表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/31

25~水着回スペシャル!?~

side一美


「海へ……キターーーーーっ!」

「何ですか、その某ライダーなノリは」

「何で!?海見たらテンションあがるじゃない!」

「気持ちはわかりますが、はしゃぎすぎです」

 千夏ちゃん、冷めてます……折角の権利行使なんだから、もっとはしゃごうよ~。

 というわけで、私と千夏ちゃんは山宮市の隣になる西海町の海水浴場へやってきた。というのも、彼女の親戚が海の家を経営しているらしく、無料利用券を送ってきたらしい。それを機に千夏ちゃんが、

「一緒に海へ行ってもらいます」

と誘ってきた。合宿のこともあるので私は、

「行かせてもらいます」

と即答した。そこで、春菜達も誘おうかな~と何気なく呟いたら、烈火の如く怒られたのは此処だけの秘密。まぁ、二人とも何故か予定が入っていて誘えなかったのは事実だったが……

「まずは着替え……かな?」

「まさかもう着ている、というベタなギャグはしませんよね?」

「春菜じゃあるまいし、下着忘れて途方に暮れたくないしね」

「いくらあたしでも、そこまでやらんわ!」

 海の家の入口で突っ込まれたので振り返ったら、そこには……

「いちみ遅いぞ~」

「デートやからしゃあないって」

 見知った二人がいたので、思いっきりコケた。

「な、な、な、何であんた達がいるのよ~っ!」

 予定あるんじゃなかったの?

「ん?あぁ、そういちみには言ったっけなぁ」

「これがその予定やねん」

 っていうか、此処でなにしてるの!?

「あぁ、臨時のバイトさんって先輩達でしたか」

「そういやここって、あんたの親戚……だっけ?」

「そうです。今日だけ忙しくなりそうだからって、臨時バイトを募集していて、決まったよ~と昨日連絡もらってました」

「たまたま見つけた求人がここやってん、意外な繋がりやね~」

 春菜はともかく、何で菜々美までいるのよ。あんた、バイト必要ないじゃない。

「細かいこと気にすると……禿げるえ」

 そうじゃないでしょ!また、菜々美の策略ね。

「ふふふ、どやろな~」

「まぁ、いいや。着替えよっか」

「あ、はい。わたしは叔父に挨拶してから着替えます」

「了解~。外で待ってるよ~」

「相変わらずのリア充だな」

「今夏の異常気象はこの二人のせいや」

 ……これは突っ込んでいいのだろうか?


side千夏


 着替え終了。

 先輩と海へ行く約束をした後、驚かそうとコッソリ水着を買いに行った。で、買ってきたのが今着ているワンピ。最初は気合いを入れてビキニにしようと考えていたのだが、店員さんがあまりにもワンピを勧めるので、熱意に負けて購入。ややハイレグっぽい仕様だよなぁ、これ。おかげで……いやいや、あのことは忘れよう。

 外に出てきたけど……先輩がいない。てっきりわたしの方が遅いと思ったのに。居場所を菜々美先輩達に聞こうとしたけど、何か忙しそうにしている。

「やぁ、君一人?結構可愛いねぇ」

 声をかけられたので振り向くと、いかにも軽そうな感じの男が二人、笑顔でわたしを見ていた。

「な、何の用ですか」

「ナンパ、ですよ~」

 直球な返しに唖然とする。

「いやぁ~、女の連れがドタキャンしてくれてね~、野郎二人じゃつまらんし、一緒に遊んでくれる娘を捜してるんだよ」

「君みたいな可愛い子をね?」

 顔はイケメン……とは言わないが、そこそこか。でも、いきなりナンパです、は……

「人を待ってますので」

「何、友達?いいよ、その子も一緒で」

「おぉ、いいじゃん。二人なら丁度二対二になるな」

「一緒に待ってもいい?その子も誘おうぜ」

「いい考えに賛成~」

 どんどん話が進んでいく。断るタイミングがない。


「私の連れに、何してるの?」


 どうしようかと考えていたら、後ろから先輩の声が。

「やぁ、君がとも……背ぇデカっ!」

「何だ?このデカ女」

「でかくて悪かったわね。もう一度聞くわ。彼女に何してるの?」

 先輩の周りの空気が少し冷えた気がした。怒りモードに入ってるようだ。

「何って、ナン……」

「莫迦正直に答えるな!ヤバい雰囲気だぞ」

「ふぅ~ん、彼女をナンパしようとしてたのね」

 男共を見ると、冷や汗を垂らして先輩を見ている。雰囲気に圧倒されてるみたい。

「どしたどした……ん?藤宮をナンパ?人ん()の前で、しかも知り合いをナンパとは、覚悟は出来てるんだろうね~」

「この二人敵に回したら、後が恐いえ~?」

 菜々美先輩達も、騒ぎを聞きつけて応援に来てくれたみたいだ。心強いです。

「……ちっ」

「行こうぜ」

 気圧されたのか、男共は舌打ちして去っていった。

「千夏ちゃん……」

 先輩を見たら……何か瞳が潤んでるですけど!?

「ど、どうしたんで……」

「よがっだよ~!」

 わたしが言葉を発してる最中に、先輩は勢いよく飛びついてきた。蹌踉けそうになりながらも、何とか持ちこたえる。

「……先輩?」

「更衣室から出てきたら、千夏ちゃんが男に言い寄られてるのが見えて、乱暴されてるんじゃないかって心配したんだよぉ~」

「まったく……藤宮が絡むと、途端にヘタレになるんだから、いちみは」

 いあ、ナンパ男と対峙していた時はそうは見えなかったんですが。

「いざという時は頼りになるんやけどな、さっきは泣きそうな顔をして店に飛び込んで来たんえ?」

「あの顔は見物だったな」

「春菜!菜々美!バラさないでよ……」

 ……心配してくれてありがとうございます。でも、どうして先輩の方が外に出てくるのが遅かったんですか?

「そ、それは……ゴニョゴニョ」

 え、何を言ってるのか聞き取れないんですが?

