2-3 いきなりハンチョウ!
そして冒頭の場面(2-1)へと戻る。
「ダンジョンは生物と同じように成長する――冒険者たちの魔力を微量ずつ吸い上げ、ダンジョン内で死ねば精気も吸い取ります」
「はーい、エルさん」
「なんでしょうか、シロー」
「でも冒険者が毎回死んでるような、そんなおっかないダンジョンに人は来るの?」
「ダンジョンの特性を利用します」
聞くところによると、ダンジョンにとっても人間とは共存の関係。
仮に絶命するようなことがあっても、内部魔力により仮蘇生される。
しかし、ほぼ死に体だ。
そのまま冒険者は、まずモンスターたちの手により、ダンジョン外にある所定の『亡骸ステーション』へ放り込まれ、回収業者によって近所の教会へと送還され。そこで完全蘇生される。
ちなみに人間による人間のための蘇生は、モンスターなんかよりずっと格安らしい。
仮蘇生と、完全蘇生の違いはよく分かんないが――まぁそういうもんだと理解しておく。
「そしてそれは、ダンジョンマスターと契約するモンスターにも適応されます」
「……つまり俺が冒険者にやられても……すぐに生き返れる?」
「はい。傷の程度が軽ければ……悪魔神官に依頼しなくとも、数時間で復帰できます」
まさに、俺にとっての天職だ!
死にスキルだと思ってた『死んでレベルアップ』も、この環境でならフル活用できる!
「……消費した内部魔力分のお値段は、給料から差し引きになりますけど……それでも市井の値段考えたら、かなりの破格です」
「よーし。じゃあサクッと契約して、バリバリ働きますか!」
目の前の契約書には、色々な文面が、分かり難く書いてある。
あっちの契約書と同じだ――よく読み込まなければならない。
「日給で銀貨1枚――1回死亡につき銀貨100枚を蘇生費として徴収……あれ」
1回死ぬたびに、赤字になるじゃん!
「死にそうになったら、特別な魔法で離脱してもらいます。冒険者には、まるで身体が黒いチリになって消えたように見えます――まぁ実際に、チリに代わってるんですが」
あのマンガやアニメでよく見る表現――
この世界じゃ、モンスターの逃走なのか。
「チリになった身体は、専用の通路を伝い、ダンジョン奥の施設へ送られ――再び体は再構成されます。この機器の利用は福利厚生の一環なので、無料ですのでご安心を」
でも死んだカウントにはならない――
コンコンと、入り口の扉をノックする音。
「……失礼します、エルさん」
部屋に入ってきたのは、やはり執事服の女性だった。
エルとは違い耳は普通だし、頭のサイドに角が生えている――悪魔だろうか。
「ミッテルモンスター協会より、ボルたちが到着しました」
「分かったわ。待機部屋で待ってて貰って」
「かしこまりました」
そんなやり取りの間も契約書を読んで――給料の部分で、こんな項目を見つけた。
『冒険者を倒すなどの活躍した方には、1日の給料に成果給として最大10枚追加支給』
『賞金首の冒険者を討伐成功した際には、既定による報酬を支払います(例:星1クラスで銀貨200枚)』
『より良い営巣作りに貢献した方には、ダンジョンマスターより表彰と報奨金がでます』
「これだ……」
なんとかして、ここにやってくる冒険者を倒す。
さっきの話の通りなら、例え殺してしまっても胸を痛める必要はない。
こうなったら、倒して倒して――たまに死んでレベルアップする。
いずれは、このダンジョンの幹部ボスにも、成れるかもしれない――
「ささっと――はい。これでいいかな!」
「ええ。では、待機部屋に行きましょうか」
俺は契約書にサインし、意気揚々とエルの後ろに着いていくのだった。
◆ ◆ ◆
「ポム!(おめーさんが新人のボルだってな!)」
待機部屋。
テーブルの上には、オレンジ色の球体に短い手足のついた一頭身――つまり最弱モンスター『ボル』であり、恐らく俺と同じ姿形をしている奴らが4匹いた。
その中でも頬に傷の入った、でもつぶらな瞳のボルが話しかけてきた。
「ポムム!(できたばかりのダンジョンと聞いたが、なかなか良いところじゃねーか!)」
「え、えぇ……」
もしかして、これが標準のボルなのか。
鳴き声として「ポム」としか発しないし、傷有りと違って後ろの連中はゴロゴロしたりとのんきなものだ。
そして、この鳴き声が言語としてちゃんと理解できる――同じ種族だからか?
「エルさんってボル語って分かるんですか?」
「分かりません――」
少しだけ、声のトーンが落ちる。
「ですので、自動的にアナタがこのボル班の長です」
就職数分後に、いきなり班長に昇格。
「この方々は、どういったメンバーで?」
「元々ダンジョンモンスターはチームで行動するのが常ですが……このダンジョンに、他のボルはいません」
そして既存のチームで、ボルを迎え入れたいところは存在しない――と注訳を付けるエル。
「ですので、モンスター協会に連絡してボルを派遣して貰いました――こう見えて、彼らはダンジョン勤務の経験もあるベテラン……らしいので、上手くまとめてください」
「は、はぁ……」
「わたくしは色々と仕事があるので……なにか用事がある場合は、他のスタッフへお願いします」
それだけ言い残し、詳しい業務内容の説明もなく――放り出された。
「ポム!(お前が班長だってな……派遣のオレらだが、新人にも従ってやるよ)」
「それは、どうも」
「ポム!(よろしくぅ、班長さん)」
「ポム!(なんだなぁ)」
同じボルのはずだが、全然見分けがつかねー。
傷有りだけは分かるが、他のメンツは顔が微妙に違うだけで、他は全部同じすぎる。
「……よし。ちょっと待っててくれ!」
早速、初仕事だ。
俺は廊下を歩いていた悪魔娘さんに頼み、色の違う布を用意して貰った。
それを全員の腕へと縛っていく。
傷有りのベテランは、ブルー。
一番真面目そうな顔つきの、グリーン。
もちっとした頬には、イエロー。
唯一まつ毛のあるのには、ピンク。
そして俺は――班長であり、自分の名前にちなんだホワイトだ。
「よーし。これから仕事の際には色……コードネームで呼ぶから、みんなそのリボンを忘れないように付けてくれ!」
「ポム(ふっ、分かったぜ……)」
「ポム!(分かりました、班長!)」
「ポム。ポム?(えーリボンとか可愛い~。どう?)」
「ポム(似合ってるよぉ~)」
こうして初日にして班長となった俺だが、やはりこのメンバーで大丈夫なのか――
大いに不安である。




