2-2 宴会スタート、からの終わり
最初こそテンションが低かったメンバーも、酒が入ればすぐに調子が乗ったようだ。
「どうぞどうぞ、お酒空いてますよー先輩ぃ」
「おっ。ボルなのに気が利くなーお前」
サラリーマン時代に、半ば強制的に参加していた飲み会を思い出す。
近年は自由参加の会社も増えているようだが、地方の中小企業だったあの会社は違う。
むかーしからの悪しき風習が続いており、酒の席では、若手である俺は社長や上司の機嫌取りに奔走していた。
アレは現代の因習村だよ。
「ほー! お前、新人か。ホントにやれんのかー?」
「粉骨砕身の覚悟で、このシロー。頑張らさせていただきます!」
しかし、そんなことを言ってられる状況じゃない。
ここまで追い出されることになれば、もう俺にこの世界で生きる術はナシ。
――ブラック企業に勤めてるサラリーマンも、こんな気分なんだろうか。
「えっ!? お前、エルさんの胸、揉んだってホントかよ……どうだった?」
「あれはまるで、高速道路で手を出して空気を揉んだかのような感触……柔らかかった……」
「羨ましい……」
若干、背中に尖った視線を感じるのをスルーしつつ、俺は少しずつこのメンバーに馴染みつつあった。
まぁ酒の席だし、みんなの心のパーソナルな距離も一時的に縮まっているだけだ――
「ふん。ボルなんかに、ワイらの仕事が務まるとは思えんなぁ!」
そう言って酒の入った木製ジョッキを掲げるのは、ローブ服を着たゴブリン。
どれも似たような小鬼の顔で区別はつかないが――このゴブリンだけは、かなり上等な服装だ。
「このゴブゾル様の酒を飲んでみろ!」
渡されたジョッキは、俺の現在の背丈ほど――
そこになみなみと継がれた、フレッシュな匂いのする赤ワイン。
度数はそこまで高くなさそうだが――ゴブゾルの顔は、真っ赤に染まっていた。
「おー? 新人の一気飲みかー!?」
「いいぞー! やれー!」
お前ら、それ現代日本でやったらアルハラだぞ――
なんて常識も、この異世界で通じるわけもないか……なにより、こいつらはモンスターだ。
その場のノリで生きてそう感は、人間よりも強い。
「では不肖ながらこのシロー! いただかせて、いただきます!」
これもここの職場に慣れるため――
意を決して、ジョッキを傾けた。
ゴクゴクゴク――意外と飲みやすいな。
さらにゴクゴクゴク――
「ぷはぁ!」
「マジか、飲み切りやがったぞ!」
「ほー。ボルにしては、多少はやるようだな――」
「そ、そうれすか……」
マズい。
アルコールのまわりが早い。
足元がふらつき、世界がグルングルンとする。
「おー? お前大丈夫かよ」
「へ、へぇ……だいじょうぶで、ヤンス」
もう自分がなにを口走ってるのか分からない――
他のみんなの声、エルの怒鳴り声が遠くなり――
そして――そこで記憶は途絶えた。
◆ ◆ ◆
「ふあ……よく寝た……」
起き上がるが、柔らかいものに頭をぶつける。
しかし、それとは関係なく頭が痛い――完全に二日酔いだこれ。
昨日は職場の飲み会で――
「……やっぱ夢でしたー……なんてあるわけ、ないか……」
自身の手は、やはり丸っこいままだった。
「……みんなは?」
昨日の宴会会場はすっかり片付けられているようだ。
「みなさんは出勤しました……昨晩は、お楽しみでしたね。シロー」
声は上から降ってきた。
どうやら俺は、エルに膝枕をされているようだ。
間近で見ると、目じりをピクピクとさせている――どう見ても怒ってる。
よく酒を飲んでいる間の記憶が無いと言うが……まさか自分の身に起ころうとは。
なにをやらかした、昨日の俺。
まさか、再び胸を揉みにいったか――
宴会芸と称して、しょんべんでもやらかしたか――
思い出そうとしても、頭が割れるほど痛い――
「あのエル、さん……昨晩、俺はなにか仕出かしたのでしょうか……」
「酒の飲み過ぎで吐いて――最後は、テーブルに頭ぶつけて死にました」
「死に……死んだ!?」
通りで頭が痛いわけだ――うわっ、コブになってる。
「二度も。しかも同じ日に。……蘇生魔法使わされるとは思いませんでしたよ」
「その……ご迷惑をおかけしました」
彼女の膝から降り、土下寝でなんとか誠意を見せる。
そういえば前回もそうだが、なんで膝枕をしてくれてたんだろう。
もしかして蘇生魔法に関係するのか――
「わたくしの使う蘇生は……その、少し特殊なので……あまり何度も使わせないでくださいね。人前で使うのは、恥ずかしいので」
セリフだけなら恥じらいながら言ってるようにも聞こえるが――
実際には、今からナイフで刺し殺してきそうな蔑む目で睨みつけながら、ドスを効かせて言ってくる。
怖い。
「やはり先に正式契約しとくべきでした……」
「契約?」
「こちらへ……」
よく見れば、会場だった部屋の真ん中には、小さなテーブルと椅子が用意されていた。
「ではまずは、ダンジョンについてご説明します――」