「…………」

 更に聞こえなくなりましたよ?

「訳:今日のために買った水着を着たら、藤宮の前に出るのが急に恥ずかしくなった、んだとさ」

 春菜先輩、言ってることがよくわかりますねぇ。

 そこで、改めて先輩の姿を観察すると……ピンク地に黒の横縞が入った上下お揃いのビキニに、短パンデニムという格好だった。

「いいじゃない、ビキニ着るの初めてだったんだから……」

 え、ビキニ初めてなんですかっ?

「意外やろ?この前買い物に付きおうたんやけど、適当なワンピを選ぼうとするから、ウチが彼女さんに気に入ってもらえるよう厳選したんや」

 そうだったんですか。菜々美先輩GJです。

「とても似合ってますよ、先輩」

「あ、あ、ありがと……」

 あらら、先輩が縮こまっちゃったです。

「はぁ~っ、いつからいちみはこんなにヘタレになったんかねぇ」

「せやなぁ。普通はいっちゃんが先に彼女さんの格好を褒めるもんやで?」

「あうぅ……」

 それで、わたしはどうですか?

「……うん、よく似合ってるよ、そのワンピ」

「な、ビキニにして正解やったろ?」

 え、わたしがワンピ買ったのを知っていたんですか?菜々美先輩。

「ふふふ、ウチのネットワークをナメたらあかんえ」

 あ、侮れません。先輩が恐れるわけだ。

「菜々~。そろそろ店開けるってよ~!」

「おろ、もうそんな時間か。お二人さん、ようけ遊んできて、お昼は店に来てや。お昼奢ったるさかい」

 え、それは悪いですよ。バイトしてもらって更にお昼まで……

「ま、菜々美は言い出したら聞かないから。気にしなくていいよ。また別の機会でお礼すればいいし」

 そういうもんですかねぇ。

「私達三人は、そうやってきたからね」

 わかりました。お言葉に甘えさせてもらいます。

「では、いざビーチへ!」

 先輩と手を取り合って砂浜へ歩き出したのはいいんですが……


「あっち~~~っ!」


 先輩はサンダルを忘れたらしく、更衣室へ取りに戻っていった。締まらないなぁ(苦笑)。



side一美


 まったく……どうかしてるよ、私。

 千夏ちゃんのことで気が動転していて、サンダルを履き忘れるとは……情けないとこばっかり見せてるよ、とほほ。

 気を取り直して、ビーチへ突撃する私達。初めて来た海岸だけど、有名どころみたいに人がゴミゴミしてなく、ロケーションもいい感じ。遠浅の海岸みたいで、開放感があっていいところだね~。

「気に入って貰えて良かったです。私は毎年此処なので」

 くぅ~、うらやましい。でも、海の家を親戚が経営してるならそれもあるか。名前が「れ○ん」?……気にしないでおこう。

 さて、折角借りたパラソルとレジャーシート(菜々美に無理矢理押しつけられた)を何処へ設置しようかね~と辺りを見回したら、見知った凸凹コンビを見つけた。

「やっほ、清華。と、多佳子さん」

「おや?大河じゃないか」

「ご機嫌よう」

「貴女達も此処へ来てたんだ」

「二人とも家がこっちだからな。海と言えば此処でしょ」

「わたくしは、初めてお邪魔させていただいてますわ」

 ……そういえば、多佳子さんって屈指のお嬢様だっけ。よく許可が下りたなぁ。

「わっちの粘り勝ち♪」

「いえ、わたくしが親に拗ねたからですわよ」

 相変わらず、仲がいいのか悪いのかわからない二人だけど、海を存分に満喫してくださいな。

 そんなことを考えていたとき、背中に突き刺さる視線が……この感覚って、まさか?

「ゆ、祐華!何でここにっ!?」

 私が振り向くよりも早く、千夏ちゃんが視線の正体に気づいたらしく、驚きの声を上げていた。

「いちゃ悪いのかよ~」

「お嬢なのに、何で海水浴に?」

「わたしだって海ぐらい来るわよ」

「プライベートビーチなんかありそうなのに……」

「今年は人に貸しちゃったし。ドラマ撮影の予定も入ってるしね」

 ……何か、スケールの違う話が展開されているんですが。菜々美もお嬢様の家系だけど、そんなこと微塵も感じさせないからねぇ。

「それにしても、何故ここ?」

「クラスメイトが誘ってくれたんだよ」

「な~に言っちゃってるの!あんたが此処に行こう、って誘ってきたんじゃないの」

 周りから一斉にツッコミを受けた彼女。バツが悪そうにしている。

「ま、まさか……海の家のことも知ってる?」

「ナ、ナンノハナシカナ~」

「はぅ、何でその情熱が他に向かないかなぁ……」

「わたしは、千夏のことに関しては全力投球だって、前にも言ったじゃない」

 実行力のある彼女だなぁ。ホントに千夏ちゃんのことが好きなんだ。私もヘタレてる場合じゃない。

「千夏ちゃん、あっちに良さげなところがあるから、そこにパラソルを」

「あ、はい。じゃあ、シートはわたしが」

「あ、こら、気安く千夏の手を握るな、泥棒猫!」

 関係ないでしょ。私達はデートに来たんだから。そっちはそっちでクラスメイトと仲良くやりなさい。あ、清華。お昼は海の家に来るといいよ。菜々美がごちそうしてくれるらしいから。

