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side一美


道場から昇降口まで約二百メートル。

 そんなに差がなく道場を後にして、さらに相手は杖をついてる筈なのに…追いつかない。差がない…と思ってるのは自分の感覚であって、意外と時間差があったのかも。

 下駄箱付近にも、彼女の姿がない。

(おかしい…。追いついてもいいはずなのに)

 靴の有無を調べたいけど、学年が違う人の下駄箱の場所なんて知らないし。

(そういえば、意外にもどこのクラスかも知らないんだよね)

 全校生徒六百人強の中の一ヶ所なんて事前情報なしでわかるはずもない。

 となれば、下駄箱は通過したと信じ、私も靴に履き替えて校門へ向かう。

 昇降口を抜けて校門の方へ視線をやると、もうすぐ門へ到達する彼女の姿が見えた。

(意外と速いなぁ。無理してなければいいけど…)

 さらに、その向こうに見覚えのある車一台を視界に捉えた。…お迎えの車だ。

「間に合えぇぇぇぇぇぇ~っ!」

 瞬間、全速力モードにチェンジ。後の事は考えず、周りの景色をはるか後方へ追いやった。


「千夏ちゃ~~~~んっ…」

 追いつく直前、私はありったけの出力で声を出し、彼女を呼び止めた。

 その声に反応したのか、千夏ちゃんは振り向いた。まさに車に乗り込む直前だった。そして、もう一人いた隣の女性も同時に反応していた。

「あら、どちら様?」

「はぁ、はぁ、はぁ……や、やっと……追い…つい…たよ……はぁ…」

「だ、大丈夫?かなり息が乱れてるけど」

「す、すいま…はぁ…せん…全力…疾走……しちゃった…もので…ふぅ…」

 や、やっと…息が…元通りになってきた。久々の全力は意外とクるわねぇ。

「せ、先輩…」

「あら、もしかしてこの方が昨日言っていた人?」

「…うん」

 昨日の事の顛末は知っているようですね。ならば、自己紹介しなくてば。

「醜いところをお見せして申し訳ありません。私、二年の大河一美と言います。昨日は、微力ながら千夏ちゃんの手助けをさせてもらいました」

「そのようね。話は娘から聞きました。千夏の母の沙織と申します。昨日は、娘の為に色々して頂いたようで感謝してますわ」

「いえ、出来る事をしたまでですし…」

「でもなかなか出来ないわよ、頭でわかっていても。それで、娘に用かしら?」

「あ、はい。少しお話でもしたいな~、と」

「わ、わたしは特に…話なんかありませんけど」

 そこで否定されてしまうと凹んでしまうのですが。

「ま、立ち話もなんだし、我が家へどうですか?」

 え?それは願ったり叶ったりですが…いいのかなぁ。

「ここで会ったのも何かの縁だし、昨日のお礼を兼ねて夕食に招待したいのだけれど…予定は大丈夫?」

「お母さんっ!?」

 千夏ちゃんは予定外の事にかな~り驚いてらっしゃいますね。っていうか、私も心臓バクバクなんですが。

「よ、よろしいのでしょうか?お邪魔しても…」

「大丈夫ですよ。一人二人増えても手間は変わりませんからね」

「ちょっと親に確認してみます」

 携帯を取り出し、電話をする。母さんは今日昼からの勤務だから問題ないとして、父さんの残業が気になる。先週、千夏ちゃんのコーチで遅くなったときは、リビングの床に倒れててビックリさせられたからなぁ。

『ほい、父さんだが…どうした?』

「あ、父さん。今日は残業どうなの?」

『ん~、今日はかなり遅くなりそうだ。サーバのトラブルが一件片付かなくてな、様子を見ながら修正してるんだが…』

「MMOのほう?」

『うむ、今日配信したアップデーターが悪さしてるみたいで、サーバダウン寸前までいったのを何とか復旧させたんだけど、安定しなくて』

「じゃあ、晩ご飯は無理だね」

『そうだな。下手をすると帰りは母さんと同じになりそうだ。今日は昼からだったな、母さんは』

「うん」

『何か…あったのか?』

「ううん。友達に晩ご飯誘われちゃったから。帰りが早いとまずいな~って。この前迷惑かけたし」

『あぁ、なら心配せず行ってこい。こっちは何とかするから』

「うん、わかった。お仕事がんばってね」

『ふぉ~っ、娘の応援で力がみなぎってきた~っ!』

「…莫迦」

 聞こえないように呟き、電話を切る。父さんは嫌いじゃないんだけど、娘への愛情が時々暴走するから困るのよねぇ。

「OKです。夕食のご招待をお受けします」

「よかったわぁ、お誘いが無駄にならなくって。じゃ、車に乗ってちょうだいな」

 では、失礼して…その前に千夏ちゃんを乗せないと。

「持つわ」

 松葉杖を持とうとするが…。

「結構です」

 そのまま器用に後部座席へ乗り込んでしまった。何か怒ってらっしゃる?

