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side一美


「またあんたなの…今度は何やったの?一美」

 娘の顔を見て、第一声がそれですか…。

 確かに怪我をすると大概、総合病院(ここ)のお世話になるわけで。身内がいるってのも、考えものねぇ。

「今日は私じゃないわよ」

 そう言って、千夏ちゃんに視線を向ける。彼女は今、患者搬送用のキャリーに乗せられている。

「あら、この前の…藤宮さんだったかしら」

「そう。この子が足を挫いちゃったみたいで、連れてきたのよ」

「そう、わかったわ。今日、外科の先生いたかしら…ちょっと待ってね」

 そう言い残して、パタパタと走っていった。

「大河先輩のお母様…でしたよね」

 うん、そうだけど…どう?痛みは。

「まだ痛いですけど、少しはラクになりました」

 じゃ、救急外来の手続きしちゃおうか。

「あぁ、それはウチがやってくるよ。ハル、つきおうて」

「ほいほい」

 助かるなぁ、二人とも。

 いつも私の時にもやってくれてるみたいだから、要領がわかってるみたいだね。

「一美~。おまたせ」

 あら、お早いお帰りで。

「手続きは…あの二人がしてるのね。じゃあ、あそこの三番の診察室にお連れして。急患だからって、ほかの患者さんには話をしてあるから大丈夫よ」

 はい…あ、そうだ、最初の痛がり方が尋常じゃなかったって、瑞浪先生が言ってたけど。

「知香ちゃんが…わかったわ。先生に伝えておくわ」



 小一時間後…。

 私たちは、何故か入院病棟の個室の一つに集められていた。

 ここって、この前私が一晩入院した部屋じゃないの。母さんの策略ね。

 コンコン。

 程なくして、ドアがノックされた。

「どうぞ~」

 菜々美が反応した。その声に合わせて、ドアが開いた。

「お待たせね、三人とも」

 そう言って、母さんと松葉杖姿の千夏ちゃん、そして中嶋先生も姿を現した。

「先生!こっちに来て大丈夫ですか?」

「あぁ、今お昼の時間だから抜け出せてこれたんだ」

 もう、そんな時間なんですか。

「一通り、先生には私から説明しておいたわ」

 で、どうなの?彼女は。

「うん、ただの捻挫。骨もレントゲンで見て、異常なし。ただ捻り方が悪かったみたいで、関節部分に余計なストレスが掛かったのが、異常な痛がり方の原因ね」

 そう…安心したぁ。

「とりあえず、痛み止めを打って湿布と包帯を巻き直し。二、三日は不自由するけど、腫れが引いたらあとはテーピングでも大丈夫。一週間ぐらいはあまり足首を動かさない方がいいわね」

 骨とかは大丈夫なの?

「さっきも言ったけど、レントゲンで確認してるから。内出血などの症状もないから、負担かけなければ早く治るわよ」

 とりあえずは重傷じゃなくて良かった。

「でも、重傷の一歩手前なのは確かね。今回は運が良かった方よ?」

 そうなんだぁ…。

「あ、あの…色々ありがとうございました」

 千夏ちゃんが、恐る恐るお礼の言葉を述べてきた。

「いいのよ、これが仕事だしね。今は痛み止めが効いてるけど、無理しちゃ駄目よ?」

「は、はい…」

「いやぁ~、大事に至らなくて良かったよ。先生安心したぞ、藤宮」

 顧問もやっと安心したようで、安堵の表情を浮かべている。

「よかったなぁ、千夏ちゃん」

「やった瞬間はどうなるかと思ったぞ~?」

 菜々美と春菜も、安心したようだ。

「さて、私は仕事に戻るけど、許可は取ってあるからここでゆっくりしてってもいいわよ」

 やっぱり母さんですか、この部屋を用意したのは。

「三人とも、色々世話になったな。先生は戻らないといけないから、先に失礼するぞ。藤宮、そのまま今日は自宅へ帰ってもいいぞ。荷物は他の一年に届けさせるから心配するな」

 だって。良かったね。

「本音を言えば、会場に戻りたいのですが…この足では無理ですね」

 行けなくはないけど、治す方が先だもんね。

 母と顧問が居なくなり、私達四人だけが病室に残った。

「あっ、そやそや。もう一度受付に来てくださいって言われてたのを忘れてたわ~」

「えっ?そんなこと言われ…」

 ドゲシッ!

