13
side一美
繁華街から少し離れた住宅街の一角。
そこに、千夏ちゃんの家はあった。
「へぇ~、私の家からも割と近いね」
それが、私の率直な感想だった。
「そうなんですか?」
「うん。私の家はもう少し学校寄りのとこだから」
「そうなんですか…あ、今鍵を開けます」
カチャッ。
鍵の開く音がした後、引き戸を開ける彼女。
「先輩、ひとつ我が儘を言っても良いですか?」
「ほい、なんでしょうか?」
「私を部屋まで連れて行ってくれませんか?」
えぇぇぇぇぇぇ~っ!
何という大胆なお願い…。
「いいいいののののでしょうか?わわわ私なんかで」
動揺しすぎだ、落ち着け私。
「…先輩じゃなきゃ、こんなお願いしません」
う、嬉しいじゃありませんか。
「言い間違えました。『彼女』だからお願いしてるんです」
か、彼女…。
嬉しすぎて、気を失っちゃいそう。
「では、失礼して…」
お姫様抱っこで、千夏ちゃんを抱える。
「ええっ!またですか!?」
…どうも、彼女はこの抱っこに抵抗があるようですね。
「そんなにいや?」
「い、いえ…そうじゃないんですけど、恥ずかしくて」
「大丈夫。今は私しか見てないよ」
「…は、はい…」
そうして、そのまま彼女の部屋へ運び込んだ。
ちょっと階段がきつかったけど。
「到着」
そう言って部屋に入り、ベッドに彼女を降ろす。
「ありがとうございます」
降ろして手をほどき離れようとしたら、私の首に彼女の手が回り、引き寄せられた。
「きゃっ!」
自然と、彼女と密着する形となった。
「あわわわわ…」
「すいません。こんな大胆な私で…」
そ、そんなことありません。むしろ大歓迎?
「今、この家は私達二人っきりです」
そんな感じだったわね。ご両親は不在みたいだったし。
「兄弟姉妹はいないの?」
「はい。一人っ子です」
本当に二人っきりなんだ、今。
ということは、このシチュが意味するところは…。
「せんぱい…」
またまた、目を閉じられましたよ!?
誘われてるんだ。
どうも、リードされっぱなしなんですが。
ま、いいでしょう。私もそれを望んでるみたいだし。
ちゅっ。
今までで一番長いキスだったように思える。
「千夏ちゃん」
「は、はい」
「あまりキスばっかしてると、自分が抑えられなくなりそう」
そう、キスの先…恋人同士なら必然的に求めるもの。
「それは…わたしもです」
「え…?」
「私はこの先も求めてます。夢が覚めないうちに」
夢じゃないんだけどなぁ。
「先輩と繋がることが出来たらこんなに嬉しいことはないです」
でも…。
「貴女は足を怪我してるのよ?弱みにつけ込むみたいで…」
「この怪我のおかげで、両想いになれたんです。足首に負担が掛からなければ平気です」
「そうは言うけどねぇ…」
捻挫が悪化しないか気が気でない。
「先輩が本当に私のことが好きなら、私を、私のすべてを先輩のモノにしてください」
ズキューン…。
こんなに大胆でしたか?貴女は。
完全にリードされっぱなし。
やっぱ、私は『彼氏』じゃなくて『彼女』なのかな。
ここまで言われたら、行くしかないじゃないですか。
「わかったわ。後悔はしない?」
「先輩となら後悔しません」
「じゃ、じゃあいくわよ」
「そろそろ大会が終わる頃ね」
ふと、部屋にあった時計を見て、そうつぶやいた。
「何をしてるんでしょうね、私達」
「部屋でいちゃいちゃしている恋人同士?」
自分から言って可笑しくなってしまった。
「今日は色んなことがありすぎました」
そうね…。
大会を見に行って、貴女が怪我をして、病院へ連れて行って、それから…。
「何か、今になってドッと疲れが出てきたかも」
「することしましたからねぇ」
彼女も、思い出して苦笑する。
「シャワー浴びます?少しはすっきりするかもです」
「そうね…お借りしようかな。貴女も浴びるでしょ?」
「私は…この足ですし」
足下に目をやってうなだれる彼女。
「大丈夫。ビニール袋で保護すれば平気。なんだったら、後で包帯まき直してあげるよ」
「そうですか」
「時間がもったいないから、一緒に入っちゃおうか?」
「えぇぇぇぇぇっ!」
「まともに立ちにくいから、大変でしょ?手伝ってあげる」
「そそそそんな、恥ずかしい」
もう、すべてを見せ合った仲じゃない。遠慮しないの。
「そういうときは彼氏ポジションですね…」
「うだうだ言わないの。お風呂場はどこ?」
side千夏
小一時間後。
私は普段着、先輩は着てきた私服に戻った。
さすがに、これ以上長居は無理ってもの。
「そろそろ帰ろうかしらね。結構長居しちゃったし」
「引き留めちゃったみたいですいません」
「いいのよ~。気にしない」
そこに…。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
「誰だろう」
「私が出てあげる。その足じゃ移動も大変でしょ」
ありがとうございます。
…………
程なくして、ドタドタと階段を上がってくる音が…二人分?
