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1945年に飛ばされた私、iPhoneだけ2025年と繋がってるんだけど? 〜終戦回避は無理ゲーでも、戦後復興をRTAして100歳まで君臨する〜  作者: 栗昆布
第2章 iPhoneで銀座を落とせ ―焦土のシステムハック編ー

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豚の血と白皙(はくせき)

「……工藤君。君は一体、何をトチ狂ったのか。斯様かような無機質な板切れや、亡父ちちの遺したほこり塗れの台帳を持ち出して、私を恫喝どうかつして何が愉快なのか。はなはだだ無作法であるよ」

 瑞穂屋の大旦那は、鼻先でせせら笑いながら、目の前の冷めた茶を啜った。その所作には、戦時下にあっても揺るがない山の手の矜持と、「格下」を教え諭すような冷ややかな優越が滲んでいる。

 サオリはiPhoneを操作し、ケンジから届いたばかりの地図データを表示させた。


「恫喝なんてしていません。……大旦那、あなたは今日、一度死ぬんです。でも、その『死』は別の器が肩代わりします。だから、あなたは生き残って、私のためにこの街を新しく作り直してもらう。……そう決めたんです」

 サオリは淀みのない丁寧な言葉で淡々と告げた。だが、その血の通わない響きは、かえって大旦那の神経を逆撫でさせた。

「……何と不潔な。君は、親のしつけというものを知らないのかえ?」

 サオリは窓の隙間から階下の通りを見下ろした。

 正午。銀座の街角には、工藤とハナが「瑞穂屋さんのご厚意」と触れ回った炊き出しに釣られ、飢えた群衆が列を成している。その中心、機銃の火線が走るであろう石畳の上に、工藤が仕掛けた「身代わりの形代かたしろ」が、大旦那と同じ贅沢な羽織を纏って無造作に転がっていた。


「準備はいいですか、ハナさん」


 サオリが小声で呟く。階下では、ハナが丁稚たちを急かし、軒下へ人々を押し込んでいた。

「ほら、瑞穂屋さんの温情だよ! 壁際に寄らなきゃ、よねはやらねえよ!」


 十四時五分。

 サオリはiPhoneを畳に置き、大旦那の腕を驚くべき力で掴んだ。

「大旦那、店先へ。あなたの『最後』を特等席で見てください」

「何を……放したまえ! かる乱暴は困る! 工藤君、よしたまえ!」

 工藤が背後から無言で大旦那の襟首を掴み、抵抗を封じて店先へと引きずり出した。

 十四時九分。

 銀座の空気が、不気味に震え始めた。

 サオリのiPhoneが、残り一分のカウントダウンを刻む。

「あと六十秒。……私を信奉するなら命を差し上げます。さもなくば……歴史の灰にすがよろしい」

 十四時十分。

 空を切り裂く悲鳴のような金属音が銀座に降り注いだ。

 二機のP-51が、服部時計店の塔を掠めるほどの超低空で突っ込んでくる。

 ダダダダダダダダダダダダッ!!

 石畳が火花を散らし、猛烈な爆音と共に砂塵が舞い上がった。

「ひ、ひ……ひぃぃっ!!」

 大旦那の眼睫がんしょうの先、わずか数メートルの路上で、あの「形代」が機銃掃射を浴びて弾け飛んだ。

 工藤が仕込んだ「豚の血」が、赤い霧となって大旦那の白皙はくせきの顔に降りかかる。発煙筒の異臭と、肉が焦げるような獣の匂い。

 路上には、無残に砕け、臓腑ぞうふのように赤黒い血を撒き散らした「自分の分身」が横たわっていた。

 静寂。そして、遠ざかる爆音。

「お怪我はございませんか、大尉殿」

 サオリは、駆けつけてきた憲兵たちに対し、腰を抜かして震え上がる大旦那の肩を抱きながら、氷のような微笑を浮かべた。


「この瑞穂屋のあるじが、天軍の襲来を予見して、市民を軒下へと避難させたのです。この方の英断がなければ、今頃ここは修羅のちまたでしたよ」

 憲兵たちは、血まみれで茫然自失とする大旦那を「英雄」として敬礼し、追及の手を止めた。

 恐怖と屈辱、そして逃れられぬ証拠(台帳)。すべてが混ざり合った表情で、大旦那は、震える唇を開いた。

「……あ、左様。この方の、仰せの通りであるよ……」

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