22
side一美
「な、何ですって~~~~~~っ!?」
教室内に、私の大音声が響き渡った。
今は月曜日。放課後前のLHR真っ最中。委員長が球技大会の説明をしている…という状況。
「いちみ…声デカ過ぎ。耳がおかしくなるかと思ったぞ」
前の席に座る悪友が、そんなことを宣ってきた。
「そんなことはどうでもいい!」
「よくねぇよ!一番の被害者だよ!」
周りにお構いなく、春菜と喧々囂々。
「そこの背の高い二人。落ち着け、っていうか黙れ」
担任に咎められてしまったので、大人しく座る私達。
「委員長、もう一度説明プリーズ」
私は、衝撃で忘れてしまった説明を、もう一度委員長に振ってみた。出来れば”アノ”部分が間違いであって欲しいという淡い期待を寄せながら。
「仕方ないわね、もう一度言うからしっかり聞いてね。恒例の球技大会が、今週末の金曜日に行われます。明日から午前中授業となり、午後は練習時間に充てられます。種目は、バレー・バスケ・ソフトボール・サッカーです」
大まかな競技内容は次の通り。
バレー:ラリーポイント制25ポイント先取
決勝のみ2セット先取 準決までは1セット
バスケット:8分×2クォーター
決勝のみ10分×2クォーター
ソフト:5回表裏で終了 延長は7回まで
決勝は7回まで 延長は9回まで
延長で勝敗がつかない場合は特別ルール採用
(内容は後日伝達)
サッカー:フットサル形式 前後半10分
延長は決勝のみ Vゴール方式
それ以外はPK戦で勝敗を決める
(延長で勝敗を決しない場合も含む)
と、こんな感じ。割と本格的な内容だよね。さすがは文武両道を推し進める学校だわ。
「これから種目別にメンバーを選出します。但し、該当種目のクラブに所属する人は一人までしか参加出来ません」
「どういう事?」
「例えば、バレーには一クラスのバレー部からは一人しか参加出来ない、ということ。OK?」
担任から、春菜向けに注釈が入る。
「その辺は去年と同じでしょう。覚えておきなさいよ、春菜」
「へ~い…」
「そして、我がクラスにだけ更に条件が追加されました」
…来た。
「大河一美さんの全ての種目への参加を認めない、と」
やっぱり間違いじゃなかったのね…。
「どうしてこうなった!?」
「三年生の方からの強い要望だそうよ。よっぽど去年負けたのが悔しかったらしいと見えるわ」
嘆かわしいとばかりに、委員長が戯けてみせる。
「いち生徒として、学校行事に参加するのは当然だと思います!」
「わたしも、その辺は抗議したわ。でも、ゲームバランスが崩れるとか色々言われて、最終的には賛成多数で採決されてしまったの」
一応は委員長、抵抗してくれたのね。ありがと。
「というわけで、大河さんの分だけメンバーが足りなくなるところが出てくるけど、どうしよう?」
「いいよ、春菜にやらせておけば」
「ぅおいっ、自分の問題に人を巻き込むなよ!」
「あんた以外に体力バカな人、他にいる?」
「基準はそこかよっ!」
「それでOKな人、挙手」
委員長、ナイスフォロー。見事に全員の手が挙がった。
「拒否権はないわけね…」
がっくり項垂れる春菜。ま、私の替わりに馬車馬のように頑張ってね。
「いちみの為にってとこが、激しく納得いかない…」
「取りあえず、基本は等々力さんが大河さんの代わりにどこかへ入るということで。等々力さんの出番が重なったときは、当日手の空いてる人が臨機応変で対応する、ということで良いかしら?」
拍手に包まれる我がクラス。全員に承認されたようだ。
「クラスが一致団結する方向が違うよ~ぅ…」
「さて、種目別にメンバーを選出しましょうか」
「今年も、勝ちに行くわよ~っ!」
「いちみが参加出来ないのに、無理じゃね?」
ホントに揚げ足取るのが得意だわね、あんたは。
「私がコーチして、私抜きでも勝てるということを証明してやるんだから」
『おお~っ』
クラス内から感嘆の声が上がった。
ふふふ、待ってなさい三年生達。目にものを見せてあげるんだから。
side千夏
「そんなことがあったんですか…」
陸上部での部活中、わたしと先輩との雑談の中で球技大会の話になり、先輩に愚痴を聞かされていた。
「そうなのよ~。折角の楽しみを奪われたみたいでさぁ~」
こんなに愚痴る先輩も珍しい。また一つ、先輩の知らない一面を見た気がする。それだけ心の距離が近づいたってことなのかな?