「それは良いことを聞いた。是非お邪魔しようぞ」

「海の家、初体験ですわ」

 んじゃ、また後で~。

 私は千夏ちゃんの手を取り、人気が若干少ない砂浜にパラソルを設置するため移動を開始した。

「だ~っ、許すまじ、大河一美~っ!」

 そんな遠吠えが背中から聞こえた……気がした。



side千夏


「さて……と。パラソルとシート設置完了」

 菜々美先輩達に持たされた(笑)、パラソルとシートを二人で設置。割と良いところを確保出来たみたい。

「先輩、日焼け対策してます?」

「ん~、一応日焼け止めは塗ってあるよ。千夏ちゃんは?」

「まだです。だから……」

 わたしは、言いながら日陰が出来てるシートにしゃがみ込む。上の水着の紐をハラリとさせ、先輩に背中を見せながら。

「先輩、塗ってくれませんか?」

 定番の一言。

「はぅあっ!」

 ふふふ、悶えてますね。

「ここここのわわわ私めがががぬぬぬ塗ってもよよ宜しいのでせうか?」

 ……悶えてるというか、混乱してるみたい。さて、とどめの一言。

「今日は一日言うことを聞いてもらう約束……でしたよね?」

 言った瞬間、鼻血を吹いて倒れる先輩。逆にこっちが驚いてしまった。が、すぐに復活した。

「不肖この大河一美、千夏様のために全身全霊で塗布させていただきます!」

 え、何か変なスイッチ入っちゃった?言葉遣いも変わってるし。

「よろしくてよ」

 わたしも悪ノリして、お嬢様風に答えてみる。

「では、こちらへ俯せにおなりください」

 言われるがまま、シートに横たわる。シート越しに砂の熱さが伝わってくる気もしたが、こんなシチュにドキドキしているわたしがいる。そんなことを考えていたら、突然日焼け止めが背中に垂らされた。

「ひゃっ!」

「あっ、すすすいません!冷たかったでしょうか……」

「だ、大丈夫です……」

「では、塗り広げますね」

 そう言って、先輩の手がわたしの背中に触れてきた。優しく触り塗り広げていく先輩の手に、くすぐったさを感じながら身を委ねる。

「気持ちいいですか?」

「エステのオイルマッサージじゃないんですから」

「……良くないですか?」

 先輩は落ち込んだようだ。本当にエステシャンみたいに一生懸命に塗ってくれているようです。

「……気持ちいいから困っているんです」

「何故です?」

「外じゃなかったら……わたし……」

「わたし……?」

 その時、突如風が吹いてパラソルが海側に開いたままドサッと倒れてしまった。その音にビックリするわたし達。ものの見事に視界を遮られてしまった。しかも、堤防沿いに場所を確保していたので、後ろ側は壁しかない。簡易的ながら二人っきりの世界が出来た。

「いけない子。こんな事を考えていたんですね?」

 そう言って、先輩は振り向いたわたしに口吻をした。心の内を見透かされていたわたしは、それを受け入れた。

 暫くして祐華達の声が聞こえるまで、わたし達は行為に没頭していて、祐華がパラソルを持ち上げているのに気づくのが一瞬遅れてしまった。

「ゆ~る~す~ま~じ~、大河一美!」

「うわっ、出た~っ!」

「今日こそ成敗してくれるっ!」

「ちょ、うわっ!武器(えもの)はシャレにならないって!」

 修羅と化した祐華は、パラソルを剣代わりに振り回し先輩を追いかけ始めた。

「待て~、泥棒猫~っ!」

「ちょ、ホントに怪我したらどうするのよっ!」

「怪我など手ぬるい。命乞いしな。貴様の罪を数えろ」

「目が据わってるし!変な台詞混ざってるし!」

 そんなことを言い合いながら、縦横無尽に砂浜を駆け巡る二人の光景に、わたしは頭を抱えた。

「あ~あ、修羅場ってるねぇ」

「藤宮も大変だねぇ。祐華も純情だから」

 一緒に付いてきたというクラスメイトに同情されてしまった。もう何なのよ、この状況……


「祐華、もうやめて!」


 次の瞬間、わたしは出来うる限りの大声を出して、二人を止めた。周りは面白がって囃し立てているから、わたしがこの状況を止めるしかないじゃない。わたしの大声に二人は驚いたのか、その場で固まっていた。っていうか、わたし自身こんな声が出るんだ、って驚いていた。

「千夏……」

「千夏ちゃん……」

「何で祐華は先輩と喧嘩ばかりするの?」

「だって、この泥棒猫が……」

「わたしはいつ、貴女のものになったの?」

「え、い、いや……」

 祐華が珍しく狼狽している。

「確かに、貴女の方が先輩より先にわたしのことす、好きになってくれたかも知れないけど、先輩にはわたしから告白してるのよ?先輩を泥棒猫呼ばわりするのはもうやめて」

「そうは言っても、あいつは私の好きな千夏を横からかっさらっていったんだぞ?」

「かっさらっていないし。そもそも、貴女の存在を最近知ったんだし……」

 苦笑する先輩。そうなんですよね。そこを祐華はまだわかってくれない。仕方がないのかも知れないけど、祐華の気持ちを最近知ったばかりだし、わたしも。

「千夏のためなら、悪にだってなってやる」

「……そんなことになったら、友達やめるから」

「ぐっ……」

「貴女の気持ちもわからないではないけど、千夏ちゃんが望まない方法は良くないわねぇ」

「たった一つ年上なだけなのに、余裕ぶるなぁっ!」

「それだけ世間の荒波を乗り越えてきてるのよ?貴女にも直に判るときが来るわ。貴女と私は千夏ちゃんが好き。でも、彼女を困らせたり泣かせたりすることは本意ではない。OK?」

 先輩にはよく困らされていますけどね。特に鈍感な部分で。

「そこでいぢめないで、千夏ちゃん……」

「……まぁ、いいわ。今回は千夏を立てて引くけど、いいこと、大河一美。まだ私にもチャンスがあるって事、覚えておきなさいよ?」

 そう言い残して、祐華は元いた場所へ引き上げていった。その後に、クラスメイトも慌ててついて行った。

「正々堂々とした勝負なら、いつでもウェルカムよ」

 そう言った先輩の台詞に一瞬ピクッとなった祐華だったが、振り向くことなく立ち去った。

 ふぅ、ようやく一難が去りました……

「お疲れさま、千夏ちゃん」

 ……元はといえば、先輩が祐華を止めなかったのが悪いんですよ?

