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1945年に飛ばされた私、iPhoneだけ2025年と繋がってるんだけど? 〜終戦回避は無理ゲーでも、戦後復興をRTAして100歳まで君臨する〜  作者: 栗昆布
第2章 iPhoneで銀座を落とせ ―焦土のシステムハック編ー

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焦土の上の羅針盤

本郷。工藤邸の焼け残った石造りの蔵。

 三月十日の地獄から数週間。サオリはその間、ほとんどこの蔵から出なかった。工藤が密かに運んでくるわずかな食事を口にする以外は、膝の上で青白く光る「未来の箱」と、工藤の父が遺した埃まみれの「土地台帳」を突き合わせることに没頭していたのだ。

「……何をしてるんだ、お嬢様。そんなボロボロの台帳を睨みつけてよ」

 工藤が、蔵の扉を閉めて近づいてきた。その視線は、サオリの背後に広がる異様な光景に釘付けになる。

 蔵の石壁には、親父が遺した土地の権利関係や抵当リストが、サオリの手によって複雑に相関図として書き込まれていた。その中心には、常にiPhoneが置かれ、現代の地図データが宝石のように光っている。

「工藤さん、お父様は本当に天才だわ。この台帳に記された『担保物件』と、私の知っている『未来の価値』が、面白いほど一致するの。……この数週間で、この街の『急所』がどこにあるか、すべて洗い出したわ」

 サオリはiPhoneを操作し、ハナも呼び寄せた。

 三人の顔を、液晶の光が冷たく照らす。ハナが「ひっ」と短く息を呑んだ。数週間経っても、この自ら発光する板への畏怖は消えない。それは飢えと死の時代において、あまりに異質な「生命力の塊」だった。

「この絹は、農家への貢ぎ物じゃない。……絶望している地主たちから、将来の一等地を買い叩くための『軍資金』よ」

 サオリは、画面を二人の目の前に差し出した。

 銀座四丁目。服部時計店の時計塔が、夜空に突き刺さるような光の洪水の中に、白亜の輝きを放って立っている「二〇二五年の姿」だ。

「な……っ!」

 工藤が身を乗り出した。自分たちが知っている、あの煤けた銀座の街角が、魔法のような極彩色で描写されている。

「……これ、銀座かい? 嘘だろ、和光が……透き通るみたいに光ってる……」

「これが、ここから数十年後の姿。……でも、その前に地獄が来る。来月の末、五月の二十四日と二十五日よ。銀座は、すべて燃え尽きるわ」

 サオリの断言に、蔵の空気が凍りついた。

「この箱がそう言っている。一度も嘘をついたことのない、未来の記録がね。……来月になれば灰になることが決まっている土地の権利書を、今のうちにこの『反物』で預かる。彼らには命を繋ぐための『今』を。私たちは、誰も信じていない『未来』を。……悪くない取引だと思わない?」

 ハナは、サオリの瞳に宿る、冷徹で合理的な狂気にめまいを覚えた。

 この数週間で、この娘はただの避難民から、未来の情報を武器に時代をハックする「支配者」へと変貌していた。

「……アタシたち、この『光』を信じるしかないんだね。……サオリさん、アタシもあんたに運を預けてみるよ」


 ハナの声に応えるように、サオリはiPhoneの画面をスワイプした。極彩色の未来図が消え、無機質な英文の報告書と、弾痕の刻まれた白黒の記録写真が並ぶ。サオリの指先が、画面上の数値を鋭く指し示した。

「ケンジから届いたわ。未来に確定している『攻撃の記録』よ。……四月四日、午後二時十分。硫黄島から飛来した二機のP-51が、銀座四丁目の交差点を掃射する。狙われるのは交差点の中央。そして、その弾丸を真っ先に浴びて死ぬのは、店先で配給の差配をしていた瑞穂屋の大旦那よ」

 サオリの瞳には、かつての怯えは微塵もなかった。そこにあるのは、冷徹な合理性だけだ。

「ほらね。……だから、私はこれを元にある作戦を考えたわ。まず、お父様の台帳を使って、瑞穂屋に食料の放出を認めさせる。それをエサに、四丁目の角に群衆を集めるの。軒下は掃射の死角になる。そして、路上には『大旦那の身代わり(デコイ)』を置く。……自分の死を間近で、特等席で見せつけるのよ。そうすれば、彼は私を信じるしかなくなる」

 サオリは確信に満ちた声で言い放ち、二人を見据えた。

 一九四五年の歴史をデバッグするための、最初のコード。

「行きましょう。……五月の炎が降る前に、まずは銀座を掌握するわ」

 立ち上がった三人の顔を、iPhoneの光が下から冷たく照らし出す。その光は、暗い蔵の中から焼け跡の街へと漕ぎ出す、不吉で力強い灯台のようだった。

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