「というわけで千夏ちゃん、慰めて~」
そう言いながら、先輩は急にわたしに抱きついてきた。
「ちょ、ちょっといきなりですかっ!?」
そんな風にじゃれていたら、どこからともなく何かが先輩目掛けて飛んできて、パコンと音がした。
「あいたっ!」
頭を抱えて痛がる先輩。飛んできたのは、プラスチック製のリレー用バトンだった。その先には、部長の姿が見えた。
「こら~っ、公認とはいえ部活中にいちゃつくんじゃない!」
「公認て…。私は正式部員じゃないから関係ないもん」
「あっそう。次は砲丸と槍、どっちが好みかな?」
部長の笑顔が怖いですぅ~。
「おおぅ、マジで投げてきそうね。仕方がない、部活終わるまで我慢するか」
「わかればよろしい。此処にいる以上、真面目にやれ」
「着替え終了。千夏ちゃん、帰ろっか」
先輩が誘ってきた。最近は、先輩と一緒に帰るのが定番になってきた。もう杖はついてないし、怪我もほぼ完治している。でも、わたしのわがままで始まったコレは今も続いている。朝や昼と違って、唯一先輩を独占できる時間帯なのだ。他の生徒もまばらなので、手を繋いだり腕を組んだりしても見つかることはない。ので、今日は久しぶりに腕を組んで歩いている。
「今日は甘えたい気分なんだよぅ」
そんなことを言って、先輩もガッチリと組んで離さない。最近、とみに先輩が子供っぽくなってる気がする。みんながいる前では絶対に見せない表情。このギャップを知っているのは、わたしだけ…なのかな?
「あ、千夏ちゃん。今日うち来れる?母さんが連れてこいっってうるさくて…」
そう言えば、初デート以来先輩の家にお邪魔していないなぁ。そんなに気に入られたのだろうか、わたしは。
「ちょっとお母さんに電話してみます」
夕食準備されてたらまずいから、確認してみる。
『千夏、どうしたの?電話なんかよこして』
「今日、先輩に夕食誘われたんだけど…もう家にいる?」
『あら、丁度良いわ。お父さんに外食誘われてね、今あなたに電話しようとしてたとこなの。お父さんには言っておくから、招待受けなさいな』
「いいの?」
『大丈夫。外人の友人を誘って賑やかくやるから』
「わかった」
あっさりと許可が出た。割と放任されてるのかなぁ、うちって。
「大丈夫です。お邪魔させていただきます」
「ようっし、いきなり連れて行って驚かそう♪」
先輩の家に到着。お母様から派手な歓迎を受けた。
「いらっしゃ~いっ!待ってたわよ~」
ここまで気に入られる理由があっただろうか?謎だ。
「もう一人くらい子供が欲しかったのよね~。丁度一美の妹みたいで嬉しいわ」
あ、そういうことですか。
「頑張って晩御飯作るから、お部屋でゆっくりしてて」
というわけで、先輩の部屋へ通された。
「まったく、どんなテンションだっての」
お母様のハイテンションに頭を抱える先輩だった。
「ふぃ~っ、ドッサリっと」
そんなかけ声で、先輩は自室のベッドに腰掛けた。…おばさんみたいですよ?
「そんな事言う子は…こうだっ!」
そう言って、すぐ脇に立っていたわたしの腰に腕を回してガッチリと抱きしめた。自然と、先輩の顔がわたしの胸の下に収まった。
「ちょ、先輩!」
「ぐへへへ、これで私からは逃れられないよ~」
祐華みたいになってるよ!
暫くは脱出しようともがいていたのだが、突然先輩の動きが止まった。よく見ると、肩が小刻みに揺れているのがわかった。
「…先輩?」
「…暫くこうさせて?お願い…」
もしかして、泣いている?
あんなに凄いイメージしかない先輩が…泣いてるの?
