際あんたのお尻は関係ないから。

「それより、あなたの方は大丈夫なの?藤宮さん…って言ったかしら」

 そうだよ。私の方ばかりこんな大事になってるけど、彼女も額を打ってるはず。瑞浪先生は大丈夫そうなことを言ってたけど。

「あ、はい。身体が丈夫なのが取り柄なので…」

「それ、あまり関係ないような…」

「それに、大河先輩がクッションになったので、大したダメージはありませんでした」

 大した怪我がなくてよかった。

「しかし、いっちゃんを一発で沈めるとは、なかなかええツッコミや。普通の人には出来ない芸当や」

 ツッコまれた方の身にもなってよ~。てか、あんなツッコミは二度とゴメンだから。

「事情はだいたい分かったわ」

 色々な話を聞いて、看護師なりに納得したようだ。

「取りあえず、一晩のお泊まりは変わらないからね。諦めなさい」

「はぁ~い…あ、お父さんには?」

「言ってないわ。出張先から飛んで帰ってきそうだもの」

 はは…あり得る。

 過去にも、試合中の事故で捻挫したときに、仕事を放り投げて病院に駆けつけた、という逸話があるくらいだ。そのときは休日出勤だったから、業務に支障は出なかったらしいけど…。心配してくれるのは良いんだけど、娘を溺愛しすぎ。

「…本当にご迷惑をおかけしました」

「まぁ、事故やからな。これから気をつければええんやないの?」

「はい…気をつけます」

「いちみがぼぉーっと歩かなければ大丈夫」

「ぼぉーっと歩いてない!ってか、私のせい?」

「ちゃうの?」

「立ち止まりはしたけど、ぼぉーっとしてないわよ」

 ったく…こっちは、訳も分からずに巻き込まれたっていうのに、この二人は…。



少し間が開きましたね すいませんm(__)m


病院での一コマです

主要人物はほぼ出そろいました

病室での展開は、まだ続きます

それは…次回のお楽しみにw

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