「え~?それ無理だから。あの状況で素手で止めろと?」

 それでも止めてください。年上の余裕というやつで。

「出来たらとっくにやってるって!」

 出来なくてもやってください。

「そ、それは無理ッす……」

 まぁ、それはいいとして……続き、塗ってくださいね?

「あぁ、そっか。途中になっちゃったんだっけ」

 その後は、折角海に来たんだから少し泳ぎましょう。

「そだね。海に来て泳がなかったら意味ないし」

 陽が高くなってきたから、お昼まであまり時間が無いかな?折角だから、二人っきりの時間を満喫させてもらいますよ?厳密には二人っきりじゃないけど、その辺は気にしない方向で。



side一美


「なによ、この状況……」

 お昼時になり、泳ぐというより波にプカプカ浮いて漂ってた私達は、いささかお腹がすいたという私の提案により、朝に誘いを受けていた菜々美達がバイトしている海の家へ向かった。

「よ、先にお邪魔したぞ」

「これが海の家、というものなんですね……」

 清華&多佳子さんペアがいるのはまぁ、予想出来た。私も声をかけていたしね。しかし……

「来たわね、大河一美……って、千夏から離れなさいよ!」

 この祐華って子とそのご一行までいるとは予想外だった。そして、冒頭の台詞に戻る。

「何かぎょーさんな人数になったなぁ」

 菜々美も想定外だったらしく、苦笑していた。

「この人数奢りって……大丈夫なのか?菜々」

「まぁ、バイト代吹っ飛んでまうやろうけど」

「いいの?菜々美」

 私と春菜はその辺りを心配してみたが、当の本人はあっけらかんとしていた。

「女に二言はないえ~」

 おぉ~、っと皆の感心する声が飛ぶ。

「ま、海の家のメニューって限られるけどね」

 春菜、裏事情はバラさなくていいって。

「先輩、何を頼みます?」

 早速、千夏ちゃんが聞いてきた。

「何にしようかねぇ。千夏ちゃんは決めた?」

「わたし、カレーにしようかと……」

「ふむ、同じのでもいいけど……此処はひとつ、定番の焼きそばでも頼んでみようかしらね」

 そう考え、春菜を捕まえてオーダーする。

「わっちはこれにしよう。冷やし……ラーメン?」

「冷し中華ではないんですの?」

「そ。中華やなくてラーメン。山形の郷土料理なんやて」

 清華のツッコミに菜々美が律儀に答えていた。

「私は千夏と同じものを!」

「何故そこで張り合うか……」

「私達も……よろしいんですか?頼んでしまって」

「ええよええよ。無問題や」

 暫くして一通りの注文が終わり、オーダーされた品物が段々とテーブルを埋めていく。何か見た目が凄く美味しそうなんですけど。

「……これで全部やな?」

「さぁ、実食の時間だ」

 春菜が一人おかしな方にイってるのは気にしない方向で。

『いただきます!』

 全員が声を揃え、挨拶?をして各々料理に手を出す。そして、全員がその味に目を見張った。

「なにこれ……めっちゃ美味しい!」

「ホントです。想像を遙かに超えてます」

「ここまで美味いラーメンは初めてだ」

「他は知りませんが、確かに美味しいですね」

 残りのメンバーも料理の味に驚嘆している。

「ふふふ、せやろせやろ」

 どや顔で菜々美がふんぞり返っていた。もしかして、菜々美が作ったの?これ。

「ウチとハルとでめっさ頑張りました」

「みんなを驚かせてやろう、ってね?」

 何故にそんなことを……

「海の家の料理って味がそこそこじゃん?」

 まぁ、確かにね……

「ほなら、そこらの店に負けんようなものを作ったろかと、意気込んでみたんえ」

 私も菜々美達の腕を知っているとはいえ、ここまでのものが出てくるとは予想外だった。

「不味いけど、これが海の家なんだぞ~ってのをわっちはやってみたかったんだがなぁ……」

「え、普通はそんなに不味いんですのっ?」

「いやいや、そこまでじゃないんだが、こういうとこでの食事はこんなもんだぞ~ってのを、タコに教えたかったんだよ」

「そうなんですの……って、またさり気にタコ呼ばわりしてますね、清華様?」

「うっ、様はやめてくれ……わっちが悪かったよ」

 そこの凸凹コンビの漫才はスルーするとして。

「ま、まさか海の家レベルでこんな美味しいものが食べられるとは……」

 祐華ちゃん……だっけ、しきりに驚いてる様子。彼女もお嬢様らしいから、舌は肥えてるはず。その子を唸らせるなんて……菜々美も料理スキルが確実に上がってるわね。私もうかうかしてられないなぁ。その他クラスメイトご一行も、「おいしーい!」「こんなの食べたことない!」とか賞賛の声を発している。

「サプライズ、成功やな」

「あたし、GJ」

「あんただけじゃないんだから、図に乗るな」

 私から春菜へのツッコミに、全員大爆笑。そこへ、海の家のオーナーらしき人が現れ、春菜達に「午後は自由にしていいよ」という旨の発言をして、また奥へ姿を消した。

「……ちゅ~ことは、午後は遊べる!?」

「そういうことらしいなぁ。大丈夫なん?」

「あ、じゃあわたしが確認してきます」

 そう言って、千夏ちゃんが店の奥へと入っていった。

「気が利く子やねぇ」

「一家に一人欲しい」

「やらないわよ」

「お、それは私の嫁宣言?」

 どーしてそうなるのよ、嫁云々は別として。

「断じて認めないっ!」

 別方向から、勢いよく椅子を倒す音を立てながら、祐華ちゃん(ライバルらしい人)が威嚇してきた。

「……嫁争奪戦、勃発かえ?」

 どうでもいいから煽らないで、お願い。

「聞いてきましたよ。午後は落ち着くから折角だし遊んでおいで、ということで……どうしたんです?この雰囲気」

「おし、許可も出たし堂々と決着をつけるかね?お二人さん」

「望むところ!」

 わたしゃどっちでもいいよ……

「???」

 一人状況をわかっていない千夏ちゃんは、目が点になっていた。



side千夏


「そーれっ!」

「ほいっ、行ったえ~彼女さん」

「せいっ、先輩!」

「春菜には回さない方がいいよ~、容赦ないアタックが来るから……ねっ!」

「ちょ、おまっ!どんな罰ゲームだよぅ……」

「ははは、それはそれで面白いかもな。それ、多佳子」

「はいっ!あっ、違う方向へ……」

「ナイスボール、知らない人。喰らえっ、大河一美!」

「うわっとと!何で私ばっかり狙うのっ?」

「最初からクライマックスなのよ、砂に埋もれてしまえ!」

「もう、祐華ったら……」

 午後のひととき。お昼が終わった後、少し休憩して菜々美先輩達も合流して、ビーチバレーみたいなことを始めた。春菜先輩が何故かビーチバレー用のボールを持参していたことに、突っ込みを入れたかったのは我慢して。

