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死にスキルを持って最弱魔物に転生した俺―友達のドラゴンが経営するダンジョンで巣作り担当やってます―  作者: 夢野又座/ゆめのマタグラ
第2話 ダンジョンへ就職しました

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2-1 その名は、黒の迷宮


『そのダンジョンは、アッサム地方の山岳地帯――その麓に存在する。

 乗り合い馬車の行路にある最寄りのマカロ村より徒歩で1時間。

 さらにダンジョンボスに待ち構えるのは――あの伝説のブラックドラゴン!

 数多の財宝を集める収集癖のあるドラゴンの住家になった、この『黒の迷宮』はまさに攻略しがいのある究極のダンジョンと言えるだろう。

 さぁ、冒険者たちよ。立ち上がり、邪悪な竜を倒し、その手に財宝を掴みとれ!』


「……なにこれ」


 呆然と眺めている俺に、エルが説明してくれた。

 

「ダンジョン配信チャンネル“ダンツベ”で流してる、ウチの宣伝コマーシャル(CM)よ」


 RPG(アールピージー)に出てきそうな勇者や戦士がダンジョンを攻略している様子をバックに、さっきのナレーションが流れている――それが水晶玉によって岸壁に投影されている。

 CMが終わると、どこかのダンジョンの様子が映し出される。

 棍棒を持ったオーガと、やはり冒険者風の男女が戦っている――これは実際の映像か?


「この『黒の迷宮』はオープンしてまだ2カ月ほど……しかも3丁目エリアなんて郊外もいいとこよ。中々冒険者は来ないけど、それでもこうやってCM流して少しでも知名度あげないと……」

「はぁ……」


 俺は気のない返事をしながら、目の前にある“契約書”を眺めていた――

 このダンジョンへ到着したのは昨日のことだ。

 

 ◆ ◆ ◆


 険しい山々が並ぶ山岳地帯の(ふもと)

 外部からは到底侵入できないような崖と崖の間をすり抜け、()()からダンジョンへと入った。

 冒険者用の出入り口は、もっと入りやすいところにあるらしい。


 ダンジョンの中は――天然の岩肌を削ったような感じ。

 でも薄暗いということもなく、カビやホコリ臭さも無い。清潔(せいけつ)で、掃除の行き届いた、まるで荘厳(そうごん)なお屋敷のような作りになっていた。


「お待ちしておりましたシュバル様。……あとシロー」

「うむ」

「ど、どうも……」


 出迎えをしてくれたのは、ついさっきも会ったダークエルフのエル。

 やはりピチっとした黒い執事服なのだが、胸元が多少苦しそうだ。


「よーボス! 人間界にある宝物庫へお宝取りに行ったら、冒険者と鉢合わせたんだって?」

(……スケルトン!)


 気さくに片手を上げて話しかけてきたのは、全身骨のみの魔物だった。

 骨密度が足りてないのか、ノリは軽そうだ。

 

「それ聞いたエルちゃんが飛び出そうとするの、(なだ)めるの大変だったんだぜー? 色男はつらいねぇ」

「ボスお帰り~」


 そのスケルトンの足元には、水色のゼリーがぷよぷよしていた。

 

(スライムか)

「聞いてくださいよ~。この間もスケサン先輩、居眠りしてて冒険者素通ししちゃって……それ全部ボクのせいだって言うんですよ!」

「冒険者来たなら、ちゃんと連絡しろって言ってただろ!」

「けっこう強そうで――いや、ちょっと持ち場を掃除してて……」


 こっちもノリは軽そうだ。

 これならすぐにでも仲良くなれそうだ。


「は、初めまして先輩たち!」

「……なんだこのボル」

「小さくてわかんなかった」


 すっげー冷ややかな視線を受けた。


(ってか、スケルトンならともかく、スライムのお前は俺と同じ1頭身だろうが!)


 と、言いたいが――初日から問題を起こす訳にはいかない。

 大人の対応で、丁寧にお辞儀をしながら挨拶をする。


「ボルのシローと言います! この度、シュバルの紹介で、このダンジョンで働かせて貰うことになりました!」


 元気よく挨拶をしたのだが、やはり反応は薄いままだった。

 

(コネ採用みたいなもんだしな……これから頑張らないと)

「……そうなんですか? ボス」

「ああ。まぁ、詳しい話は後だ――」

「どうぞ奥へ」


 通されたのは、ドラゴンでも余裕で通れそうな天井も高い広間だった。

 奥。つまり上座――そこには上等で巨大なクッションが敷かれている。

 木のテーブルには色んな料理が所狭しと並べられ、席には――多様なモンスターたちが座っていた。

 スライム、スケルトンの他にもゴブリンやオーク(豚顔の人型モンスター)もいる。

 総勢15匹ほど――少なくない?