「どうしちゃったんですか?」
「ん…ふと、球技大会のことを…思い出しちゃって…」
くぐもった声で答える先輩。
そっか…、選手で参加出来ないことが悔しかったんだ、三年生の策略で。
「悔しい、悔しいよぉ…」
「先輩…」
わたしは、投げかける言葉が見つからなかった。何を言っても藪蛇にしかならないと思ったから。でも、わたしは先輩の恋人。何とかしてあげたい。
「先輩、顔を上げてください」
「やだ。こんな顔貴女に見られたくない」
その一言に何故かムッときたわたしは、先輩の頭をグーで小突いていた。
「いった~いっ、何するの~?」
「まったく、先輩らしさが微塵も感じられませんね。こんな子供っぽい先輩は見ていて呆れます」
「そ、そんなぁ~。私はただ、千夏ちゃんに慰めてほしかったのにぃ~」
「慰めるってなんですか…」
ここまで子供化するとは思ってもみなかった。普段が完璧だから、その反動なのかなぁ。
「はぁ、わかりました。思う存分泣いていいですから、泣き終わったらいつもの先輩に戻ってくださいね?」
そう言い終わらないうちに、先輩は声を上げて泣き始めた。わたしはただ、先輩の頭を撫でてあげることしか出来なかった。また先輩の知られざる一面を知ってしまった今日だった。
side一美
あ~あ、すっかり泣きはらしちゃったよ。千夏ちゃんには、格好悪いところばかり見せている気がするなぁ。
「先輩、もう大丈夫ですか?」
そんな声が、頭の上から聞こえてきた。
「ん。もう大丈夫よ。情けない先輩でごめんね」
「いえ…、気持ちは何となくわかりますから」
よし。泣いて気分はスッキリ。気持ちを入れ替えないと。私は私なりのやり方できっちり片をつけてやるんだから。
「フフフフ、待ってなさいよ~、三年生共」
「さっきとまるっきり態度が違います…」
「まぁ、やることが出来たからね」
「何か策でも?」
「私が参加することでバランスが崩れるなら、私はコーチに徹してクラス全体の底上げをしてみせる」
「でも、あまり練習する時間がありませんよ?」
確かに、そこが問題なのよね。
「でも、条件はどこも一緒。やり方はいくらでもあるのよ」
「そんなものですかねぇ」
「私に秘策ありっ!」
「ぉお~、先輩が燃えてる」
「そう、なるべく身体の正面で捕ること。そうすればエラーはしにくくなるわ。後は、ボールをよく見ること」
「リスタート後は早めに前方へね。四秒ルールに引っかかるわよ。相手をよく見てパスを出すのよ」
「ワンバウンドでもいいから、確実にパスを回して。シューターは残り時間を気にせずに、打てると思ったらそこでシュートを打っていいから」
「春菜の近辺にトスを上げるようにね。後は彼女が何とかするから、っていうかさせるから」
今日から本番までは半日授業。午後は部活開始まで練習時間が設けられた。実質三日しかないから、基本を教え込む。厨二みたいな必殺技なんか出来るわけがない。基本が確実に出来れば、大崩れすることはない。…ってのが、今までの経験の中で弾き出した私の持論。それを教える為に、練習場所を右往左往。
「その割には、バレーのアドバイスがおざなりだよな。あたし任せかよ」
「あんたアタッカーなんだから、何とかするのが当然でしょ」
「へいへい。こうなりゃ、バックアタックでも何でもやってやるわさ」
「バレーはあんたがキーなんだから、負けたら…わかってるわよね?」
「罰ゲーム込みなのかよっ!」
とにかく、基本を教え込む。これでもか、っていうくらいに。そうすれば、身体が反応してくれる…そう信じて。でもそれは、練習後の教室で着替えをしているときに起こった。
「一美、ちょっと練習厳しすぎじゃない?」
「そ~そ~、只の球技大会なのにさ~」
そんな不満の声が、一部のクラスメイトから放たれた。
「そぉかな~。ほんとの基本しか教えてないんだけど?」
「反復量が尋常じゃないんだよ。何よ、ノック三十本って。ソフト部じゃないんだから」
「それくらいはしないと、三年生には勝てないよ?」
「ど~だか。実は、出られない恨みを私らで晴らしてるとか?」
「有り得るよね~」
そ、そんな風に捕られてたなんてショック!そんなつもりは全くないのに…。底上げをするつもりでちょ~っとは厳しかったかも知れないけど。
「私らいい迷惑だし~ぃ?」
「お遊びなんだからさ~、もうちょっとユルくてもいいんじゃね?」
…私だけ空回りしてるのかなぁ。
「おまんら、いい加減にするぜよ!」
突然、春菜が大声を上げた。って、何語?
「恨みを晴らす?いちみがそんな心の狭い人間だとでも言いたいのか?」
「い、いや、たとえ話だよ。ね、ねぇ」
指摘された本人は動揺している。
「普段弄られてるあたしが言うのも何だけど、いちみが理由もなく厳しい練習をあたしらに課す訳がないでしょ。あんたら、勝ちたくないの?」
「まぁ、やる以上は勝ちたいけど…」
「恨みなんてお門違いもいいとこだわさ。それよりも、今回一番悔しい思いをしてるのは誰だと思う?」
「それは…」
「いちみ本人なんだよ?どう頑張っても出られない悔しさがわかるか?それを押し殺してまで練習に付き合ってくれてるんじゃないか。ちっとは、いちみの気持ちもわかってやれよ」
…やだ、なんか春菜がカッコイイ。こんな春菜、初めて見るかも。
「いちみ自身、運動能力が飛び抜けてるのを自覚してる。そんないちみが抜けたら、戦力低下するのは目に見えているよね。他のクラスは、絶対そこをウチのクラスの弱点として突いてくる。それでも負けないように何とかしようと、いちみがあれこれしてくれてるんだよ?それに報いるのが、あたし達のやることじゃないか。違うか?」
春菜の熱弁に、教室内が静かになった。なんか、私の言葉にならない心の内を代弁してくれてる。悪友から親友に戻しておくよ。
「…ごめん、一美。ちょっと言い過ぎたかも」
「わたしもごめん。大河さんがそんな事しないのはわかってたはずなのに…」
「まぁ、わかってもらえればいいよ。私の方こそ、練習厳しかったかもって反省してるし…」
「いや、むしろもう少し厳しくていいかも」
ええっ!マジデスカ?