「まったく……私、一方的に狙われてるんだけど?」

「しゃ~ないやん、勝負やもん」

「なんですとぅ!?」

 話によると、先輩と祐華は何かを懸けて勝負をしている。その原因がわたしだと聞かされて、ゲンナリした。でも、さっきの騒動に比べれば正々堂々なようなので、敢えて何も言わない。内容的には、先輩が祐華のアタックをレシーブ出来なかったら負け、みたいな感じらしい。「ぐぬぬ……やるわね、大河一美」

「一応、春菜とは五分の勝負が出来るからね」

「……ゑ?」

「そうでなきゃ、文武両道とは言えないからねぇ」

 あ、祐華の顎が落ちてる。そこまで実力があるとは知らなかったみたい。

「そこまで言うなら、このアタックを受けてみよ!」

 そんな台詞が、何故か春菜先輩から飛んできた。目を見やると、丁度上手い具合にトスが春菜先輩の上に上がっていた。

「せいやっ!」

 かけ声と共に、渾身のアタックをする春菜先輩。大河先輩は、身体を逆方向に向けていたので、反応が一瞬遅れた……と思ったのだけど。

「はっ!」

 何と、先輩は腕では届かないと判断したのか、脚でレシーブ?していた。

「んなのありっ!?」

「厳密にルールがあるわけじゃ無いし。何とか届いてよかったけど」

「即興かよ……サッカーじゃないんだってば」

 ものの見事にレシーブされて、春菜先輩はビーチに跪いてしまった。よほど悔しかったみたい。

「あの判断能力も大河の武器だよな。わっちもバスケで散々やられてるからなぁ」

「大柄なのに、小回りも得意みたいですからね」

 バスケ部だという城端先輩と、いつも見学しているという壬生先輩も、大河先輩の凄さに感心しているみたいだった。

 そんなこんなで、暫くビーチバレーに興じた(一部は違うみたいだったけど)わたし達。ふと、わたしは身体の異変を感じた。そして、祐華に声をかける。

「ね、ねぇ、祐華」

「ん、どうした?」

「ちょっと……付き合って」

「何々、愛の告白?」

「莫迦!……お手洗いに付き合って」

 大声で怒ったあと、小声で目的地を告げた。さすがに先輩には聞かれたくない。場所が場所なだけに。

「なぁ~んだ、そっちかぁ……」

 ちょっとがっかりした様子の祐華だったが、すぐに復活したのか次の瞬間、

「千夏とちょっとトイレ抜けしま~す♪」

と、爆弾を投下していた。わたしの気苦労を無視して。

(ち、ちょっと~っ!)

 わたしは、恥ずかしさのあまり赤くなって縮こまってしまった。

「場所わかるか~?」

「お店の裏手やで」

 他の先輩達は、何事もなかったかのように振る舞ってくれた。

「お手洗い?付き合おうか?」

 先輩だけは何故か過剰反応?してきた。が、

「私が付き合うんだから、邪魔よっ!」

と、祐華に拒絶されていた。


「まったく……あそこで大声で言うことじゃないよ~」

「ごめんごめん。つい嬉しくって。付き合って、っていわれたことに」

「何故?」

「千夏を独占出来るんだよ?この瞬間」

 この子はこういう子でした、とわたしは頭を抱えた。

 目的地に着いたら、やっぱり並んでいた。こういうところの女子トイレってホント、並ぶよね。

「大丈夫かい?千夏」

「大丈夫よ。我慢出来ないってわけじゃないから」

 それでも、五分くらいは待ちそうな長さの列。仮設の割には数はあるようなので、その辺りは安心かな。そんなことを考えていたら、順番が回ってきたようだ。

「それじゃ祐華、後でね」

「あいさ~、店の前で待ち合わせね」



side一美


「やっぱ混んでるのかな?」

「まぁ、ビーチだしね」

「トイレはあそこしかあらへんから、必然的に混むやね」

 ビーチバレーも一段落し、パラソルの下で休憩する私達。他のみんなも、近くにパラソルを持ってきてそこで休憩していた。清華と多佳子さんに関しては、多佳子さんの膝枕に清華が収まっている……という図式が出来上がっていた。……くぅ、羨ましい。しかし、混んでることを計算に入れても、ちょっと帰りが遅いような気がする。

「そろそろ戻ってきてもいい頃じゃない?」

「せやなぁ。いくら混んでる言うても……」

「ちょっと掛かりすぎじゃね?」

 そんなことを三人で協議していたら、祐華ちゃんの戻って来る姿が見えた。

「あれ、一人?」

「彼女さんはどしたえ?」

「やっぱ……戻ってきていないんだ」

 彼女の発言に、皆首を傾げる。

「店の前で待ち合わせたんだけど、なかなか来ないから先に行ったのかと思って戻ってみたんだけど……」

「戻ってきてないよ?私達も今、遅いね~って話していたところだから」

 私の発言に、今度は彼女が首を傾げた。

「何処行ったんだろう……」

「付近は探したの?」

「当然。ノコノコ帰ってくるほど阿呆じゃないわよ」

 となると……千夏ちゃんの身に何かが起きた?こんな時、水着姿なのが恨めしい。携帯を所持していないので、連絡を取りようがない。防水パックに入れて持ち歩くのも興ざめだしね。

「何々、どうした?大河」

 騒ぎを聞きつけたのか、清華が話の輪に入ってきた。

「実はね……」

 今起きている現状を簡潔に説明する。

「そうか……あの子が戻ってきていないのか」

「どうかされまして?清華」

「いやな?大河の嫁の姿が見えないんだそうだ」

「あの方が……」

『嫁違う!』

 清華の台詞に、私と祐華ちゃんの声がハモる。って、なんで貴女まで反応しているのよ……

「私は認めないからな。あんたと千夏がくっつくこと」

 今はそんなことを言ってる場合じゃ……まさかとは思うけど、今回も自演って事は無いでしょうね?

