7-2 そして契約は履行される
「本当に、申し訳ございませんでした」
『ございませんでした』
見事に塔がなくなってサッパリした小島。
そこには全員一か所に集まって触手の塊みたいになったダークアイと、バックベアードが申し訳なさそうな顔(?)をして土下寝していた。
「ぜーいん、殺しちゃったかと思ったよシュバルちゃん」
「グリュウの刻んだ魔力を吹き飛ばしただけだ」
その余波で塔ごと吹き飛んでる――
「魔力で構築された結界やモノを崩壊させる魔法だ――塔も魔法で出来ていたとはな」
「えぇ。こうしておけば、万が一にもニンゲンに見つかっても、すぐに引っ越しが可能ですぞい」
「シュバル様、オイゾン様!」
水中に潜っていた1匹のダークアイが、水晶の板を持ってこっちへやってきた。
「バックアップは健在です」
「湖の底に隠してたんだっけ」
「はい~。不満のあるマスターさんたちが襲撃してくるのは月に6、7回はあるので……こうして常にバックアップは隠してるのですぞい」
そんな気軽に襲撃されてんのか、ここ。
「……少々お待ちください……ややっ」
「どうだ」
「たしかにランキング下位のダンジョンが30ほど登録抹消になってます……6日前ほどですね」
シュバルとグリュウの決闘がはじまった、次の日だ。
「だいたい3丁目のダンジョンですな。
抹消されたダンジョンは――すべて碧の洞窟と統合されてますね」
「統合って?」
「その名の通り、ダンジョンとダンジョンがくっついているんです。転送装置でなく、ちゃんと通路などで繋がってないと認められませんが」
なんて脳筋な、それでいて豪胆な作戦だろうか。
つまりグリュウは、自ら襲撃したダンジョンを、トンネルかなにかで物理的に繋げたのだ。
「30か所分のダンジョンの稼ぎを自分のものとしたか」
「それを悟られないように支部のモンスターたちを操って……」
「ポイントの移行はどうやっても出来ないですからね。それが今回は幸いしたようで――むむっ」
操作していたダークアイが、なにかを見つけたようだ。
「クイーン様はおられますかな」
「はいはーい」
ネコからいつものメイド服に戻るスリーピィ。
「この”眠りの塔ハーフ”というダンジョンなんですが……こちらも抹消されております」
「……それ。ホント?」
「はい。こちらをご覧ください」
俺も後ろから画面を確認する。
抹消されたダンジョン一覧には――たしかに眠りの塔の名前がある。
「えっ、スリーピィ。秘書さんからなにか連絡は!?」
「毎日、なんの問題もないって思念通話が……まさか」
「……急ぎ、ダンジョンへ戻るぞ。オイゾン、本部への連絡は任せたぞ」
「かしこりましたぞい」
俺たちは、再びシュバルの背中に乗ってダンジョンへと戻るのであった。
◆ ◆ ◆
「よーシュバル坊や。遅かったじゃねーか」
急いでダンジョンの裏口へ戻ってみれば――
入口の岩はボロボロになり、掃除のしっかり行き届いていたホールの床には……モンスターたちが倒れ、壁には何匹か頭から埋まっているのが見える。
「みんな!?」
土埃や、まだ新しい血の匂いが鼻にまとわりつく。
そこらには見覚えのある骨が散らばっている。
「スケサン、大丈夫!?」
「いやーあんまりだな」
そこらに転がってた頭が応答する。一応無事みたいだ。
ホール奥には、怯えている悪魔娘さんたちと――それを庇うように立っているエルの姿。
「グリュウ、貴様……!」
「おいおい。ちょっと中で待たせろと言っただけだぜ?」
「そしたら生意気にも『主の命により、それはできません』だって言うもんだからさ――」
「先に、賞品だけ受け取って帰ろうとしたら……このありさまだぜ。ハッ」
「お、おいグリュウ!」
「あん?」
「お前がダンジョン協会で不正してたのは全部報告済みだ! すぐにお前のダンジョンも登録が抹消されて――」
「それがどうした?」
「え……?」
「……奴にとってダンジョンは、このワシへの嫌がらせでしかなかったというワケだ」
