7-4 追いかけよう
「って嬉しがってる場合じゃない!」
少し肌寒い通路に、俺の声がこだまする。
「すぐにシュバル追いかけないと!」
「本気を出したドラゴンの飛翔能力であれば、すぐにミッテルガルズへは辿り着くでしょうし……」
「スリーピィ! ドラゴンに変身できないの!?」
「できるけど~。飛翔能力までカンペキにコピーはできないよ~。シュバルちゃんには、絶対追いつけない」
「転送装置くらいでしか、追いつけないでしょうね」
しかし、この魔法陣はエルじゃないと起動できないときた。
「ああ。どうすれば――」
「ふっ。お困りのようだな」
この軽薄そうな声は――
「スケサン!」
「頼りになるボスの片腕。スケルトンナイトのスケサンとは、オレのことさ」
「なにカッコつけてんだよ」
「あーら、いいのかなー。オレ、すぐにボスに追いつける凄い方法知ってるのにさ~」
「スケサン先輩ッ! 頼みます、教えてください!」
◆
ガチャッ――
「おーい、ゴブゾル。邪魔するぞー」
「邪魔すんなら帰ってーな」
「おう、すまんかったなー……ってやってる場合じゃねーんだよ」
このお約束、この世界にもあるんかい。
スケサンに続いて俺たちも入るけど――うわっ。
床には空いた酒瓶や、汚いシーツや私物やら。
ゴブゾル本人もいつものローブ姿じゃなくて、ブリーフ一丁だし。
「なんや。ワイは今、すげーナイーブなんよ……エルの嬢ちゃんが、あの憎っくきグリュウに手籠めにされていると思うと――」
真顔でこう言った。
「めっちゃ興奮する」
このゴブリンが!
「ソロ活動中悪いがよ。コイツのために、アレ貸してくれないか」
「うん? 誰かと思えば、シローか」
「ど、どうも」
「アレっていうのはこの間、話してたアレか」
「そうだ。ボスが魔界に向かっちまったからよー、すぐに追いかけたいんだとよ」
「なるほど――ちょっと待っといてくれ」
そう言うとゴブゾルはベッドから跳ね起き、私室の押入れを開き――ゴソゴソとしだす。
「――あったあった。……しばらく使ってないから、上手く起動するかいな」
それは古びた巻物だ。
――なんかカビのようなの生えてるんだけど。
床に落ちているゴミを杖でどけて、巻物を開いて敷いた。
そこには、複雑な文字が入った魔法陣が描かれていた。
「ちょいちょいっと――おっ、起動は成功したみたいや」
「これって?」
「ワイが前の職場で貸与された、緊急転送装置や」
「……なんでまだ持ってんの」
「そりゃあ、おめー。返すの忘れたからに決まってるやろ」
「前に食堂でゴブゾルと酒飲んでた時によ、『エルに外出禁止されたらどうする?』って話になってな」
「これはワシの前の職場に繋がってる――まっ。なんか上手いこと言ってごまかして……」
ピンポンパンポーン↑
うん?
こんな時間に、ダンジョン内放送が――
『緊急、緊急。ダンジョンの外に、多数の冒険者反応あり――』
『確認できるだけでも、100人以上はいます――魔力反応確認。パターン、グリーン』
『至急。モンスターの皆さんは配置に――』
「ほー。あのグリュウって奴。今度はダンジョンそのものを狙って来やがったか」
「みんなはダンジョンを頼んだよ――俺は、シュバルを助けに行く」
「おめーさんみたいな最弱モンスターが、最強のドラゴンの援護とは。すげーおもしれー冗談だな」
邪悪な小鬼の笑顔なのに。
それでも、どこか優しく見える。
「だけどワイは、そんな冗談が嫌いじゃないぞ」
「カカカッ。オレもだ」
そう言って貰えるだけで、胸の奥が熱くなる。
「あっ、シローくん」
スリーピィが、2本の小瓶を手渡してきた。
中には薄黄色の液体が入っているようだけど――
「これは?」
「わたしの、愛がた~っぷり入ったマジックポーション♪」
「……ちゃんとしたのだよね?」
「ホントはわたしもついていきたいけど、わたしまで抜けるとダンジョン大変だし……子供たちのこと、シローくんに任せたからね」
「いや、これ大丈夫なやつ……?」
「シローくんが飲んじゃうと血液が沸騰して爆発しちゃうかもしれないから、ちゃんとシュバルちゃんに飲ませてね?」
……いろんな意味で怖い。
「分かった――じゃあ、行ってくる!」
ゴブゾルの魔力で起動した魔法陣に、俺は足を踏み入れた。
シュバル。今行くからね。