「それはない、絶対。千夏にも言われたから……」

 そう。それじゃそこは信用するわ。

「い、いいのか?簡単に信用して」

 貴女の千夏ちゃんに対する気持ちが本物なのはわかってるつもりだからね。ライバルとして信用するわ。

「ふ、ふん!隙を見て千夏を取り戻してみせるんだから」

 はいはい……取りあえず、今は千夏ちゃんの身を案じるのが最優先。いいわね?

「……わかったわ。一時休戦する」

 とはいえ、どうしたものか……

「取りあえず探してみるっきゃないでしょ」

「そやね。ここで立ち止まっててもしゃーないし」

「だな。手分けして探そう」

「家の使用人にも手伝ってもらいますわ。背格好と水着の色は私が覚えていますから」

「それじゃ、私も使用人出そう。顔は覚えてるだろうし」

「ほなら、ウチはSPを出すな?たまたま父の用事でこっちに来とる人が一人おるから」

 何か……凄い包囲網が出来つつあるよ。

「そんじゃ、探索開始!情報あったらお店でウチが受け付けるわ」



side千夏


 海からちょっと離れた某所。

 地元の漁師さんが使うような掘っ立て小屋みたいな場所。そんなところで、わたしは目を覚ました。

「ここ……何処?」

 辺りをきょろきょろ見回したが、木製のテーブルが中央にあるだけで、他には何も無い感じだった。今日の記憶の中に、こんな場所に来た記憶がない。寧ろ、何故わたしはこんなところにいるのか?という疑問が頭の中に沸いてきた。

(確か、ビーチバレーをしてて、祐華とお手洗いに行って、用事を済ませて出てきて……)

 そこまでは思い出したものの、そこから先が思い出せない。何かに抱きつかれた感触があって、そこからの記憶がない。

 そこまで考えて、ふと時分の身体の異変に気がついた。両腕は後ろ手に縛られ、両足も縛られていて、その状態のまま床に横たわらせられていた。

(これって……誘拐?)

 そんな考えが頭をよぎり、恐怖に身体が支配された。何で?わたしが?何故?

 そしたら、外から声が聞こえたかと思ったら、何の躊躇もなく扉が開け放たれ、二人組の男が入ってきた。

「お、お目覚めかね、お嬢さん」

「わりとすぐに目覚めたなぁ。効果薄いんじゃないの?」

 そんなことを話し始める二人。よく見たら、午前中にわたしをナンパしてきた男だと言うことに気がついた。

「貴方達、何をしているのかわかってるの?」

「わかってるさ~」

 な、何ですって!?

「こんな、誘拐なんかして……」

「誘拐?ぶはは!何言っちゃってるの」

 え、わたしなんか変な事言った?

「これは誘拐なんかじゃないですよ」

 別の男が口を挟んできた。

「俺達は、ただ女の子と仲良く遊びたいだけ。ただし、連れ込み方がちょっとばかし強引だけどね」

 ヒャハハッ、と主犯格らしい男は嘲笑した。

「何故わたしを……」

 わたしはそこら辺にいる子と大差ないはず。美人ならいくらでもいるよね。先輩とか……

「まぁ、ぶっちゃけ誰でもよかったんだよね」

「たまたま、トイレの近くで昼前に会った君を見かけて、お持ち帰りさせてもらったまでさ」

 な、何という……誰でもよかったなんて。狂ってる。

「この睡眠薬もいまいちだなぁ」

「量をケチったんだろ、予定より早いじゃないか」

 え、睡眠薬?

 そっか、抱きつかれた感触があったのは、そのためかぁ。道理で記憶がないわけだ。

 二人は喧々囂々。そのおかげで、冷静に物事を考えることが出来た。

 取りあえず、お手洗いからかなり時間が経ってるのは確実。そろそろ先輩達も、異常事態に気がついてるはず。ただ、この場所がわかるかどうかが疑問だ。海水浴場からちょっと離れているのは、喧噪の静けさで予測が出来る。わたしには、身体が動かせないから連絡を取れる術がない。時間が経ちすぎると、わたしはこの男達に何をされるかわからない。これはもう、運に懸けるしかない。そう思い、わたしは頭の中で祈る。

(先輩……早くわたしを見つけて!言うことを聞いてくれるんでしょ?)

 理不尽だなぁ、と自分でも思いながらわたしは祈り続けた。



side一美


「どう、見つかった?」

「うんにゃ、朗報はなし」

 海水浴場を駆け巡り、必死になって千夏ちゃんを探したが見つからず、一度戻ろうと海の家へ帰ってきた。お店の一部が捜査本部になりつつあるのはご愛敬で。私が戻ってきたのをきっかけに、三々五々散っていたみんながお店に集結した。

「まだ見つからない?」

「結構な範囲を探したんだけどなぁ」

「使用人達はまだ探してるみたいだけど」

「ウチのSPも、目下継続して捜索中や」

 創作を始める前に、各々の携帯を取りに戻っているので、今度は連絡手段は確保済み。何かあったら直接&一斉メールでやり取りするようになっている。でも、さすがにこれだけ探しても見つからないなんて……