 な、何か、菜々美の肘鉄が春菜のお腹に入ったように見えたんですが…。

「い・わ・れ・て・た・や・ろ?」

「……そうだったような無いような…」

「だからウチら、も一度行ってくるな」

 はいはい、行ってらっしゃ~い。

「ちょう、時間掛かるかも♪」

 部屋を出る間際に、そんな台詞を残して出て行った菜々美であった。なんつー意味深な…。

 二人が取り残された病室。

 何か、びみょ~な空気が漂い始めた。

「とりあえず、座ったら?松葉杖じゃ、疲れるでしょ」

 変な空気を払拭するために、私は千夏ちゃんにベッドに腰掛けるよう勧めた。

「あ、は、はい」

 それに習って、私も隣に座る。

 …隣?

 あれ?

 何で自然と座ってるのかな?

 傍には、丸イスもあるのに。

 自分の中で葛藤が始まった。

「…先輩?」

 言われてハッとなった。

 …落ち着け、私。

 葛藤を見抜かれてはいけない。

「…足、大丈夫?」

 何という質問をしてるんだ、私!

 大丈夫なわけないじゃないっ!

「痛みはありませんね、痛み止めのおかげで。包帯のおかげで、歩きにくいですが」

 …ふぅ、とりあえずは普通に会話が始まった。

「何とか初期対応が間に合ったかな」

「はい…、あの時はすいませんでした。我が儘言って」

「わかってくれればいいのよ。こっちこそ、叩いちゃってごめんね?」

「いいえ、私が悪いんですし…」

 よし、普通に会話が出来てる。

「それにしても、転んだときはビックリしたよ~」

「何だか力んでいたみたいで…こんな怪我なんて生まれて初めてです。丈夫が取り柄だったのに…」

「そうなんだ…しかし、何で力んでたの?」

 …ボンッ!

 そんな音が聞こえるくらいに、彼女の表情が一瞬で変わった。

「…キミー先輩の応援に応えなきゃ、ってのもあるんですが…」

 うんうん。

「……………」

 え、今何て言った?

「…大河先輩に良いとこ見せたくて…」

 小声でようやく聞こえる位の音量で、答えてくれた。

 私?

 私が見てたから?

「聞きました。去年の大河先輩とキミー先輩のやり取り」

「どんな?」

「体験入部での…」

 …あぁ~、そんなこともありましたねぇ。言われるまで、すっかり忘れてましたわ。

「そして、大河先輩のお友達に嫉妬して…」

 あ、もしかして、目が合ったときにそっぽ向かれたやつ?

「本当に怒ってたんだ…」

「え?」

「いやいや、こっちの話~」

 うきゃあ~、どどどどうしよう。

 まだ怒ってるのかな?

「…折角告白したのに、見てくれていないんじゃないかと、勝手に考えて…自己ベストを超えたら、私を見てくれるんじゃないかと思って…」

 そっかぁ~、それで力んでたんだ。

「返事もまだ聞いてないのに、一人で空回りして…格好悪いです」

 あなたの気持ち、教えてもらいました。

 ここまで言われたら、こちらもちゃんと答えないといけないね。もう、気持ちは固まってるけど。

「ごめんね。貴女が怪我したのは、ある意味私のせいかもね」

「そ、そんなこと!」

「言わせて。私の返事がないから不安だったんだよね?」

「…い、いえ…」

「正直、私の気持ちもあやふやだった。でも、貴女が目をそらした瞬間、言いやまれぬ気持ちになって、ようやく自分の気持ちに気がついたの」

 ぅわ、いつの間にか、告白モードに入ってる?

 千夏ちゃんも、真剣な目で私を見ている。

 もう、後戻りは出来ないっ!