「千夏っ!お見舞いがてら、荷物持ってきたよ」
扉が勢いよく開いたその先には…。
き、キミー先輩!?
「顧問からある程度は聞いたけど、大変だったねぇ」
「まぁ、はい」
「かずみんも、千夏に付いててくれてありがと」
「いえ、暇でしたから」
そういえば、陸上部で私の家を知ってるの、キミー先輩だけでしたね。以前遊びに来たことがありましたっけ。
「そうよ~。一年はみんな知らないって言うじゃん?だから、あたいが代わりに持ってきてやったんよ。感謝しなさ~い♪」
強引に奪ってきたようなイメージが浮かび上がるんですが…。
「何か言った?」
いえいえ、何も~。
「それにしても、捻挫で済んで良かったね。今年の全国はフイになっちゃったけど」
仕方がないですね。自分が悪いわけですし。
「でも、来年はいけると思うよ、素質あるし」
大河先輩…。
「かずみんのお墨付きなら大丈夫だ。今年はゆっくり足を治しな。全国は私が制してくるから♪」
捻挫ですから、一月もあれば治りますよ。
「でも、また力んで飛んだら同じことの繰り返しになっちゃうよ?今年いっぱいは基礎体力作りに重点を置くこと」
キミー先輩にそこまで言われたら、仕方ないですね。おとなしく従います。
「かずみんは、千夏が暴走しないように適度に監視してね。これは、あたいからの依頼」
「コーチングとは別に?」
「別じゃなくてもいいよ。部に顔を出したときに見てくれたらそれで良いよ」
「ま、受けておきましょう」
なんか、二人の間で交渉がまとまってる!?
「それよりキミー先輩、今日の結果は?」
先輩がここにいるってことは、大会が終わったんですよね。
「結果なんて知れてるじゃん。あたいの勝ちで決まってるんだから」
やっぱり。そうだとは思ったんですが…。
「目標は、あくまでかずみんの記録抜き!それ以外に興味はない」
「わ、私の?」
「去年のあんたの記録が、あたいの目標なんよ」
「…あぁ、千夏ちゃんから聞きました。どうぞ抜いてください。抜けるモノなら」
ぅわ~、キミー先輩にふっかけてるよ~。
「言われなくてもやってやるわよ。抜いた暁には、もう一度勝負してもらうわよ」
「そんな約束してましたねぇ、…まずいなぁ」
そんなやり取りがあったんですか。
キミー先輩が燃えるわけだ。
「んじゃ、千夏の元気な姿も見られたし、帰るとするか」
「そうだ、私も帰るんだった」
「じゃ、途中まで一緒に帰る?」
「それは、遠慮しておきます」
…先輩が空気読める人で良かった。
「じゃ、千夏ちゃん。お大事にね」
「ゆっくり休みなよ~」
二人の先輩は帰っていった。
明日は学校…行けるかなぁ。あ、お母さんに送ってもらおうかな。歩くにはちょっと辛い距離だしなぁ…。
ようやく、こちらも新年1発目をうp出来ました
お待ちになっていた方、すいませんm(__)m
やっぱり、例によって少しカットしてます(ぉ
次回分から、新展開になります
といっても、そう大きくは変わらないかも?
ただ、菜々美の弓道部を書きたくなったので
その方向に行くだけです 新カップルは出るのか?
そんなのわかるわけうわなにするはなせやめ