「そろそろ警察に連絡した方がいいんじゃね?」

 春菜がそう提案するが、いたずらに刺激させたくないという菜々美の意見で、それはお預けになっている。

「でも、そろそろ素人じゃ限界よ?」

 私は早急に連絡すべきだ、と主張する。

「ちょうまって。ウチのSPからの連絡がまだなんや。それ次第では、警察に動いてもらう方向で考える」

 そう告げた刹那、菜々美が手にしていた携帯が鳴動を始めた。

「はい、菜々美……え、見つかった?」

 その一言に、みんなが電話の会話に集中する。

「ふん、ふん、わかった。他二人とそこにいるんやな?ウチらもすぐに移動します。周りの警戒よろしゅう」

 会話は終わったようだ。

「見つかったって?」

「うん。正確にはそこにいるらしい、やけど」

「……いる、らしい?」

「時間が惜しいから、詳しくは移動しながら話すえ。みんな、移動するよ」

「あまり大勢で行っても目立つから、わっち達はここで留守番してるよ」

「そうですね。こういうときは少数精鋭が宜しいですからね」

 清華と多佳子さんはじめ、クラスメイト一行は残る方を選択した。

「わかった。行くのは、私達と……貴女ね」

「私は当然行く」

 祐華ちゃんは当然とばかりに頷いた。

「じゃ、急ぐとしますか」

 春菜の号令で、菜々美を先頭に移動を開始した。


「結果的には、海水浴場から離れた所に連れ去られたようや」

「それじゃあ、幾ら海を探しても見つからんばい」

 春菜はまだどこかおかしいのか?

「場所はわかるのか?」

 今度は祐華ちゃんだ。学年関係無しにため口だ。

「SPから位置情報を送ってもらったから、大丈夫」

 そう言って、菜々美はスマホの画面を見せた。そこには、私達の現在地とは別に赤い点が地図上に示されていた。

「この赤い点が、その位置なの?」

「そや。正確には、SP達がいる場所な」

「私の使用人もそこにいるわけだ」

「三人集まっとると言う話やしな。色んな情報を集めた結果がここやった、というわけや」

 そう言いながら、私達は赤い点を目指して海水浴場から幹線道路を渡り、少し山手へ向かっている。

「海からはそんなに離れていないんだな?」

 春菜が至極まともな質問をする。

「たまたまいい場所があったんでしょ。その辺は現場に行ってみればわかる事よ」

「そんなもんかねぇ~」

「もうすぐ着くえ。……あ、クロさん」

 SPの名前なのか、菜々美が近づいていく。

「ご苦労様です、菜々美さん」

「……で、場所は?」

「あちらの小屋です。不自然な男二人が女性を抱えて入っていくところを地元の方が目撃していました」

 そっちに目を向けると、ちょっと大きめな漁師の作業小屋みたいなのが確認出来た。

「あそこに千夏ちゃんが……」

「ちょうまち、いっちゃん。不用意に動いたらあかんって」

 今にも突入しそうな私を、菜々美は押しとどめてくれた。

「こっから先は、警察の仕事……だな」

「私は菜々美さんの指示があれば、いつでも行けますが」

「いくらSPでも、単身突入はさせられへん」

 さて、どうしようか……と算段をし始めたとき、小屋の方から「きゃあああっ!」という悲鳴が聞こえた。その瞬間、私の身体は反射的に小屋の方へ動いていた。

「いちみ!」

「いっちゃん!」

「な……」

 警察なんか待ってられない。私が千夏ちゃんを助けるんだ!

 小屋目掛けて突進した私は、扉に体当たりを喰らわした。そしたら、カギも掛かっていなかったようで、あっさりと開いてしまいその勢いのまま、小屋の中の壁へ激突してしまった。


「あっちゃ~」

 手に額を当てて、困惑顔の菜々美。

「いちみらしいというか……」

 いつも通りな一美に感心する春菜。

「……」

(千夏のためとはいえ、そこまで出来るものなのか?あやつもまた、千夏には本気というわけか)

 そう思いながらも、咄嗟に動けなかった自分に歯がゆさを感じた祐華だった。

「そんな感心している場合じゃありません!すぐに通報します」

 そう言って多佳子お付きのメイドは、すぐさま携帯を手にし百十番に電話をかけた。



side千夏


 数瞬前。

 わたしはピンチに晒されていた。

「さぁ、お嬢ちゃん。俺達と……楽しもうぜぇ」

「い、いや……」

 男達がわたしに迫ってくる。

「心配すんなって。最初は痛いかもしれんが、すぐに良くなるって」

「あまりの良さに、脳が壊れちゃうかもだけどな。ヒャッハー」

 男の手には小っちゃな注射器。中身はヤバい代物らしい。アレを打たれたら、わたしが壊れちゃうかも、ですって?そう考えたら恐くなり、口が縛られてないことをこれ幸いと、大きな悲鳴を上げた。

「き、きゃあああっ!」

 その瞬間、男の一人に頬をはたかれた。

「デケぇ声出すんじゃねえよ」

「ま、ここじゃ悲鳴上げられても人は来ませんけどね。クックックッ……」

 確かに……ちょっとやそっとでは人は来ないかも。そんなことを考えた矢先だった。

 バターーーン!と、扉が開いたかと思ったら、何かが飛び込んで来て壁に激突した。それを男達を含め三人で呆然と見ていた。

 最初、何が起きたかわからなかったが、砂煙が収まるにつれてようやく事態が飲み込めてきた。まさかと思った人物がそこに立ち上がったからだ。

「あいたたたた……カギが掛かってないとは予想外だよ」

「先輩!」

 まさか、先輩が此処に飛び込んでくるとは夢にも思わなかった。確かに願ってはいたけど、こんな奇跡が起こる確率はかなり低かったはず。それくらい絶望的だった。

「貴方達ね。千夏ちゃんを……って、よく見たら朝会ってるナンパ二人組だった件について」

「お、おめぇ……あん時のデカ女か!」

「デカ女って……まぁいいわ、その件は不問にする。さぁ、その子を離しなさい!」

 先輩が、二人組と対峙する。完全な黒モードではないにしろ、怒り心頭ながら冷静さが垣間見える。

「ヘッヘッヘッ、そ~んな事言っていいのかよ。この子がどうなっても知らないぞ~」

 わたしを捕まえてる男の手にある注射器がわたしの腕に迫っている。

「それ、私を脅してるとでも言いたいわけ?」

「当然でしょ。こちらには人質がいるんですからね」

 もう一人の男が勝利宣言みたいに呟いた。

「そう……」

 先輩はそれだけ言うと、腕を男に向けてものを投げる格好のようにしながら前へ出した。その瞬間、窓のガラスが音を立てて割れた。

「へっ!?」

 ものを投げたわけじゃないのに、ガラスが割れた様子に、男達の目線は窓に向けられた。その瞬間、先輩が動いた!