「出られない大河さんの為にも頑張るって、昨日みんなで誓ったんだもんね」
みんな…ありがとう。
「恨みは、春菜を弄ることで解消するから」
「あんないい事言ったのにぃ~、ってかあたしで恨みを晴らすな~っ!」
春菜の一言で、教室は大爆笑に包まれた。
そして、球技大会当日。
試合は順調に消化していってる。
ただいま、バレーの決勝戦の最中。
今日まで一生懸命練習した我がクラスだが、現実はそう甘くはなかった。
他の三競技は何とか準決までは行ったんだけど、そこで惜敗。バスケに関しては、菜々美と清華がいる2Aに惨敗した。
「さすがは清華。わたくしも我を忘れて応援してしまいましたわ。今思えば恥ずかしいぃ…」
「まぁ、大河のいないチームはわっちの敵ではないな」
「ウチの頭脳と清華はんの体力の勝利やね」
そんなことを二人は宣っていた。清華にかき回されたら負けるのは目に見えていたけど、あそこまで徹底的にやられるとはね。やたらに3Pシュートを連発するし。
今、体育館で知り合いとクラスメイトと共に観戦中。隣には千夏ちゃんもいる。
「わたしのクラスは、全部一回戦負けです」
そんなことを言っていた。
私のクラスも総合優勝は無くなったが 、せめて春菜のいるバレーだけでも優勝したい。
試合状況は、セットカウント二対二でフルセット勝負に持ち込まれている。この最終セットも一進一退の攻防が繰り広げられている。
「ああっ、またバックアタック失敗や。何してるん、ハル~」
菜々美の容赦ない応援が春菜に飛ぶ。何故か、今日の春菜はバックアタックをことごとく失敗している。トス位置が微妙なせいもあるだろうが、少し精彩を欠いている。
「春菜先輩、どうしちゃったんですか?」
「元々バックアタックは苦手としてるんだよね」
「そうだったんですか」
「それに輪をかけてプレッシャー感じてるんちゃうか?」
まぁ、他が全て負けちゃったからねぇ。でも、そんなのを気にする性格じゃないでしょうに。
しかし、このまま行くと決勝点前後でまた春菜が後衛に回ってしまう。
スコア24対22。後一点で勝利、という時点で春菜は右サイドバックに。サーブを打つも、相手に拾われる。アタックが左サイドを狙われ、レシーブ失敗。後一点で同点に追いつかれる。
相手のサーブで始まり、暫くラリーが続く。なかなかチャンスが巡ってこない。ツーで返したり、クイックで奇襲をかけているのだが、相手もしたたかで拾いまくっている。
「見てる方は胃が痛いですね」
そして、相手の巧いアタックをリベロが見事レシーブ。そしてトスが、春菜の前に上がった。
(決めなさいよ、春菜!)
そう心に願った私。
「うりゃああああっ!」
渾身のバックアタックが放たれた。僅かに相手ブロッカーに掠ったのか、ボールは軌道を変えコート後方の枠外へ。必死に飛びつくが間に合わず、弾いたものの更にあらぬ方向へ。本日初めて決まったバックアタックが決勝点となり、我がクラスの優勝を決めた。
「いやったああああああああっ!」
コート上で喜ぶ春菜達。応援していた他のクラスメイトも喜びを爆発させていた。
「おめでとうございます」
千夏ちゃんが祝辞を述べてきた。
「ありがと。最悪ここだけは勝ちたかったからね」
後で教室行ったら労ってやらないと…と思っていたのだが。
「いやぁ~、いちみの罰ゲームを想像してたら、身体がうまく動いてくれなくて~」
その後、とんでもない罰ゲームを春菜に与えたのは、また別のお話。
お待ちどおさまです~
球技大会編ですが、大会前がメインな話です
一美の号泣、春菜の熱弁、これがやりたかった<マテ
球技大会内容については、なるべく
つっこまない方向でひとつ…w
次回から、夏休み編…になるのかな?
何が出てくるかはお楽しみに~♪