「さぁ、行くわよ」

 その声に反応して、私は彼女の反対側のドアから後部座席に乗り込んだ。そのタイミングで車は発進した。



「じゃ、お茶はこちらへ置いておくわね。夕食が出来るまでくつろいでいてね」

「あ、おかまいなく~」

 藤宮家。

 昨日に続いての訪問。

 昨日との違いは、二人きりではないという事。

 そして、移動中の車の中でのぎこちない雰囲気。

 そんな空気を察したのか、運転手は一言も話さなかった。

 で、今現在千夏ちゃんの部屋に通されている状態。

「成り行きとはいえ、二日続けてお邪魔するとはねぇ」

 そう言って自分を繕ってみたけど、反応がない。

 当の部屋の主は、自分の机に向かって座っていてこちらをちらりとも見てくれない。

「あのぉ~、千夏ちゃん?」

「……」

 返事もまともに返ってこない。私、何かしたのかなぁ。軽い自己嫌悪に陥る。

「…なんで」

 え?

「何で追いかけてきたんですか?」

 やっと返事が…って、一言目から攻撃的なんですけど。

「まぁ、朝みたいに拒絶されたのが気になったんだけど…朝と雰囲気が違ってたって、菜々美も言ってたしね」

「言われるがままに追ってきたんですか」

「そうなるのかな?正直よくわかってなかったんだけど」

「はぁ~~~~~っ」

 そこまで言ったら、盛大に溜息をつかれてしまった。

「噂には聞いてましたが、先輩って本当に鈍感ですね」

 机の方から上半身だけ捻って、呆れ顔で睨まれる。

 な、何ですとっ!?後輩にまで言われる私って…。

「彩恩先輩に聞いてたとおりでした」

 って、菜々美かい!大元は。確かに、彼女には事あるごとにニブだのニブチンだの言われてショックを受けてるんだけど…。そんなに酷いのかなぁ、私って。

「わたしが道場で杖を落とした理由、わかりますか?」

 え、滑らせて落とした…んじゃないの?

「やっぱり…わかってないんですね。わたしを道場に連れてきたのはどなたですか?」

 それは…私だよね?

「その人は道場で何をしてましたか?」

 もちろん、弓道のコーチングをしてましたよ?頼まれていた事だったからね。

「では、連れてこられたわたしは何をしてましたか?」

 それは、足を怪我してるから用意してもらった椅子に腰掛けて見学…あ。

「私が何も相手をしてあげてなかったから、退屈で寂しかったんだね…」

 それは怒るわなぁ~。誘っておいて何もしてあげてないってどんだけよ、私。

「今になってわかるなんて、酷いですよぉ…」

 ぅわ~、数時間前の自分をぶん殴りたい気分だわ。

「なんか…ゴメン」

「寂しかったんですから~っ!」

 そんな台詞と同時に千夏ちゃんが私に飛びつき、そのままベッドへダイブする。勢い余って押し倒された格好になる。

「んっ!」

 そして、唇を奪われた。

「わたしは先輩の何なんですか?」

「恋人…ですね。ごめんなさいすいません許してくださいぃ…」

 何かいつも弄られる春菜の気分が少しわかったかも。

「許しません。彼女をほったらかしにした罰を受けてもらいます」

 ば、罰って…一体どんなのかしら。

「い、今から、せ、先輩を、お、襲って、い、苛めます」

 え…襲われちゃうんデスカ?後輩に苛められちゃうんデスカ?

「あ、あの…ですね?一応私にも、心の準備ってものが…」

「罰ですから、そんなものは要りません」

 全否定ですかっ!?ち、千夏ちゃんが怖いですぅ~っ!