「真剣に貴女の気持ちに返事をします。私は、貴女のことが好きになりました」

 告った瞬間、千夏ちゃんの目から涙が…。

「怪我をしたとき、もういてもたってもいられなかった。貴女の苦痛の表情を見る度に、変わってやりたい、貴女を泣かせたくないと、何度思ったことか…」

「そんなことを思ってたんですか…」

「うん。だから、貴女が無理をして歩こうとしたとき、つい手が…」

「……」

「捻挫で済んで、本当に良かった。心配だったんだから」

 そういって、私は彼女の肩に手を回し抱き寄せた。

「せ、先輩?!」

 ぅわ~、私って大胆!?

 でも、ほっと出来る。ここに千夏ちゃんがいることに。

 骨折でもしてたら、私号泣してたかも。

「先輩…」

「目をそらされたとき、めっさ落ち込んだのよ?」

「あれは…、すいません」

「いいのよ。おかげで自分の気持ちに気がつけたんだし」

 もう一度、面と向かい合う。

「貴女のことが好きです」

「…はいっ!私も先輩のことが好きです」

 そう言った千夏ちゃんが…目を閉じた!?

 ここここれは…もしかしなくても、きききキスを求めていらっしゃるぅ?

 一度、事故でキスはしてるけど…あれはやっぱりカウントには入らないよね。

 そうなると、私も彼女もおそらくは初めての…キス。

 しかも、女の子同士…。

 ええぃっ!好きになったものは仕方ないんじゃあ!

 彼女を待たせては申し訳ない。

 覚悟を決めろ、大河一美。

 ゆっくりと、距離を縮める。

 十センチ、五センチ、四センチ、三センチ…。

 千夏ちゃんの吐息を感じる。

「せんぱい…」

 そこで、その反応は反則です!

 い、行きます。

 二センチ、一センチ…ゼロ。

 ちゅっ。

 ぅわ~、女の子の唇だ~。


 たっぷり、十秒間は行為に及んでいたようだ。

「…んぱぁっ」

 ようやく、離れることが出来た。

 キスだけで、こんなに心が暖まるなんて…。

「何か…ヤバいね」

「…何がですか?」

 …心なしか、ポォ~ッとしてるね。余韻があるとか?

「離れるのが寂しかった。まだしていたい」

「…私もです。同じ気持ちで嬉しい」

「もう一度…する?」

「はい…」

 お互いの気持ちを確認し、再度顔を接近させる。

「ただいま~っ!」

 唇が再びゼロ距離になるその瞬間、突然病室のドアが開き、春菜が入ってきた。

「うきゃああああっ!」

 私達は瞬時に距離を取り、平然を装う。

「あ、お取り込み中やった?」

 その後ろから、菜々美も顔を覗かせた。

「ななな、何のことかな~」

 平静を装っていたつもりだったが、悲しいかなそこでどもるとは!

「…な?やっぱり」

「隠しても無駄だよ~ん。ばっちり覗かせてもらったから♪」

 な、ななななんですとぉ~っ!

「でも、まだまだやな~。ここは一つ、大人のディープなやつを…」

「うぉ~、それはまたエロい…」

「折角両思いになれたんやしなぁ」

 …こいつら、黙ってれば好き放題言ってからにぃ~っ!

「春菜ぁ、菜々美ぃ?近うよれ」

「…あ」

「ヤバ、地雷踏んだ?」

「地雷って何かしら?私はお二人にお話があるんですけど~?」

 逃げようとする二人に、私はジリジリと近づく。

「まずいっ!いちみが敬語調になったっ!?」

「どうまずいんの?」

「怒りがクライマックスモードに入ってるぅ…」

 当然でしょう。私はかなりの辱めを受けたんですからねっ!

「ちょ~っとそこの廊下でお話をしませんこと?」

「ははははははいいいいいいい~」

「ウチもぉ?」

「当然ですわよ…あ、千夏さん?」

「あ、はい…って、千夏さん!?」

「少しお待ちになっててね?平和的にお話ししてくるから、このお二方と」

「う、うそや~っ!」

「有り得ん有り得ん」

 うるさいお二人ですわね。

 ガッチリ!

 二人の肩を掴み、部屋の外へ連れて行く。

「マジっすかぁ~っ!……」


side千夏


 あ~ビックリした。

 大河先輩って、本気で怒ると口調が敬語になるんだぁ。

 覚えておこ。


 …とうとう、してしまった。先輩とキスを。

 しかも、事故ではない正真正銘の…。


 ようやく思いが伝わった。

 怪我の功名って言葉があるけど、この場合も当てはまるのかな?