「皆の者。早々に40日ほど留守をして済まなかったな」


 シュバルが奥のクッションに収まるように座り、その隣に陣取るようにエルがいる。

 俺は――どこに居ればいいのか分からないので、とりあえずエルの隣に立っている。


「ボスが冒険者に襲われたと聞いて、気が気ではありませんでしたよ!」

「すまなかったな」

「それで? お宝は持ってこれたんですか!?」

「うむ――ルオオォ」


 シュバルが低く唸るような声を発すると――

 地面に魔法陣が現れ、いくつかの宝箱が出現した。

 もしかして、これが竜魔法(ドラゴスペル)というやつか。


『おお――』


 モンスターたちが感嘆(かんたん)の声を上げながら、身を乗り出している。

 

「我がコレクションの中でも選りすぐりの財宝だ――冒険者たちも、きっと食いつくであろう」

「これさえあれば!」

「もう大人気ダンジョン間違いなしですね!」


 モンスターたちが盛り上がる。

 なるほど――目玉商品の無いダンジョンに、わざわざ来る冒険者も居ないもんな。


 しかもボスはドラゴン。

 危険な相手なら、なおさら良い財宝を手に入れたいはずだ。


 ……そういえば、シュバルってどのくらいの強さなんだろうか。

 もちろん俺より万倍強いだろうけど、対ドラゴン装備があるくらいだ。

 それを装備した冒険者相手に苦戦しているのを――俺は見ている。


「スケサンよ、開いてみるがいい」

「あいさー!」


 さっきの軽いノリのスケルトンが、意気揚々(いきようよう)と宝箱のひとつに手をかけ――開くと。


「……肉?」


 箱にミッチミチに詰まった、骨付き肉。


「美味そうだろう。不老不死と謡われた伝説の魔獣――その尻尾の部分だ」

「は、はぁ」

「ワシが狩って、この数十年寝かせておいた……もう食べごろだろうな」


 シュバルは自慢げに語るのだが、他のメンツは明らかにテンションが下がっている――


「じゃーこっちの箱には……小銭?」


 箱から溢れんばかりの、少しくすんだ色合いの硬貨だ。

 

「その昔――他の竜と共に着いていった遠征で、滅ぼした国の貨幣だ。デザインが気に入ったのでな、持ち帰ったのだ」


 ふふん――と得意げに語るのだが……国が滅んでたら貨幣価値はゼロだろ。

 硬貨そのものにプレミア価格でも付いていれば……そんなマニアがいるんだろうか。

 これ、あかんやつだ。


「3つ目は……」

「おっと、それはエルの前では開くな」


 取り出されたのは、ピンクな装丁の本だ。

 スケサンがパラパラとめくるので、後ろに回って観察――


 海辺で夕日をバックに寝そべっている青いドラゴン。

 まだ煙が上がっている、崩れた城を踏みつけて、セクシーポーズを決める紫のドラゴン。

 大空を優雅に舞う赤いドラゴン。


「ドラゴン写真集……」

「100年前のものだが、竜貴族の間で問題になってな……全裸で撮影されたものは、これっきり禁止となった」

(全裸って……シュバルも全裸でしょ)


 よく分かった――

 この最強と謡われたっていう黒竜――センスゼロだ!

 ちなみに他の箱を開けても、やはり似たり寄ったり。

 

 ボロボロな魔導書

 (水分含んでくっ付いてる――保管方法、間違ってない?)

 

 ピカピカと光る石

 (マジで光るだけ。100均のライトかな?)

 

 伝説の冒険者の遺髪(いはつ)

 (誰が欲しがるんだ……)


 モンスターたちの間で「今月の冒険者、まだ3組だったよな……」とか、そんな呟きが聞こえた。

 スケサンやエルも、同じようにガッカリした表情だ。

 

「エルちゃん……」

「やっぱり、わたくしも一緒に行くべきでした……。あの、シュバル様」

「なんだエル」

「天王剣とか、シャハルの弓とか……そういったのもありましたよね?」

「そんなありきたりな宝物では、冒険者は呼べんだろう――独自色(どくじしょく)を出すべきだと言ったのはお前だろうエル」

「言いました……たしかに言いましたけど……ッ!」


 ぐぬぬ――と、なにかを言いかけて――引っ込めたエル。

 こんなことは初めてではないのだろう――すぐに、諦めたような表情になる。


「はぁ――なんとかしてみます……」

「うむ。では皆の者。今宵は、この黒の迷宮の成功を祈り――共に楽しもうぞ!」

『お、おー!』


 やはりテンションが上がりきらない面々による――晩餐会(ばんさんかい)はスタートしたのだった。


 大丈夫か、このダンジョン――

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