「さ、さぁ。覚悟はいいですか?」

 ジリジリと、彼女の手が私の制服に近づいてくる。もう逃れられない。


「夕飯出来たわよ~。降りてらっしゃい」


 制服に手が掛かったその瞬間、下から私達を呼ぶ声が飛んできた。

「…残念です。襲えなくて」

 私はここぞとばかりに安堵した。貞操の危機をかろうじて脱出できた。小母様には感謝です。

「許した訳ではありませんので」

 そう言って、私から離れる。

「反省してますので、何とか許してはもらえませんでしょうか…」

 そう私が言うと、何かを考えるように千夏ちゃんは押し黙ってしまった。

「…そうですねぇ」

 襲われる以外の代案なら、何とかなるとは思うんですが。

「では、今度の休みにデートしてください。そうすれば、考えを改めなくもないです」

 なくもないって…微妙な条件ねぇ。ま、襲われるよりはいいかも?

「そんなに、わたしに襲われるのがイヤなのですか?」

 何か心がこもってないみたいでイヤなのよねぇ。ああいうのは、互いが求め合わないと盛り上がらないし。一方通行な行為は個人的に嫌いなのよ。愛情を押し売りしてるみたいで。

「結局のところ、デートはして頂けるんでしょうか?」

「そ、それはもちろん、喜んで!」

 全身全霊をもって承らせていただきます。

「では、下へ行きましょうか。そろそろ母さんが…」


「何してるの千夏?早くお客様をお連れしなさい」


「って、言われますから…って言おうとしたんですけどね」

 こればかりは、苦笑せざるをえなかった。



side千夏


「ごちそうさまでした。美味しかったです」

「お粗末様。お茶を用意するけど、何がいい?」

「あ、お構いなく。そろそろ家に戻らないと…約二名分のご飯の支度をしないといけないので」

「あら、そう。残念だわ。もう少しお話したかったんだけど」

「またの機会に、ということで」

「じゃ、車で送るわね。外はもう暗くなってるし」

「あぁ、大丈夫ですよ。家は割と近いし、わざわざ車を使う距離じゃありませんから」

「そう?気をつけて帰るのよ?」

「はい。お気遣いありがとうございます」

「千夏、玄関でお見送りして」

 わかりました。

「わざわざすまないね」

 礼儀の一つですから気にしないでください。

「じゃ、お言葉に甘えて」

 先輩と玄関へ移動する。

「怪我人なのに悪いわね」

 自分の家ですから、平気です。それよりも、今日は変な事になって申し訳ないです。

「変な事って?」

 まさか二日続けて家に上がってもらう事になるなんて…。

「あぁ、そっちね。元はと言えば、私に原因があるんだから。それより、罰の方かと思ったわ」

 それも原因は先輩じゃあないですか?

「あぅ、ごめんなさい」

 デート、約束ですよ。ドタキャンとか、予定変更とかはなしですからね。

「最優先事項としてスケジュールに組み込ませていただきましたっ!」

 最敬礼する先輩。もう怒ってませんですよ。襲えなかったのは残念ですが。

「さらりと危険な発言はしないでください…」

 では、また明日学校で。

「うん。…あ、良かったら、お昼一緒に食べない?」

 え、どういうことですか?

「どうも何も、お昼を一緒したいなぁ~というお誘い。今から頑張ってお弁当作るから」

 そ、それはわたしの役割なのでは…。

「今日のお詫びを兼ねて作らせて。お願い」

 今日の件は、デートの約束で片がついてるじゃないですか。

「それはそれ、これはこれ」

 もう…仕方がないですね。わかりました。

「よぅっし。気合い入れるぞ~。それじゃ、おやすみ」

 おやすみなさい。気をつけて帰って下さい。

「見送りありがとうね~」

 パタン。

 玄関の扉が閉まった。

 怒濤の展開な放課後だったなぁ。

 またしても、嫉妬してしまうなんて学習能力ないなぁ。

 でも、先輩の色んな表情を見られた。普段しっかりしている印象な先輩が、あそこまでダメダメになるなんて意外だった。調子に乗って苛めてしまったけど。

「千夏~、いつまで玄関にいるの?早くシャワー済ませなさい」

 は~い。シャワーの準備しなきゃ。

 週末は先輩とのデート。楽しみだな。

 この怪我のせいで、あまり遠くへは行けないけど、恋人同士となって初のデートだから、準備にも気合いが入るってもんですよ。

 …ちゃんとその辺、空気読んでくれますよね、先輩?



大変お待たせしました

ようやく更新です

書く時間が欲しい~

仕事が変に忙しくて…

遅筆なのがさらに遅くなってしまってますぅ…orz


え~、お知らせです

この度、夏コミに当選しまして

この作品を頒布する計画をしています

もちろん、このままではなく

加筆修正&おまけを収録する予定です

詳しいことはブログで決まり次第うpします♪


http://norickrcstyle.blog94.fc2.com/

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