 両想いのキスって、こんなにも暖かいんだなぁ。

 先輩がヤバいと言った意味がわかるような気もする。

 柔らかかったなぁ…。

 な、何か変態っぽい思考になってるっ!?

 でも、にやけ顔が止まらないぃ~。

 先輩と両想い。嬉しいな。

「ごめんなさいね~お待たせしてしまって…」

 あ、先輩が戻ってきた…って、まだ敬語!?

「毎度のことですけども、本当に悪ふざけが過ぎますわ、あのお二人」

 まだ怒り心頭…なのかしら。

「今度という今度は、さすがに許せるレヴェルではありませんわ」

「まぁ、先輩…その辺りで」

「ま、千夏さんもあのお二人の肩を持ちますの?」

「そうじゃないですけど…」

 …こんなキャラは先輩じゃない。

 先輩はもう少しフランクで、さりげない感じが良いんであって、お嬢様キャラは違う気がする。

 どうしよう。

 このままでは、先輩が先輩でなくなっちゃう…。

「先輩?」

「何かしら?」

 先輩を呼んで、不意打ちでキスをしてみる。

「んんっ!?」

 白雪姫のキスじゃないけど、これで元に戻ってくれるなら…。


「んふ、ちなつ…ちゃん」

 …私をちゃんで呼んでる。元に戻ったかな?

「んんっ、ぷはぁっ」

 唇を離して、様子を見てみる。

「…んもぅ、千夏ちゃんってば、ダ・イ・タ・ン♪」

「あぁっ、すすすすいません!」

「いいのよ。両想いなんだしね」

 …あ、口調が元に戻ってる。

 少しは怒りがおさまったのでしょうか?

「何だか、らしくないところを見せちゃったわね」

「唯々ビックリしまくりでした」

「これからは、貴女にも多少火の粉が掛かるかもしれないから、覚悟してね」

「ふぇぇぇぇっ!?」

 私もいじられるのですか?

「そういうのを楽しんでる節があるからねぇ、あの二人は」

 か、覚悟しておきます。

「さて、帰りますか。家へ送るよ」

 先輩が手を差し出してきた。その手を取り、立ち上がる。そこへ、松葉杖をさりげなく渡してくれる先輩。

「ありがとうございます」

「本当はまだここにいたいけど、さすがに…ねぇ?」

 ここは病院。さすがに長居は出来ない。しかも、あんなことをしてるなんてバレたら…。

「ま、そこまでを見越して部屋を用意したのかもしれないけどね、うちの母さんは」

 確信犯ですか。

 しかし、松葉杖は歩きにくい。

 足首が使えないから、仕方がないけど。

「ごめんね。本当なら肩を貸してあげたいんだけど…」

「いえ、結局は同じですから、歩きにくいのは。それに先輩に迷惑が…」

「いいのよ、そんなことは。折角なんだから、『彼女』を頼ってくれると嬉しいかな?なんて」

 そんなことを言ってから、先輩は顔を赤らめてうつむいた。

 ぅわ、先輩かわいい!

 何か、先輩の知らない部分がどんどん出てくる。

 先輩から『彼女』なんて台詞が出てくるとは。

「立ち回り的に、先輩は『彼氏』だと思ってたんですけど」

「う~ん、学年はいっこ上だけど、私も恋する乙女だから、って何言ってるのぉ、私」

 ますます顔を赤らめて照れてしまいましたよ、先輩。

「じゃ、じゃあ取りあえず私の家まで連れて行ってください」

「お安いご用。かわいい彼女のためなら」

 ボンッ!

 今度は私が『彼女』に反応してしまった。

「お、お、お願いします…」

 そう返すのが精一杯だった。


少し間が開きましたorz


とうとう結ばれた二人…展開早い?w

色々と心の中を打ち明けてる二人です

しかし、周りの人間がおせっかいすぎるww


なお、キスシーンの一部を自主的判断から

カットしています(計20行くらい?)

読みたい人います?たいしたもんじゃないけど(ぇ


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