7-5 テレポーターを抜けたら檻の中
地上は夜更けなんだけど、ここはいつでも空が曇っている――
見えているのは人間界の地面の底、になるんだけど。
「えーっと――」
現状を確認だ。
俺が今いるのは――野外に設置された、鉄格子の檻の中。
錆びが浮いているが、それでもしっかりと固定されてる。
しかし清掃が行き届いてないのか、獣のフンの匂いで鼻が曲がりそう。
そして――
「グルルルッ……」
目の前には――脂や汚れで固まった硬そうな毛並みを持つ、三つ目のオオカミ型魔獣がいる。
「おー? 珍しくなんか来たと思えば――ボルじゃねーか」
そこへ、長い棒を持ったゴブリンがやってきた。
「あの~? ここから出して欲しい――っていうか、転送装置の出口がここになってたんだけど……」
「ああ? なんか分かんねーが、ちょうど良かった。またエサにボルが必要だったんだよな~」
そのセリフ。なんか聞き覚えがある。
「この魔界きっての魔獣ハンター。ゴブト様の飼う魔獣に食われるんだ。これはすごい光栄なことだぜ?」
お前かぁぁああ!
魔界に来たばかりの俺を、エサにしようとした!!
「俺はエサじゃない! すぐに出してくれ!」
「……喋るボルって、なんか前にもこんなことあったような」
「あったよ! ほら、珍しいでしょ! こんな魔獣のエサにするのなんかもったいない――」
「――まーいっか。ポチ、食っていいぞ」
「ガウッ!」
良くねーよ!
ゴールデンレトリバーよりも大きなオオカミが、俺に襲い掛かって――
「てりゃぁあああッ!!」
食われてたまるか!
真正面から突っ込んできたオオカミの鼻先を、思いっきりぶん殴る。
「きゃんッ!?」
そのままオオカミは、反対方向へ水平に飛んでいき――動かなくなった。
「ポチ!?」
「……もしかして」
俺は鉄格子を、思いっきり引っ張った。
すると――バキッという音と共に、鉄の棒は曲がってしまった。
「うお!?」
「……どうやら、ゴブト。お前よりは強いみたいだぞ」
度重なる死亡。
どういった理由かは分からないけど、ステータスは上がり調子。
ここに来て、ステータスくらいは最弱を脱出できたようだ。
「そ、そんな脅しに乗るかよ。だったら、カードだ。オレ様のカードを見てみろよ! あとお前のも出せ!」
ふふん。
そんなこと言って、あとで後悔しても遅いからね?
◆シローのカード◆
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
種族:ボル(ランク10)
称号:ブラックドラゴンの盟友
ドラゴン営巣担当、他
名前:シロー
レベル:7
ライフP:124
マジックP:102
ちから:57
がんじょう:91
すばやさ:27
たいりょく:110
まりょく:190
けいけんち:25
魔法:???(魔力不足により開示されません)
スキル:死ぬとレベルアップ、隠密LV1、徒手空拳LV1、エナジードレインLV1、マジックドレインLV1、支援強化LV1
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
◆ゴブトのカード◆
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
種族:レッドキャップ(ランク7)
称号:奴隷商人
ゴブリン知恵比べ大会優勝
名前:ゴブト
レベル:34
ライフP:370
マジックP:21
ちから:301
がんじょう:211
すばやさ:180
たいりょく:200
まりょく:5
けいけんち:100
魔法:なし
スキル:強奪LV10,魔獣ハンターLV9、徒手空拳LV7
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「……ごめんね?」
絶対、俺の方が強いと思ったのに!
魔界の1番弱い場所って言っても、それでもやっぱり魔界ってことか――
だけど、ゴブトは俺の思っていたリアクションと全然違っていた。
「ブ、ブラ――」
「え?」
「ブラックドラゴンの盟友様でございますか!?」
あっ、そうか。
ドラゴンって魔界最強なんだっけ。
「そ、そうだぞ~。お前なんか、友達のブラックドラゴンに頼めば、一口で食べちゃうぞ~」
「ヒィイイイッ!?」
腰を抜かし、股間からしょんべんを垂れ流しながらも――即座に土下座してきた。
「し、失礼しましたぁ!!」
うーん。悪いことしてる気分。
◆ ◆ ◆
森の中を、1匹のオオカミが疾走する。
その背中には、俺とそれを操るゴブトがいた。
「シローのダンナ!」
「あそこに見えるのが、下の階層へ行くための魔界門ですぜ」
「――アレが」
森の木々よりも大きな古墳のような丘が見える。
まるで地面に突然生えたかのような、異質な鋼の建造物。
そこだけいきなりSFの世界になったかのような雰囲気すらある。
「うん? 天穴からなんか降りて……」
「シュバルだ!」
ここからだと1羽のカラスのようにも見えるけど。
あのシルエットは見間違えようもない。
「ごめん。悪いんだけど――」
「分かりましたぜダンナ。オラッ、ポチ! 気合い入れて走れよ!」
「バウッ」
ゴブトは持っていた棒で、オオカミの尻を叩いた。
まるで競走馬の騎手のようだ。
『ゲートに接近する飛翔物を探知――。ブラックドラゴン、認証確認――』
ゴゴゴッと、ここまで響いてくるほどの音。
鋼の建造物は、パズルのように形が組み変わり――
『第2魔界・インフェリアへの門を開きます』
それは巨大な魔法陣のような形へと変貌する。
「すまねぇが、ダンナ!」
「うん」
「あとは、1匹で行ってくだせぇ!」
ゴブトがオオカミから飛び降り様に、尻にムチを入れる。
「アオンッ!」
オオカミは、器用に俺を空中に放り投げ――
「うん?」
「アオオォォン!!」
遠吠えと同時に巻き起こる、衝撃波。
ゴオオオッ――!
それに吹き飛ばされ、俺の小さな身体はぐんぐんと速度を上げる。
「シュバル――!」
俺は咄嗟に、背中のリュックからロープを取りだす。
両端を持ち、輪っかを作る。
黒い影と俺が交差する――
その瞬間。
見事にロープは、シュバルの手に引っ掛かった。
「なんだこれは――シロー!?」
「な、なんとか間に合った~」
そのまま――俺たちは起動した魔法陣へと、飛び込んだのだった。