「なっ、しまっ……」

 そう言い終わらない内に、先輩は一人目の懐に入り込み、持ち上げて後方へ投げ飛ばした。

「チッ!これでも……」

 そう言ってわたしに注射器を刺そうとするもう一人の男。だが、その針はわたしには届かなかった。先輩の脚が、注射器を持った男の腕ごと蹴り飛ばしたのだ。

「こんのぉ~っ!」

「はぁぁぁっ、せいっ!」

 男は反撃に出ようとしたが、先輩のスピードの方が上回った。腕を蹴ったのと反対の脚を、回し蹴りの要領で男の頭を蹴り抜いた。勢いで男は吹っ飛び、壁に激突して気を失ったようだ。

「千夏ちゃん、大丈夫だった?怪我はない?」

 そう言ってわたしに近づき、縛られていた紐をほどいていく。全部の紐をほどき終わると、先輩はわたしをガッチリと抱きしめた。

「ちょ、先輩……苦しいです」

「よかった……何ともなくて」

「もうダメかと思ってました。でも、心では先輩助けて!と叫んでました」

 言うことを聞いてくれるんですよね?と付け足してお茶目に笑う。

「まぁ、結果的にはね……言うことを聞いたことになるのかなぁ、これ」

 抱かれて安心感が出たのか、今になって身体が震えだした。

「ん、どったの?」

「今になって恐怖が……え?」

 今、視界に妙なものが写った。先輩の背後から、先程投げ飛ばされた男が角材を持って近づいて……くる!?

「せ、先輩!後ろ!」

「ん?あ、ヤバ」

 先輩も振り向き、男に気がついたが、もう回避不可能な状態!

 そこへ、扉があったところからまた誰かが飛び込み、角材を払いのけながら男のお腹へ蹴りを放った。

「ぐえっ!」

 男はそう断末魔を残し、先程先輩が激突した壁へ吹っ飛んでいった。そして、白目を剥き気絶した。それを見越してきたのか、菜々美先輩達が小屋へ突入してきた。

「大丈夫かえ?」

「怪我ないかい?」

「ご無事で何よりです」

「もうすぐ警察がまいりますよ」

 色んな人に囲まれて安心を味わう。

「千夏~っ!」

「祐華!来てたのね」

 勢いよく飛び込んで来た祐華に先輩は突き飛ばされ、二度目の壁激突。

「しょ、しょんなぁ~」

 そう言い残して、先輩は目を回して倒れ込んだ。最後まで締まらないのも、先輩らしいなぁ。



side一美


 取りあえず、状況終了。

 後に駆けつけてきた警察に、男二人の身柄を引き渡し。ちなみに、わたしが気絶している間にSPさんの方で拘束してくれたらしい。恥ずかしいなぁ、千夏ちゃんの前で気絶するなんて……

 今は、現場検証も終わり警察が引き上げていくところ。後日、事情聴取でお呼び出しが掛かるかも、と担当の刑事さん?っぽい人から言付けがあった。そして、私達も海の家へ引き上げようということになり、移動を開始したところで祐華ちゃんに止めたれた。

「大河一美」

「ん、なんね?」

「あんたの千夏に対する本気度、見せてもらったわ」

 あはは、無我夢中だったけどね~。

「それでも……あの状況で動けなかった私が悔しかった」

 それが普通なんじゃない?まぁ、貴女とやり合った経験が生きたのかもね。

「そうか……まぁ、いい。大河一美。ちゃんと千夏を守るんだぞ。隙あらば、奪いに行くからな」

 そう言い残して、彼女は足早に私から離れていった。

「泣いていましたね、祐華」

 いつの間にか、隣に千夏ちゃんが来ていた。私にも見えたよ、彼女の涙。よっぽど悔しかったんだね、自分の不甲斐なさに。

「あんな悔しそうな祐華、初めて見ました」

 まぁ、彼女なりに色々あるんだよ。

「先輩、改めて助けに来てくださってありがとうございます」

 いやぁ~、礼を言うなら菜々美んとこのSPさんに言ってよ。あの人が此処を見つけなければ、助けようもなかったんだから。

「でも!実際に対峙したのは先輩ですし」

 まぁ、その辺はみんなの協力でってことにしておいて。

「……わかりました」

 さぁ、海の家に帰ろう。

「はいっ!」



 色んな事があった、海水浴デート。

 最後にとんでもないおまけがくっついていたが、取りあえず無事に終わろうとしている。まぁ、記憶には残るデートだよね、うん。

 この経験が、後に九月の文化祭で役に立つときが来るとは思いもしなかった。その話はまた別の機会で。まだまだ夏休みはあるし、勉強も計画的に片付けて春菜の対策を講じておかなきゃならないかな?そういえば、菜々美の大会の応援もあったなぁ。今年の夏は忙しくなりそうだ。そして、帰った海の家での一コマ。



「あれ?下着忘れてる~っ!?」



 着替えでの春菜の一言。何で忘れるのか?ということは敢えて聞かずに、私は突っ込みを入れていた。



だいぶお待たせしております

夏コミの方が先になっちゃったねテヘペロ


水着回と銘打ってありますが、中身はいつも通りです(ぁ

一美達のドタバタをお楽しみ頂ければ幸いです


まだ続きますので……次は冬かな?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