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1945年に飛ばされた私、iPhoneだけ2025年と繋がってるんだけど? 〜終戦回避は無理ゲーでも、戦後復興をRTAして100歳まで君臨する〜  作者: 栗昆布
第3章 東京デフラグ ―更地をコンクリジャングルへ!編―

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iPhone、死亡

闇の奥から響くその音は、もはや電車という文明の利器が立てる音ではなかった。歪んだ線路と、手入れの行き届かない車輪が、断末魔のような悲鳴を上げながら地下の空気を切り裂いている。その咆哮が近づくたび、ホームの天井からはパラパラと乾いた土砂がこぼれ落ち、サオリが掲げるiPhoneの光の中に白い筋を作った。

「……待て。一歩ずつ、重みを逃がすように歩け」

 先頭を行く工藤が、ドスの柄を握りしめたまま低く命じた。

 足元には、一月の爆撃で粉砕されたタイルと、逃げ遅れた誰かのボロ布が泥にまみれて固まっている。サオリは、ライトの光を前方のはりに向けた。かつて近代建築の粋を誇った銀座駅の柱は、上層階から押し寄せる数千トンの瓦礫の重みに耐えかね、中央から無残にS字に歪んでいた。


 ジャリ、ジャリ、と四人の足音だけが、列車の残響に混じって響く。

 その時、背後を歩いていた竹本が、不意に足を止め、天井を這う巨大な鉄筋の露出した亀裂にそっと手を触れた。指先から伝わる微かな「震え」を確かめるように、彼は眼鏡の奥の瞳を異様に細める。


「……素晴らしい。この振動の伝播速度、そして梁の歪み」

 竹本が、場にそぐわない狂気を含んだ笑みを浮かべ、サオリのiPhoneが照らす「歪んだ構造」を指差した。

「工藤君、法律だの権利書だのといった紙の遊びはもういい。いっそ、そのヤクザ共を建物丸ごと飲み込んでしまえばいいのでは? 全滅だぞ」

 工藤が顔をしかめ、足を止めて振り返った。

「……おい。寝言は寝て言え。そんな芸当、できるはずがねえだろ」

「物理的には可能だよ。特定の支柱に物理的な衝撃を打ち込み、構造的な連鎖崩壊を誘発させれば……瑞穂屋もろとも、地上のすべてがこの穴の底だ」

 竹本の言葉に、サオリの背筋を冷たいものが走る。

「……五月二十五日。あと少しで、ここ銀座はまた空襲に遭うわ。今度は『山手大空襲』。何もかも焼き尽くされる……。竹本さんの言う通り、地上はどのみち壊れるのよ」

「だったらさ、あたいたちはこの穴に逃げちまえばいいじゃんか。そうでしょ?」

 ハナが、暗闇の中で一点を見つめて言った。十八歳の少女とは思えない、冷徹な生存本能。

「地上が火の海になるってんなら、ここを塞いで中にいれば、ヤクザも火も入ってこれない。あたいたちだけ、この中で生きてりゃいいんだよ」

「その通りだ。自分たちだけが潜れる『機構』を即席で作ればいい」

 竹本が、突然ハナの方を向き、その瞳を爛々と輝かせた。

「……お嬢さん。その板は結局、何ができるんだ? まさか、ただの灯火ではあるまい。……『計算』はできるのか? 構造解析、あるいは応力の数値化。そいつの中に、建築学的な計算システムは組み込まれているのか?」

「計算……ええ、それくらいなら、一瞬で」


「ほう。では、見せてみろ」

 竹本はサオリの手からiPhoneを半ば強引に奪い取った。

「この『ふち』にある小さな突起が、演算のトリガーか?」


「あ、竹本さん、そこは――!」


 竹本は物理学者としての好奇心のまま、サイドボタンと音量ボタンを力任せに同時に押し込んだ。

 パッ、と二百ルクスの光が消えた。

 逃げ場のない、純粋な暗黒が四人を包み込む。


「……おい、何しやがった!」


 工藤の怒声。

 だが、その直後。漆黒の空間に、**ぼんやりと白い「リンゴの紋章」**だけが浮かび上がった。

「……映ったぞ。だが、なんだ、この不気味に光る果実は。数字も、計算の気配も微塵もない……。沈黙、か?」

 竹本からiPhoneをひったくり、サオリは半狂乱でボタンを連打した。

「ええ、ちょっと待って、電源が……」

 チッ、チッ、チッチッ!!

 冷たく、硬い金属のクリック音が、暗闇の静寂に虚しく響く。


「え、つかない、なんで? はー?? 嘘でしょ、リンゴから動かないんだけど! ねぇ、ちょっと!!」


 サオリの悲鳴に近い声が、無機質な壁に跳ね返る。

 唯一の「未来」が、一九四五年の地下で、不気味に光るリンゴを晒したまま息絶えた。

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