「その通り! だがお前も気付くのが遅かったなぁ、坊や」
「わざわざ支配したニンゲン使ってまで、ヒントをやったのによぉ」
たしかにあの時点で気付いていれば――
でも、ダンジョンでのポイント勝負だって言われて、その集計してる協会を操ってしまうなんて――
「この卑怯者!」
「卑怯? このオレ様の持てる権能を使った、みごとな作戦だと褒めて欲しいな――ギャッハハハッ」
「……なぜだ。なぜそこまで、ワシを敵視する」
「ほかにもブラックドラゴンのオスはいる。ワシが、一族の中で若手だからか」
「――お前が、竜貴族のご令嬢様のお相手に選ばれたからだよ」
声のトーンが下がる。
その声の端々に込められているのは、怒りと嫉妬――
「オレ様には末端の、同種のメスをあてがっておきながら! あのカス族長はッ! 最高位のメスをいずれお前に嫁がせるつもりで――」
「エルド族長は、お前のその立ち振る舞いを見抜いていたのだ。ただの勲章程度にしか思っていないお前に、貴族のメスは預けられないと――」
「それのどこが悪い!?」
うわぁ、自己中オブ自己中。
「そんなことよりさ~」
両者の険悪な空気を少しも読まず、スリーピィは前へと出る。
「わたしのカワイイ子供たち――どうしたのよ」
「ああ? どうしたもこうしたも――」
グリュウは面倒そうに、こう告げた。
「眠りの塔が休業したって聞いたからな。ダンジョンごと、全員美味しくいただいたぜ」
「へぇ」
「今頃は全員。ウチの奴らとよろしくやってるだろうよ」
だが次の発言を聞いた瞬間。
「まぁ――何匹かは、俺が魔力補充に食べちまったぜ」
「殺す」
スリーピィは大きなカマを出現させ、グリュウの硬いウロコを切り裂こうと動く――
「遅せぇ」
「ぐッ!?」
グワッと。
その長い尾を振り回す。
スリーピィのお腹に重たい音と共に直撃し、ダンジョンの壁へとめり込んだ。
「がはっ」
「スリーピィ!?」
「おいおい。仮にもクイーン様が弱くねぇか? ――いや、オレ様が強すぎるだけか」
「お前、女の子に――たぁッ!」
思わず俺も、前へと出ていた。
「この野郎――」
「やめろシロー!」
シュバルの一喝に、殴りかかろうとしていた俺の足は止まる。
「――グリュウ。これ以上、ワシの仲間を……!」
「仲間? やっぱ坊やは、どこまでも坊やだな――いいか!」
グリュウは、大げさに両手を広げ――倒れているモンスターたちを指差した。
「すべての頂点に君臨するのはドラゴンだ! それ以下はすべて、ゴミ同然!」
嘲笑うよう、その奥の鋭い牙を見せびらかすように口を開く。
「そのゴミの中から、少しは使えるゴミを選り分けて、上手く使うのが強きドラゴンの生き方よ!」
「違う!」
だけどシュバルは、それを即座に否定した。
「たしかにドラゴンより力が劣る者は多い――しかし、そのような傲慢な考えが、かつてブラックドラゴンを絶滅寸前にまで追い込んだのだ」
「そりゃお前らが弱かっただけだろうが! オレ様は違う」
片手を強く握りしめ、睨む。
「いずれは碧竜を、竜貴族の連中もすべて手中に納める! そのためにも――」
「ひっ」
ワニのようなギョロっとした目が、エルを捉える。
「あのエルフ姫様が必要なんだよ――さぁ、渡して貰おうか。それが、契約だろ?」
だが断る――そうハッキリ言ってやれシュバル!
「――お前にはよく分かってるはずだ。坊や」
「竜同士の契約は……絶対だ」
「シュバル!?」
「きゃあ!?」
エルの身体には、何重にも重なった魔法陣が――
そして一瞬にして、エルの姿は消え去ったのだ。
「契約通り、エルメイアは貰ってくぜ――そうそう。もうダンジョンはいらねーから、せめてもの情けに……お前にくれてやるよ」
そのまま歩いてダンジョンの出口へと向かっていく。
それを、シュバルは止めようともしなかった。
「じゃあな。甘ちゃんのシュバル坊や。ガッハハッ!」
グリュウはそのまま、ダンジョンから悠々と出て行った。
それをシュバルは――静かに、見送った。




